俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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20話。

 

「じー……」

 

「……」

 

「じ~……」

 

 

 卵焼きを口に運ぼうとすると、女の子は途端に箸を止めて見詰めてきた。

 

 テレビに目を向けていた俺も流石に口に出して注目されると気にもなる。目にオーラを集めて凝でもしてそうな集中っぷりだ。

 

 中空で卵焼きを抓む箸を止めて半目で視線を送るが、女の子は気にもせず目の前にある卵焼きを凝視し続ける。

 

 しょうがなく諦めて口を開けると女の子も釣られて多分無意識に口を開ける。「じー」が「びゃー」になる。

 

 卵焼きを口に収めてモグモグと食してゴクンと飲み込む。

 

 

「……美味いよ」

 

「―――!」

 

 

 俺が感想を述べると同時に女の子の顔が喜色満面になる。

 

 ここまでくれば分かると思うけど、今食べた卵焼きは女の子が最初から最後まで1人で作った料理だ。

 

 簡単なレシピでも世界の意思が働いているのか上手く出来ない女の子が初めて1人で成功させた料理だからか、物凄く気になるらしい。

 

 焦げてもいないし生でもない、形は多少不恰好だが味はまったく問題ない。

 

 白米がセットで付いて来るのに、味が甘いのはどうかと思うがそれは人の嗜好しだいだろう。

 

 普通に成功してる料理だ。

 

 嘘じゃない事を証明するために2口目を口に放り込むと、女の子は祈りを捧げるような腕組みを開放して、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 

「そこまで喜ぶことか?」

 

「わたしだって女の子。美味しいと言って貰えれば嬉しい」

 

「それにしたって涙まで出すこと無いだろうにさ」

 

「貴方限定」

 

「ジャンプでやってた河下水希の漫画?」

 

「……それは初恋限定」

 

 

 新連載おめでとう。

 

 黙々と料理とスーパーの廃棄を食して食器を片付ける。しかしなぜか食器洗いは俺の仕事になってるな……まぁ食器割られても困るし、いいか。

 

 食器を洗い終えると居間に女の子の姿は無くなっており、代わりに脱衣所の明かりが点いていた。

 

 既に女の子は湯船の中らしい。今更だが好き勝手に使うようになったなぁ。

 

 女の子のお風呂好きは以前から知っているのでDVDを見ながら適当に寝転がる。

 

 ブラックコーヒーを飲みながらボッーと画面を見続け、女の子が上がってくるのを待つ。

 

 今日は暑かったから汗掻いて気持ち悪いし速く入りたい。バイト先の倉庫、夏になるとサウナになるから辛いわ。換気扇ぐらい付けてくれ。

 

 頬に触れるとペタペタとベタつくので洗顔ペーパーを風呂まで中継ぎに当てる。

 

 顔を拭き終えると首や鎖骨に腕が伸びる。最終的に脇まで拭いた。

 

 ちょっと気になったので首を曲げて脇に目をやる。毛1つ無いまっさらな素肌が広がっていた。

 

 何で生えないんだろうか。聞いた話だと大人になると生えるらしいが……流石に俺ももう大人なんだと思うだけどなぁ。

 

 小さく溜息を吐いて目線を戻すと、途中で女の子が見えた。

 

 お湯で上気した湿った肌をバスタオルで覆い、更にもう1枚頭に巻いて女の子は俺を見下げていた。

 

 ポタポタと股から水滴が落ちてる所を見ると急いで出てきたようだ。てかタオル無駄遣いしすぎ、1回1枚が基本だろ。

 

 

「おー偉く大胆な格好だなお前。ライダーのコスプレか? 出来ればアヴェンジャー希望なんだけど」

 

「暗に全裸になれと」

 

「腰に布巻いてるから半裸だよ」

 

「そんなことはどうでもいい」

 

「じゃあ話に乗るなよ……」

 

「お風呂のシャンプーが切れてる」

 

「シャン……あぁ切れてたな、たしか。……てか呼べよ。その状態で来たら床が濡れるだろ」

 

「さっきから呼んでた。何回も」

 

「……全然聞こえなかったわ」

 

「替えはどこ」

 

 

 たしかシャンプー切れてたんだっけな。昨日俺が使った時に無くなったことを思い出す。

 

 

「死にたくなかったら速く教えるべき。あと10数える間だけ待ってあげる」

 

 

 女の子は指を拳銃の形にして俺に向けると何故か脅してきた。

 

 前から思うけどなんでこういう時コイツは上から目線なのか。

 

 

「10……9……8……7……ヒャアッ! 我慢出来ねぇ0だっ!!」

 

「きさま! それでも人間かっ!」

 

 

 デコをツンツンされた。

 

