俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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26話。終わり。

 

 所は変わらず以前から続き、都心の大通りから一本逸れた所にあった喫茶店で俺と女の子は少し遅めの昼食を取っていた。

 

 この店、チェーン店のような量産的な感じでは無く、ナウさ(死語)が漂うオシャレなデザインで雰囲気が落ち着いていて良い感じだ。

 

 ここでレポートをするのもいいかもしれない。

 

 こういう所のメニューは良く分からないので女の子に頼んで選んでもらったスパゲティも美味くて高評価。生パスタと聞いたが、普通のパスタと何が違うのだろうか。

 

 

「……わたし、変?」

 

「んぁ?」

 

「さっきから貴方ずっと見てる。髪どこかおかしい……?」

 

 

 見慣れたロングヘアから一点したセミロング姿の女の子が、おずおずと伺ってくる。

 

 しきりに髪を撫でて形を整えている女の子の表情は不安げで、僅かに怯えているようにも見えた。

 

 やっぱり女の子も立派に女の子しているんだな、と感嘆する。

 

 自分で言ってて恥ずかしいが、好きな……その、人ってか付き合っている男性つまり俺だが、に好かれる格好で居たいんだろうな。

 

 誰だって好きな人に嫌われたくはないだろう。好きな人に好いてもらいたいんだろう。

 

 髪を切ったことでのイメージの変化。

 

 俺からしたら若干幼く見えるようなったと思う程度だが、女の子からしたら前のほうがよかったと思われてると考えているのかも知れない。

 

 正直言って前の髪型のほうが好みと言ったら好みだ。

 

 けど、それはずっとロングヘアの女の子と過ごしていた日々が影響しているだけで、ただ単に見慣れてないだけだ。

 

 だから前のほうが良いとは思わない。どっちも可愛い、と言うのが結論。

 

 ハガレンのマスタングの声優が大川から三木に変わって違和感があっても3週間ほど経てば慣れてくる。そんな感じだ。

 

 

「いや全然。良く似合ってると思うぞ」

 

 

 だから世辞でも何でもない、ただの真実を口にする。

 

 

「そう?」

 

「嘘言っても仕方ないだろうに」

 

「うん、まぁ」

 

「見てたのだって新鮮味があってつい目が行っただけだよ。特に理由なんて無い」

 

「うん。……ちょっと不安だったかも。前の方がよかったって言われたらどうしようかと思った」

 

「ビビりすぎだろ」

 

「でも、貴方に嫌われるのは怖いから、不安にもなる」

 

「……んー」

 

 

 けっこう引きずるな。

 

 どうしてコイツ今日に限ってこんなに弱気なんだろうか。もっと自分の容姿に自信持てばいいのに。

 

 持ち上げていたコーヒーを一気に呷って一息ついた後、腕を伸ばして女の子の髪を触る。

 

 美容院のシャンプーで艶が増した白髪は容易に手櫛を受け入れて、スッと指を通り抜けさせる。

 

 「あ」とか「え?」とか変な声が聞こえた。

 

 数回繰り返していると、女の子が控えめに見上げてくる。

 

 頬が染まっていて恥ずかしがっているのが見て分かった。

 

 いくらか整えた後、背もたれに背中を預けて女の子を視界の真ん中に捕らえる。

 

 幼さを残した整った顔立ちに赤い目。肩に掛かる程度に切り揃えられたセミロングの白髪。

 

 抱きしめた時にも分かる華奢な体。薄い胸。

 

 どこを取ってもおかしくは無い。最後の1つも欠点では無く長所だ。うん、多分絶対。長所長所。

 

 腕を下げる。

 

 

「お前今日アレか、あの日か」

 

「は?」

 

「気持ちが不安定になったりとかするらしいしな」

 

「……何の話?」

 

「初めてくると赤飯を炊く日のこと」

 

 

 自分なりに考えた結果を口に出す、流石に単語を直接言うのは憚られるので遠まわしに。

 

 女の子は数秒固まった後に蔑むようなジト目で睨んできた。

 

 ……?

