俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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3話。

 

「わたしを舐めないほうがいい」

 

「こえーよ」

 

「わたしを舐めないほうがいい」

 

「微妙にマイブームになってんじゃねーよ」

 

「わたしを舐めろ」

 

「命令!?」

 

「貴方を犯人です」

 

「誤植!?」

 

 

 家の扉前を占拠する女の子に対してラグナロク並み(俺基準)の攻防が繰り広げられる。

 

 夕食が入ったビニール袋をチラつかせその匂いに釣られた隙に室内に進入しようと画策するが、流石鋼鉄のオール5女の子。手強い。

 

 ドアノブに手を掛けたままビニール袋を奪おうとするので一向に隙が生まれない。

 

 

「てっめ服装と性格のギャップありすぎだろ。もっと清楚にしやがれっ!」

 

「清楚にしてもお腹は膨らまないっ!」

 

「怪しいオジサンにでも話しかけたらお腹も膨らむだろっ!」

 

「セクハラっ!? セクハラだ今のっ!」

 

「バッカじゃねーの、ご飯食べさせてもらってお腹膨らむって言ってんだよ。マセすぎて笑える」

 

「―――っう!?」

 

「うはは図星だぜコイツはーずかしーっ!」

 

「う……うっー! うっー!」

 

 

 羞恥心のあまり我を忘れたのか、女の子の腕がドアノブから離れる。

 

 守るべきものを見捨て偽りの自由を掲げて襲い掛かってくる姿はいと哀れ。

 

 キタコレと内心で勝利を確信する。

 

 繰り出されるグルグルパンチをいなし、後ろに回り込んで背中を軽く押してやる。

 

 予想外の加速を得た女の子はそのまま鉄の柵に激突し、白い煙を上げながら沈黙した。

 

 かなり痛そうだ。

 

 しかし俺には関係ないね。

 

 俺の世界を守るため、平和な日常を守るため、ラブリーチャーミーな敵役で悪を貫くぜ。

 

 心に余裕も生まれたところで玄関の鍵を開ける。緊急時には逃げることしか出来ないゲームみたいな感じだ。

 

 誰も居ない我が家へと続く扉を開けて、中に入ろうとするがそこで緊急事態が発生する。

 

 体半分が家に入ったところで、ふいにビニールを持つ左腕が重くなった。

 

 悪い予感が絶えない中、ギリギリと後ろを振り向いた。

 

 

「わたしを舐めないほうがいい」

 

 

 怖すぎて昇天しかけたけどなんとか一命を取り留める俺。

 

 ビニール袋にしがみ付いているのは間違いなく女の子である。赤い目をギラギラさせて見つめられると狂気でも操られそうになる。

 

 さっきの沈黙はブラフだったのか。油断したぜ。

 

 額を真っ赤にさせて涙目になりながらも目標に向かって邁進する姿は心惹かれるものがあるぜ。

 

 だが俺はお前の入室を認めないィィ!

 

 

「もうお前マジでどっか行けよ。その根性があればなんでもできるよ。顔も可愛いしさ、性格は隠したらなんとか出来るから」

 

「わたしは、今わたしが出来ることを全力でやりたい」

 

「無駄にかっこよくねそのセリフ」

 

 

 さっきの力任せ言葉任せとは違い今回は人質(夕食)を掛けたラウンド2だ。

 

 負けることは許されない。主に俺の心の平穏のために。フラグ糞喰らえ。

 

 

「は、な、せぇぇぇ」

 

「は、な、さ、なぃぃぃ」

 

 

 ビニールが千切れない微妙な力加減で引っ張り合うこの戦いは熾烈を極める。

 

 あれだ。そこらの小説とかだととっくにロマンスが始まっていて今頃追っ手相手に四苦八苦して告白紛いなことをしてヒロインをドキドキさせてるんだろうな。

 

 だけど俺はこの子をヒロインとは認めない。俺の嫁は漫画小説DVDの3つだけで充分だ。

 

 むしろこの子が追っ手だし? 告白なんて「わたしを舐めないほうがいい」とか半分脅しなことしか言われて無いし? 違う意味で俺がドキドキしてるし?

