俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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25話。

 

 光陰矢の如し、とはよく言ったもので気付けば、夏休みに入ってから早3週間が過ぎようとしていた。

 

 言い換えれば21日が経過したのだ。

 

 21日、だ。一ヶ月の3分の2ほどが既に過去になっているのだ。

 

 どうしてこうも時間の流れは早いのか。毎日休まず動いているんだ、偶には止まったって罰は当たらないはずだろうに。

 

 何がそこまで彼を突き動かすのか是非知りたいところだ。

 

 というかだな、そもそもまず1日の時間が24時間だと言う事自体おかしい、もっとあってもいいはずだろ。

 

 48時間とか72時間とかさ。

 

 ……やめよう。不毛すぎる。この疑問、人生で何度目になるだろうか。

 

 閑話休題。

 

 生温い風が頬を撫でるように通り過ぎる。冷え切られた室内に漂ったソレが、怖気が走るように気持ち悪くて目が覚める。

 

 反射的に開いた瞼は尋常じゃないほど重く、睡眠不足だと言う事が目に見えて分かる。瞼だけに。

 

 何が起きているのか考える気力も無く、寝返りを打って2度寝の準備に入る。

 

 しかし、意識が落ちる前にテレビが点いた時独特の耳の奥で響く超音波のような音がヤケに煩く聞こえ、軽く薄目を開けて部屋を見渡す。

 

 苦も無く、白くボヤけた視界が人影を捕らえる。

 

 流石に俺が面倒臭がりだと言っても部屋の施錠を怠るわけがなく、当然ここに居るのは合鍵を持つ女の子だけだ。

 

 俺と違い日付を越える前に寝る女の子が朝早くに起きていることはなんら不思議なことじゃない。寧ろ普通だ。

 

 体が鈍るからと近所のラジオ体操に参加しているらしいが、さっきの生温い風からして多分それの帰りだろうか。なんとも健康志向な奴だ。

 

 女の子を見てると俺の生活スタイルがつくづく不健康な物だと思わされるが、直すなんて当面無いので改心はしない。

 

 感情の読み取れない表情でテレビを見詰める女の子の髪型は、いつもと違いポニーテールだ。

 

 動きやすいように纏めているのだろうか。ラジオ体操帰り説が濃厚になる。

 

 ふと、女の子がこっちを向いた。見詰める俺の視線に気付いたのか、はたまたエスパーなのか気紛れなのか知らないが、女の子の表情が喜色満面になる。

 

 

「起きた?」

 

 

 4足歩行で女の子が俺の寝るベットに近づき圧し掛かって来る。

 

 すぐに女の子と俺との距離が縮み、女の子が顔を近づく。視界いっぱいに白い肌と白い髪と赤い目が広がり、軽く触れるように女の子の唇が俺のに当たる。

 

 離れた女の子は「にひゃ」と頬を緩ませて笑っている。元が良いので物凄く可愛く見える。

 

 が、女の子の纏う空気は僅かにしっとりとしており、頬に乗せられている手はペタリと張り付くようだ。

 

 見れば女の子のシャツ(俺の)の胸元は汗で染みが出来ている。てかブラ付けろ。

 

 つまるところ、

 

 

「汗臭い」

 

 

 女の子の匂いに混じって乾きかけの汗のツンっとくる臭い。

 

 僅かながらの刺激臭に対処するべく、鼻呼吸から口呼吸へ切り替える。

 

 俺が言った言葉に女の子はシャツの襟を持ち上げて鼻に当てたり、腕を脇を臭ったりして反応を返してくる。

 

 1分もしない内にパシンと肩を叩かれた。

 

 女の子はアヒル口にハの字眉で不機嫌をアピールしてくる。

 

 俺を前にしている時は本当に感情的だ。普段もそんくらい笑ってりゃいいのに。

 

 

「……なんだよ」

 

「もっと優しく言うべき。遠回しに」

 

「手短に言ったほうがお互い苦労しないだろ」

 

「急がば回れという言葉がですね」

 

「俺がいつ急いだ」

 

「急がば3回回ってワンと言えという言葉がですね」

 

「なんの嫌がらせだよ」

 

「助けて欲しかったらブタの真似をしろと言う言葉がですね」

 

「ブーブー」

 

「ブタは死ねっ!!」

 

「どこのルカ様」

 

「CV浅川悠」

 

「それは巡音ルカ」

 

「パッショーネの組員」

 

「それは涙目のルカ」

 

「貴方に汗臭いと言われてわたし涙目」

 

「もっと泣け」

 

「なんというS」

 

「可愛いから」

 

「なんという変態……!」

 

「そんなこと言いながらニヤけ面晒すお前のほうが変態」

 

「きっとM」

 

「自分で言うな」

 

「貴方に調教された」

 

「何もしとらんわ」

 

「ツンとデレと言う飴と鞭で」

 

「俺はツンデレじゃない」

 

「ツンデレはツンデレと指摘されると否定する」

 

「天然の人にも通用しそうな言葉だな」

 

「天然と聞かれてイエスと答える人は天然じゃない。ツンデレも同様」

 

「俺ってツンデレだよな、マジで」

 

「やっと認めた」

 

「さっきの理論は何処へ行ったのか」

 

「時代は変わる」

 

