俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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2話。

 朝食の失敗で色々と時間を食うことになってしまい、結局大学には午後から出ることにした。

 

 干しもせず放置したまんまで生乾きなワンピースと薄手のカーディガンを着た女の子は、現在俺の目の前で正座中である。

 

 俺はベッドに座って見下ろし目線。

 

 

「―――……朝ご飯を美味しく作ればまた泊めてくれるかも、あわよくば住ませてもらえるかも。とそう考えたんですね」

 

 

 涙目で頷かれる。別に良心は痛まない。

 

 女の子の風邪の症状が案外軽かったらしい。今も鼻を啜る程度だ。

 

 

「昨日俺なんて言ったっけ」

 

「幾らでも泊まって行っていいよ。もしよかったら住んだってかまわないよ」

 

「……言った言ってない以前に、そこまでお人よしに喋る俺を想像しただけで鳥肌が立ったわ」

 

 

 声色を真似るのが上手いのがわかったけどどうでもいい。

 

 朝用に買い置きしておいたメロンパンに齧り付くと、いかにも食べたそうにメロンパンを見つめる女の子。でもあげない。

 

 

「とりあえず出て行け、話はそれからだ」

 

「出て行ったら相手が居なくなるので話にならない」

 

「暗に交渉の余地は無いと言っています」

 

「頑固な男性は嫌われる」

 

「お前に嫌われるんなら本望だ」

 

「……まったくもぅ」

 

 

 はぁと溜息を漏らす女の子。漏らしたいのはこっちだよ。

 

 このまま会話を続ければ自分の時間が無くなる。そう判断した俺は真剣さもそこそこに、テレビを見ながら話すことに決めた。

 

 点ける朝の再放送である伊達にあの世は見ていないアニメがやっていた。

 

 

「なんで泊めてくれないんですか」

 

 

 なんで上から目線なのこの子。服装からしてどこかのお嬢様と予想をつけてみる。

 

 ということは思春期特有の家出か何かか。

 

 

「お前の長所を述べなさい」

 

「学校の成績がオール5だった」

 

「わぁすごい。でも俺には何の利益もありません。なので不採用」

 

「不採用を採用に変える方法を述べなさい」

 

「この家から出て行って今後二度と俺の目の前に現れないこと」

 

「それは答えになっていないので0点」

 

 

 思わずメロンパンを握りつぶしてしまう。ひっと女の子が細く悲鳴を上げる。

 

 とにかく面倒なことが嫌いなので穏便にかつ発展しないように追い出したいわけだけど、どうにも女の子は出て行く気配を見せない。

 

 警察に電話しようにも、相手は迷惑電話に思っててまともに取り合ってもくれない。

 

 しかも正座も崩れてるし。もはや既に寛いでるのかこの子。

 

 とりあえず正攻法の搦め手で攻めることにする。

 

 

「何で出ていかないわけ?」

 

「帰る家が無い」

 

「……」

 

 

 あれ、至って真剣な顔で宣言してきたぞ。そういえば昨日皿を返しに来たときもなんか泣きそうになってたな。

 

 裏事情が思ったよりも深そうで思わず焦る俺。ヤバいかもしれない。

 

 なにがヤバいかと言えば、話が発展すると面倒ごとに巻き込まれるかもしれない、という一点がヤバい。

 

 別段女の子の内心は関係ない。むしろ知りたくない。

 

 

「面倒くさい話は嫌なので俺を巻き込まない内に早く出て行ってください」

 

 

 女の子は小首を傾げ「あれ?」と小さく呟く。天井を顰めた眉で見上げ、思い出すような仕草をする。

 

 きっかり1分。俺にとっては貴重な1分を消費して脳内会議の結論が出たのか? ポンと手の平を叩いた。

 

 

「本の物語だとこの時点で家に泊めてくれる」

 

「……きっとそこからロマンスが始まるんですね。わかります」

 

「わたしとのロマンスがタダで手に入る。お得っ!」

 

「どんな悪徳商法だよ」

 

「今買えば便利な家政婦機能も付いてくるっ! 家政婦が気に入らなければメイドでも可っ!」

 

「料理焦がす家政婦もメイドも要らない」

 

「ならロマンスだけでもっ!」

 

「言い換えれば何もしないニート手に入れてどうするんだよ」

 

 

 興奮しているのか? 机に両手をついて押し売りのように自分の良さ(?)を売ってくる。

 

 きっと通販に憧れて色々買ってたんだなと想像して哀れんでみる。金いくら無駄に使ったんだろう。

 

