『ロムちゃんの悩みごと』よりも前の時系列で、VとVⅡの間らへんの話になります。
「うーん……」
ラムは焦っていた。
始まりは数日前、ロムとクエストに行った時のこと。ボスモンスターであるビックスライヌを、ロムとラム二人の魔法攻撃でハメ殺していた際、ラムは『あること』に気づいてしまった。
(ロムちゃんの『アイスコフィン』。わたしとおんなじぐらいのダメージだったよね……?)
双子とはいえ、若干のステータスの差異はあり、
しかし、ラムよりもINTが劣っているはずのロムの魔法がラムと同じ威力。
それはつまり、魔法の洗練の差。魔力の使い方が上手ければ上手いほど、INTが劣っていても威力の高い魔法攻撃を放つことができる。
ラムが気づいた『あること』とは『ロムとの差が開き始めている』こと。ロムと同じことをしていれば、ロムとの差はどんどん開いていく。
実際に使える魔法の種類もロムの方が多く、それらを使うための
(このままじゃロムちゃんに置いてかれちゃうかも……どうしよう……)
大好きな双子の姉が強くなるのは嬉しい。しかし、自分が置いて行かれるという状況は好ましくない。
(とりあえず……お姉ちゃんに相談かな)
*
「……って、感じなんだけど。どうしたらいいかなお姉ちゃん?」
「なるほど……」
(いずれこんな日が来ると思ってはいたけど……)
双子とはいえ、性格やステータスや差異はあり、そこから戦闘スタイルの差異も生まれる。
ブランは双子の妹たちがもう少し成長しその差異がわかりやすくなってから、二人それぞれに向いた戦い方を指摘してあげればいいと思っていた。
しかしラムは自分の戦い方がロムと同じのままでは良くないことに自分で気づいたのである。
(まさかラムがこんなに早く気づくなんてね……)
思わぬ妹の成長の嬉しさから、少し頬が緩むブラン。
「……口で説明するより、実際に身体を動かしながらの方が良さそうね。少し見てあげるわ」
「何を?」
「今のラムがどれくらい強いかってことよ」
「お姉ちゃんと戦うってこと?」
「嫌かしら?」
「ううん! ちゃんと見ててよね、お姉ちゃん!」
「わかってるわ」
『秘密の特訓』としてロムにバレたくないラムの希望で、ブラムとラムは教会の訓練場ではなく適当なダンジョンへと向かう。
「さて……」
ダンジョンに到着し、準備運動を済ませ、早速女神化するブラン。
「……見るっつったからには、全力で見てやんねーとな。本気でかかって来い、ラム!」
「わかった……へんしーん!」
ラムも女神化し、変身後専用の杖を握り、構える。
「行くよ、お姉ちゃん!」
*
「……よし、じゃあ少し休憩だ」
模擬戦(といっても、ブランは大した反撃をせずに防御に徹し、ラムの魔法攻撃を観察することに専念していたもの)が終わり、休憩も兼ねてラムの魔法について評価をする場面。
(どうするか……)
ブランは悩んでいた。
(ラムの魔法ってこんなに強かったんだな……私からアドバイスすることなんて思いつかないぞ……?)
ルウィーは魔法の国、そしてルウィーの女神たるブランは勿論魔法の知識を多く持っている。
しかし、魔法よりも近接戦闘を主体とするブランにとって、ラムの魔法についての悩みは想定してたより高いレベルだったため、どんなアドバイスをすればいいか思いつかずにいた。
(……てか、ラムがこのレベルで悩んでるってことはロムはもっと凄いってことだよな? やべぇな、思ってたより妹たちの成長が早え。ネプテューヌやノワールが焦ってる気持ちがわかってきたぜ……)
「……お姉ちゃん!」
ラムは何かを思いついたようで、悩んでいるブランの方に急に身を乗り出す。
「ん? どうした?」
「わたしに斧の振り方を教えて!」
「……え?」
『魔法』ではなく『斧の振り方』。
ブランはラムの意外な頼みに目を丸くする。
「斧……?」
「今思いついたんだけど……ええと……その……ロムちゃんは全部魔法でできちゃうけど、わたしには難しいから……ええと……うーん、うまく説明できないなぁ……」
理屈は思いついても、幼さ故か言語化に苦労している様子のラム。しかしブランは姉らしく妹の言わんとしてることを理解した。
「……あー……なるほど、大丈夫だ。なんとなくわかった。つまり……」
魔法攻撃のプロセスは主に二段階。
魔法の『生成』と『攻撃』。
この二つのプロセスを術式に組み込むことで、『詠唱』や『術式の展開』によって魔法攻撃をオートで行うことができる。そしてそれはラムよりもロムの方が上手く、練度の差が開いてきている。
そこでラムが考えたのは、自分の魔力のリソースを『生成』にのみ割き、『攻撃』の方を自分の身体で行うということである。そうすれば『詠唱』や『術式の展開』を簡略化し、空いた手間で『生成』の質を向上させることができる。そして勿論ロムの魔法攻撃との差別化も図れる。
