俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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28話。

 眠い。激しく眠い。落ちてくる瞼の重さが半端じゃない。

 

 視界の半分が常に瞼の陰で覆われて気付かない内に眠ってしまっていそうだ。

 

 起きたばっかりだと言うのにコタツに脚を入れているせいも大いにあるが、寒いんだから仕方ない。不可抗力だ。

 

 大体バイト明けの新年早々、朝8時に起きるなんてことが無理難題過ぎる。

 

 中学高校時代の俺じゃあるまいし、そんな元気は大人になった俺には無いに決まっている。

 

 夜更かしする俺も悪いんだけどな。

 

 しかし起きていないと女の子がガックリする。

 

 俺も時間が無駄になってガッカリする。

 

 どっちにも得が無いことをするわけにもいかず、一時の欲望に身を流してしまっては後に響く。出来ちゃった結婚とかが良い例だろう。

 

 ただダラダラと一緒に過ごすだけでは同居となんら変わらない。

 

 デートぐらいしなければ恋人だなんて呼べないんではないだろうか。

 

 わざわざ女の子から持ちかけてきたデートなのだから、応えてやるのが彼氏ってもんだろう。

 

 まぁ年明けだし、バイトも大学も無いし、暇だし。

 

 一瞬落ちてしまった意識を持ち直して眠気覚ましの冷たいコーヒーを呷る。カフェイン効果よ、早くやって来い。

 

 スチール缶2本を空にしたところでくぐもった金属音がドアの方で鳴る。

 

 それに気付いて目を向けるのと同時に、ガチャっと鍵の開く音が響き玄関の扉が開く。

 

 外の冷たい風が流れ込んでくる先には赤茶色のコートを着た女の子が突っ立っており、何故か目を丸くしている。

 

 

「お……起きてるっ!」

 

 

 その驚きの声は分からなくも無いが、どこか釈然としないのはなんでだろう。

 

 しかも何だその大げさな驚きのポーズは。漫画か。

 

 

「デートだろ。というか寒いから早くドア閉めてくれ」

 

「ぁ、うん」

 

 

 白い息を吐く女の子を見る限り今日も相変わらず冷え込んでいるようだ。

 

 促されて部屋に入ってきた女の子は靴を雑に脱ぎ捨ててコートの前を開くと早足で俺のほうへと向かってくる。

 

 

「寒い~」

 

 

 冬の朝にする新聞配達なんて俺の想像を絶する。

 

 しかし年明けの休みも無いなんて中々にハードな仕事だ新聞配達。

 

 労いの言葉でもかけてやろうとするが、口を開く前に近づいてきた女の子が俺の頭を胸元に抱いてきた。

 

 

「あったかい~」

 

 

 首筋に当てられた手は生気を感じさせないほどに冷えている。

 

 しかし頬に当たるセーターの感触越しには、トクトクと早い心臓の音が聞こえて生きていることを伝えてくる。

 

 「ふぅ~」と震えた息を吐いて俺から熱を奪い続ける女の子を放置すること数秒。

 

 いきなり両頬を掴まれて上を向かされたと思うと間近に女の子の顔があった。

 

 

「んむ……」

 

 

 手同様冷えた唇を押し当てられる。

 

 焦点の定まった目の前にはギュッと目を閉じて唇を吸ってくる女の子の顔があった。

 

 そしてまた数秒、酸欠に陥んじゃないかという心配をする頃に女の子が離れる。

 

 はぁっと息を吐く所を見ると、やっぱり相当苦しかったようだ。

 

 

「あったかかった~」

 

 

 それでも顔は嬉しそうだったのは語るに値しないが。

 

 さておき女の子が帰ってきた。後は女の子の準備が整い次第出掛けるだけなのだが、そこは女の子(一般的な意味で)。

 

 顔を洗うと言って洗面所に行った数秒後に汗臭いからと言いシャワーに変更して浴室へ。

 

 40分ほどが経過する。

 

 遅い。髪と体洗うだけでどれだけ時間が掛かるのか。

 

 男と女の違いなのか。それとも、俺が特別に風呂が早いのか。

 

 烏の行水ってわけじゃないが、恐らくは前者だろう。うちの妹2人もそうだったし。

 

 

「なんで女の子はみんな風呂に入る時間が長いんですか」

 

 

 風呂上りで薄着になっている女の子に問う。

 

 先日買った姿見を目の前にドライヤーで髪を乾かす女の子は鏡越しに俺に視線を向けてくる。

 

 

「女の子だからです」

 

「その言葉の意味を大きく逸脱しています。ちゃんとした理由で答えて下さい」

 

