開店とほぼ同時刻にジュネス……ではなくスーパーに入店したからか食堂スペースには数えるほどしか人が居ない。
清掃のおじさんおばさんも目立ち、まだ準備時間と言った所だろうか。
食事も終わり、小休止も兼ねてコインゲームなどがある隣の娯楽スペースへ向かう。
コインゲームには一時期嵌っていて、ここのコイン預かり所には約1000枚預けられている。期限とかがあったのならもう無くなっていると思うけど。
女の子は空いている店内が珍しいのか、早歩きで隅から隅へと移動しては「ほ~」と感嘆の声を漏らしてコクコクと頷いている。
何が面白いのかは定かではないけど邪魔する気も起こらないので勝手にさせておく。
歩き回っていると金に余裕があるせいか、目に入った大きな貯金箱であるクレーンゲームの魔力に逆らえず100円玉を投下してしまう。
まぁ1回で取れたのでそのまま連続投下という大惨事には至らなくてよかった。
しかし問題なのは、スーパーにある台だと言うのに中身を確認せずにやってしまった所だろうか。
今俺の手にはガッチャマンのコスプレをしたガチャピン……ガッチャピンなる人形が握られている。
クレーンゲームは取る過程を楽しむ物なので景品はオマケだ。そして俺は別にこんな人形を欲しくは無い。要するに100円を無駄にしてしまった。
捨ててしまおうかと考えるが、これが100円の犠牲の元に手に入ったものだと思うと感慨深いものがある。
「満足」
「お、ちょうどいい所に来たな。これやる」
「……ムック?」
「カチャピンだから。あんな赤いモンジャラと一緒にしてやるな」
「よし。今日からお前の名前は『ムクたん』ですぞ~」
「人の話を聞けであります」
そこにちょうど良く女の子が来たため捨てるよりはマシという判断に至り、そのまま女の子の手に移乗されることになる。
ガッチャピン改めムクたんは後に我が家の一角に飾られ第2の同居人になる。
大分腹もこなれてきたので、そろそろ本来の目的へと戻ることする。
食堂エリアである4階から服飾スペースのある3階へと降りる。
仕事熱心だけど1人では着替えれなくて加えて言うと無口で無表情……ここまで言うと萌えキャラのような印象を受けるけれど要するにマネキンが俺達を出迎える。
余談だけど、要素だけを抜き出せば萌えキャラのように錯覚する奴はいっぱい居る。
例えば、ウェーブのかかったサラサラな銀髪・紫色のレオタード・ご主人様が大好きでご主人様のためなら死ねるという忠誠心
という萌え要素を持っていても、その正体がヴァニラ・アイスと言われれば嘔吐物である。分からないと人はおいでよ暗黒空間。
話を本筋へと戻し、大人女性用のコーナーを通り抜けて年頃の女の子用のコーナーへ向かう。
とりあえず買う物は下着一式と寝巻きを一着だ。予算は2万5千で、余裕があれば外着も買おうと思う。
買う物を告げて選んでくるように促すと、女の子はキョロキョロと2・3度クビを振った後、目的の品の場所を見つけたのか早足で向かっていく。
向かった先は下着売り場だ。
……同じ条件なら俺はまず洋服売り場を見に行くんだけどな。
外面に出る洋服をまず選ぶのでは無く、隠れて見えない下着を先に選ぶのは性別の違いか。
そういや、女の子は下着を沢山持っているのをアニメや漫画でよく見るなぁ。
予算も言っているので高い物は買わないはず、と不安に駆られた心で見守る。店員さんに白い目で見られないように遠くで、だ。
やがて買うものが決定したのか手を振って呼ばれる。
「これ、これをまず買う」
若干鼻息を荒くして頭上に掲げられたのは黒色のブラジャーとショーツだ。
ちらりと横を見るとジュニアブラジャー・ジュニアショーツと書かれて色々取り取りの下着が掛けられている。