 

 ……何この敵役。マジキチ。

 

 帰る家が無いからなんなんだよ。ホームレス経験して将来自伝書いて印税で儲けろよ。

 

 と、頭を廻らせていると、おもむろに女の子は張り詰めたビニールに爪を立てて切り裂こうとする。

 

 

「反則っ! それ反則っ! ルール違反っ!」

 

「無事に返して欲しかったらわたしをこの家に泊めて。むしろ住まわせて」

 

 

 図々しすぎねこの女の子。マジキチの上位の言葉を誰か教えてくれ。それをコイツに当てはめるから。

 

 

「それだけは絶対に許可出来ないっ!」

 

「迷惑掛けるからっ!」

 

「そこは『掛けないから』だろうが。お前どんだけ俺を苦しめたら気が済むんだよっ!」

 

 

 もう俺の心は限界だよ。死んだら確実に悪霊になっちゃうよ。

 

 そうこうしてる内にビニールが破かれ、中に隠れた肢体が露になる。

 

 飛び散る米粒。宙を舞うシャケ。昇天する俺の魂。

 

 

「うわぁぁぁっ! 俺のシャケ弁、俺のシャケ弁がぁぁぁっ!」

 

「……正直悪かったと思ってる。反省はしている。許して欲しい」

 

「許すかぁ!」

 

 

 少年犯罪者のような言い訳を吐く女の子に対して、怒りとも悲しみとも違う何かが再現なく溢れ出る。

 

 もう何なのこの子。なんで俺に執着するの。

 

 流石にやりすぎたと思っているのか玄関でポツンと立っているので、これ幸いにと素早く扉を閉める。

 

 鍵を掛け、あまりしないチェーンも付ける。

 

 扉に背をつけて座りこみ放心すること30分。やっと立ち直る。

 

 この戦いで得たものなんて何もない。失った物は多すぎる。だけど俺はこれを糧に成長するだろう。

 

 成長したいです。

 

 仕方なく冷蔵庫を漁り、あまり物で炒め物を作った。白ご飯は無いので侘しい。

 

 3部屋ある内の一室であり主な生活場所であるテレビのある部屋へと向かうと、

 

 

 正座する女の子が居た。

 

 

 はっきり言ってもはや驚かない。慣れって恐ろしい。僅か2回で慣れる自分も恐ろしい。

 

 誰か世にも奇妙な物語の音楽流してください。

 

 

「……どこから入ってきたのかすごく気になるから教えて頂戴」

 

「出るときに開けておいた」

 

 

 と女の子が指を指す先には風でなびくカーテンが見えた。明らかに開いている。

 

 というかこの部屋2階にあるんだけど。

 

 忍者過ぎねこの子。

 

 どれだけアグレッシブなお嬢様なんだよ。確実にサバイバルになっても生き残れるよ。

 

 

「お弁当の件は本当に悪かったと思ってる」

 

「うん。思ってるなら許してもらうために出て行け」

 

「思ってるから買ってきた」

 

「は?」

 

 

 女の子がガサリと音を立ててビニール袋を机に置く。

 

 取り出されたのはコンビニが原産ではあるものの、お弁当だった。

 

 

「金あるじゃん」

 

 

 ほぼ無意識にそう言ってしまう。泊まりにたかりになんやらしてくるから文無しと思ってたが違うようだ。

 

 しかし女の子はションボリとした様子で俯き、カーディガンのポケットを漁って中身を机にブチ撒けた。

 

 

「もうこれだけしかない」

 

 

 ジャラジャラと小銭が散らばる。目で数えてみると126円しかなかった。

 

 ふむ。大方後先考えずに色々買ってたんだろうな。金銭感覚が麻痺でもしていたんだろう。

 

 内心可哀想とは思うものの同時に「それで?」という気持ちもある。

 

 むしろ後者の気持ちのほうが強い。

 

 

「お家、破産してお父さん逃げた。お母さんもとっくの昔に死んで……」

 

 

 なんでこの子は自分の身の上を話してるわけ? フラグが出来上がっちゃうじゃないか。

 

 まぁBGMにはことかかないので勝手に語らせておく。

 

 それと、くれた物は頂くの主義なので有難く貰うことにする。ちっ海苔弁かよ。

 

 語るにつれて段々と女の子の声が霞み始める。泣くのを堪えているようだ。

 

 正直どうでもいい。むしろ出て行け。

 

 んで5割くらい聞いて話を理解。文章にするのも面倒なので要約すると、

 

 女の子のお家破産→お父さん消失→親戚に引き取られる→虐め→出て行け→出て行く→お金使い切る→俺と出会う

 

 

「―――だから。わたしをこの家に住ませてください。なんでもします」

 

 