 しかしどうこう言われた所で俺の意思は変わらない。

 

 まず人間1人養う金なんて俺には無い。親の仕送りとバイト代で日々の生活も危ういと言うのに。

 

 次にこんな怪しい子を引き取ると危ないフラグが立ってしまいそうで怖いから。それで1日分でも俺の時間が無くなれば、墓にまで持っていく後悔が出来そうだ。

 

 正直今もその後悔の念を量産し続けている。きっと成仏出来ない。

 

 

「……要らない?」

 

「要らない」

 

「ロマンス……」

 

「ロマンス要らない」

 

「ロマンス欲しい」

 

「なら警察行くといいよ」

 

「警察は臭い飯しかくれない」

 

「どこの刑務所だよっ! というか警察に対して失礼だろっ!」

 

 

 あかん。ちょっと考え読めてきたぞ。きっとこんな会話を続けてドサクサに紛れて泊まる気だ。

 

 俺が暴力に訴えない限り……いやもしかしたらそれをネタにして交渉してくるかもしれない。

 

 考え直すとかなり策士じゃねコイツ。

 

 ああ、しかも俺が話しに気を逸らしていたせいでホームワークが終わらないが流れてアニメ終わっちゃった。次は……キティちゃん? いらね!!

 

 とにもかくにも無駄なフラグを立てたくない俺。というかフラグ全般立てたくない。

 

 いつ面倒事フラグが立つかわかったもんじゃない俺は短絡的に「出て行け」と言うが効果は無く、話は平行線を辿るばかり。

 

 いつしか時計は11時になっており死んでも死に切れないレベルに達する。

 

 誰かバイツァダスト持って来い。早く時を巻き戻すんだ。出来ればお握りをお供えする所にまで戻ってくれ。

 

 

「わたしはお腹が空いた」

 

 

 唐突にそんなこと言われる。どことなくRPG風味な言い方。

 

 

「お握りを所望します」

 

「……お握り食べたら出て行きますか?」

 

「一宿一飯の恩として住み込みで恩返しします」

 

「ならその前に俺の平和な日常を返せ」

 

 

 と言いつつ台所でお握りを握りる俺。

 

 べ、べつに勘違いしないでよね。お昼も近いし俺のお腹が空いてるからついでに作ってあげるだけなんだからね。

 

 ……いやマジで。マジでついで。

 

 昨日炊いた白ご飯を全部使い切り計4個作りあげる。

 

 俺3つ女の子1つの割合。……俺が冷たいわけじゃない。むしろ1つでも分け与える分優しい。

 

 小皿に乗せて女の子に差し出すとポカンとして顔で見上げられる。

 

 

「いい、の……?」

 

「自分が言った癖に食わないのか。要らなかったら俺が食うけど」

 

「た、食べるっ!!」

 

 

 引き上げようとする腕にしがみついて奪うようにお握りを受け取る女の子。

 

 まさか本当に食べれるとは思っても見なかったんだろうな多分。

 

 さっきまでの会話で本気で俺がウザがっていることぐらいは理解しているようだ。

 

 そういや昨日のお握りはお供えはしたけど、食べる所は見てないな。

 

 壊れ物に触れるように慎重にお握りを両手で持ち上げる女の子。お握りって所がギャップで笑える。

 

 お握りの端に噛み付いてモグモグと咀嚼して、1口目を飲み込んだ所で変化が起きる。

 

 

「……っく、ぅぅ。ぅ……くぅぅ……くっ!」

 

 

 嗚咽を漏らしながらマジ泣きしている。

 

 目から大粒の涙を流しながらボタボタと自分の服に染み作る。何回も目を拭ってはいるものの、涙は止まることを知らないらしい。

 

 

 *選択肢。

 A、大丈夫かと聞く。

 B、無言で頭撫でる。

 C、どうでもいい。

 

 迷うことなく俺はCを選択する。声を殺して泣く女の子を隣にテレビを見つづけた。

 

 これでリバースやらブロークンやらになってくれたら御の字なんだけどなぁ。

 

 腹も膨れて大学の時間に迫ってきたので準備を進める。女の子はまだ泣いてた。

 

 準備を完了する頃には泣き止んではいたものの、頭を上下させて船を漕いでいる。

 

 今にも深い眠りに着きそうな女の子の肩を叩いて意識を戻す。

 

 女の子は寝惚けた様子で俺を見てきた。

 

 

「おとう、さん……?」

 

 

