『ああっと第三コーナーで転倒っ!!! 彼女が曲がれる日は来るのか!!!』
地面を転がりながらも受け身を取り体制を立て直し再度走る、だけども先頭集団には追い付けない。
直線は得意だ、直線なら会長さんやスズカさんにも負けない自信がある。だが速すぎて直線を乗り越えた後の第三コーナーが曲がれないのだ。直線ではスズカさんを追い越して一位になったこともある、だけどもその後のコーナーで転倒し最後の直線で巻き返したが4着。今回のこのレースも5着、観客にはスピードを落とせとも言われた。
でもダメなのだ。走っている時、私は
過去に抑えていた時、言われた言葉を思い出す。
―――本当にウマ娘なのか?
―――人間がウマ娘のフリしているだけじゃないのか?
―――なんで人間がここにいるんだ
―――名前通りだな、実力も
レースが終わり、ウイニングライブも終わり寮へと帰る途中。中庭のベンチに腰掛ける
「……はぁ」
一部ではクラフト色と呼ばれる段ボールのような色合いの髪をかき分け自らの耳を触る。
作り物のようだと言われる耳と尻尾、人が張りぼての耳と尻尾を付けているんじゃないかと言われたこともある。
ギリ…ッ!
痛みが走るほど耳を強く握り顔を歪める、痛みか悲しみか自分でも分からないが。
引きちぎろうかと考えた時私の手を誰かがぎゅっと握った。
「痛めるぞ」
「…トレーナーさん」
私の手を握っていたのは私が所属するチームスピカのトレーナー。癖毛を後ろで一つ結びに束ねており、左側頭部を刈り上げた特徴的な髪型をしている。トレーナーさんは私が耳から手を離すとゆっくり私の手から力を抜き離す。
「…どうしてここに?」
「ウイニングライブが終わった後話そうと思ったらすでに帰ったって言われてな。お前、ここにいつもいるし。またあんなことをしてないか気になってな」
「…少なくとも、もうあんなことしませんよ」
一度、精神が参ってしまった結果。耳と尻尾を切り落とそうとしたことがある。トレーナーさんとゴールドシップに無理やり抑え込まれたおかげで事なきを得たが。スペ達はあの時の私は怖かったと言っていたなと思い出す。
「トレーナーさん…私は、このまま走っててもいいんでしょうか?」
「……」
「こんな見た目のせいで全力を出さないとウマ娘と認められず。全力で走れば曲がれない。どっちでもダメなら…」
「エレジー」
「…っ」
トレーナーさんやスピカのみんなは私のことをフルネームでは呼ばない、それどころか会長やある程度知り合いから絶対に呼ばれない。
私の名前はハリボテエレジー
皆からはエレジーって呼ばれている。直線でしか真価を発揮できない、とってつけたような耳と尻尾。まさに張りぼて。
これで選ばれなかったら何をしていたんだろうと思ったが私は選ばれてしまった。
スピカに入れてもらって色んな人と関わる様になって、少しだけ変われた気がする。
「…俺はな、お前のことを信じている。お前が望むことならなんでもしてやる。だけどな、俺はお前が一着を取る姿が見たい。これは俺のわがままだ…でも、お前が望むなら…」
「走りますよ」
「…っ」
「…あなたが、それを望むなら」
空っぽだった私に命を吹き込んでくれたのはトレーナーさんとゴールドシップだ、彼らがそれを望むなら私は何度転んでも立ち上がって走り続ける。
「…そうか、そういえば足はどうだ? 痛めてないか?」
「いつものことなので慣れました。受け身も取りましたので痛めていませんよ」
これは本当だ、最初の頃は足を捻ったり骨折したりしていたが今では受け身を取れるようになったので怪我をしても擦り傷を負う程度である。そういうとトレーナーさんは「そういう意味じゃないんだけどな…」と苦笑いしながら頭をかく。
「これからどうするんだ?」
「そう…ですね」
そういえば何も考えてなかった、チームのみんなに聞いてみようかな。
・サイレンススズカの場合
海外遠征中なので時差により連絡取れず
・スペシャルウィークの場合
「安定するために体重を増やしてみるのはどうでしょうか! エレジーさんは細すぎるんですよ!」
場所は食堂、目の前にはスペちゃんと同じぐらい量を盛られている食事が置かれている。
スペちゃんは美味しそうに食べているが私は冷や汗を流していた、何をかくそう私は少食である。この10分の1でも十分満腹だ。というか、え? スペちゃんっていつもこのぐらい食べているの?