 フロントミッションガンハザード懐かしすぎる。

 

 

「……遊びが済んだ所で速く教えて」

 

 

 やっと羞恥心が来たのか、仕切りにバスタオルを気にしながら女の子が再度問いかけてくる。

 

 正直言えばツンツンする時にしゃがんだ拍子に見えたんだけどさ。

 

 言うと五月蝿くなりそうなのですぐに脳から破棄する。

 

 

「無い」

 

「こやつめ、ははは」

 

「ははは」

 

「……まじで? まじんがーで?」

 

「うん」

 

 

 10分後。

 

 

「うぅ……ベタベタする」

 

 

 現在女の子を連れて外出中である。理由は言わずもがなシャンプーの買出しだ。

 

 カラスの行水程度で出てきたせいか、女の子の肩はションボリと項垂れている。

 

 バイト先のスーパーは閉まっているが、少し離れた所だとまだ開いているので希望を捨てず熱帯夜を歩く。

 

 女の子がなぜ居るのかと言えば、俺が女の子の召使いでもなんでもないから。

 

 シャンプー切れたから買ってきてと居候に言われて素直に買いに行くほど俺はお人良しじゃない。

 

 さらに言えば女の子が来てからシャンプーの使用量が大幅に増えたから。

 

 視線を女の子に向けると、月の光で女の子の髪の長い髪が銀色に輝いて靡いている。

 

 最初に会った時より更に長くなっており、今は腰ぐらいにまで伸びている。前髪は自分で切っているが後ろは無理らしい。

 

 今度美容院に行かせるか。流石に床屋だと嫌がるだろうし。

 

 

「水浴びだけだと余計臭くなるのに……」

 

 

 ……。

 

 しかし、俺が連れてきたわけだけど、女の子の独り言が若干ウザい。

 

 アヒル口でブツブツと文句を垂れながら後ろを付いて来る女の子は、聞いてくれと言わんばかりに掴んだ袖をクイクイと引っ張って興味を引いてこようとする。

 

 

「速くお風呂入りた―――ひゃっつっ!?」

 

 

 今日確実に女の子より汗を掻いているだろう俺としても気になったので、立ち止まって女の子の髪を一房持ち上げる。

 

 首を曲げて鼻を近づけてにおって見るが、別に臭くもなんとも無い。

 

 

「な、なに、あっうぁっ!? あっ首、やめ……っ!」

 

 

 ビクンと跳ねて何故か固まっている女の子の首元を嗅いで見るが、これもまた別に臭わない。

 

 

「気にしすぎだろお前。あと、道路に座り込むと汚いぞ」

 

「……貴方が変なことするから腰の力抜けた。このザ・変態」

 

「じゃあもっと嫌がれよ」

 

「……そんなに嫌じゃないもん」

 

「なんだよ、元から臭くない自信あるのかよ」

 

「っう。……そんなことよりおぶるべき」

 

 

 「んっ」と両腕を広げておんぶを促される。

 

 なんでこんなクソ暑い中肌合わせなきゃならんのかと思ったが、腰を抜かした負い目もあるので嫌々ながらおぶってスーパーまで行った。

 

 シャンプー買うついでにアイスも買って帰った。

 

 抹茶アイス美味しいです。ついでに言うと女の子はチョコチップミントだ。

 

 

「お風呂上りのアイス楽しみですね! ワクワクしますね!」

 

 

 根はやっぱり子供なのか夏に食うアイスが嬉しいらしく、帰り道は女の子はテンション高くスキップして帰っていた。

 

 さっきまでの機嫌の悪さが嘘のようだった。

 

 家に帰ると付けっぱなしのクーラーの涼しさが身に染みる。クーラーはいいねぇ、クーラーは人類が生み出した文化の極みだよ。

 

 女の子はすぐに脱衣所に駆け込んでババッと服を脱いでお風呂へ直行した。

 

 ……カーテン閉めろよ。

 

 風呂待ちついでにベランダからマックスコーヒーを取り出すと、ほんのり暖かかった。

 

 

「……地球温暖化もバカに出来なくなって来たな」

 

 

 その後原因がクーラーの室外機の熱風に寄る物だと判明して置き場所を変えた。

 

 アイス効果でいつもより早めに女の子は風呂から出てきた。髪拭きもソコソコといった状態で、冷凍庫からアイスを取り出す。

 

 

「……なんでそんな食い方してんの」

 

「両儀式流」

 

「そういうと何かの流派みたいだな」

 

 

 見ていたDVDを当該する場所まで巻き戻す。

 

 画面には、アイスを太ももに挟んで片腕で不便に食べている女性が映っていた。

 

 4月1日に過去視の出来る人限定で未来福音の映画やってたらしい。見たかった。

 

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