止まれなかった少年の話   作:下弦の鬼

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次話、投稿したら一話日間に戻りまする。
大分駆け足でしたが、あの話を一日一話テンポでやってると「これ、よく分からんぞ」ってなりそうだったので(ガバ隠し)


母のような人と

 

 

 

「しのぶさん、カナエさん少し出かける」

「? 今日は休みでは……」

「そうよ、せっかく私としのぶも合わせたのに」

「大事な用がある」

「あらあら、友達が出来たのね。何てお名前かしら」

「知り合いの女医だ。行ってくる」

 

 それから少しして、蝶屋敷では嵐が起こった。

 

 

 

 

 逃げ出すように蝶屋敷から出て、浅草へと向かう。

 珠世と言う女性の鬼―俺からすれば人だけど―に出会ったのは結構前の事。

 浅草で血を集める者が出ると聞き、早速調査に向かった最中。人の幼子を連れた彼女と出会ったのだ。

 

『あの、申し訳ありませんがこの子の親を探すのを手伝ってくれませんか?』

 

 気配で鬼だと分かった。けれど、鬼と言うには余りにも穏やかな言葉と表情。

彼女の一言に俺は頷いてお付きの鬼である愈史郎君と共に親御さんを探し回ったのだ。そうして何とか送り届けて。彼女が無事に安堵の表情を浮かべたのを覚えている。

 その後たまたま鬼が通りがかったため、口を開く前に斬り捨てた。そこでようやく珠世さんも俺を鬼殺隊と知ったらしい。

 

『――すまない、鬼を斬る光景を見せてしまった。貴方達に害を及ぼしはしないから、安心してほしい』

『……私と愈史郎を斬らないのですか』

『俺が斬るのは鬼だけだ。貴方達は人だろう』

 

 俺の言葉に珠世さんは少しの間呆然として、それから懐かしむように微笑んで『ありがとう』と口にした。

 それから、彼女達との関係は徐々に出来上がってきて。

 今では彼女の為に鬼を斬り、その血を彼女に提供。鬼の知識を得ると共に無惨を倒すための研究へとつなげている。

 周囲に誰もいない事を確認し、血鬼術で隠された壁を通り抜けた。見えたのは一件の屋敷。どうやら彼女達も無惨に狙われているようであり、隠れ家を転々としているらしい。

 玄関から珠世さんが出迎えてくれた。いつ見ても鬼とは思えないよな……。

 

「失礼する」

「簡単なものしか出せませんが……」

「有難く」

 

 珠世さんの入れた紅茶うめェ。年上美女が入れた飲み物ってだけで高級品ですな。

 あの、それで……何でちょっと怒ったような顔してるんですかね。

 

「……上弦の鬼と交戦したと聞きました」

「……」

 

 何で知ってるんですか。

 

「何で知ってるんですか、と言う顔をしていますね」

「さすが珠世様!」

 

 このポーカーフェイス、結構自信あったんだけどなぁ。

 お館様にも結構見抜かれているから、もしかして表情豊かだったりする?

 

「分かる人には分かりますよ」

「……そうなのか」

「そうです。それにしても、既にここまで動かれているという事は……」

「戦ったのは上弦の弐だ。左肩から肺、動脈もいくつか斬られたが何とか生きてる」

「……体を検めても?」

「寧ろ頼む。何故体が治っているのかが分からない」

 

 珠世さん、無惨を倒すために鬼の研究をしているそうだ。その過程で医術にも精通しているとの事。

 ……これすぐ帰れると思ったけど遅くなるかもしれないなぁ。やべぇ、何て言い訳しよう。

 それはそれとして、年上美女に診察されるのは中々少年の心に響くものがある。

 上着を脱ぎ、体を診察してもらう。

 

「確かに、一見だと目立ちませんが僅かに痕が見えますね」

「同僚も不思議に思っていた。説明がつかないそうだ」

「……確かに。助かった事すら奇跡に等しいでしょう」

 

 珠世さん、背中指でなぞるのはダメです! あふん、ダメ!

 

「……雪さん、首と背中の二ヵ所に痣がありますね。これはいつから」

「背中は分からん、首は……後天的だろう」

「……なら背中は生まれつき、ですか。

 あまり、命を無下にするものではありませんよ」

 

 あの! あの! 息が! 艶めかしい息が背中にあたって! 

 いやいや、こういう時こそ冷静になれ俺。

 

「……分かっている。それで毒の方は」

「はい、こちらを」

 

 隊服を整えて。珠世さんがくれた資料に目を通す。うん、全然分からん。

 毒――と言うのは、しのぶさんが使用している毒の事でもある。無惨との戦いにおいて、珠世さんとの協力は不可欠。

 だとすればこの先、どこかで鬼殺隊と合流する事があるだろう。その時しのぶさんの力になればと思い、藤の花の毒や鬼を人に戻す薬の研究にも協力している。

 

「鬼が毒を注入された時、解毒のために作られる抗体の特定は終わりました。恐らく上弦の鬼だろうと、それは変わらないと思います。その抗体を破壊する毒さえ作れれば或いは――」

「……そこから先はしのぶさんと話すべきだ。俺では理解が及ばない」

「花柱補佐の方ですよね……」

「ああ、花柱のカナエさんは鬼を救いたいと言う夢を持っている。きっと、貴方達と鬼殺隊を結びつけるきっかけになる筈だ」

 

 多分その時はその時でちょっとした騒動とかあるんだろうけれど。それでも、きっとあの二人なら大丈夫。

 きっと二人ならどこまでも行ける。空へ羽ばたく蝶のように。

 

「――雪さん、貴方は鬼殺隊の方達に未来を生きて欲しいと思われているのですね」

「……優しい人達だからな」

 