「……こっちの白いのにしとけ。なんか黒はビッチぽいからヤダ」
「黒は優雅さや気高さを表すわたしにピッタリな色。個人の見解で物を言うのは間違っている」
「今までの行動を振り返ってお前のどこに優雅さや気高さがあったかと小一時間。というか、ショーツはいいとしてブラジャーはいらないだろ」
2度生で直接見てるわけで大きさがどのくらいな物かを知っている俺からしたらブラジャーを着けるのはブラジャーに失礼だ。
確認の意味を込めて女の子の胸を観察する。
やっぱりワンピースにもカーディガンにも、胸の膨らみによる影は見当たらない。ここは経費削減のためにもブラジャーは外すべきだ。
俺にとってはどうでもいい裸を見られたことを思い出したのか胸を腕で隠して女の子が赤くなる。
「今、失礼なこと考えてた」
「え? お前人の心読めんの?」
「読むまでも無い。視線で分かる」
「そこはかとなく超人臭がするセリフですね」
「貴方は成長期の子供の発育を舐めている」
「あーたしかにな。俺の親もすぐ大きくなるって言って制服やたらブカブカなの選んでたっけ」
「なのでブラジャーも買うべき」
「だが断る」
「わたしも女の子。他の女の子と同じ成長期の女の子。きっと成長する」
「でもなんとなくお前はそのままのような気がする」
「なんでそう決め付けるのか」
「顔付きからしてまずダメだな。胸が育ちそうに無い」
「誰が決めた。そんな理不尽なこと、誰が決めた」
「それは天の意思だ」
「天の意思っ? 神がそんなことを宣うものかっ! 神の前では何人たりとも平等なはずっ!」
「貧乳に神はいないっ!!」
「!!!!」
ガクン、と女の子は膝をついた。事実上勝敗は決して、勝者たる俺はブラジャーを元の場所に戻そうと女の子から取り上げる。
が、予想以上に強く握られており、取ることが出来ない。
そこで発育の絶望から復帰してきた女の子が俺の行動に気付き、俺に奪われないようにブラジャーを胸に抱える。
「シャー」と猫のように声を上げて俺を威嚇する女の子。
そろそろ周りの目も痛くなってきたのに気付き、俺のほうから身を引くことにした。
その代わりとしてもう1着下着を選ぶ時に黒はやめるように提案。その結果選ばれたのは水色の線が入った縞パンだった。
靴下も選んで、会計を済ませる時のレジの生暖かい視線は俺の心に深く刻み込まれた。
5000円を消費。セット価格美味しいです。
後は寝巻きだ。寝巻きが出来れば家着と兼用できるものがいい。
俺の意思を伝えるとまたキョロキョロとした後走り出し、店内の別店舗へと入っていく。
いい加減周りの視線にも慣れてきたので俺も後ろからついていく。
等身大の鏡に向けて合わせてみたり、値札を見てガッカリしたりと見てて飽きない行動を繰り返す女の子。
やがて品物が決まったのか、腕に服を抱えて戻ってくる。
「これ、これを買う」
持ってきた服を広げられる。
柄入りの薄ピンクのTシャツと黒の八部袖、ジャージをオシャレにしたようなズボン(残念ながら名前知らない)だ。
「無難すぎる件について」
「ガイアが俺にもっと輝けと言っている並にオサレな服買っていいの?」
「あれ合計何円するんだろうな」
「家買える」
「いやいやいや、それは無いだろっ!?」
見るからに無難すぎて突っ込みどころも思いつかず、そのままレジへ。
店内に入るときに「ロリコンいらっしゃーせー」と冗談交じりに店員に言われる。
思いっきり睨みつけたら、中途半端な笑みが完全に消え去りなんとも言えない表情になった。
設置されてたアンケート台の場所を思い出して後で苦情を書きにいこうと心に決める。
1万円を消費。ズボン高いです……。
予算1万が残り、取っておこうと思ったが、計算のうちだったのか外着を買う気満々の女の子が見えたので諦めることにする。
