俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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29話。

 

 

 場所は変わって駅のホーム。

 

 なんだか年明けからもう4ヶ月程度の日数が経っているような気がするが、今日はまだ新年を迎えたばかりの1月1日。元旦だ。

 

 当然の如く季節は冬で、当たり前のように寒い。

 

 雪こそ降ってはいないものの、吐き出す息は白みを帯びていて、その寒さを見える様に表現している。

 

 天気そのものも雲1つ無い快晴でホームに差し込んでくる朝日は眩しくすらあるが、温かみはまったく感じない。

 

 防寒対策に厚手のコートを羽織ってはいるが、いかんせん下のほうはジーパン一着。

 

 ジーパン越しに吹き当たってくる風の冷たさといったらもう、凶器の領域といっても差し支えないだろう。

 

 軽く人を殺せる。

 

 数十分前までコタツで暖を取っていたせいもあってか尚更に、いつにも増して寒いような気がする。

 

 デートに誘ってきた女の子の予定ではこれから県内某所、県名と市名が同一の場所にある神社に初詣に行くらしいが、既にもう俺の中では面倒臭い精神が渦を巻いている。

 

 もしも「帰っていいよ」なんて甘言を言われれば、俺は遠慮や思慮など無くすぐに家に帰る事だろう。

 

 それぐらいに寒い。

 

 

「超寒い」

 

 

 口に出して言うほどに寒い。

 

 そうやってガタガタと身体を震わせていると、隣に居た女の子にいきなり腕に抱きつかれた。

 

 

「あったかい?」

 

 

 女の子が強引に指を絡めながら問い掛けてくる。

 

 正直言って女の子の手のほうが冷たい上に、寒い部分は主に脚なんだけど、流石に脚に抱きついてくれとは言えない。

 

 更に言えば周りの視線がとっても痛い。

 

 疑心暗鬼も含まれているんだろうが、俺と女の子の年齢差から来る疑惑の眼差しが痛い。

 

 新年だからかこんなベットタウンのホームにも人が多いので尚更だ。

 

 そんな俺の複雑な気持ちを他所に、女の子はなんとも言いがたい喜色で俺を見上げてくる。

 

 ……周りが気にならない女の子が羨ましい。

 

 

「寒くて(二重の意味で)辛いからお家に帰りたいです」

 

「大丈夫。今わたしが暖めてあげてるから」

 

「そう言ってるお前も震えてるんですけど」

 

「心の方を温めています」

 

「身体のほうを温めてください」

 

「それは……ここじゃあ恥ずかしいかも」

 

「いや何で赤くなる、顔伏せる。そういう意味で言ったわけじゃないからなっ?」

 

「なんだ、残念っ」

 

 

 ガクリと頭を下げる女の子。いや、そんな目に見えてガッカリされても困るんだが。

 

 最近妙にこの手の話題に食い付き(……食い付き、か?)が良いような気がするが、どうしたんだろうか。

 

 いやまぁ、普通に考えればとっくに手を出しててもおかしくないはずなんだけど、ね。

 

 顔は可愛いしガキなりにスタイルも良いし、外見だけで言えば美人なのは間違い無い。

 

 欠点と言えば性格と、相手が俺だったというぐらいだろうし。

 

 いや寧ろ俺だから良かったのかも。

 

 なにしろ穢れずに居られるしな。最初から性格は穢れていたけど。

 

 あぁ空が青いなぁ。

 

 繋いだお互いの手をグニグニし合って熱を生産していると、しばらくしてスピーカーからナレーションが流れてくる。

 

 予告された到着時刻通りに電車が強風を伴なってやってくる。

 

 ホームの先頭に立てていたこともあって何とか席には座れた。

 

 繋いだままの手は、周りから見たら目の毒この上ない産物なのだが、解こうにも女の子が離さないのであきらめた。

 

 

「あ~足あったけぇ」

 

 

 椅子の下から吹き出す温風が冷え切った足に当たって心地良い。

 

 

「……気持ち悪い」

 

 

 反面女の子は俺の脚を盾にして風を避けている。

 

 

「そりゃニーソックス越しには気持ち悪いだろ」

 

