9/16ネプテューヌワンドロお題『パープルシスター』にて投稿させてもらったものです。
「さて……」
『その日』は唐突に訪れた。
封印された自分が、再び身体を取り戻し、憎き世界に復讐するその日は、自らの想定よりも遥かに早く。
「これで、終わりです」
そして、同時に終焉も訪れた。
たかが守護女神一人、肉体を取り戻した自分にとっては取るに足らない相手だった筈なのに。身体も力を取り戻した自分の、ウォーミングアップ程度の相手だと思っていたのに。
「ぐ……う……ぅ……っ」
目の前の女神は傷一つなく立っている。対する自分は、肉体を魂ごと斬り刻まれ、動くこともままならない。
目の前の女神のこの口ぶりからすると、殺すことは容易いがあえて生かされている、それほどの実力差だった。
「何故だ……完全に力を取り戻したオレが……こんな簡単に……っ」
「簡単な話です。あなたより、私の方が強い。だからこそ、私があなたを復活させたんです」
その女神は、暗黒に堕ちた自分よりも、重圧感のある雰囲気を放っていた。言葉の奥に、感情というものを感じられなかった。まるで、自分の役割や使命のために、感情というものを押し殺している、そう感じられた。
「なる……ほど……」
おそらく、この女神は、自分がかつて思い知らされた以上の哀しみと絶望を味わっている。自分が背負わされた運命以上に重いモノを背負っている。
「今から、この剣であなたの邪念を斬り、消去します。あなたの身体は真の『天王星うずめ』として生まれ変わるでしょうが、邪念が消えるということは、今のあなたの人格はおそらく消滅するでしょう。だから、最期に何か言い残すことはありますか?」
今から自分はこの女神に殺される。どうあがいても変えられないその未来に対し、怒りも絶望も憎悪も悔しさも無かった。どうしようもない手詰まりの状況を前にすると、人は諦観するのだな、とすら悟った。
それに、守護女神もモンスターも超越した自分が手も足も出ないほどの悍ましい実力を持っている目の前の女神は、この世界の何よりも哀れな存在であることを、自分は理解していたのだ。殺されるのは自分であるが、同情すらしていた。
「逆に、オレを終わらせるのが、君のような女神であって良かったよ」
「……」
「けれど、そんなに辛くて苦しくて悲しそうな顔をする女神に、本当に世界が救えるのかな……?」
「……」
「ふっ……まぁいいか。さぁ、やるならやるといい」
「そうさせてもらいます……」
剣が、振り下ろされた。
そして、オレの意識は、この瞬間をもって途絶えた。
「……」
「アレ……? うずめって……封印された筈じゃ……?」
「初めまして、『天王星うずめ』さん。私の名は『パープルシスター』。あなたの後輩にあたる女神です」
「え、あ、うん、よろしく……?」
「突然のことで驚いていると思いますが、あなたに一つやって欲しいことがあります。協力してもらえませんか?」
「やってもらいたいこと……?」
「あなたの持つ『妄想力』で、この世界を改変してもらいます。滅びに向かうこの世界を止めるために」
*
競争による発展が大事だと言われる。あの犯罪神ですらそのようなことを言っていた。
しかし、女神が一人(厳密に言うと復活した天王星うずめさんもいるが)しかいない今のこの世界で、競争は起こらない。守護女神という概念が根付いたゲイムギョウ界で、女神の存在抜きで競争を創り出すのは難しいからだ。
だから、そうじゃない世界に創り変えることにした。
女神という絶対の統治者の下に、四人の守護者を置き、その守護者に帰属する勢力で競争を行わせ、発展を狙う。
人間の中から、適性のある者四人を見出し、彼女らに力を与え、世界を改変し、守護者の立場も与える。
その守護者たる彼女らのことを『ゴールドサァド』と名付けた。
「今のところ上手くいってはいます。かつての四女神の皆さんのように、ゴールドサァドの皆さんが作る個性豊かな四国が競争を行い、発展が見られます」
「そうですか……」
しかし、女神の役割を人間が行うというのは、あまりにも不安定だ。
シェアを得ればいくらでも生きる女神と違い、人間であるゴールドサァドたちは寿命がある。人から人へ継承させることで存続させること自体は可能だが、人が願えば生まれる女神と違い、ゴールドサァドの適性がある人間が必要な時に常に生まれているとは限らない。
極力そういう因果になるようにうずめさんに世界を改変してもらったが、イレギュラーというものはいつか必ず発生する。
「ねえ、ぎあっち」