「さっきの一瞬で変わるとかどれだけ薄っぺらい時代」

 

「ティッシュを2枚に分けたぐらいに」

 

「身近にあるもので表現可能なんて認めません」

 

「一冊500円とかで売られる同人誌並に」

 

「自費出版の作家に土下座して謝って来い」

 

「ムクたんが失礼なことを言った」

 

「ガチャピンはお前のスケープゴートじゃないと何度言ったら分かるのか」

 

「これがこの子の仕事」

 

「哀れすぎて泣けてくるわ」

 

 

 話もソコソコなところで「くあぁ」と欠伸が口を突いて出る。

 

 実の所さっきの話の後半らへんから目を瞑っている。当然、眠いからだ。

 

 

「寝るの?」

 

「バイトも無いしな」

 

「じゃあおやすみのチュウ。んー」

 

「ん」

 

「なは、お休み」

 

「お前もシャワー浴びろよ」

 

「うん」

 

 

 そこで意識が落ちる。

 

 再度目が覚めると部屋のデジタル時計は12時を示していた。正直まだ眠いがこれ以上寝ると時間が勿体無いので起きる。

 

 ついでに隣でスースーと寝息を立てて丸まって寝ている女の子も起こす。

 

 起こす時に撫でた髪は僅かに濡れていて石鹸の匂いがしていた。寝ている間に風呂に入ったんだろう。

 

 根元から毛先まで手櫛を入れる。

 

 引っかかることは無くスッと指が通り抜けるが、やっぱりかなり長い。前髪も目の下まで伸びている。

 

 

「髪切りに行くか」

 

 

 昼飯のトーストを齧りながら女の子にそう提案すると「いいの?」と聞かれた。

 

 遠慮すんなと返して出かける準備を始める。といっても歯磨きして服着替えるだけだが。

 

 以前伯母さんから貰った金を封筒ごと財布に入れて準備完了である。

 

 女の子の髪型は朝と同じでポニーテールだ。もしかしたら自分でも邪魔と思ったから纏めているのかも知れない。

 

 ついでに女の子の服も買うということで以前から行っているデパート方面へと自転車を漕ぐ。

 

 出掛けて数分。

 

 

「腰に手をまわすな。暑くて死ぬ」

 

「わたしはそんなに暑くない」

 

「……その髪の色良いよな。一種の日傘だろ」

 

 

 青い空に白い入道雲という絶好のお出掛け日和だが、焼き殺すかの如き陽射しに体力ゲージがガンガンと減っていく。

 

 涼しい室内にいたから尚更暑く感じる。

 

 これがクーラーで暑さから逃れていた代償か。

 

 

「……カット代で6000円とかフザけ過ぎて笑えるんだが」

 

 

 見つけた美容院の前に設置されていた料金表を確認すると、思わず声が漏れた。

 

 俺の行ってるとこだと3000円だぞ。この差は何だ。

 

 

「別に床屋でも構わない」

 

「一応お前も年頃だろ。変に切られるのも嫌だろ」

 

「短くしてもらうだけだから大丈夫」

 

「そう言う奴が一番危ないんだよ。切られた後に絶対怒って愚痴漏らすぞ」

 

「髪を切るだけにキレるんですねわかります」

 

「上手いこと言ってるつもりかよ」

 

「担当はビノールト希望」

 

「切り裂き美容師とか誰がわかるんだよ」

 

「そういう念能力者がですね」

 

「この世界に念能力者は居ない」

 

「異能者なら」

 

「作品が違うからな」

 

「でも本当に安い所でいい」

 

「いいから入れよ。ジャジャンケン食らわすぞ」

 

「なんという即死技」

 

 

 どうたらこうたら言って遠慮する女の子を美容院に押し込んで店員に預けると、諦めたのか素直に席へと案内される。

 

 俺はと言えば勢いで入ったのはいいものの、普段入ったことも無い美容院の店内に飲まれてしまっている。

 

 待合席に置かれた雑誌も漫画的な物は一切無く髪に関わる物ばかりで思わずタメ息が漏れる。

 

 ワックスなどの整髪料は一応持ってはいるが、ほとんど使わないので興味は無い。

 

 仕方なく携帯を取り出してエストポリス伝説のモバイル版を起動させる。いにしえの洞窟面白いです。

 

 青い宝箱に騙されてミミックに食い殺されること数回。

 

 女の子のほう席が少し騒がしくなったので目を向けるといつの間にか散髪が終わっていた。

 

 やっぱりゲームはダメだな。時間が一気に過ぎ去る。

 

 フルフルと数回頭振った小走りで女の子が俺の元までやってきて見上げてくる。

 

 女の子の腰ほどにまであった髪は、バッサリと肩ほどまでに切られていて以前と見違えるほどに短くなっていた。

 

 大人びた印象だった長髪とは打って変わって今の髪型は少し幼く見える。

 

 長髪な女の子も名残惜しいものがあったこの髪型も充分に可愛い。カチューシャと半霊を付けたらみょんになれるかもれしれない。

 

 ロリコン、という言葉が脳内で再生されたが無視する。

 

 

「……どう?」

 

 

 若干不安げな雰囲気で女の子が問いかけてくる。

 

 面と向かって聞かれると答えづらいものがあるので視線を逸らして「可愛い」とだけ答える。

 

 手を握られた。

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