 内心苦笑いが絶えない。フラグが6割がた成立してそうなのは気のせいなのだろうか。早く叩き折らねば。

 

 女の子のつむじ目掛けてチョップを叩き下ろす。

 

 

「きゃん!」

 

「寝惚けんな。出掛けるから出るぞ」

 

「留守番出来る。いってらっしゃい」

 

「誰が家に居ていいといいやがりましたかこのバカちん。―――てか布団に潜り込もうとすんなっ!」

 

「じゃあ一緒に出掛ける。ずっと付いてく」

 

「迷惑すぎて笑える」

 

 

 いい口実が出来たので女の子の首根っこを掴んで家を出る。施錠も完璧に。

 

 ついでに言うとこの出て行くのにかなり時間が掛かった。岩に齧り付いてでもと言うけど、机に齧りつくとは予想外だった。マジキチ。

 

 で現在進行形で大学への道を歩んでいるわけですが。

 

 女の子はさっきの宣言通り、マジで付いてきている。俺の10歩後ろくらいを。

 

 正直気分が悪いことこの上ない。

 

 チラリと1回後ろを見た後、俺は振り切るためにダッシュする。そんなに足は速くないけれど、流石に男と女、大人と子供、すぐに見えなくなる。

 

 が、

 

 

「なっ……!」

 

 

 俺が通う大学を目と鼻の先にして衝撃が走った。

 

 確実にこの時の効果音はドドドドドドだ。

 

 なんと驚くべきことに目の前に女の子がジョジョ立ちで立っていたのだ。ジョジョ立ちは嘘だけど。

 

 女の子は無言の圧力で寄ってくる。

 

 

「わたしを舐めないほうがいい」

 

 

 な、なんという図々しい物言い。だけどそのあふれ出る圧力に閉口しざるを得ない。

 

 これが通信簿オール5の実力なのか。きっとその中に忍者の授業もあったに違いない。

 

 まぁタネ明かしすれば俺の行く大学を予想して先回りしたんだろう。多分。うん、エスパーじゃない限り。

 

 

「はぁ……分かったよ観念するよ。大学の学食のほうで待っとけ、終わったら迎えに来てやるから」

 

 

 やはり口で言い負かして追い出すしかないようだ。諦めて女の子の意思に従う。

 

 

「うんわかった。最初から素直にそうすればいい」

 

 

 満足気に頷く女の子を学食へと案内してから授業へと向かった。

 

 といっても受ける授業は午前に固まっていたので1つしか受けるものが無かった。

 

 軽く2時間ほど離ればなれになった寂しさは微塵もないけれど、一応女の子の元へ向かう。ある確信を胸に。

 

 

 そして俺の確信は現実へと変わる。

 

 目の前のテーブルで寝ているのは女の子だ。「くーくー」と寝息を立てているのが可愛らしい。

 

 軽くガッツポーズを決めていると恐らく先輩な男性が近づいてくる。

 

 

「この子、君の知り合い?」

 

「いえ違います」

 

「そっか。ごめん」

 

「いえいえ」

 

 

 社交辞令な愛想で会話を終えて、その場から早足で去る。

 

 大学の出入口にある警備員の窓口に顔を出しておく。

 

 

「学食のほうに身元が分からない子供が居るらしいです。家出かも知れないので一応警察のほうに電話したほうがいいかと」

 

 

 「ああこりゃどうも」と初老のオジサンが朗らかに挨拶を返してくれた。

 

 計画通り。

 

 これでフラグは全壊した。俺が身元引き受け人になんてなるわけが無いしな。

 

 もしあの子がなんらかの方法で俺に連絡をつけてきても知らぬ存ぜぬで通せるぜ。

 

 肩の重荷が下り、スキップ気味にバイトへと向かう。

 

 バイト先はスーパーの品出しである。たまにレジもする。客には笑顔が怖いともっぱらの評判だ。

 

 期限切れの商品を夕食として貰い意気揚々と家に帰ると、

 

 

 俺の家の扉に寄り掛かって体育座りをする女の子が居た。

 

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 悲鳴を上げそうになるのを堪え、足音を殺して近づく。女の子は俯いていて傍目には寝ているように見えた。

 

 いっそ窓から帰るか? 真剣にそう考える。

 

 が、しかしゴミ捨て場と窓から合図も無しに見つめあった間柄。

 

 ゆらり、と女の子の首が持ち上がった。

 

 目が合う。

 

 女の子の口が開く。

 

 

「わたしを舐めないほうがいい」

 

 

 ……え、なにこれホラー?

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