 話を終えてすっかり可哀想な子に変身した女の子は、ウルウルとした瞳で上目遣いで男の庇護欲を掻き立てる言葉を吐いた。

 

 俺は親指で玄関を指差す。

 

 

「出て行け」

 

 

 女の子はポカンとした表情をする。そして不思議そうに首をかしげた。

 

 

「……なんで?」

 

「ヒント。俺は他人」

 

「ヒント。人類皆兄妹」

 

「なら俺はカンボジアの子供達を助ける」

 

「遠くのバラより近くのタンポポ」

 

「しかし俺はタンポポよりバラ派だった」

 

「バラは棘だらけ」

 

「お前のほうが棘だらけだよ。この棘タンポポ」

 

「そんな植物は存在しない」

 

「言葉の綾だよ。なんでいきなり理解力低下してんだよ」

 

「そろそろ飽きてきた。早くデレろ」

 

「俺をツンデレにしたてあげんなっ!? つか、それがお前の本性だよなっ!」

 

 

 いつの間にか正座から女の子座りに変化してるし化けの皮剥がれ過ぎだろ。

 

 弁当を食い終わり炒め物に取り掛かる。

 

 そのついでにテレビを見るのも忘れない。時間が勿体無いぜ。

 

 

「汗掻いてきもちわるい。お風呂を貸して欲しい」

 

「なんで貸さなきゃならんのか」

 

「覗いてもいいから」

 

「お前を俺の家から除きたい」

 

 

 その時。ティンと閃く。

 

 

「金やるから銭湯行って来たら?」

 

「帰る家が無くなるからやだ」

 

 

 無理でした。

 

 

「……もしかしてお風呂に入らないほうが興奮する?」

 

「お前は何を期待してるんだ」

 

「雄しべと雌しべ」

 

「例えが古すぎるっ!」

 

「コウノトリが赤ちゃんを運んでこないことぐらい知ってる」

 

「それ以上のことぐらい知ってるよな。扉前の会話からして、確実に」

 

 

 援助交際を誘っているようにしか見えないのは俺だけか?

 

 だが俺は3次元に興味が薄いので別にこの子の裸を見たところでなんとも思わない。もう1回見てるしな。

 

 しかしそんな勇気と覚悟があるのなら俺以外の奴と援助交際して来いよ。

 

 まさかあのお供えのお握りで惚れちゃったとか無いよな。果てしなく迷惑なんだけど。

 

 女の子の要望を軽く無視して食器を洗う。

 

 その後はDVDでも見よう。

 

 女の子に構ってやる時間など俺には微塵も無いのだ。

 

 

「お風呂……」

 

「銭湯に行くなら金あげるぞ」

 

「借りは作らない」

 

「既に量産してるのを理解しろ」

 

「四つん這いになったらお風呂に入れてくれるんですね」

 

「お前は一体どこで言葉を覚えてくるのか―――マジですんなっ! 尻を向けるなっ!」

 

「えー」

 

「えーじゃねぇよ」

 

 

 この子の将来が心配になってくる。どうする気も無いけど。

 

 食器を洗い終わり、軽く台所周りを掃除する。キュキュと音が鳴ると気持ちいい。

 

 お風呂の要望を何度も言ってくるのを聞き流し、昨日見ていたDVDの続きを見る。

 

 時間が立つにつれ1分に1回だった要望が、5分に1回10分に1回となっていく。

 

 諦めたのかと思い後ろを振り返ると、女の子は床に寝そべって寝息を立てていた。

 

 憎たらしい性格だけど、顔は美人だし寝顔は無垢だ。

 

 

「どんだけ大人びても子供はやっぱり子供だな」

 

 

 苦笑する。

 

 俺は女の子の膝裏と首裏に手を入れて持ち上げる。所謂お姫様抱っこだ。

 

 そのままベッドへと行くわけが無く、扉を開けて外へ。

 

 階段を降りて道路を渡り、あの運命の出会いをしたゴミ捨て場へと到着する。

 

 

「俺って超優しいよな……」

 

 

 近くにある電柱に立て掛けて、俺はその場を去った。

 

 よく眠れるといいね。

 

 窓や扉の施錠を確認して俺は寝た。

 

 

 翌日。玄関の扉を乱打する音で目が覚めた。

 

 なにごとかと寝惚けたまま無用心に扉を開けると、怒った女の子が居た。

 

 

「危うく警察に捕まりかけたっ!」

 

「……いいことじゃん」

 

「良くないっ!」

 

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