俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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24話。

 

 グンっ、と背筋を伸ばして息を吸い込む。震える気道に新鮮な空気が取り込まれるが、夏のせいで酷く温く感じる。

 

 自然と上げていた腕をダラリと下げて吐き出す息も熱を含んでいて温い。

 

 暑い。夏だ。

 

 今現在居るバイト先の倉庫のせいで、より一層暑く感じる。手に嵌めた軍手なんか臭いたくも無い、絶対臭いから。

 

 クーラーでも付けて欲しいという考えは無理に決まってるから置いといて、閉店作業も済んであとは倉庫に品を片付ければ上がりだ。

 

 台車に乗せた米袋を規定の場所に置いて倉庫の電気を消す。

 

 倉庫のある1階から事務所のある2階へと階段を伝って上がり、機械に棚から取り出したタイムカードを時刻を刻んでもらいバイト終了。

 

 残された仕事はあと1つ。書き物をしている店長を、速く帰りたいと言う本音を抑え愛想を建前に待つことだ。

 

 どうたらこうたらして店長の仕事も終わり、軽口を言い合いながら店長の後ろに続き、店裏にあるシャッターから外に出る。

 

 が、階段から降りて目の前のシャッターから出ようとした所で店長の動きが一瞬止まり、目の前を指差しながら振り向いてきた。

 

 

「知り合いかい?」

 

 

 素っ頓狂な顔で聞かれたがこっちからは半分降りたシャッターが死角になっており見えず、仕方なく店長の隣を横切り階段を降り切る。

 

 注視するように視線を店の外に送りながら降りていたので、足が見えて胴体が見えた時には相手が誰だか理解出来ていた。

 

 特徴的な白く長い髪と赤い目をした女の子が外に立っていた。

 

 女の子は俺の姿を確認すると、僅かに顔に綻ばせて控えに胸前で手を振りながら小走りで駆け寄ってくる。

 

 バイト先に女の子が来る事自体が初めてだったため、一瞬固まってしまったがすぐに俺からも歩いて見下げて見上げられる距離まで近づく。

 

 

「お疲れっ」

 

「『お疲れっ』じゃねえよ、何出待ちしてんの。俺はアイドルか」

 

「心配だから迎えに来た」

 

「子供扱いとか舐めてるな。……というかなぁお前、どんくらい待ってたんだよ。汗だくだぞ」

 

「20分くらい」

 

「待ち過ぎだろ。暑かっただろ」

 

「かなり」

 

 

 女の子の頬を伝っている汗を掌で拭い取る。グシッと拭った勢いで触れた女の子の頬は僅かにヒンヤリしている。

 

 拭う弊害で「うぎゅ」と鳴き声らしき物を漏らした女の子は、ポケットからハンカチを取り出して自分の汗を拭いた後に、俺に手渡してきたので俺の汗も拭く。

 

 ハンカチなんて持たない人間なので多分このハンカチは女の子のだ。ババァから貰った学校カバンにでも入ってたのか知れない。

 

 

「ったく、大人しく家でクーラー点けて待ってろよ。大事な体なんだからさ」

 

「といつつ嬉しいんでしょ?」

 

「まあな。でもそれ以前に家帰ったら暑いのが欝だよ」

 

「家狭いからすぐ涼しくなる。狭くてよかった」

 

「うるさいわ」

 

 

 ハンカチごと女の子の頭に掌を乗せて髪をグシャグシャにしてやる。

 

 後ろから店長の声が掛かり「妹さん?」と聞かれ、咄嗟に後ろを振り向く。

 

 

「いや、違いますね。彼女です」

 

 

 後ろから女の子が手を握ってきた。

 

 手の間の温度が急激に高まりジワリと汗が漏れ出すが、さらに女の子はギュゥと力を加えてくる。

 

 頬を掻きながらそう言うと、店長の頬が少しだけ引き攣りいきなり無言が近づいてきた。

 

 そして肩をバンバンと叩かれ、目を合わせないまま、

 

 

「ロリコン」

 

 

 と、そう言われた。反論しようとしたがすぐに店長はその場から立ち去り、目の前にある駐車場の車に乗り込んでそのまま道路の彼方に消えていった。

 

 何か途方も無い敗北感と虚しさだけがその場に残される。

 

 なんでだろう。今から、今度店長の顔合わせるのが辛くなってきた。

 

 しかし考えてみたら6歳差なのか、俺と女の子って。今まで全然気にしてなかったな。

 

 『ロリコンは病気です』と並行世界でラジオ放送し続ける某少年のように言いたかったけど、これじゃ無理っぽい。

 

 

「……帰るか」

 

「うん」

 

 

 どう考えても図星だったので仕方なく考えを打ち切り、自転車の荷台に女の子を乗せて家路に着く。

 

 腰に回された腕は暑苦しいことこの上無いが悪くは無かった。矛盾しているがそういうことだ。自分の心境の変化に驚く。

 

 ボロいアパートの階段下に自転車を停める。

 