全く関係ないが視界の端ではオグリキャップさんがさらにこの二倍の量の食事を取っていた。
結果、7分の1を食べたところでダウンした。
・ウオッカ
「エレジー先輩は体重が軽いから耐えるよりドリフトしたほうがいいと思うんですよ」
ウオッカさんはスライディングの練習を教えてくれた。確かに踏み込んで止まるよりドリフトして滑らせた方がいいのかもしれない。
「エレジー先輩! オレ、心を鬼にします!」
「え?」
ウオッカさんはどこから竹刀を取り出しそれで地面を叩き私に向けると上記の台詞を叫ぶ。
「エレジー先輩がちゃんと曲がれるように猛特訓です! まずはスライディング100回!」
スパルタ式によりそのトレーニング後の記憶がない。気が付いたら同室の子に部屋まで運ばれていた。
・ダイワスカーレット
「エレジー先輩はやっぱり軽すぎるのでちょっとはカロリーのあるものと筋肉を付けるトレーニングをするといいと思うんですよ」
「うん」
「それで私こんなのを考えてきたんです!」
と、スカーレットさんが取り出したるは可愛らしい手帳。あれ、それウオッカさんがえぐいメニューが書いてあるとか言ってたような...。
「じゃあまずは上半身に筋肉を付けるトレーニングから!」
その後の記憶はない
・トウカイテイオー
「ボクは体幹を鍛えるのがいいと思うんだよ! バランス感覚って大事だからさ!」
テイオーさんにつれられて来たのはダンスルーム、テイオーさんは手と片足を横に伸ばしながらポーズを取る。
真似してみてと視線を向けられたので同じようにポーズを取ってみた。
「おぉー! 凄いねエレジー。全くぶれてないよ!」
「バランス感覚は一番に鍛えましたからね」
「ちょっと踊ってみよー!」
「よろこんで」
そのまましばらく踊り続けた。テイオーさんもうまいから久しぶりに楽しんでトレーニング出来た気がする。
・メジロマックイーン
「私は走る時の姿勢も重要と思いますの、エレジーさんは結構体を上げて走られるようなので体制を低くしてみるのはいかがでしょう?」
「そういえばみんな走る体勢結構低めだね」
私はわりかし体を上げて走るタイプなのだが他のみんなは結構前傾姿勢で走っていた気がする。ある程度体を前にしたほうがいいのだろうか。
「テイオーから聞きましたけどバランス感覚はいいらしいですね、いくらか下げて走ってみましょうか」
その後、何度か安定する走り方を試してみた。
そういえばオグリキャップさんは滅茶苦茶前傾姿勢だった気がする。今度聞いてみようかな。
・ゴールドシップ
「エレジー! 野球見ようぜ!!!!!」
ゴールドシップに何かアドバイスを貰おうと思ったら視聴覚室に連れていかれた。
「あら、エレジーさんもいらしてたの」
そこには何故か半被と鉢巻とメガホンを装備したマックイーンさんがいた。そういえばマックイーンさん野球好きだっけ。この前「かっとばせー!」って寝言で言ってたし。
そして何故か野球の試合を見ることになった、マックイーンさんは滅茶苦茶テンション上がっててゴールドシップはなんかよく分かんないことをしてた。
それにしてもこの進塁する選手の走り方は参考になるかもしれない…、よく見ておこう。
あと図書室で野球の走り方のフォームも参考にしてみるか…。
・トレーナー
「そうだなぁ…地元の友人と会ってみるのもどうだ? 最近会ってないんだろ?」
「友人……ギンちゃんとバンチョー。そういえば最近会ってないなぁ」
と、いうわけで久しぶりに連絡してみたら最近二人とも海外から帰宅したらしく久し振りに遊ぼうと返信してくれた。練習も休みだし海外のレースとかの話も聞きたい。
「久し振り、ギンちゃんバンチョー」
「…うん、久し振りー」
「よっ、久し振り。相変わらずだなエレジー」
待ち合わせ場所でぼーっとしていると対照的な二人の少女がやってきた。
片方は黒髪ロングでクールな雰囲気のある少女、名前はギンシャリボーイ。女なのにボーイなのでみんなはギンちゃんやギンシャリと呼んでいる。勝負服はフィギュアスケートのような青い服だ。
もう一人は黒髪のリーゼントをした勝気な少女だ、名前はチョクセンバンチョー。チョクセンバンチョーと言う名前だがどちらかというと蛇行する走り方をよく行う。でもロケットカウルをレースに持っていこうとするのは止めたほうがいいと思う。勝負服は改造学ランのようなセーラー服。
「それで突然どうしたんだ? 久しぶりに会いたいなんて」
「…珍しい」
「えっと…実は」
私はレースで第三コーナーを曲がり一着を取りたいことを伝えた、すると二人は少し驚いたような顔をしたと思ったらほーっと感心したような声を上げる。
「どうしたの?」
「いやぁ、なんと言うか。オレ達と走ってた時は別に気にしてないどころか倒れた後そのままごろごろと転がってたし」
「…そこまで走り切りたくなっていることに驚いた」
「………そういえば」
今まで地元でギンちゃん達と走ってた時は転んだ後は大体その辺をごろごろしてただけかもしれない。
まぁ私達の所が少しおかしいだけかもしれないけど。というか久し振りの休みだから何をしていいか分からない、最近は休みの日もトレーニングしてた気がする…あれ…もしかして私、休みの過ごし方忘れてる…?
