俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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1話。

 俺はかなりの出不精だ。

 

 将来結婚したら家族サービスもロクにしない夫として離婚することになり、払いたくも無い慰謝料なんかを払わないといけないくらい。

 

 買った本や借りてきたDVDなどを観るなど、自分のために使う時間がありすぎる。

 

 学校とバイト、あとそこそこの友達付き合い以外は家を出たくない。

 

 一日が25……いやいっそ48時間くらいあれば考えもするんだけどなぁ。

 

 と希望を言っても1日は悲しいことに24時間だ。短いことこの上ないね。

 

 睡眠は少なくとも6時間は欲しいし、バイトのある日を除けば自分の時間には8時間欲しい。

 

 それに大学に行ってる時間や、トイレや食事などの生理的な時間を加えれば他に構う余裕なんて物は微塵もない。

 

 彼女なんてもってのほかだ。なんで彼女のために自分の時間を削らなければならんのか。出来る出来ないは別として。

 

 という極端かも知れない持論で俺は余計な物を目に入れずに日々を過ごすことにしている。

 

 この世の中、一体何がフラグに繋がっているか分かったものじゃない。

 

 

 去年に大学に入学を済まし、無事に2年に進級することが出来た春先。

 

 大学からの帰りで今日はバイトも無い。家に帰ってからすることを考えながら帰路に着くのが俺の楽しみの1つだ。

 

 天気予報通りの雨に対して持ち出した傘は効果抜群であり雨粒の被弾率を大幅に下げてくれる。

 

 左に曲がったり右に曲がったり直進したり飛び越えたりして進みなれた道を歩んでいると、ふといつも自分がゴミ出しをしている場所に何か変な物があるのが見えた。

 

 遠目からはこう……髪の毛っぽい物が雨でベシャッてなってる感じのが見える。

 

 まぁ通り道でもあるので気にしたついでに近づいてみると、女の子が居た。中学低学年ぐらいの。

 

 女の子は雨でビショビショになりながら体育座りで電柱に寄り添って俯いてる。

 

 この世界はけっこう赤とか青とか緑とかアリエナイ色の髪の毛の種類があるわけだけどこの子は白だ。ちなみに俺は黒だ。カラスの濡れ羽色。

 

 っと。目が合った。

 

 雨音に混じってきた俺の足音に気づいたのか、ゆっくりとした動作でゆらりと女の子は首を上げて、俺を見てきた。

 

 おお可愛い。そんじょそこらじゃ見ない整った顔の美人さんだ。瞳は赤だ。ウサギみたいで怖い。

 

 というわけで無視することにして、俺は首がまわる限界まで女の子と見つめ合いながら家へと帰った。

 

 

 家賃の安さとトイレ風呂別だけが取り得のボロアパートに帰宅する。ああ、愛しき我が家。

 

 足口のほうが濡れたジーパンを部屋干しして読書へと移る。

 

 座布団を折りたたんで枕にしながらライトノベルを読む。

 

 側頭部や顎が痛くなる度に姿勢を変えて、読了する頃にはすっかり部屋の中は暗くなっていた。

 

 掛けてあるデジタル時計を見れば時刻は6時になっていた。1時間半ぐらい読んでたらしい。

 

 

「そういえば……」

 

 

 第1回第1声にしてはなんの印象にも残らなさそうな言葉を呟く。

 

 あの女の子まだ居るのかな、となんとなく気になり部屋の電気を付けるついでに俺は窓へと寄った。

 

 雨が降っているのでへばりつく様にガラスに顔を寄せてゴミ捨て場のほうを覗く。

 

 結果から言えばまだ居た。しかも同じ体勢。尻の感覚麻痺してるんだろうと予想する。若いのに大変だ。

 

 また目が合った。

 

 遠くから前触れ無しに見たというのにエスパーかあの子。夢も希望も無いですと言いたげな目だったのですぐに逸らす。

 

 俺は飯の準備をするついでに携帯に110と番号を打ち込み、出てきた警察さんに外の女の子のことを報せといた。

 

 具無しラーメンが出来た。具なんかいらねー。付け合せに白ご飯。

 

 またちょっと気になったので、さっきと同じ動作でゴミ捨て場を覗く。

 

 まぁ言うまでも無く居た。元気に座るパントマイムをしてお捻りを稼いでいるのかもしれない。ここからなら応援ぐらいなら出来そう。しないけど。

 

 あ、警察来た。けど女の子慌てて隠れた。

 

 けどやっぱり尻痛かったみたい。立ち上がる時、内股気味にずっと尻さすってた。気持ちは分からんでもない。

 

 警察が笑えるほど無能すぎるので女の子は無事(?)隠れきる。

 

 そこの角からめっちゃ見てたのになんで気づかないんだよ。

 

 というかあの子何してんだろ。

 

 不満もそこそこに女の子を観察していると、またまた目があった。まさか本当にエスパーか。

 