 その間に女の子は先に階段を登っており、家の鍵を開ける音と扉を閉める音が聞こえていた。

 

 待ってろよコラ、とか思うがクーラーを点けてくれてると思うとマンザラでも無い。むしろ嬉しい。

 

 しかし期待や予想は常に裏切られる物らしく、開けた扉の先には暗い部屋とアッツイ空気しかなかった。

 

 とりあえず玄関兼台所の電気を付けようとした所で、暗闇から飛び出して来た女の子が胸に飛び付いてきた。

 

 衝撃で数歩後ろに下がってしまったがすぐにふんばりが利く。

 

 背中に回された手の力を少しづつ強めながら、女の子は額を何回も胸に擦り付けて来る。

 

 急で訳が判らないが、俺も女の子の頭に手を乗せて髪を梳くように撫でる。

 

 

「嬉しかった」

 

「何が」

 

「わたしのこと、彼女って……」

 

「そんなことかよ」

 

「そんなことじゃない。初めて貴方の口からそう言ってくれた」

 

「……あーそうだな。たしかに、言ってなかったな」

 

「うにゅひゅひゅっ」

 

「っと!?」

 

 

 女の子の足が絡まるように足に引っかかり、下半身のバランスが悪くなった所を抱きつかれた上半身を押されて後ろに転んでしまう。

 

 ワザとされたのは判るが女の子に怪我させるわけにも行かず頭を抱えるように抱いて尻餅をつく。

 

 尻ポケットに入れていた財布がケツにモロに食い込んで、悶絶するほど痛かった。小銭一杯入れとくんじゃなかった。

 

 俺が痛みに歯を食いしばってる間に女の子の体がズリ上がって来る。

 

 暗がりでもお互いの顔がくっきりと見える距離にまで女の子が近づく。

 

 

「んっ」

 

 

 頭を掴まれて奪うようにキスをされる。

 

 離れた女の子の顔は白い肌が嘘の様に真っ赤に紅潮していた。

 

 

「んっ……んっー……んっー……」

 

 

 女の子の小さい膨らみが胸に押し付けられる。

 

 3度目からは女の子の求めに俺からも唇を重ねる。

 

 

「わたし、彼女……んぅっ」

 

 

 女の子の唇は瑞々しく潤んでいて柔らかい。

 

 

「んぁ……貴方、彼氏。わたしの、彼氏……」

 

 

 回数を重ねるごとに女の子の目がトロンと惚けていく。

 

 それでも何度もキスをせがん来るが、断る理由などあるわけも無くその度に顔を寄せて応える。

 

 

「なはっ」

 

 

 十数回とキスをしたところで顔が遠く離れ、女の子が嬉しそうに笑う。

 

 その口元は女の子のヨダレでだらしなく濡れていた。

 

 しかし暑い。体密着させてたから余計暑い。

 

 すぐに窓を閉め切ってクーラーをONにする。

 

 さっき女の子が言っていた通り、すぐに部屋は涼しくなった。

 

 家が狭いのは解っていたが何故だか悲しくなった。

 

 背中から抱きついて来た女の子をおんぶするように持ち上げながら、持ち帰ってきた惣菜の廃棄品をレンジでチンする。なぜだか妹1号を思い出す。

 

 向かい合って飯食ってる時も洗い物してる時も女の子は終始笑顔だ。

 

 正直可愛い。

 

 が、口に出して言うと恥ずかしさで死ぬるので言わない。

 

 女の子も俺のことをカッコイイと言わないのでお相子だろう。カッコ良くないだけかも知れんが。

 

 

「お風呂沸かした」

 

「そうですか」

 

「先入る?」

 

「面倒臭いから後でいい」

 

「……一緒に入る?」

 

「イデオンのBメカの左シートに座るかヤマトの第三艦橋に配属されるかどっちが良い?」

 

「どっちも死んじゃう」

 

「アホな言ってないで早く入ってこい」

 

「けっこうマジで言ったのに」

 

「はいはい」

 

「うぅ冷たい。昨日は激しくて熱かったのに」

 

「まるで致しちゃったみたいに言うな。まだ何にもしてないだろうが」

 

「……『まだ』ってことはする気?」

 

「古典的な所拾うよなお前」

 

「歴史は繰り返される」

 

 

 いきなり壮大な話になりかけたので、いい加減風呂敷も畳みきれ無さそうなので女の子の背中を蹴って風呂に入れた。

 

 女の子が上がってくるまでラノベでも読むことにする。

 

 女の子と付き合って関係は変わったが、俺の本質は変わってない。

 

 つまる所面倒臭がりだ。

 

 今頃言った所で、何がどうだというわけではないが再確認だ。

 

 ふあぁと欠伸をしてラノベに視線を落とす。

 

 

「……」

 

 

 女の子の夏服も買ってやらないとな。

 

 ついでになんか、指輪とか買ってやったほうがいいかな。

 

 いや流石に重過ぎるか? うーん。悩む。

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