そのことを伝えてると二人はさらにあきれたような顔をして溜息を吐かれた。
「まさかエレジーがここまで熱血キャラになるとはなぁ…」
「…驚愕、とりあえずゲームセンターにでも行こ」
その後二人に連れられてクレーンゲームをしたりカラオケに行ったりした。二人なんで帰って来たばかりなのに遊び場所私より詳しいの?
「良い息抜きになったか?」
「…まさかトレーナーさん」
「最近根を詰めすぎだ、時には息抜きすることも重要だろ」
そしてトレーナーさんは一枚の紙を机から取り出し見せる。そこには…
「エレジー、次のレースが決まったぞ。芝1600m、マイルだがエレジーは問題なかったな」
「はい」
私はマイルと中距離と長距離を得意としている。短距離はほんの少しだけスピードを出しきれないのだ。一番得意なのは中長距離だけど、直線が長いほど最後追いつけるから。
それにしても次のレースだ…次こそは…。
「思い込みすぎだ」
「いたっ」
軽くデコピンを額に受ける、そんなに痛くはなかったけど思わず声が出てしまった。
トレーナーさんはいつも通りでいいと言ってくれた。下手に気を貼ると本調子を出せなくなると。
「トレーナーさん。私、出来る限りやってみます」
「その意気だ。さっ、レースまで調整頑張るぞ」
「はいっ!」
そしてレース当日、私はゲートの中にいた。勝負服に身を包み今か今かとレースの開始を待っていた。
8枠、人気はちょっと言いたくないぐらいには低い。まぁ当然だと思うけど。
トレーナーは「作戦はない、好きに走ってくれ」とのこと。私はゴールドシップと同じ追込型で最後尾に付けた後最後の直線で追い上げるのを得意としていた。だけども…今回は。
『各ウマ娘一斉にスタートですっ!』
その瞬間私は、
『おぉっと! ハリボテエレジー先頭に躍り出た! これは大逃げの体勢だ!』
私は前に立ち、スズカさんのように大逃げの体勢を取った、会場からはどよめきの声が聞こえる。
私は得意な直線に移動しどんどん加速している。
『これはハリボテエレジーどんどんと速度を上げている!! もはや5バ身以上離れている!!』
「ウマ娘の時速は優に70キロを超える。だが今のハリボテエレジーは80、いや90キロは言っているのかもしれない」
「どうした急に」
「ウマ娘というものは個人の肉体だけで車と同じレベルの速度を出せる。だが彼女達は生身だ、今までは彼女自身で受け身を取ることができたから怪我を負うこともあまりなかったがこの速度で転倒すれば高速道路で車が横転するのと同じだ。怪我では済まない可能性がある」
「まずいんじゃないか!?」
「その通りだ! ハリボテエレジー! 速度を落とすんだー!!!」
そのことには他のウマ娘も気づいていた。スピカのメンバーも声を上げる。
「エレジーさん! コーナーに入るまでに速度を落としてください!!」
「やばいですよ、このままだとエレジー先輩がっ!?」
「こんな時にトレーナーはどこに行ったのよ!?」
「トレーナーは第三コーナーの所にいる。あそこで見守るんだと」
ゴールドシップは特に気にした様子もなく手元でルービックキューブをいじっている。
周りのみんなはそんなゴールドシップの様子を咎めるがゴールドシップは気にした様子もなく言う。
「あいつならもう曲がれるよ。あんだけやったんだからさ」
ゴールドシップのあっけらかんとした声にスピカの面々はぽかんとした顔をした。
「…だろ、エレジー」
観客からは速度を落とせと声が色んなところから飛んで来るが私は速度を上げ続けた。
そして直線を終え、第三コーナーに差し掛かる。
『ハリボテエレジー後続に大きな差をつけて第三コーナーへと迫る! 彼女は曲がることが出来るのか!!!』
エレジーが大逃げをしているの見た。いままでのエレジーでは曲がれない。
「エレz…!」
俺はエレジーが初めて転んだことを思い出す。まだ受け身も取れない頃、転んだエレジーが足を折り病院で言ってくれた「勝ちたい」って涙ながらに語ってくれた。違う、エレジーが欲しいのはこんな言葉じゃない。俺は…俺は…!
