俺と粘着な女の子   作:歩(ホ)

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7話。

 

 青い空と紺碧の海がどこまでも続かない世界。

 

 大都会の中でポツポツとある低価格低待遇のアパートの1つで俺は豊かとまでは言わないが、平和な生活を営んでいた。

 

 ―――女の子が居候として住み着くまでは。

 

 

「お前もうマジ死ねっ! 死んで謝れっ! 米に謝れっ!」

 

「貴方はお米を洗ってみろと言った。だから洗ったまで」

 

「だからって洗剤で洗うか普通っ!?」

 

「予想は出来たはず」

 

「出来ねーよっ!」

 

「無能」

 

「お前がなっ!」

 

 

 目を離したのが運の尽き、目の前には元気に泡立つお米達の姿が。

 

 「米ぐらいなら洗えるだろう」と勝手に当たりを付けた俺も俺だけど、これは流石に酷い。

 

 しかもコイツ何合炊こうとしてたんだよ。

 

 釜の内側ギリギリまで米入ってるじゃねーか。案の定、米袋見たら空だよ畜生。

 

 

「きっとキュキュっと艶のあるご飯に仕上がる」

 

 

 物は言い様、とでも言いたげな女の子にプッツンしかける。

 

 コイツは絶対に物の値段を分かっていない。最近の米がどれだけ高いのか、全然理解していない。

 

 この米だって5キロ1860円もしたんだぞ。

 

 1860円だぞ1860円。軽く週刊少年誌が7冊買えるんだぞ軽くライトノベルを3冊買えるんだぞ。

 

 それを我慢して買った俺の心労と言えば半端じゃないぞ。

 

 

「ならそれお前食えよ? 食い切れよ? 食いきるまでオカズ無しだからな」

 

「貴方のために洗ったのにその扱いは酷すぎる。一緒に食すべき」

 

「それは『一緒に死のう』と言ってるのと同義だからな?」

 

「きっと美味しい……洗剤ご飯」

 

「若干自分が何したか理解してんじゃねーよ」

 

「男の世界へようこそ」

 

「6秒程度時間戻しても意味無いから」

 

 

 せめてバイツァにしてくれよ。

 

 名残惜しくも洗浄された米をゴミ箱へと投棄する。水を捨てた時に手に付いた水は女の子へと飛ばして再利用した。

 

 覆水、盆に返らず。やってしまった事は仕方ない。といっても女の子を許す気は、無い。

 

 罵倒の限りをくれてやり、気を鎮める。その分屁理屈捏ねられたので怒りは収まらないけれど。

 

 米は全弾撃ちつくされ残弾は0。

 

 しばらく持ちそうだった食料を失った絶望は予想通りに大きく、胸にポッカリ穴が開いたような虚しさに襲われる。

 

 冷蔵庫には調理出来そうな物がまだあるけど、白ご飯の無いオカズは納豆の直食い並に侘しいものなので諦める。

 

 白ご飯の無いオカズで思い出す。

 

 この前作った余り物の炒め物もそうだったよなぁ。

 

 そう言えばあれも女の子に邪魔された結果、生み出されたんだよな。……なにこの貧乏神。

 

 とりあえずお腹が減っていることはたしかなので、月に数回利用している蕎麦屋の出前を召喚することにする。

 

 

「もう面倒くさいから蕎麦の出前頼むけど何がいい? ちなみにうどんでも可」

 

「メニューわからない」

 

「……天ぷら・さぬき・肉。ちなみに俺は天ぷらソバ」

 

「じゃあ貴方と同じの」

 

「わかった。具無しうどんだな」

 

「!?」

 

 

 家事もロクに出来ない居候に決定権など、鼻からあるわけがないので一番安いのを勝手に選ぶ。

 

 届いた出前を前に半目で俺の天ぷらを見る視線がウザい。

 

 親しい間柄でもないので特に話す話題など無く(元から無いけど)、無言な食事風景が続く。

 

 俺は漫画片手にテレビを見ながらなので無言の空気もなんのそのだ。

 

 

「天ぷら半分欲しい」

 

「500円」

 

「法外な値段。タダにすべき」

 

「じゃあ明日の食事抜きで検討してやる」

 

「それは卑怯」

 

「じゃあそのうどん寄越せ」

 

「1本?」

 

「全部だよ」

 

「……どうすれば天ぷらくれますか」

 

「お前の頭の中に四つん這いという言葉が浮かんでいる時点であげる気が起こらない」

 

 

 先読みされて言葉を失う女の子。その後、黙々とうどんを啜っていた。

 

 女の子に食い終わった食器を玄関前に置かせに行く。これすらも出来なかったら人間失格もいい所だけど、残念なことに普通に置いて来た。

 

 腹も膨れた所でこれからの教育方針を考える。

 

 まず、食事関連の優先度は下げる。誤って食中毒とかになりそうで怖いから。

 

 この調子だと買い物もヤバいことになりそうだ。金渡すのは怖いし、それ以上に高い物を買ってきそうで恐ろしい。

 

 残っているのは掃除と洗濯。

 

 どっちも安全度は先に挙げた2つより格段に上だ。これに決定する。

 

 やることが無いのか指を弄くって遊んでいる女の子に向けて「掃除しろ」と一応言ってみる。

 

 「どうすればいい?」と予想通りの返答を貰った。どんだけだよ。

 

 隅に置いてある吸引力の変わる凡百の掃除機を持ってきてセッティング。スイッチオーン。

 

 

「顔ひょ吸うなぁー」

 

 

 ボボボッと女の子の顔を吸った後手渡す。

 

 

「これで部屋に落ちてるゴミを……俺はゴフぃじゃねー」

 

