俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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11話。

 

 

 始まりがあるから終わりがある。どんな物語にも、必ず始まりと終わりは存在する。

 

 本であればページを開くことで物語が始まり、読み進めることで終わりへと向かっていく。

 

 本を閉じて物語を止めることは出来る。ゆっくりと読んで遅くすることも、読み返して巻き戻すことも出来る。

 

 けど、それでも終わりは確実にやってくる。絶対に回避することは出来ない。

 

 終わり、しか終着点が無いのだから。

 

 その物語が完結か打ち切りかは、別の話だけど。

 

 ……うん。ただ意味深でカッコいいことを言ってみたかっただけなんだ。

 

 

 

 バイトを終え、帰宅すると2日に1度の割合で換気扇から焦げ臭い臭いが漂ってくる。

 

 料理禁止令を出して1ヶ月ほどが経過しているが、いくら注意しても女の子は辞める気配を見せない。

 

 しかし、流石に数を重ねれば慣れてくると言うもの。

 

 我が家へと続く木製の扉を開けると、速攻で臭いを作りだした元凶たる女の子がやってくる。

 

 

「……今度は何を焦がしたんだよ」

 

「卵焼き」

 

「そぉいっ!」

 

「ぐぉ」

 

 

 腕を垂直に落下させてチョップを繰り出し、女の子を床に沈める。

 

 歳故に抜けてる所はあるものの掃除も洗濯もまともに出来るようになったというのに、料理だけは一向に上手くならない。

 

 そもそも部屋狭いからすぐに片付くし、洗う服もそんなに沢山出るわけでもないので洗濯も3日に1回やれば充分だ。

 

 つまり、女の子はかなり暇なはずなのだ。

 

 料理の1つでも覚えてもらわないと割に合わない。

 

 けど、一向に上手くはならないしその分食材が無駄になる。

 

 だから諦め半分に料理禁止令を出したわけだけど、どうにも負けた気分だ。……ジレンマって言葉はこういう時に使うんだなぁ。

 

 いくら考えてもお腹は膨らまない。

 

 考えを一時保留にして、冷蔵庫の中身を見て食料の残量を確認する。

 

 溜息を吐きたくなった。

 

 空白のほうが多い冷蔵庫は厚みの無い財布並みに悲しいものがあるな。……女の子はほぼ卵しか使わないから、これは買出しサボった俺のほうに非がある。

 

 明日は日曜で学校もバイトも無いし、買出しに行こう。

 

 そろそろ買出しを覚えさせても良い頃合だし、女の子も連れて行こう。

 

 金さえキッチリすれば良いんだ。面倒な家事をまた1つ任せられる準備だったと思えばいい。

 

 

「というわけで」

 

「冷蔵庫と見詰め合った末に『というわけで』とはどういうわけなのか」

 

「明日は買出しに行こうと思います。お前連れて」

 

「あ、無視」

 

「そろそろ買出し覚えてもいい頃合だしな」

 

「オヤツ買っていい?」

 

「200円までな」

 

「バナナはオヤツにっ……!」

 

「―――入りません」

 

 

 顔を一瞬輝かせたが、すぐさまガックリと項垂れた女の子。……バナナ食いたかったのか?

 

 明日の予定もそこそこに決まったので、女の子が焦がした卵焼きを食べられるように調理し直す。ちょっと焦げ臭いかも知れないけど、そこは仕方ない。

 

 冷蔵庫の余り物を全て詰め込み、再生怪人ならぬ再生チャーハンを作り上げる。

 

 チャーハンを食べた女の子が眉間に皺を寄せて苦そうにしていたのが印象的だった。……正直、俺も苦いと思った。

 

 その後風呂に入って、女の子が先に就寝。

 

 言っとくけど裸じゃない。以前買った買った家着でちゃんと寝ている。この前、裸で寝るのが癖になったとか冗談を言われた時は笑ってしまった。

 

 そしていつも通り2時に寝て翌日(本日)。

 

 予定時間を決めてなかったのが仇となり、いつかのデパートの時のように起こされてしまう。

 

 こっちは激しく眠いと言うのに、揺さぶって起こしてくる女の子の頬を緩みきっていてムカつく。超ムカつく。

 

 出発時間を告げて再度寝ようと試みるが、女の子が妨害してくるので眠ることは出来なかった。

 

 上がらない瞼を擦る俺を洗面所まで引っ張って運んだ後、アパート下で待つと言いそのまま家を出て行った。

 

 邪魔者も居なくなったので寝ようと思ったけど、窓から眺めた空が余りにも晴れ渡っていたので自前の勿体無い病が発症して諦めた。

 

