俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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17話。

「あっづっ……」

 

 

 バイト先から出た途端にムワッとした熱気に襲われて思わず顔を顰めてしまう。

 

 独特の湿気の多い暑さが、もう夏だということを実感させてくる。

 

 そういえばもう、女の子が居候するようになってから3ヶ月とちょっとか。時間の流れが速すぎて切なくなってくるな。

 

 速く家に帰ってラノベでも読もうと早足で帰宅する。

 

 

「っうぉかうぇりぃーッ!!」

 

 

 愛しき我が家に帰ろうと扉を開けた直後、飛び掛ってきた女の子に羽交い絞めにされた。

 

 見計らったようなタイミングからして階段を上がる音で気付いたんだろう。女の子の奇行はこれが初めてなんてことがあるわけが無いので、別に驚かない。

 

 踏ん張りを利かせて押し出そうとしてくる女の子のパワーなんて高が知れている。

 

 逆に押し返して家へと入る。

 

 家の中はクーラーが利いているようでかなり涼しい。家賃諸々は親持ちだ。

 

 

「バナナを買ってきました」

 

「っエロく食えと申すか」

 

「お前変態マジ変態」

 

「ぐへへ」

 

「外見に見合わない笑い声を出すな。もっと清楚に『うふふ』と笑えよ」

 

「つまりわたしを自分好みの女の子にしようと」

 

「それなんて光源氏計画?」

 

「みんなLCL化。パシャッ」

 

「それは人類補完計画」

 

「四季が無くなって夏だけになってもう9年が経ちましたね」

 

「いつセカンドインパクト起こったよ。おい」

 

 

 数分の格闘の末に女の子を払い除けて台所へと向かう。

 

 調理器具を入れる棚からバナナハンガーを取り出して買ってきたバナナを掛ける。なんで掛けるかは知らないけど、まぁ掛けないよりは長持ちするんだろう。

 

 昨日の余り物と貰ってきた廃棄の弁当をチンして居間へと持っていく。

 

 

「そっちの袋は、何?」

 

 

 先にテーブルについていた女の子が俺の左手に提げたビニール袋を指差してくる。

 

 手櫛で何度も髪の毛を掻いている辺りさっきまで寝ていたんだろう。

 

 しかも多分……というか確実に俺のベットで寝てるな。なんだあれ、どうやったらあんな布団が乱れるの? 寝相悪すぎだろ、誰が直すと思ってんの? 死ねばいいのに。

 

 まぁこんな性格でも恥ずかしいとは思えるようで羞恥心で若干頬が赤くなっているのが見て取れた。

 

 

「缶コーヒー、ちなみに種類はブラックとマックスコーヒー。飲んでもいいけどマックスコーヒーは全部俺のな」

 

「実質ブラックだけですか」

 

 

 ちなみに内訳はブラック15のマックスコーヒー15の合計30本だ。縦割りオニギリと並んでときおり無性に飲みたくなるのが困る。

 

 ガラガラと音が鳴るビニール袋を下手で緩く放り投げると、難なく女の子はキャッチして中身を改めた。

 

 

「なんという一方通行」

 

「一方通行? ……あー、禁書か。2巻の途中で切ったからあんまわからん」

 

 

 禁書と言ったらそげぶ(そのふざけた幻想をブチ殺す)位しか知らない。でも姫神可愛いよ姫神、姫神超好み。

 

 飯を机に置き、女の子からビニール袋を返してもらってベランダの一角に放置する。コーヒーはヌルいのが一番美味い。

 

 干された俺と女の子の服を見て洗濯を真面目にやっていることを確認してから部屋へと戻る。

 

 戻ってみると、角度が変わったせいか乱れたベッドが余計に目に入る。

 

 とりあえずグチャグチャになった掛け布団だけでも元に戻そうと思い、布団を持ち上げる。ホコリ? 知るか。

 

 壁とベットの隙間に落ちていた俺のシャツを引っ張り上げ、広げやすいように畳んで置くと、あるベットのある一点に目がいった。

 

 その場所を摩ってみるとタメ息が口を突いて出た。

 

 無言で視線を向けてみれば、涼しいはずの室内で不自然に額に汗を溜めて食事をしている女の子がいた。

 

 

「お前さ」

 

「……う、うい?」

 

「もうこの際俺のベッドで寝るなとは言わないからさ、ヨダレとかマジやめてくれ」

 

「……バカでよかった」

 

「あ?」

 

「なんでもない。あはは」

 

 

 ベッドのシーツの濡れている所を指さして言うと、珍しく女の子は動揺した様子を見せた。

 

 指摘されて恥ずかしいのか顔を真っ赤にして女の子は俯いたまま頷いた。

 

 ヨダレとかガキですか。……いやまぁ、俺も講義中に寝てノートをヨダレでダラダラにしたことはあるけどさ。

 

 しわくちゃになっていたシャツを洗濯機へと投下して女の子の対面へと座って俺も食事をする。

 

 見れば女の子はまだ頬を朱に染めていた。

 

 

「俺の居ない間なんかあった?」

 

「宅配便を装った変態さんに襲われました。わたしも欲求不満でつい……」

 

「どこの人妻エロ漫画だよ」

 

「未成年に加えて女の子に正面向かってエロ漫画とか言わないでください。汚らわしい」

 

「その話題を知ってるお前のほうが汚らわしいよ」

 