「違うのか……」

 

「なんで残念そうなの?」

 

 

 即効で間違った使い方をマスターする女の子。こいつ……出来る。

 

 脳天にチョップを食らわせてやり、蹲る女の子に向けて掃除機の正しい使い方をレクチャーしてやる。

 

 大体説明を終えて邪魔にならないようにベッドに乗って様子見する。

 

 いちいち「これでいい?」とか「これはどうする」とか聞いてくるのを除けば、まぁ上出来だ。

 

 ついでに普段は面倒くさくてやらない拭き掃除もやらせる。

 

 どうせこれからコイツにやってもらうんだから最大限に使ってやる。手荒れ? 知るか。

 

 台所に置いてある雑巾を投げつける。

 

 真剣白羽取りのポーズを取りながらにして顔面で受け止める女の子。キャッチ能力の低い成績オール5、という称号が生まれる。

 

 

「ゴミの味がした」

 

「雑巾だからな」

 

「雑巾なら何を拭いても構わないというのか」

 

「なんでお前は雑巾に味方しようとしてるの?」

 

「きっと雑巾も汚れを拭くのを嫌がっている」

 

「それが雑巾の仕事だろうが」

 

「雑巾が可哀想」

 

「言っとくけど、どう言おうと拭き掃除は無くならないからな。雑巾が可哀想ならお前が自分の舌でこの部屋綺麗にしろよ」

 

「雑巾が失礼なことを言った。わたしが代わりに謝る」

 

 

 ひでぇよコイツ……。

 

 雑巾に全ての罪を着せる女の子の性根の悪さを垣間見る。これが人の性なんですね、これが人の性なんですね。

 

 肝心な拭き掃除はと言えば、中々効率が悪い。

 

 拭く場所を指示すればちゃんとやるんだけど、いかんせん汚いものを持つように抓んで拭いているので動きが遅い。

 

 まぁコイツに暇な時間なんて与える気はサラサラないのでこれぐらいで丁度いい。

 

 年末の大掃除並みに拭く場所を指定しておき、俺は座布団を枕にライトノベルを読む。

 

 至福の時間、俺タイムを過ごす。

 

 夕方のバイトまではまだまだ時間がある。ゆっくりと過ごせそうだ。

 

 

「背が届かない」

 

「伸ばせよ」

 

「台が欲しい」

 

「んなの無い。さっきの掃除機に乗ったら」

 

「休憩も欲しい」

 

「お前の休憩は寝る時だけです」

 

「よ」

 

「四つん這いになったお前に乗って俺が掃除してやろうか」

 

 

 足音と雑音その他が五月蝿いけど。

 

 ライトノベルに集中して俺の体感時間がメイドインヘヴンしたので気付いた頃にはバイト時間になっていた。

 

 振り向いて見るとまだ掃除していた。

 

 

「はぁ……っ! はぁ……っ!

 

 

 まるで強敵を相手にしているような迫力だ。アイツは何と戦っているのだろうか。

 

 まぁそんなことはどうでもいいので外出の準備をする。

 

 俺が帰ってくるまでには掃除を終わらせて置くように伝えてバイトへ行く。

 

 相変わらず笑顔が怖いとお客さんにからかい混じりに言われ、内心「死ねばいいのに」と連呼する。

 

 休憩時に鏡の前で笑顔になってみる。

 

 泣いた。

 

 なんだよ。他人よりちょっとだけ瞳が小さいだけじゃねーか。それだけだよ。

 

 上がり時に店長に今月ピンチだと泣きついてお米5キロを1380円にして売ってもらった。感謝。

 

 家に帰ると女の子は壁に背を付いて寝ていた。

 

 耳元で大声を出して起こす。

 

 腰が抜けて起き上がれなくなったらしい。いい気味なので観察してやった。

 

 まだ料理は任せられないと朝に判明しているので手伝いをさせて覚えさす。

 

 

「にんじんが真っ赤になった」

 

「そりゃ手血塗れならなるわな」

 

 

 料理を任せる日は遠いようだ。

 

 一夜にして手を絆創膏だらけにさせる女の子。見てて痛々しい。

 

 でも見てるだけ。

 

 

「絆創膏代分、お前のオカズ引いとくからな」

 

 

 微妙な目付きで睨まれた。しかし無視する。

 

 女の子の分だけ異常に量が少ない夕飯を平らげて腹を満たす。

 

 いい時間なので風呂を沸かすように言うと嬉しそうに頷いて向かっていった。

 

 まだ風邪は治っていないわけだけど、あれだけ楽しそうにしていると少し言い辛い。まぁ悪化しても所詮他人の体だし関係ないか。

 

 風呂から上がってくると、先に入っていた女の子が困ったように眉を寄せていた。

 

 

「服を貸してほしい」

 

「500ぺリカ」

 

「単位が分からない」

 

「服着てる相手に服貸してほしいと言われても貸す気が起こりません。理由を4文字で述べよ」

 

「……ブッころ」

 

 

 ……ろの次は何かすごく気になる。

 

 冗談は抜きにして訳を聞く。服を貸さないのはマジだけど。

 

 

「この服外で着る用。寝るのに向かない」

 

「脱いだらいいじゃん」

 

「脱いだら裸」

 

「いいじゃん」

 

「……何かがおかしいと思うのはわたしだけ?」

 

 

 ニッコリと笑ってあげる。

 

 

「お・ま・え・だ・け」

 

 

 服を貸す気なんて毛頭無いので完全に拒否する。

 

 当てが無くなり、結局この前と同じく裸で寝ることなった。

 

 3次元の女に興味が薄いからといって服を脱ぐ女の子をマジマジと見るのもアレなので一応後ろを向いておいた。

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