 誰かの幸福のために命を懸ける人々。見ようによっては狂っていると思われるかもしれない。

 けれど他人にどう思われようと、誰かのために生きようとする彼らには。どうか幸せになって欲しい。穏やかに生きて欲しい。そう、思うのだ。

 

「ならば私は、貴方にも生きて欲しいと思います」

「……それは」

 

 出来ない。俺にはそれを叶える事は出来ない。

 言葉になんて出来ない。呪いになってしまうから。

 

「……次は何が必要だ」

「全く、貴方は……。

 そうですね、出来れば十二鬼月は欲しいところですが、雪さんのおかげで下弦の血液は十分すぎる程に採取出来ています。

 出来れば、出来ればですよ? 上弦か、無惨の血があれば切り札が出来るかと」

「……そうか、覚えておこう」

 

 どっちも手に入る機会が来ればいいけど、多分その時は死闘になるだろう。

 日ごろから覚悟をしておかねば。

 

 

 

 

 結局それから解放されたのは夜半ばの事。

 お土産に何か買っていこうと思ったが空いている店がある訳でもなく。仕方ないから鬼殺に向かう。

 やっぱり、何かしてないと落ち着かない。休もうとすると、心が疼く。

 

「八咫、鬼の場所を」

「怒ラレルケドイイノカ」

 

 おっ、今日は反抗的だな。おめぇ、この前のしのぶさんの件まだ引きずってるからな? 冨岡さんの鴉と共謀してたの知ってるからな?

 いつもやる木の実の量、一つ減らしてるからな?

 

「慣れてる」

「慣レルナ」

 

 ノリツッコミありがとう。お前がいるから寂しくねぇぜ。

 そういう訳だから本当に鬼の場所教えて。

 俺元々寝付き良くないし、夢見も悪いのよ。体動かしてた方が性に合うから。

 

「……頼むよ」

「……北北西! 北北西ニ向カエ!」

 

 さて、鬼の頸を取りに行きますか。

 今日も月が綺麗な夜だ。

 

 

 

 

「ふふふ、女医さんとの逢引き楽しかったかしら?」

「……」

 

 前言撤回します。勝ち目がありません。寧ろ戦う前から負けています。

 

「……八咫」

「カー」

 

 八咫、俺は鬼のいるところ案内してって言っただけで、誰も鬼のように怒ってる人とか言ってない。

 額と日輪刀持ってる手に血管浮き出てるもん。

 

「雪くんの鴉はいい子ね。私の言った事ちゃんと聞いてくれるもの」

「怒ラレロ! 怒ラレロ!」

 

 八咫が案内してくれたのは、完全武装したカナエさんのところでした。くそ、蝶屋敷と違う方向だったから完全に油断したわ。

 背後では戦闘の痕があるから、多分ここにいた鬼全員カナエさんが斬り捨てたんだろうなぁ。それで容姿一つ乱れてないからすごい。

 

「それで? 女医さんってどんな方なの? 綺麗な人? 綺麗な人よね、だってわざわざ蝶屋敷出てまで会いに行くような人なんだから」

 

 あかん、しのぶさんはともかくカナエさんが怒るのは本当に怖い。

 どうするかなぁ、言っちゃうかな。

 でも柱に知られたら不死川さん辺りが殺しにきそうだもんなぁ。粂野さんが止めてくれるとは思うけど。

 きっと当たり前の事なのだ。彼だけではない。大切な人を鬼に殺されればきっと怒り狂うにきまってる。

 俺だってあの時、カナエさんがもし上弦の弐に殺されていれば何日かかろうとやつの根城を突き止めて確実に殺しに行っていた。それこそ相討ちになっても構わない程に。

 

「聞いてますか?」

「……聞いている」

「じゃあ今、私の言った事口にしてみてください」

「…………すまない」

「……はあ」

 

 考え事ばかりするのは俺の悪い癖ですねホント。

 

「……貴方にとって、私はその程度なのかしら」

「何」

「私の事……嫌い?」

「――馬鹿、そんな事あるものか」

 

 見えたのは悲しみを浮かべた彼女の顔。

 それを見た瞬間硬い筈の表情が感情に溶かされて、心のままに言葉が出る。

 彼女を強く抱きしめた。

 

「え――」

「……」

「え、あ、あっ……」

 

 ……やっぱり言うべきなんだろうか。その人が鬼だと言う事に。

 カナエさんには、鬼と仲良くしたいと言う願いがある。それこそ星に祈るような、当ても無いモノ。

 ましてや柱でもある彼女が、鬼を匿うなどしていれば言語道断。下手すれば切腹だ。それほど鬼殺隊にとって、殺す事こそが正しい道。

 ここで言ってしまえば、多分楽になる。

 でもまだ無惨を倒す目処も、鬼殺隊が変わる切欠も何も見えていない。

 そんな状況で、珠世さんを鬼殺隊と合わせる? 無惨にその事が漏れてみろ。やつは鬼殺隊を殺すために十二鬼月を解き放ってくるに決まってる。

 鬼に捕まった隊士が情報を漏らさないと言う確信も無い。だから珠世さんの件はお館様と悲鳴嶼さんだけにしか伝えてないのだ。

 

「迷惑じゃなければ帰り道を共に、どうだろうか」

「……ええ、喜んで。帰り道には気を付けましょ」

 

 ならせめて、彼女に心配をかけた分はしっかりと付き合おう。

 そして蝶屋敷に帰った夜、俺はしのぶさんとアオイさんからも説教を受け、そしてカナヲからも怒られた。

 カナヲから説教はさすがに心にくるものがある。

 

 




大正コソコソ噂話

この夜、月は出ていない。
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