第三コーナーに差し掛かり私は体を曲げた、大きくかかるG。
「あっ」
身体が僅かに外側にそれ、そのまま吹き飛ばされそうになり。会場から悲鳴が上がる。
もう駄目だと思ったその時。
「ハリボテェェェェェェェェ! 曲がれええええええええ!」
トレーナーさんの声が響く。その瞬間に体を動かしながらマックイーンさんとの会話を思い出した。
『マックイーン、なんで選手達はこんな走り方をしているの?』
選手達は一塁を曲がる時に右足で踏まずに左足でベースの内側を蹴っている。そのことを聞くとマックイーンさんは得意げに教えてくれた。
『これを行うことで効率的にコーナーを曲がることが出来るんですよ。体は確かに傾きますが前の方に傾きますのでそのまま走ることも可能です』
左肩を下げて右腕の振りを大きく、左足を右足よりも外側に踏み込ませ
『片足だけのスライディングも覚えていたほうがいいですよ! どこかで使えるかもです!』
ウオッカさんの助言通りに右足をスライディングさせて左足よりも外側に移動させ
『エレジーさんは痩せすぎなので体重を少しだけ増やすだけでもだいぶ変わると思うんです!』
『実はバランスを取るには下半身よりも上半身の筋肉の方が重要だったりするんです!』
スペちゃんとスカーレットさんの話のように上半身も今ではぶれない。
『エレジーはバランス感覚いいよね! どんな体制でもぶれなさそう!』
テイオーさんが言ったように体を大きく落としてもぶれずに前傾姿勢を取る。
『難しいことは考えんな、曲がれたら…』
「ぶちかますっ!!!」
私は第三コーナーを曲がり、最後の直線へと移動した。
『…お…曲がった? ハリボテエレジーどうやって曲がった!?』
残りは直線のみ、残った末脚も全部使い切る!
『速い! 速いぞハリボテエレジー! もはや独走という言葉すら遠い! 10バ身、15バ身以上の差をつけている!』
やっと見えた…これが誰もいない先頭の世界…!!
『ハリボテエレジー! 今一着でゴールです!!!』
掲示板を見ると一着に私の番号、そしてレコードという文字…。
思わず目元から涙が溢れ、立ち尽くす。
「エレジー!」
トレーナーさんが声を上げながら私の方に駆け寄ってきた。
「トレーナー…トレーナー!」
「ぐふっ!」
私は感極まってトレーナーさんへと抱き着いた。トレーナーさんは受け止めきれず地面に倒れる。
「ぐすっ…やりました! トレーナー! …ひぐっ、私…一着を取れました!!」
「…あぁ、よくやったな」
「トレーナーの声、聞こえました。私…私…!」
トレーナーさんは立ち上がると私の頭に手を置く、本当に…勝てたんだ。
背中に手をポンっと叩かれる。
「おめでとさん」
後ろにはゴールドシップが私の背中を叩いていた。スピカのみんなも続々と集まってきて私を称賛してくれる。
再度、掲示板を見る。1着、レコード。初めて取った…1着。
「トレーナー」
「うん?」
「私、これからも頑張りますね」
「…あぁ」
やっと一勝、だけども……これからだ。
「次も…勝つ」
私の戦いは、まだ始まったばかりだ。
ハリボテエレジー
誕生日 …?月?日
身長 …167cm
体重 …微増(適正体重に近づいた)
スリーサイズ…B82・W53・H80
備考 …耳と尻尾だけ黒鹿毛、髪はクラフト色
とある所からやってきた儚い系ウマ娘。
走ることは嫌いではないが体重が軽すぎるのと直線距離で走るのが早すぎて第三コーナーが曲がれない。一着を取るまでは2~5着をよくとっていた。
本来は追込型なのでラストスパートの直線はスズカや会長よりも速い。
末脚も持っているので最後でさらに加速する。
数値は適当です