 

 

「死ね」

 

「言葉の棘隠さなすぎだろ」

 

「面と向かって聞いてくるとか貴方どうかしてる」

 

「いやだってお前弱気過ぎて気持ち悪いからさ、なんかあったのかと思って」

 

「思って考えたらそれに行き着いたの?」

 

 

 首を縦に振る。

 

 

「死ね」

 

「言葉の棘隠さなすぎだろ」

 

「面と向かって聞いてくるとか貴方どうかしてる」

 

「会話ループしてね?」

 

「今さっき世界が一巡した」

 

「いつの間にプッチ神父メイドインヘヴン発動させたんだよ」

 

「冗談は置いといて」

 

「お前が振ってきたんだろ」

 

「気にしないで、気にしたら負け」

 

 

 たしかにループしてたら話が進まないので素直に従う。

 

 口直しに水を含んで飲み込む。美味いけど多分水道水なんだろうなぁ。

 

 飲み終わった空のグラスを持って立ち上がる。水のおかわりはセルフサービスなので自分で取りに行く。

 

 

「……その。多分、本当のわたしはこんな感じだから」

 

 

 取ってきて早々に女の子が口を開く。

 

 

「え、何が?」

 

「……弱気過ぎるって話」

 

「あぁー。なんかいきなりだったから理解出来なかった」

 

「だからこの話はこれが結論。うん―――それに、ぶっちゃけたら、……あの日も、まだだし」

 

「え? なんて?」

 

 

 叩かれた。

 

 小声で聞こえなかったんだから仕方ないだろ。暴力振るわなくても。

 

 

「要するにっ貴方に嫌われたくないってこと」

 

 

 女の子が話の要点を強引に締めくくる。

 

 聞こえなかった部分を含めてまだ聞きたいこともあったけど、教えてくれなさそうなので諦める。

 

 

 

「あんだけ勝手してきたお前と今付き合ってるのにさ。逆に今更どうやって嫌いになるのか答えて欲しいわ」

 

「……いやまぁ……うん。たしかに」

 

「だろ」

 

「もっと大人しくしてたらと後悔」

 

「大人しかったら追い返してたな。お前が強引じゃなかったらこうやって一緒に飯食ってることも無かったはずなんだけど」

 

「じゃああれでよかった?」

 

「当時の俺からしたら迷惑以外の何者でもなかったけどな」

 

「ごめん」

 

「今謝っても意味がねぇー」

 

「ん。たしかに。昔の自分を誇りたい」

 

「誇るのはどうかと思うわ」

 

「どうしろと」

 

 

 感謝したらいいと言っておいた。

 

 お互いにリゾットとスパゲティを交換しあったりして昼食を済ませる。あーんはしていない、公共の場だし。

 

 余談だけど、食後の休憩でコーラを飲みながらゆっくりしていたら何かイベントがあったみたいだ。

 

 創業1000組目のカップルの来店を祝うとかどうたらこうたらな奴で、来店したミントが主成分な感じなイケメンフェイスの男と銀髪赤目の美少女がその1000組目のカップルらしい。

 

 ということは俺らは999組目だったということで何と無く残念な気分になった。

 

 離れていてよくは分からなかったけど、イケメンが抱きしめた美少女が奇声あげて猛烈なビンタをかましていた。滅茶苦茶痛そうだった。漫画のような音鳴ってたし。

 

 その後何も無かったように席に着いた2人だけど、その美少女がまた大食らいなのかメニューに指を走らせて「ここからここまで全部ください」とか言っていた。

 

 その様子に、一緒に見ていた女の子共々飲み物を吹きかけたが堪えて店を後にした。

 

 もちろんのことで金は俺が払った。値段もけっこう親切でよかった。

 

 

「……凄かったね」

 

「まぁ歳は離れてそうだったけど美男美女だったな」

 

「んう、違う。あの銀髪の子の性格が」

 

「あぁー……」

 

 

 当の本人達に聞こえない所でそれをネタに話をしてしまうのは人の性だろう。

 

 まぁそこまで長引く話題でも無いのですぐにその話は途切れ、その記憶も脳の片隅で眠ることになった。

 

 腹ごしらえも済んだ所で、いつもお世話になっているあのデパートへと自転車を漕いで赴く。当然のことでジュネスではない。幼女も歌わない。

 

 置く場所が無い事を良いことに無理矢理止めさせて、3時間過ぎたら金を取る駐輪場に自転車を置いて店内へ。

 

 女の子が絡みつくように腕を取ってきたが別に何も言わない。

 

 こういう時に胸があると良いんだなとか思ったが、無いものねだりなので口には出さない。

 