 そろそろ見たいテレビの時間だ。女の子とのアイコンタクトを中止する。時刻は8時に指しかかろうとしています。

 

 気づくとラーメンが冷めてた。冷麺だと自分に言い聞かせて食べた。

 

 忘れた頃に同じ内容を繰り返す月曜日のテレビも見終わり、DVDでも見ようと部屋の隅にある棚に近づく。

 

 ついでに窓を見ると雨が止んでいた。

 

 さらにそのついでにゴミ捨て場を見る。そしてついでにまだ居た。いつもの姿勢で。

 

 あの子のお尻は確実に血流の悪さに悩まされている。もしかするとそれが気持ちいいドMなのかも知れない。

 

 そして目が合う。予定調和だ。

 

 見つめ合うと素直にお喋り出来ない人間なので携帯で警察にリコールする。

 

 いたずら電話はやめろと言われた。死ねばいいのに。

 

 DVDを見始めて20分くらいして家のチャイムがなる。

 

 まさかと思ったが、どっこい受信料の集金だった。言い訳を付けて追い返す。

 

 DVDを見終わると目もいい感じに疲れてきた。風呂沸かして入って寝ることにする。

 

 歯ブラシをしながら窓を覗く。

 

 そろそろ変化が欲しいとか思ったけどやっぱりあの体勢で居た。こちらの考えは届かないようだ。

 

 目が合ったのでウインクして置いた。

 

 警察に電話したけど、歯ブラシ加えたままのいたずら電話はやめろと言われた。すいません嫌がらせです。

 

 お口クチュクチュモンダミンしてベットにダイブする前に台所に向かう。

 

 今日炊いたばかりの白飯を「憤ッ!」とか「破ッ!」とかいいながら握る。

 

 無事に歪な形をした三角お握りが2つ完成した。具は無いです。具なんかいらねー。

 

 俺の貴重な睡眠時間を10分ほど削る覚悟をして外へ出る。例えるならライオンが火の輪に飛び込むぐらいの勇気を持って。

 

 鋼鉄のお尻の異名を持つ女の子の元へ赴き、小皿に移したお握りをお供えする。←ここでフラグが成立。

 

 2礼3拍して家に帰る。上へ上がる階段がギシギシ五月蝿い改装しろ。

 

 憧れの人物はのび太クンなので布団に入って3分で寝れる。

 

 ブースカブーと寝息を立てて寝ているといきなり部屋がノックされる。当然無視する。

 

 しかし睡眠中の尿意ぐらいにしつこい輩で何度も何度もノックしてくる。

 

 若干マジ切れしそうになりながら寝巻きのスウェット姿で玄関の扉を開ける。

 

 

「あっ……」

 

 

 困ったように声を上げる鋼鉄のお尻が居た。抱えるように俺の小皿を持ってモジモジしている。

 

 眠気と怒りで最高にローって奴になってるのでニュッと腕を伸ばして小皿を奪うように取った。

 

 

「ありがとうじゃあね」

 

 

 バタンと扉を閉めた。余計なことするんじゃなかったと自責の念に駆られる。お供えしなかったらちゃんと寝れたのに。

 

 ついでに来た尿意をトイレで収めて寝ようとする前に、お友達になりかけている携帯のリコールボタンを押す。

 

 玄関コンコン五月蝿いんだよ。覗いてみたらやっぱりだったよ鋼鉄のお尻。

 

 しかし警察に声を覚えられており被害を言う前に怒られた。説教で10分消費、その間ノック音が部屋に響く。

 

 電話越しに人を殺せたらいいのに。堪忍袋の尾がブチブチと音を立てて千切れかける。

 

 扉を乱暴に開ける。

 

 

「あっ……」

 

「なんですかどうしたんですかこんな夜中に」

 

「うっ……」

 

 

 ノックの主はサイレスでも掛けられたらしい。会話が成立しない。

 

 未だビショビショの女の子が家の前でこんな状態だと、なんとも誤解を受けそうな光景なのですぐに切り上げたい。

 

 見ると明らかに水とは違うなにかが目の端に溜まっていっていた。僅かに嗚咽も聞こえた。

 

 拙い。早くしないと睡眠時間&自分の時間が無くなる。

 

 

「用がないんならこれ、でッ!?」

 

 

 扉を閉めようとするが、いきなり女の子の靴が間に挟まる。靴はローファーだった。

 

 こんな女の子が立ちの悪い新聞契約の人みたいな真似をしたのに動揺を隠せず、思わず扉を開ける。

 

 それが運の尽きであり、開いた隙間は女の子が入るのには充分だった。

 

 しかし俺も男であり守るモノのためになら命だって張れる。体で女の子が侵入してくるのをガードしつつ扉を閉める。

 

 ガンッ! と音を立てて扉に女の子が挟まる。

 

 

「うーっ! うーっ!」

 

 

 扉に頬を圧迫されて言葉が出せないのか、はたまたそれが口癖なのかは知らないけどそう言いながら女の子は引き下がろうとはしない。

 