 スカッとするように洗顔料を使って顔を洗い、着替えと最低限の準備をして俺も追いかけるように家から出る。

 

 2階から見下ろすと女の子は俺から背を向けた状態で自転車前で待っていた。

 

 以前俺が選んだ青のワンピースを着て、地面に転がっていた石ころを蹴って遊んでいる。

 

 

「今来た所」

 

「は?」

 

「言いたかっただけ」

 

 

 1階に降りる自転車の所まで行くと女の子が意味不明の発言をしてきた。

 

 今来たも何も、10分くらい前から居ただろうが。あまりにも意味不明過ぎたのでスルーする。残念ながら華麗にではない。

 

 せっかく朝早くに起きたんだ。遠出するのもいいな、とプラス思考に物事を考えて行き先を決める。

 

 結果、前行ったデパートに決定。

 

 自転車に跨り、ムチを打ちいざ出発。

 

 高い運転技術が求められそうな狭い道路を抜けて、走ってきた女の子を荷台に乗せて、大通りへと出る。

 

 後は通り沿いに進めば勝手につく。実に簡単だ。

 

 

「サラマンダーより……はやーいっ!」

 

「うわぁぁぁトラウマ思い出させんなぁぁぁぁぁ」

 

「……」

 

 

 子供の頃好きだった女の子の名前を付けて敵に寝取られたヒロインのゲームを思い出して軽く錯乱しかける。

 

 急いでエンディングで寝取った奴が死んだことを思い出して精神を落ち着ける。

 

 ……ふぅ。あれはマジでトラウマだ。主人公はヨヨなんか忘れてフレデリカと薬屋を開くべき。

 

 それ以外に道中問題は、横乗りしてた女の子が電柱に脛をぶつけてマジ泣きしそうになったぐらいしか無く、平和にジュネスじゃないスーパーに到着する。

 

 今回の目的は食料調達なので2階以上には上がらない。

 

 1階の食品売り場に直行して女の子に籠を持たせる。

 

 籠を受け取った女の子はすぐにカートを引っ張り出してきて籠とドッキングさせる。……いちいち楽する方法考えるなぁコイツ。

 

 持つ係から押す係になった女の子を連れて、買い物を開始する。

 

 どれが安いか、とか高いものは買うな、とかオヤツは200円じゃなくて100円までとか、色々説明しながら商品を籠に入れていく。

 

 

「お客様、カートには乗らないようお願いします」

 

「……すいません」

 

「うわだっせぇ、ガキかお前」

 

「わ、笑うな」

 

 

 途中、カートに乗って遊んでいた所を店員に発見されて注意を受ける女の子。ざまぁ。

 

 バイト先のスーパーより値が安いことになぜか悲しみを覚えつつ、女の子に買い物の基本をレクチャーする。

 

 といっても一朝一夕で失敗しない買い物を覚えられるとは思ってはいない。何回かついていく必要があるだろうなぁ。出費を抑えるためにも。

 

 大体見て回ったので、会計を済ませるためにレジへと並ぶ。

 

 朝早いというのに買い物客が多いに賑わっており、レジには人だかりが出来ている。

 

 人がレジに消費されて自分に順番が回ってくるまでの間、レジ前にある本のコーナーで読書に興じる。

 

 今週発売の新連載&打ち切り連発の新陳代謝の良い週間少年誌を読んでいると、女の子に服の裾をクイクイと引かれる。

 

 引かれた方向に首を向けると、女の子が一冊の本を額に掲げていた。

 

 

「これ、これ欲しいっ」

 

 

 興奮気味に見せ付けられた本には『初心者のための100のレシピ』などと書かれている。所謂料理本だ。

 

 

「それ買ってどうするんだよ。殺人シェフ」

 

「これ見て練習する」

 

「お前は世界の意思的に料理ヘタだからダメ。というか金の無駄」

 

「……はっきり言って、貴方の料理のバリエーション、少ない」

 

「う……わ、悪かったな」

 

「貴方のためにも買うべき」

 

 

 あえて気にしてなかった事実を抉られる。そのまま言葉巧みに言い包められ料理本は籠の中に納まり会計された。

 

 思いのほか高くて今月買う予定だったDVDを1枚諦めることになった。

 

 商品を詰める台に設置されているビニール袋は色々と使えるので、女の子が羞恥心を覚えて止めにくるまで取りまくった。

 

 俺は顔を赤くして他人のフリをしながら付いてくる女の子にワザとフランクに接して、更に赤面させて遊んだ。

 