うずめさんが復活して、孤独じゃなくなったのは、ほんの少しの心の救いだ。私の使命に付き合わせてしまって申し訳ない気持ちはあるし、そもそも私が救われて良いのかという疑問はあるが。
「ぎあっち……? それよりも、うずめさんまでずっと女神化している必要はないですよ?」
「でも、ぎあっちがずっと女神化してるから」
「これは、私の罪に対する戒めのようなものです」
「じゃあ、うずめも一緒に背負うよ」
「気持ちは嬉しいのですが、お断りします」
うずめさんは本当に優しい人だ。優しい人だからこそ、悪意の捨て方が分からず、自分の中に溜め込んでしまい、あのような第二人格が生まれてしまったのだろうが。
「これは私の罪に対する戒めと覚悟のようなものですから。私一人が背負いたいんです」
「そっか……」
「それに、うずめさんには助けられました。うずめさんの力が無ければ、世界がまた発展に向かうなど叶わなかった」
この改変は、ある意味新たなる女神の誕生を永遠に拒むものになる。特殊な力を持つ人間が女神の代わりに信仰と力を持つ、そうなれば人々は新たな女神の誕生を願うことはない。人々が女神を求めないように世界を改変したこともあるのだが、女神がいなくても廻る世界に人々はわざわざ女神の存在など求めないからだ。
それに、たとえ同族の誕生を永遠に断つことになっても、世界の存続を優先しなければならない。
「私たち女神の存在意義は最早、ゴールドサァドや国同士の争いの調停に過ぎません」
「みんな良くやってるからうずめたちが出張る必要もないもんね」
「ずっとそうであれば良いのですが……いえ、そうしなくてはいけないですね」
先程も述べたが、この世界は一見安定しているように見えるが、不安定なのだ。
女神は人々だけでなく、自らが統治する国の大地や自然すらも守護できる。しかし、ゴールドサァドにはそこまでの力は無い。
形式だけ似せても、全てが同一ではなく、女神の統治よりもゴールドサァドの統治は安定感が欠けるのだ。
勿論、彼女らに否があるわけではない。これは人間と女神の生物としての違いというものだ。
「そのために、私にはやることがあります」
だから私は、その『不安定』を『安定』させるために、世界の楔になることにした。
*
「本当にやるんですか?」
ネプギ……パープルシスターさんは、自らが世界の楔になると言った。
世界の楔とは、自信が世界そのものと融合するという形で、世界の安定性を確保するためのもの。一人の女神では到底行えないことだが、今のパープルシスターさんにはそれを行えるほどの力が有る。
しかし、それを行えば、意識という概念がなくなり、世界に溶ける。パープルシスターさんという女神は、ここで消えることになってしまう。
「良いんです、私が決めたことですから」
パープルシスターさんは、曇りなき眼で言う。
本当にこれでいいのだろうか。
世界の為に尽くしてきた英雄の結末がこれとは、あまりにも哀しくないだろうか。
罪を、悲しみを背負い、心を殺して世界のために尽くしてきた姿を誰よりも近くで見続けてきた私だからこそ、疑問を持ってしまう。
「イストワールさん、そんな顔しないでください」
そんなわたしを諌めるように、パープルシスターさんは言った。
「これで、ようやく本当の意味でこの世界を救える。胸を張って、世界を護り抜いたんだって言えるんです。こんなに嬉しいことはありません」
そして、ゲハバーンを覚醒させた日から一度も見せたことのなかった笑顔を、私に向けた。
「イストワールさん……いーすんさんっ!」
私のことを痛いぐらい強く抱きしめ、あの日から呼ばれなくなったあだ名でまた呼んでくれた。最後の最後に、まだ彼女が『候補生』だった頃のような懐かしい愛らしさを、私に見せてくれた。
だから、私は彼女の選択を尊重する他なかった。
「うずめさん、あなたのおかげで私は一人じゃなくなったのに、今度はあなたを一人にしてしまってごめんなさい」
「気にしなくて良いよ。本当にお疲れ様。ぎあっちが楔になれば世界は大丈夫だと思うけど、それでも何かあったらうずめがなんとかするから」
「はい、お願いします」
うずめさんとも別れの言葉を交わし、パープルシスターさんは、ゲハバーンを自身の身体ごと地面に突き刺す。
「ぐ……っ! はぁああああッ!」
そして、己の全てを力に変え、身体は光となり、世界に溶けて一つになっていく。
その全てが完了し、大地に静寂が戻った。
「終わったね」
「ええ、終わりましたね」
さようならネプギアさん。
あなたは自分のことを罪深い女神のように言い続けましたが、あなたこそ最後まで世界に向き合い続けた素晴らしい女神様でした。
その魂が、永遠に安らかなることを、私は心から願っています。