 

「なんだお前、帰れっ!」

 

「帰れない……!」

 

「じゃあ出て行けっ!」

 

「泊めてください……!」

 

「家主が追い出そうとしてるのに図々し過ぎるぞその発言!」

 

 

 擦った揉んだの騒ぎを起こしていると突然となりの方から扉が開く音が聞こえた。

 

 背中に嫌な汗が流れる。

 

 戦いを一旦中止して、となりのほうを覗くとめっちゃ目付きの悪くなっている女の人が居た。どうみてもお隣さんです。

 

 唇が僅かに蠢くのが見えた。

 

 「静かにしろド突き回すぞ」と読唇術を習ってもいないのに読み取れた。ついでに言うと眼がマジだった。

 

 しかしド突き回すってド突きながら回すのかな、シュールな光景じゃね。

 

 それはさて置き、これ以上の戦いは無益と判断して女の子を部屋へ招き入れる。玄関まで。

 

 

「お握りすごく美味しかったです」

 

「そりゃどうも」

 

「泊めてください」

 

「話の前後の繋がりを考えろ、繋がりを」

 

 

 ペコリと礼儀正しく頭を下げたかと思えばやっぱり図々しかった。多分尻だけでなく心も鋼鉄なんだろう。

 

 話が成立しないという境地に思い至ったので警察に電話する。ビクッと女の子が震えて、怯えるように俺を見てくる。

 

 だがしかしどれだけ事情を説明しても信じてはもらえなかった。

 

 早々に電話を切られる。確実に俺の電話番号はブラックリスト行き。

 

 

「わたしは料理が出来ない」

 

 

 女の子がいきなり欠点披露してきた。

 

 

「それで?」

 

「掃除も出来ない」

 

「ほぉほぉ」

 

「洗濯も出来ない」

 

 

 要するに無能というわけですね。見栄を張らないのは好感を持てる。

 

 

「この家に泊めて欲しいです」

 

「無能アピールをした相手にそう言われて『いいよ』と頷く奴は居ない」

 

「頑張って覚えます」

 

「覚えてから来てください」

 

 

 例え覚えてきたとしても泊めないけど。

 

 

「しかたありませんね」

 

「お前はなんでそんなちょっと偉そうなの?」

 

「わたしの体を存分に使っていいです」

 

「そんな覚悟あるのなら都心に言って如何わしいオジサンにでも話かけたらいいと思うよ」

 

「……ロリコン?」

 

「自分が大人と思ってるお前に驚いた」

 

「私はもう14歳」

 

「うんうん。この国の成人式は20歳に執り行われるからな」

 

「頭脳は大人」

 

「なら自分がどう言おうと泊めて貰えないのは分かるな? とりあえず出て行け」

 

「それは無理」

 

「だからなんで上から目線なの?」

 

「わたしは―――ヘックシっ」

 

 

 言葉半分で、女の子がクシャミをする。

 

 見ると頬がほんのり赤くなっていた。それに鼻を啜る音も聞こえる。あれ、これ風邪じゃね?

 

 

「あー……もう、とりあえず風呂入ってこい。風邪引いてそこらで野垂れ死なれても困るから。ご近所さんが」

 

「泊めてくれるの?」

 

「寝るだけだぞ。明日になったら出て行けよ」

 

「あ……りがとう」

 

「シャワー使ったら殺すからな」

 

「……」

 

 

 微妙な表情で女の子は案内した風呂に入っていった。

 

 押入れから毛布を一枚取り出してから置手紙を作成する。内容は『どこでも勝手に寝ろ』だ。

 

 正直俺の眠気がヤバい。眠気を殺気に変換したら軽く人を殺せる。

 

 準備万端。財布とか貴重品は枕の下に隠しておく。

 

 多分30分ぐらい寝てから、バタンと物が倒れる音で目が覚めた。風邪の件で気になって見に行くと、案の定女の子は脱衣所で倒れていた。全裸で。

 

 はぁはぁと荒く息をしていかにも風邪だ。

 

 

「迷惑掛けすぎて笑える」

 

 

 迷惑すぎるので朝一に警察に連れていこう。

 

 バスタオルで女の子の全身を拭ってから全裸のまま俺のベッドに入れておいた。かなりセクハラ。

 

 しかたないのでとりあえず予備の布団しいて寝た。

 

 次の日の朝。

 

 目が覚めるとコゲくさい臭いがした。

 

 まさか火事かと思い台所にいってみると、エプロン姿で料理している女の子がいた。もちろんエプロンは俺の。

 

 

「……何勝手に料理してんの」

 

 

 料理出来ないって言ってなかったっけこの子?

 

 

「目玉焼き焦げた……」

 

「お、おっま! 最近卵高いんだぞ!」

 

「きゃん!」

 

 

 脳天にチョップを入れると女の子は変な悲鳴を上げた。

 

 ついでに言うと2つ卵使ってた。

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