「それ以上追求するのは地球がなんで回っているのか聞くぐらいに愚問」

 

「女の子と宇宙が同義とかおかしいから」

 

「どこもおかしくは無い」

 

「その根拠がどこからくるのか知りたいわ」

 

「女の子だから」

 

「汎用的過ぎるでしょう?」

 

「……」

 

「いやいや不思議な物を見る目で見るな、俺を」

 

「後ろの髪乾かして欲しい」

 

「……」

 

 

 差し出されたドライヤーを受け取って女の子の後ろに回り込む。

 

 手櫛を入れながら熱風を吐き出すドライヤーを白い髪に当てる。妹1号によくやってやっていたから髪を乾かすのは得意だ。

 

 相変わらず女の子の髪は同じシャンプーを使っているとは思えないほどに柔らかい。

 

 乾かしている最中に会話が途切れるが、気まずい空気は流れない。

 

 別にどうでもいい会話だったしな。

 

 一緒に暮らしていればネタ切れになることだってしょっちゅうだ。

 

 女の子の髪は大分伸びたが切る以前と比べればまだまだ短い。5分もしない内に女の子の髪が乾く。

 

 最後に撫でるように髪を梳いて形を整える。

 

 

「出来たぞ」

 

「うん。すぐに仕度する」

 

「40秒で」

 

「どこの空賊」

 

「ボーン一家」

 

「ラピュタは何処へ」

 

「龍の巣」

 

「そういう意味合いで言ったわけじゃない……」

 

 

 女の子は一瞬ジト目でこっちを見てきたが、部屋に掛けてある時計を見ると慌てて準備の方に戻った。

 

 ただいま10時40分。

 

 女の子は、姿見を活用しまくってバリエーションの増えてきた服を合わせては元の場所に戻す作業を繰り返す。

 

 しかし、人の目の前で下着姿を晒しながら着替えるのはどうかと思う。

 

 そんな醜態をボーっと眺めていると、ハッと気付いた様子で女の子が合わせていた服を顔面に投げ付けて来た。

 

 

「見るなっ」

 

「事故含めて今日までに十数回見てるんだけど、裸」

 

「変態」

 

「もうちょっとお前も用心しろよ」

 

「明らかに貴方の注意不足が原因」

 

「今この場でお前に過失がある状態でその言葉を言うか」

 

「普通後ろ向いたりする」

 

「言ってくれよ」

 

「言われなくてもすると思う」

 

「だが断る」

 

「使いどころ間違えすぎてる」

 

「第一俺に裸見られて何か減るのかお前」

 

「大事な何かが減る」

 

「その大事な何かってもう失ってないか? 見た回数的に」

 

「貴方のが」

 

「俺のか」

 

「というか既にもう失われてる」

 

「なにそれ」

 

「せい……」

 

「せい?」

 

 

 聖さん? 聖☆お兄さん?

 

 

「なんでもない」

 

「ちゃんと言えよ」

 

「死ね」

 

「?」

 

「まずこれだけ私のを見て冷静なのが証拠」

 

「……私のって、何?」

 

「っ裸……!」

 

「あぁはいはい」

 

「もうちょっと慌てたりするのが正常なはず」

 

「じゃあ今度からそうするわ」

 

「貴方ちゃんと意味分かって応えてない」

 

「お前エスパーか」

 

「適当に返事返す時点で誰でも気付く」

 

「だってお前遠回しに言ってくるし、意味不明だし」

 

「わたしにだって羞恥心はあるっ!」

 

「俺だけ無いみたいに言うなよ」

 

「具体例」

 

「外でお前にねだられてキスした時とか恥ずかしい」

 

「ぁっ、ぁ……ぅ」

 

「外でお前に「あーん」された時とか」

 

「も、もういい」

 

「で、俺の失われたものって?」

 

「……宿題」

 

「……期限は?」

 

「貴方が気付くまで」

 

 

 もうそれ提出しなくてよくないか。という言葉は飲み込む。

 

 それっきり女の子は黙り込む。被された服で前が見えないので表情は読めない。

 

 シュルシュルスルスルと衣擦れの音が聞こえる所からすると着替えに勤しんでいるようだ。

 

 点けたテレビを音声だけで楽しむこと数十分。

 

 突然、視界を塞いでいた女の子の服が取っ払われる。

 

 開けた視界の先には着替えを終えてコートを着込む女の子が居た。

 

 

「仕度出来た」

 

「可愛いな」

 

「……っ」

 

 

 不機嫌そうに構えていた女の子の表情が一瞬緩んだ。

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