 自転車置き場まで着くと女の子は、俺が0円を請求してくる機械に清算を済ましている間に、俺の自転車の所までダッシュした。

 

 目に見えて警戒されてて今度は置き去りに出来なかった。

 

 

「……今度からわたし1人で買い物行って来る」

 

「なんでさ?」

 

「ビニール袋、恥ずかしい」

 

「お前もちゃんとやるんだぞ」

 

「ヤダ」

 

 

 帰り道、俺の背中に手を乗せてしがみ付く女の子が恥ずかしそうに呻いていた。

 

 来た道を戻るという迷う要素ゼロな単純極まりない自転車テクニックで帰路に着き、何事も無く帰宅する。

 

 空はまだまだ明るい。ということはまだまだ時間がある。危なくなる前に充電するのもいいかもしれない。

 

 DVDを見るかラノベを見るかを考えながら前カゴに入れた荷物を取りだす。

 

 思いのほか買いすぎたため、予想より重みがあるビニール袋を手に抱える。

 

 

 ―――……そんな何気無い動作をしている時のことだった。

 

 

 突然女の子が俺の手を掴み、痛いほどに握りこんできた。

 

 女の子の手の平からジワジワと汗が滲み出してきているのがすぐに分かった。

 

 一体どうしたのか? 今までに無い―――一種異常とも言える女の子の行動に不思議を覚え、俺は咄嗟に振り向いた。

 

 視線の先には、胸に手を当てて不規則に呼吸を繰り返す“素”の女の子の姿があった。

 

 目に見えるほどに大粒の汗を額に溜め、釘付けにされたように女の子の目線は一点に注がれていた。

 

 誰が見てもおかしいと感じる挙動に違和感を感じずには居られない。

 

 俺は女の子と同じ方向を向いた。

 

 視線の先。俺と女の子の視界に居たのは、1人の女の人だった。

 

 体格はウチのリセットさんもとい管理人には届かないけど寸胴で、 歳は40~50台前半ぐらいだろうか。

 

 旬も過ぎ去り熟れ過ぎた上に腐り落ちて土に還ったかのような、パーマを掛けた茶髪を肩先でそろえた感じの悪いオバサンだ。

 

 俺が誰だと疑問を感じる前に、女の人はその手に持っていた大きめなカバンをこっちへと放り投げた。

 

 カバンは大きく弧を描いて宙を舞い、地面へと落ちてその中身をブチまけた。

 

 よく見ればどこかの校章が入った学生カバンのようなものの中からは、教科書と思われる本や学生服と思われる服が飛び出す。

 

 中身を見た瞬間、女の子が「ああっ!」と叫んですぐにカバンへと駆け寄り荷物を腕一杯に抱え込む。

 

 オバサンは俺を一瞥した後、地面に座り込む女の子のほうを睨んだ。

 

 

「ったくもぅ―――……出て行くなら自分の荷物も持って行きなさいよね。邪魔で邪魔でしょうがなかったんだから」

 

「あ、う」

 

「出て行けとは言ったけど、荷物を置いて出て行けとは一言も言った無かったはずだけどっ? あんたちゃんと人の話聞いてたわけっ?」

 

「……う」

 

「しかも、本当に良い度胸してるわよねアンタ。出て行ってすぐに誰とも知らない男の所で暮らしてるなんて。それとも前から当てがあったのかしら、それなら最初からワタシの家に来ないでくれる?」

 

 

 ……大体場の状況は理解出来た。この人は女の子を引き取って虐めていた親戚だと思う。

 

 それにしても絵に描いたようにヒステリックで印象の悪いオバサンだ。こんな人が実在するとは思わなかった。

 

 現代の神秘と言っても過言じゃないだろう。

 

 きっと珍獣コレクターに高く売れるに違いない。

 

 強気に喋るオバサンとは真逆に、女の子は呻き声を出すだけで肩を狭めてジッと耐えている。

 

 というかオバサンが俺のほうを見る度に舌打ちしてくる。

 

 ヤバい、激しくウザい。

 

 

「どう、して」

 

「あん? ……どうして場所が分かったって聞きたいのかい?」

 

「……はい」

 

「人の噂を舐めんじゃないよッ! 一月もすれば聞きたく無くても勝手に聞こえるんだよ。どこどこで誰々ちゃんを見たってさッ!」

 

 

 いつしか問答は罵声に変わり、近所迷惑確実な公開罵倒ショーに変貌する。観客は俺だけ。

 

 ああ……長くなりそうだ。

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