「ニーソじゃなくてタイツ」

 

「絶対領域が無かったらニーソもタイツも変わらないって誰かが言ってた」

 

「それに貴方が言ってるニーソはニーソじゃない。膝上まであるのがニーソックス、太股真ん中まであるのはサイハイソックス。ニーソならわたしのスカートからでも太股見えてる」

 

「……勉強になるなぁ」

 

「ちなみサイハイの方は殆ど売られてない」

 

「……勉強になるなぁ」

 

「ただサイハイは出回らない分知名度も低いからオーバーニーで大体通じる」

 

 

 言いたい事を言い終えたのか女の子はふぅと胸を撫でて話を〆た。

 

 ぶっちゃけこのまま話され続けていたらついていけなかった。

 

 

「それにしても、こんな寒い日にスカートとか冬舐めてるよな」

 

「タイツ穿いてるから意外と暖かかったりする」

 

「具体的には?」

 

「スピキュール並」

 

「うおーそりゃあ暖かい通り越して熱っちーな」

 

「そんな貴方にバブルローション」

 

「ラスボスでも即死出来るアイテム禁止な。後バニッシュデスも」

 

「貴方もジーパンの下に何か穿いて来ればよかったのに」

 

「ぱっちとかか」

 

「ジャージとか」

 

「中学生か高校生の時に言ってくれ」

 

 

 もう大学生だよ俺。

 

 そんなこんなで目的地近くの駅に到着。ここから歩いて20分ほどらしい。誰かキックボード貸してくれ。

 

 大体の人がこの駅で降りたのを見て薄々思ってはいたが外に出てみると、やっぱりと言うかなんと言うか、新年なんだから寝とけよと思うぐらい人が居た。

 

 この様子を見る限り3分の1程度人類が減っても大丈夫だよな。嘘だけど。

 

 皆目指す場所は俺達と一緒らしい。人波の赴くままに行けば勝手に着くだろう。

 

 というわけでグダグダと行軍を開始。

 

 そろそろ繋いでる手も汗ばんできた。

 

 

「……帰りたい」

 

 

 目的地である神社の行列の中で俺は空を仰ぎながらボソリと、心の叫びを口にした。

 

 歩いて数分で目に見えて人の量が増してきた所で嫌な予感。

 

 神社の屋根や鳥居が見えた所で予感は確信に。

 

 賽銭箱にまで続く道にぎっしりと詰まっている人だかりを見て確信は絶望へと変わった。

 

 

「所でこの人だかりを見てくれ。こいつをどう思う?」

 

 

 仕込んだネタには返答せず、問い掛けにのみ反応を示した女の子は背伸びをする。

 

 

「……見えない」

 

 

 つま先をプルプルさせて頭を右往左往するが、どこを見ても背の高い大人ばかりで女の子の視線からは全容が見えそうに無い。

 

 精一杯の背伸びで俺の肩程度までしか頭が届かないので仕方ないか。

 

 他にどうやってこの絶望感を女の子に伝えてやろうかと俺も周りを見渡す。

 

 道端に並ぶ屋台は置いとくとして、子供を肩車している父親の影がチラホラと散見する。

 

 視線を隣に移して女の子を見る。

 

 ……いけるな。

 

 俺は徐にしゃがみ込んでから、女の子に俺の上に乗れと指示する。

 

 指示した途端に何を勘違いしたのか「うぇい!?」と素っ頓狂な声を上げた女の子に、誤解を招かないように肩車をすることを説明する。

 

 多少女の子が戸惑ったようだが、その後問題なく肩車の準備が出来た。

 

 両肩から伸びてくる女の子の足を掴んで、倒れないように注意しながら一息に立ち上がる。

 

 

「おぉーう」

 

 

 俺の頭を支えにした女の子が感嘆したような声を上げる。

 

 しかしやっぱり軽いな。ちゃんと飯食ってるのかなコイツ。

 

 

「なぁこれ何時間待ちだよ。なぁこれ何時間待ちだよ」

 

「大切なことなので2回言われました」

 

「2回言いたくもなるわ。この人の量」

 