「知識は人を豊かにするとよく言われている」

 

「お前の頭のお花畑が豊かすぎる件について」

 

「そろそろ出荷出来る頃ですね」

 

「そのまま焼却炉に直行だよ」

 

「数日後、そこには植物の楽園となった焼却場の姿が」

 

「蔦壁とか見てて鳥肌立つからやめてくれ」

 

「でも宅配便来たのは本当」

 

「ふーん」

 

「そこに置いてある」

 

 

 女の子が指差した部屋の隅を見てみると、たしかに宅配の紙が張られたダンボール箱が置いてあった。

 

 親からの仕送りは金で銀行振り込みだし……誰だ? 別に通販もしてないし。

 

 夕飯を終えて女の子と洗い物をも済ませ、女の子に風呂の準備をするように伝えた後にさっきダンボール箱を調べる。

 

 

「伯母さんからか」

 

 

 宅配の紙の送り主の名前を見た瞬間にピンと来る。

 

 ダンボールを開けてみれば。中身は米や調味料などの食料品だった。それと隅のほうに封筒が入っていた。

 

 封を切って見れば伯母なのに俺の母さんより母親然とした俺のことを心配した内容の手紙が入っていた。それと金、10万。

 

 内容は体は大丈夫かとかたまには顔見せに来いとか金はお小遣いだとか、要約すればどこの母親だよお前な感じな文面だった。

 

 とてもじゃないがあの外見からは想像出来ない言動だ。

 

 だって娘と姉妹に間違えられるほどだぞ、しかも伯母さんが妹。あの子もまだですよですよ言ってんのかな。

 

 早速携帯で伯母さんに仕送り(?)についてお礼を言う。金の件は「私は金持ちだからな」と言われて済まされた。本当に金持ちだし、正直ありがたい。

 

 切る間際に娘の声も聞こえたけど、まだですよですよ言ってた。

 

 

「お風呂沸いた。―――宅配誰からだったの?」

 

「ん、親から」

 

「そう。お風呂、先入る?」

 

「いやお前入れよ。その後に残り湯でお茶漬けするから」

 

「変態過ぎる。流石のわたしでも引いた」

 

「お前が引くとかどんだけ」

 

 

 いつも通り女の子が先に入る流れになり、女の子は脱衣所に消えていった。

 

 親戚からとか言ったら気分悪くしそうだよなコイツ。

 

 まぁ臨時収入も入ったことだし、今度の休みにまた女の子の服でも買いに行くかな。奮発して2万ぐらい。

 

 ベランダからブラックコーヒーを持ってきてちびちびと飲む。この苦味が美味しい。

 

 そのまま布団を敷きなおして寝転がりながらラノベを読む。

 

 過去話を聞いて以降、少しづつ遠慮(していたかは微妙だが)が無くなってき始め女の子の風呂は長くなっている。

 

 今では1時間ぐらい浸かっているのが基本だ。

 

 しかし1時間も風呂に入るなんて男の俺からしたら甚だ疑問だ。のぼせないんだろうか。

 

 

「別に、のぼせない」

 

 

 風呂から出た女の子に、実際に聞いてみると実に簡潔に答えてくれた。

 

 バスタオルをフードのように頭に掛けた女の子はそのまま台所へと赴き、なぜか炊飯ジャーを開けて茶碗にご飯を盛って机の上に置いた。

 

 さっき夕飯を済ませたのにまだ食うのか? と疑問の眼差しを向けると、女の子は小首を傾げた。

 

 

「……お茶漬けしないの?」

 

 

 ……。

 

 

「お風呂のお湯でか?」

 

「さっきそう言った」

 

「バカなの?」

 

「死ぬの?」

 

「たまにお前がアホなのかバカなのかわからなくなるな」

 

「どっちも同じ意味。カービィ64のラスボス戦」

 

「そんな無駄知識仕入れる前にもっと学ぶべきことがあるだろ」

 

「きっとわたしの良いダシが取れている」

 

「どこの釜茹で地獄だよ。とりあえずそのご飯直して来い」

 

「えー」

 

「えーじゃねえよ」

 

 

 女の子は指示通りご飯を直して、お茶漬けの元を持って戻ってきた。

 

 

「……どういうことですか?」

 

「いや、そのままお風呂に入れて啜るのかと」

 

「お茶漬け云々が冗談だと言うことに気づけ」

 

「!!」

 

「そんな驚く所かっ!?」

 

「……わたしを騙したのね」

 

「冗談真に受けすぎだろ」

 

「これも愛の形の一つかと思った」

 

「まず愛自体無い」

 

「……デレはいつですか?」

 

「ツン100%です」

 

「でも1%でも可能性があるのなら」

 

「ツン100%つってるだろっ!」

 

「戸愚呂120%というものがあってですね」

 

「これだからゆとりは……戸愚呂の最高は100%中の100%だよ。得た知識はちゃんと裏取ってから使え」

 

 

 家の3部屋ある内の台所・居間と続く最後の1つ、ラノベや漫画やDVDを保管した倉庫と化した部屋から幽☆遊☆白書のDVDボックスを持って来て該当する部分を流す。

 

 画面に映る戸愚呂が死ぬ間際まで120%と言うことは無かった。

 

 

「無知なわたしを許してください」

 

「許しません♪」

 

「でもゆとりって貴方の世代も含まれてるよね」

 

「!!」

 

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