 幸せそうな顔した女の子を見たら「貧乳は希少価値で巨乳は資産価値だよな」とか言えない。

 

 この前と同じように大人の女性用コーナーを華麗かつ爽やかにスルーして思春期の女の子用コーナーへと向かう。

 

 マネキン達も夏用の薄着に着替えて真っ白い肌を露出させて俺達を出迎えてくれる。

 

 流石の俺でも女の子と腕を組んでここまで来ると羞恥心を覚えてくる。

 

 周りの視線が気になって一度見回して見ると、案の定というか何というかだけど店員の1人から目を逸らされた。

 

 きっとロリコンだと思われた。

 

 店長のロリコン発言が再生される。この所隙あらば脳内でロリコンと言われ続けている。なんだよロリコンのどこが悪いんだよ。

 

 

「だから黒は嫌だと」

 

「黒は高貴な」

 

「お前のどこが」

 

 

 といった具合に服の購入を済ませる。

 

 色々買って5万ぐらい使ったが、予期せぬ臨時収入から出ているので別に勿体無いとは思わない。

 

 クレーンゲームの名を借りた貯金箱からガッチャピンを吊り上げて我が家に新たに3匹を迎えた後にデパートを後にする。

 

 長居しすぎて、店を出た時には空が暗くなり始めていた。

 

 家路に着く頃にはもう完全に夜で、人通りも目に見えて少なくなり始めていた。流石駐輪場に金を取られただけのことはある。

 

 

「バイトしていい?」

 

 

 後ろで腰に腕を回していた女の子が唐突に聞いてくる。

 

 自転車を漕ぐ足は止めずに「なんの?」と聞き返す。といっても女の子の歳で出来る仕事なんて限られているので返答は予測できた。

 

 実際大当たりで「新聞配達」と女の子も答える。

 

 

「当ては?」

 

「一応」

 

「欲しいもんでもあるのか」

 

「違う。わたしも何かしたいから」

 

「家の仕事あるだろ」

 

「すぐ終わる。それに、やるの朝だけだから家事のほうも問題ないと思う」

 

「金入れる口座とかどうするんだよ」

 

「判子とか通帳とか全部、伯母さんがカバンに詰めてた」

 

「そうか」

 

「稼いだお金も全部貴方に渡す」

 

「食費貰えたら他は別にいらねーや」

 

「やっていい?」

 

「断る理由も無いしな。家事が疎かになるようだったら流石にあれだけど」

 

「うん。頑張る」

 

「……」

 

 

 確かに、断る理由も無いし支出が減るのは嬉しいけど、どこか寂しく感じてしまった。

 

 何故か? なんて言うまでも無く、女の子と過ごす時間が減ってしまうのではないかと考えてしまったからだろう。

 

 俺も大概女の子のことが好きなんだと実感してしまう。

 

 ……というか、付き合ってから俺一言も女の子に言ってないんだよな。

 

 見慣れた屋根が見えてすぐに家に到着する。

 

 率先して女の子が荷物を抱えて先に自転車から降りる。俺も自転車を置いて女の子の所へ行く。

 

 

「ミズキ」

 

 

 女の子の名前を呼ぶ。この名前、自分と同じだから呼ぶと変な感じなんだよな。

 

 桃谷と今宮で苗字は違うんだけどさ。

 

 結婚したら同姓同名だぞ。この場合改名とかするんだろうか。

 

 両手に重そうに袋を提げた女の子が振り向く。

 

 

「好きだ」

 

 

 言ったことが無いから、というロマンの欠片も感じない理由だけど、気付いたからには言っておきたい。

 

 反応は上々で、女の子は鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を見開く。

 

 だけどすぐにその瞳は閉じて代わりに見上げるように、顎を突き出してきた。

 

 鈍感だ朴念仁だと女の子に散々言われた俺でも判るほどに簡単な意思表示だった。

 

 肩に手を置いて女の子の顔に、首を近づける。

 

 唇を重ね合わせる。

 

 「んっ」と女の子が声を漏らす。

 

 中腰の姿勢は少し辛かったけど、それ以上に心地よかった。外だということも忘れるほどに。

 

 顔を離した時には女の子の顔は真っ赤だった。

 

 多分俺も真っ赤だった思う。頬滅茶苦茶熱かったしな。

 

 

「わたしも、大好き」

 

 

 そう言ってはにかんで微笑む女の子は特別に可愛かった。

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