4/2ネプテューヌワンドロお題『クロワール』にて投稿させてもらったものです。
クロワールは超越者である。
次元すらも超えられるワープに始まる多種多様な能力、あらゆる次元の物事を知る叡智。
しかし、力にはそれなりの代償を伴うというジンクスからは、超越者であっても逃れられない。
「ぅぅぅ……頭痛え……そろそろ来るとは思ってたけどよ……」
クロワールは体調を崩していた。
あらゆる次元を渡る中で得たあらゆる能力同士が、彼女の体の中で互いに悪い干渉を起こし合い、そこから生じたバグのようなものが、彼女の身体を蝕んでいた。
数百年に一度という長いスパンで発生する体調不良といったところである。
「あ〜めんどくせ……」
クロワールにはある懸念があった。
それは、体調不良により能力がうまく使えなくなることではない。
この体調不良は、過去に何度も経験している。
以前までは、なんとか力を振り絞って誰もたどり着けないような次元の狭間に降り立ち体調が戻るまで潜伏を続ける、といった風に乗り越えてきた。
ならば、懸念とは何か。
「わわっ! クロちゃん大丈夫⁉︎」
同伴者のネプテューヌに(ウザいぐらい)心配されることである。
「顔色悪いよ! えーと……うわぁ! すごい熱‼︎」
「……うるせえな」
「ごめん……体調悪いのにうるさかったよね……えぇと、こんな時は……」
「しばらくほっときゃ治る」
「でも……」
「あ、そうだ。今だけはあの本の中入れてくれよ。いつもなら不愉快だけど、今なら逆に落ち着く」
「ダメ。ねぷのーとは入れたものの力を吸っちゃうんだから、今のクロちゃんを入れるわけにはいかないよ」
「だったらいつもは入れんじゃねーよ……」
「それもダメ。う〜ん、やっぱり今のクロちゃんなんだか覇気がないなぁ。お布団用意してあげるから横になって」
そう言ってねぷのーとからクロワールサイズの寝具を取り出し、トントン拍子で看病の準備を整えていくネプテューヌ。
体調が悪いとはいうものの重病患者扱いまでされて癪に触るところもあったが、ここで拒否したところでネプテューヌが更にウザくなると思ったクロワールは、素直に従うことにした。
「わかったよ。寝とく」
「はーい。何かいるものある?」
「別に。てかお前出かけないのかよ? 今日はこの次元観光するって言ってたじゃねえか」
「クロちゃんが身体壊してるのに放っておけるわけないじゃん」
「……そうかよ」
それ以上は何も喋らず布団の中で横になるクロワールと、クロワールの様子を見つつどこかで買った漫画雑誌を読むネプテューヌ。
「……なぁ、ネプテューヌ」
数十分したところで、クロワールが口を開いた。
「どうしたの?」
「お前、なんで今の今まで俺についてきたんだ?」
予想もしなかった質問に少し驚き、う〜ん、と考えるネプテューヌ。
「なんで……って言われても……旅が好きだから、かな」
「旅、ね。お前は今自分がどうなってるかわかるか?」
「わかんないけど」
「お前は俺と同じさ。様々な次元を渡り、身体はただの『人間:ネプテューヌ』から『人間:ネプテューヌの情報を持った何か』に変わっていってんだよ」
「……どういうこと?」
「あぁ、つまりな…………」
今のネプテューヌはクロワール同様、様々な次元を超え、知識を蓄え、力も付け、超越者に近い存在へとなりかけている。
人間でも、ましてや守護女神でもない『何か』に。
しかし、それは自分という存在を受け入れることができる次元が存在しなくなるということ。
永遠に次元から次元を彷徨う存在となり、どこにでも行くことができるが、どこに行ってもそれは自分のいるべき場所ではなくなってしまう。
「…………っつーわけだよ。そして、それがお前にとって良いことじゃないんじゃねえかな、って。お前があの時俺を捕まえなきゃ……いや、俺があの時お前に捕まらなきゃ……お前はあの次元のネプテューヌでいられたわけだ」
「クロちゃん……」
「俺は……お前から奪ったんだよ。お前があの次元で生きていけば得られたかもしれない幸せってやつをよ」
普段のクロワールなら、こんなことは考えもしないだろう。
ある別次元の同一体の彼女が持つような他者を慈しむ心を、自分がとうの昔に捨ててしまったそれを、体調を崩し身体が弱っている今だからこそほんの少しだけ思い出していたのだ。
「こうなる前に、お前をどこかの次元で捨ててくりゃ良かったのかもしれないな……」
「それは違うよ」
ネプテューヌは、クロワールの言葉を否定した。
「わたしはわたしの意思でクロちゃんについてくるのを選んだんだよ? わたしがクロちゃんを離さなかったんだもん。だからクロちゃんは悪くないよ」
「けどよ……」
「確かに、わたしが生まれた次元に居続けてれば、暖かい家族も友達もいて、幸せに生きていけたのかもしれないよね」
「そうだよ」
「けど、そこにクロちゃんはいないじゃん」
「そりゃ……そうだけどよ……」
「じゃあ、わたしの選択は間違ってなんかいないよ。ここには、大切な友達がいるから」
ニッコリと笑いながら言うネプテューヌ。
その一切の曇りなき眼を前にして、クロワールは何も言えなかった。
「ほんとに……変なやつだな、お前」
「そんなに褒めても何も出ないよ」
「褒めてねえよ」
呆れたように言い放ち、クロワールは目を閉じる。
睡眠を取ることで、より質の高い休息を取るために。
そしてそれは、一人だった頃は周りを警戒するためにできなかったことでもある。
「……もう寝る。これ以上起きてると自分でも何言うかわかんねーし」
「そっか。おやすみ、クロちゃん」
「あぁ。おやすみ、ネプテューヌ」
言い終わってから数分後、クロワールは眠りに落ちた。
「ふふっ、可愛い寝顔だなぁ。初めて見たよ」
*
翌日の早朝。
「オイ‼︎ 起きろネプテューヌ‼︎」
クロワールの怒号が響き渡る。
「んぅ……? なにぃ……?」
それによって起こされたネプテューヌが、不満そうに眼を開ける。
「『なに』じゃねえよ! お前のせいで動けねえんだよ!」
あの後、クロワールに添い寝したネプテューヌが、寝ぼけてクロワールを抱き枕にした結果、クロワールはネプテューヌの腕から抜け出せなくなってしまっていたのだ。
「お前、病人抱き枕にするってどういうつもりだよ!」
「朝からうるさいなぁ……でも元気そうで良かったよ。体調良くなったんだね」
「……あぁ、おかげさまでな」
ネプテューヌは腕を緩めてクロワールを解放する。
「どういたしまして。おはよ、クロちゃん」
「あぁ。おはよう、ネプテューヌ」
ネプテューヌは、身体を起こし、身支度を整える。
クロワールは羽を広げ、本の上に座る。
「さぁ、今日はどこに行く? クロちゃん」
「昨日の礼だ。どこにでも連れてってやるよ、ネプテューヌ」
二人の旅は、これからも続いていく。