俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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32話。

 

「甘えてきてください」

 

 

 バイト帰りの気だるげな夜の一時に女の子がいきなり訳の解らない言葉を発してきた。

 

 読んでいたラノベを下ろし、細めた目で理解出来ない様子を全面に押し出して女の子を見やる。

 

 拒否すら含んだ俺の態度に、女の子は照れた様に俯いて業とらしく咳払いをした後、崩していた脚を正座に直し膝の上をパッパッと払う。

 

 

「……どうぞっ!」

 

 

 準備が済んだのか、女の子は両腕を全開に引き伸ばして満面の笑みで自身の膝元へと誘ってくる。

 

 何をしたらいいのか判らず、いや、判っているが、いきなりこんな真似されてもテンションの温度差が激しすぎてする気が起きない。

 

 もはやクレバスすら錯視してしまいそうになる俺と女の子の間を、俺から行こうという気持ちは全く無い。

 

 いつかに雰囲気は大事とかどうとか行ってなかったっけ? もうちょい作ってくれよ雰囲気。雰囲気/zeroだよ。多分乗らないけど。

 

 え、何? 今から「ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!」みたいなテンションで突っ込まないといけないの?

 

 流石に難易度が高すぎるんだが。

 

 逆ならまだしも、俺からそれはハードルが高すぎる。もはや棒高跳びの領域に入っている。

 

 しばらく様子見を兼ねて観察していると女の子の肩がブルブルと震え始める。

 

 

「寒いので早くしてください」

 

 

 笑顔のまま催促される。

 

 まぁ稀に朝起きたら白い息が出るときあるしな、この家。

 

 

「寒いならコタツに脚入れろよ。すぐ隣にあるぞ」

 

「コタツに入ったら、貴方のことギュって出来ない」

 

「しなくていいです」

 

「ベットに座った方がやりやすい?」

 

「妥協案を求めている訳ではない」

 

「してくれないとコタツに入りません」

 

「なにそのガンジープレイ」

 

 

 俺が動く必要性が全く感じられないのだが。

 

 

「早くしないとまたわたし風邪引いちゃうかも」

 

「……」

 

「『彼女の身体の心配するのに理由必要か? 好きだからじゃ足りないか?』ってまた言わせちゃうかも」

 

「お前……」

 

 

 この前、風邪引いた時のセリフなに持ち出してんのコイツ。

 

 思いっきり黒歴史なんだけど。思い返すと恥ずかしいんだけど。なにこれ、弱味って奴?

 

 羞恥を感じて逸らしていた目を再度女の子に向けると、意地悪そうな笑みで自分の膝をポンポンと叩いてくる。

 

 

「……人の親切を逆手に取るのは人としてやったらいけないだろ」

 

「でも悪いことには使ってないからグレー」

 

「俺的にブラック」

 

「わたし的にはホワイト」

 

「……混ぜ合わせたらグレーって言うつもりだろ」

 

「そうですね」

 

「性格悪いなお前」

 

「貴方が好きなだけ」

 

「本当に……性格悪いなお前」

 

 

 そう言われたら無碍にしようにも出来ないだろうが。

 

 反論の余地を奪う殺し文句が決まり、言葉を失う俺とまるで幸せそうな笑顔を見せる女の子。

 

 仰ぐように天井を窺い、肺一杯に空気を取り込む。

 

 薄く開いた口から新鮮で冷たい空気入り込む。たしかに、この冷たさは女の子には毒だろう。

 

 けどエアコンの暖房も点けたくない。なんか気持ち悪く感じるから。

 

 ハロゲンヒーターだっけ? 今度あれ買ってくるか。

 

 コタツあったら他には暖房器具いらないと思ったけど、それは俺だけで女の子には足りないってことなのだろう。男と女だし、歳も違うし、条件からして別だ。

 

 そんなこんな考えても結局は女の子の言う通りにしなければいけないんですがね。

 

 取り込んだ空気を吐き出す。

 

 

「ベッド座れ」

 

 

 とりあえず、そのまま女の子の言う通りにしてやるのも嫌なので注文を付ける。

 

 スタコラサッサと女の子はベッドに腰掛けた。準備万端の様で、とても感心する。はい。

 

 その、なんだ。俺も、甘えるために? 女の子の前へと移動する。おいこれ俺のキャラじゃねーだろ、恥ずかしさで死ぬぞ。

 

 俺は床、女の子はベッド。

 

 準備完了。

 

 

「……」

 

「おいで~」

 

「……」

 

 

 なんで俺ベッドに座らせたんだ。

 

 女の子が床に座ってる状態だったら膝枕で済んだだろ。この状態だったらお前、真正面から女の子の太股ないし腹に顔を突っ込まないといけないだろ。

 

 え、どうすんの? すんの? しなきゃいけないの? というかなんでこんな罰ゲームみたいなことになってるんだ? 

 

 身体を半ば傾けた状態で思案に暮れる。

 

 たしかに女の子の想いに応えて肌に触れるうんぬんとは言ったけど、これは適用外だろ。

 

 どうする。今更断るってのは出来ないし、床に座ってもらうか? でも俺からベッドに座れって言っときながら、それは流石に苦しいだろ。

 

 男に二言は無いという訳じゃないけど、流石にもう言葉を曲げるのは人として出来そうにない。

 

 進むことも戻ることも出来ず悶々としていると、突然後頭部に衝撃が走る。

 

 頭を両手で抱えられたというのが判った直後、顔面が柔らかい物に包まれる。

 

 

「ああっ! もうっ! 貴方かわいいっ!」

 

 

 女の子の搾り出すような声が、頭をもみくちゃにされながらも耳に届く。

 

 俺はどうしたらいいのかわからず両腕をとりあえずだらけさせて事態を見守る。

 

 傍から見たらさぞや奇怪な光景だろう。誰も見てないんだろうが。

 

 しかし、これって甘えるってことに分類されるのだろうか。

 

 仮にも長男に生まれて妹が居る身の俺からしたら、甘えるなんて縁の無い代物だったから良く解らないが、これは違う気がする。

 

 まぁ女の子が満足ならそれでいいか。

 

 というかさっきからめっちゃ「かわいい」って連呼されてるんだけど。すごい鳥肌なんだけど。

 

 

「……これで満足でしょうか」

 

 

 力一杯頭を抱きしめられた後、力が緩んだ所で顔を横に向け酸素を取り込みがてら女の子に声をかける。

 

 

「まだまだ」

 

 

 やっと終わるかと思ったらまだまだ続くらしい。

 

 震えた声で女の子はそう応えると、また腕に力を込め俺の頭を抱える。

 

 終わった頃にはツヤツヤな顔をした女の子が居た。

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