「……って感じか?」
ブランはラムの発想を上手く言語化し、ラムに伝える。
「そうそう! ……どうかな?」
「悪くねえな。だが……」
そう、一つ問題点がある。魔法攻撃を自分の身体で行うには敵に接近する必要があり、その分敵の攻撃を喰らいやすくなるというリスクが付き纏う。
「……お前はロムよりも敵に近づかなきゃいけなくなるぞ? ダメージを受けることも多くなるだろうな」
つまり、この戦法には近接戦闘の心得を学ぶ必要があり、それは
「痛いのはいやだけど……ロムちゃんに置いていかれるのはもっといやなの! それに、私がロムちゃんの前で戦えば、ロムちゃんを守ってあげられるでしょ? あとは……」
「あとは……?」
「……私とロムちゃんとユニちゃんとネプギアの四人で戦うとき、いつもネプギアが前にいるから、私も前でいっしょに戦ってあげられたらいいなって」
双子の姉のため、そして友のために『茨の道』をあえて突き進もうとするラムの覚悟に、ブランは応えないはずはない。
「……そうか。じゃあ、斧の振り方を教えてやる」
「やったー! ありがとうお姉ちゃん!」
かくして、ラムの新戦法の修行が始まった。
「……あっ、さっき私が言ったことはネプギアには絶対に言っちゃダメだからね!」
「わかってる。言わないから安心しろ」
*
それからラムは、
「『テンツェリントロンペ』ッ!」
「じーっ……」
ブランと共に戦う際にはブランの技をよく観察したり、
「『シレットスピアー』を見せて欲しい……ですの? ふふ、構いませんわ。しっかりと学んでいってくださいな」
「『32式エクスブレイド』が見たいの? いいよ! ネプ子さんに学びに来るとはラムちゃんお目が高いねー!」
自分のインスピレーションを刺激するため、『シェアエネルギーで生成した巨大な武器で攻撃する技』を他国に学びに行ったり、
「ラムちゃん、なに読んでるの……?」
「んー? 魔法の本だよロムちゃん」
「うわぁ……文字ばっかり……わかるの……?」
「ぜんぜん?」
「え……?」
「でも、おもしろいよ!」
「そ、そうなんだ……」
ルウィー教会の書庫から魔術書を持ってきて読み漁ったり、
「やぁっ!」
「てぇい!」
「……きゃぁっ!」
「あっ、ラムちゃん大丈夫?」
「へいき! それよりもう一回よ、ネプギア! 手は抜かないでね!」
「うん、わかった!」
ブランに斧の振り方を習うだけでなく、ネプギアと剣を振り合ってみたり、
「こうやって武器を創って……重っ! えっと……お姉ちゃんはこうやって持ってたかな……? ……あっ、振りやすくなった」
「……武器に氷を纏わせて……っと……うん、我ながら強そうじゃない! ……あ! 前読んだ本に書いてあった『武器にジュツシキのコウカをフヨふる』って、こういうことだったのね!」
そうやって学んだことを実践し、理屈を理解していく。
(そっか……強くなるのって、楽しいんだ!)
それらがラムの好奇心旺盛な性格と噛み合い、世界が広がっていく感覚がしていた。
*
そしてついに、
「『アイスハンマー』!」
ラムの新技『アイスハンマー』が完成した。
「行くわよ、お姉ちゃん!」
「よし……来い!」
「えぇいっ!」
「……っ!」
実際に自分が喰らうことでアイスハンマーの完成度を確かめるブラン。ゲイムギョウ界随一の防御力を誇る女神ホワイトハートだからできることなので、絶対に真似してはいけない。
「成程……良い技だ、ラム」
「ふっふーん! 私ってばサイキョー!」
「……だが、まだ持ち方も振り方も甘え」
「えーっ! お姉ちゃんきびしー!」
ブランはラムを褒めはしても、厳しく評価する。
「お前もロムも今よりもっと強くなれるってことさ。いつかは私を超えるぐらいにな」
つまり、それは期待の裏返し。
「じゃあ、わたしがお姉ちゃんより強くなったら、お姉ちゃんを守ってあげるわね!」
自信に満ちた笑顔で、胸を張りながらラムが言う。
「そりゃ心強いな。けど、あと数十年は負ける気はねえよ」
ブランは、自信過剰とも取れるラムの物言いに半分呆れながらも、もう半分は期待を込めて小さく笑うのだった。
「さ、帰るぞ」
「はーい!」
*
こうして、ラムはロムとは異なった方向に自分の長所を伸ばすことに成功した。
その過程で広がった視野も全てラムの強さの糧となることだろう。
そして、ラムは少し先の未来、猛争事変の最中に新たな必殺技を修得する。生まれ持つ高い魔法攻撃力と、新しく身につけた武器の扱い、この二つが組み合わさった必殺技を。
その技の名こそ、『氷剣アイスカリバー』である。
ラムのVⅡから追加された技はブランの戦闘スタイル寄りなのがなんか良いですよね。