既に買う場所は決めているのか首振りはなく、代わりに俺の手を取って走り出す。
ひんやりとした感触が広がり、振り払おうかと考えたがやめることにした。
着いた場所はいかにも女の子しか来なさそうな少女チックな服屋だ。
狭い店内に所狭しと服が並べられ、重なるように壁に服がかけられている。装飾も凝っていて、ジャラジャラとそこらにアクセサリが飾られている。
金の都合からしてワンピース的なものぐらいしか買えないが、それを承知してるのか女の子はワンピースのコーナーを真剣に眺めている。
さっきにも増して時間が掛かり、ワンピースを手にとっては鏡で合わせるの繰り返し。
時間にして30分は立っただろうか、そろそろ待つのにも飽きてきた俺は服選びを手伝おうかと思いワンピースを眺める。
女の子の髪の色から考えると、色は何でも合うように思える。
何が似合うのかといくら考えてもキリが無い。さきの考えを捨てて、俺の好みで選ぶことにする。
というわけで俺の好きな色である青色を基準に品定めをする。
最終的には淡い青になったわけだけど、自分的に良い物を見つけられたので手に取ってみる。値段も8000円と予算内だ。
「これとか似合うんじゃないか?」
「お客様。こちらなどはいかがでしょうか」
鏡の前で集中していた女の子に2つの声が掛かる。1つは俺で、もう1つはこの店の女性店員だ。
女の子が振り返ってから俺と店員が目を合わせる。店員はニッコリと微笑む。
店員がその手に持っているのもワンピースであり、どことなくセンスを感じさせる作りをしていた。
チラリと見えた値札の値段も8000円で俺のと変わらない。
予想外の出来事に呆気に取られていた女の子が復帰する。俺の意見的にもあっちのほうがいいと思ったので、青のワンピースを素直に棚に戻す。
だが、女の子は店員のワンピースを取らずに俺が戻したほうを手に取る。
「これください」
少し困った顔を見せたが流石店員といった動作ですぐに青のワンピースを包む。
「……あっちのほうがいいと思うんだけど」
「こっちのほうがセンスが良い」
「そうか?」
「センス○」
「パワプロっ!?」
一応確認を取ってみるが、意思は変わらないようだ。
俺としてもそれで良いのなら文句は無い。1万円を払う。
「ちょっと待ってて」
お釣りを貰い、店を後にしようとする前に女の子に呼び止められる。
どうしたのかと訪ねる前に女の子はさっきの店に戻り、何やら店員と話した後店の奥に消えていく。
まぁ何事も無く、5分もしない内に女の子は戻ってきた。
「似合う?」
「さぁな。俺の趣味で選んだだけだからよくわからんね」
服装は違っていたけど。
その後、ダメになった鍋を買い直し1階に降りる。
この頃には人入りはピークを迎えており、人口3分の1になっても問題なくね? と思うぐらいにごった返していた。
1階には迷子センターや食品売り場や屋台などがある。
食品は後日バイト先で買うので得に用は無い。代わりと言うのかは定かじゃないけど、俺は屋台の一角に鯛焼き屋を見つける。
「鯛焼き買って来てくんない?」
鯛焼き屋を指差しながら女の子に言う。
女の子は半目で俺を睨んできた。明らかに以前の置き去り事件を思い出している。
「お前の分も買ってきていいからさ」
「パシりはヤダ」
「2個買って良いぞ」
「……仕方ないから買って来てあげる」
「安いなぁ……」
400円を渡して女の子を見送った時に気付く。中身の種類を指定していないことに。
心なしか駆け足になり気味に戻ってきた女の子に聞くと全部カスタードにしたそうだ。
「今度はちゃんと居た」
「ん。なんか言ったか?」
「別に」
流れように手を取られ、そのまま自転車置き場まで手を繋いだ。