「有名な所だからその分御利益もある。並ぶ価値はある」

 

 

 諦めようとしない女の子の根性に眩暈を覚える。

 

 

「そこまでして叶えたい願いとかないんですけど」

 

「わたしはある」

 

「へぇ~」

 

「……聞かないの?」

 

「聞いたら叶わなくなるだろ」

 

「建前はそこまでにして本音は?」

 

「どうでもいい」

 

「逆肩車してもいい?」

 

「俺が公然わいせつ罪で逮捕されてもいいのなら」

 

「じゃあ聞くべき」

 

「……お前のお願いって何?」

 

「ひ・み・つ」

 

「……やりたかっただけ?」

 

「うん」

 

「この行列にお前投げ込んで良い?」

 

「わたしがセクハラされてもいいのなら」

 

「……やめとくか」

 

 

 女の子のことは大事だしな。

 

 

「でも大丈夫。貴方も関わってることだから、お願い事」

 

「まさか俺とずっと居れます様に、とかじゃないだろうな」

 

 

 頭を股で圧迫された。

 

 いや、別に苦しくはないんだけどさ。

 

 ただノリで肩車をやってたせいで今気付いた。

 

 周りの視線が痛い。疑心暗鬼含めて。

 

 しかしやめようにも、もうこの人だかりに肩車をやめるスペースが無い。

 

 ……諦めよう。

 

 

「まさかの図星で驚いた」

 

「そんな古風なお願いごとに俺のほうが驚いたわ」

 

「サトラレ?」

 

「古いなおい」

 

「サイコメトラーEIJI?」

 

「懐かしいなおい。というかよく知ってるな」

 

 

 といっても、そんな古風な願いごとを言われて悪い気はしない訳で。

 

 なんというか自分でもわからない変な気持ちだ。女の子からはもう何も言って来ないし、追求するのも面倒臭いしまぁいいか。

 

 それからそのまま30分ほど経ったぐらいで賽銭箱についた。

 

 考えてみれば賽銭放って手を合わせてるぐらいだから、何時間とは掛からないのか。

 

 それでも立ちっ放し肩車しっぱなしの30分間は辛いものがあったが。

 

 ちなみに賽銭は「御縁があるように」という建前で俺が5円、何を思ったのか女の子は1000円も入れていた。

 

 手を合わせて目を瞑っている時にチラリと横目で女の子の表情伺ったら、割かし真剣に願っていた。

 

 その願いがさっきのだと思うまた変な気持ちになった。

 

 

「―――貴方は何をお願いしたの?」

 

 

 神社の鳥居を潜って出て行こうとした所らへんで、握られた手を引っ張って女の子が問い掛けてきた。

 

 

「お前と同じだよ。お前とずっと一緒に居られますようにってな」

 

「……ウソ?」

 

「よくわかるなお前」

 

「貴方すぐに顔に出る」

 

 

 言われて頬に変な力が入っているのに気付く。

 

 よく観察してるなこいつ。ストーカーか。

 

 いや恋人か。

 

 

「本当は何てお願いしたの?」

 

「言うと御利益が無くなる……」

 

「わたしはさっきと同じ『貴方とずっと居れますように』ってお願いした」

 

「……無難に、人生楽に過ごせますようにってお願いしたよ」

 

 

 ケチって賽銭を5円で済ました俺が、女の子と一緒の願い事をしても叶えてもらえるとは思えなかったしな。

 

 無宗教だが一応神は信じているつもりだ。

 

 

「でもまぁそんなこと願わなくても、俺はお前とずっと一緒に居るつもりだよ」

 

 

 抱きつかれた。

 

 

「抱きしめていいですか」

 

「抱きつかれてから言われても困る」

 

「問答無用」

 

「問答無用で抱きつかれたよ」

 

「で、次はどこ行くんだ」

 

「んーと次は、ご飯食べに行ってー貴方の服を買ってーその後朝までカラオケ」

 

「……帰りたい」

 

「帰る?」

 

「いや嘘だよ」

 

「ぎゅうぅ」

 

「苦し、くは無いな」

 

「大好き」

 

「……あぁー、うん。俺もお前のこと大好きだよ」

 

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