止まれなかった少年の話 作:下弦の鬼
「雪、さん……?」
彼が操る管が、刀を手繰り寄せる。
その右手に刃が握られた。
「――総員、戦闘体勢!!」
悲鳴嶼行冥が叫んだ。
鬼殺隊の柱としての矜持が、感情を抑え込んだ。
「神月雪が鬼にされた! 既に太陽を克服している!
――誰かを殺す前に、神月雪の!」
彼が刃を振りぬいた。彼方の建物が、その軌跡に沿うように斬られ、崩れ落ちた。
「頸を、落とせ!」
「……――何でよ、あの人が何をしたって言うのよ」
しのぶは、どうしようもない怒りに震えていた。眼前では、柱達が鬼となった神月雪と交戦しているも押されている。
無惨は死んだ。鬼の始祖が終わり、これ以上誰かの幸福が壊される事も無い。
そう思っていた。思っていたのに。
「こんなのって、あんまりじゃない」
「……」
カナエは呆然としたまま動けていない。
優しい人だと知っている。だから姉にあの人を斬らせる訳はいかない。
二つ目の鞘に手を当てる。
珠世と共同研究で出来上がった二つ目の毒。――上弦の鬼にすら通用し、その戦闘能力を大きく低下させる程の強力なモノ。
その毒と不死川玄弥が持つ鬼喰らいの体質が、上弦の壱から勝機をつかみ取った。
「――」
もしかすると、もしかするとこの毒が効いて。彼を鬼にしたモノだけが死んで、本来の彼が戻ってくるかもしれない。
そんな都合のいい未来を考えてしまう。
「――」
騒めく息を抑えつける。
高速で詰め寄り、複数の刺突。まだ彼は肉体が馴染んでいないのか、一部は回避する事が出来ずに直撃した。
これまではしのぶが使っていた毒。彼はそれを受けても、堪えた様子が無い。受けた傍からすぐに分解していた。
二つ目の鞘へ日輪刀を納めて、新たな毒を刃に宿す。
「……赦してくださいなんて言いません。恨んでください、憎んでください。
――私は、それでも貴方に」
だからどうか、彼を思い出す度にこれ以上辛い記憶が増えないように。
震える体と沸き上がる激情を抑えつけて。刃を突き出した。
「蟲の呼吸――」
繰り出された刺突はこれまでにない程に洗練されたモノ。――肉を貫いた瞬間、彼の口から血が零れた。
背中の管と両下肢に生えていた口が消失する。けれど彼は片膝すら着く事無く。その瞳にしのぶを映した。
「胡蝶、離れろ!」
「!」
彼が刃を握りしめる。
刀身が、呆然とする彼女の顔を写していた。
「っっっ!!!」
カナエが瞬時に割り込んで、その軌道を逸らす。
その背後から宇随天元が刀を構え――彼はすぐに離脱した。
「反応が、早ェな……! 胡蝶達は下がってろ! あの口と管潰せただけでも十分だ!」
「無惨……! 死んで尚もここまで不愉快な思いをさせるなんて……!
無駄に生きる事でしか何の取り得も無い醜男め!」
「珠世様……」
珠世と愈史郎に出来る事は、日陰で負傷した者達の治療を行う事だけ。
既に目隠しの札は日光が差しているため意味を為さず。これ以上二人に出来る事は無い。鬼にされた神月雪と鬼殺隊の戦いへ介入する事が出来ない。
無惨は死んだ――肉の鎧を広げた時、彼に自身の持つ全てを注ぎ込んだのだろう。最早時間の問題だ。まだ肉体が馴染み切っていないからこそ、死者は出ていないもののこれ以上長引けばどうなるか分からない。
彼の戦闘能力が秀でている事など、この場にいる全員が知っていた。もし鬼の始祖の肉体に彼が馴染み切ってしまったら、それは――。
鬼を人に戻す薬は、まだ残りこそあるが打ち込む隙が無い。――どうすればいい、どうすれば彼を救える。
「珠世さん!」
声に振り返る。竈門禰豆子――鬼から人に戻す薬を投与された彼女が、理性を以てそこに立っていた。
「禰豆子さん……! 人に戻れたのですね!」
「――私の血を、使ってください。鬼から人に戻った体なら……!」
――暗い絶望の中で、一筋の光が差す。
雪が鬼にされて――未だに光明見えぬまま、体力と希望だけが削り取られていく。
どうか悪夢であって欲しい。
どうか奇跡が起きて欲しい。
どうか彼が戻ってきて欲しい。
「雪……お前は、戦い続けているのか」
悲鳴嶼は、違和感に気づきその理由に思い至った。
柱と柱補佐達が総勢だが押されている。押されているにも関わらず――雪は、刀しか振るっておらず。管も衝撃波も、一度も使ってこない。
そして何より、誰一人として手傷を負っていないのだ。
「許せとは言わん。恨んでくれ」
――瞬間、声が聞こえる。かつての彼との日々を思い出す。
『俺を人に戻してくれた』
その顔が過ぎって、息が詰まった。
手が止まる。腕が強張る。
彼が時折見せる穏やかな表情。そして彼と共に看取った少女の顔。その記憶が決意を鈍らせる。
「――悲鳴嶼さん、下がってなァ。そういうのは俺の役目だ」
嵐が舞う。それはまるで疾風が大地を抉っていくように。
けれど、それを彼は造作もなく捌いていく。
「雪、いつか言ったよなァ。そん時が来たら俺が叩き斬ってやるって。
今がその時だ」
深緑の刃が振るうは風の呼吸。
交錯するは幾重も駆ける白刃の旋風。
(分かってたが強ェな雪……!)
彼自身、戦いしか出来ないと言っていた事を思い出す。他には何もない。ただ奪う事だけしか出来ない自分だと。
その都度、笑い飛ばしてやった。
(そんなんじゃねェ、テメェはちゃんと人へ与えてやれる人間だ。そして人の大事なモンを大事なまま、一緒に背負って歩いてやれる人間だ)
難しく考えるな、と何度思った事か。
(いつまでもそうやって、自分を誤魔化し続けるんじゃねぇぞ。テメェは幸せになりたいって口にしていいんだよ)
もっと早くに言ってやるべきだったと、後悔する。
好いてくれる女がいるのだから、気持ちを受け入れて共に未来を歩めばよかった。その背中を押してやれば良かった。
「テメェはどこかで折れるべきだったんだ。その分まで、俺が、きっちり戦ってやる。お前の分まで地獄を歩いてやるからよ。
だからもう、それ以上苦しむな」
瞬間、彼の刃が大きく振れる。実弥の体勢が崩された。
致命傷は避けられない一瞬。
「――雪!!」
粂野がその一刀を受け止めた。
全身が破裂したような衝撃が駆けて、地面へ足が沈む。
「なぁ……帰って来いよ、雪……! そんなのってさぁ、あんまりじゃないか。お前ばっか隠して、傷ついて。
一緒に同じ飯食べた仲なんだからさ、頼ってくれよ。俺も一緒に背負って、どこへだって歩いてやるからさ」
けれど、その声に彼は答えない。
刀ごと、粂野が吹き飛ばされる。
白刃が煌めく。彼が持ちうる剣の才が、無数の牙となって迫りくる。
「冨岡! 錆兎! 合わせろ!」
「分かっている!」
「義勇、やるぞ!」
炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり
水の呼吸 十壱ノ型 凪
粂野へ放たれた広範囲への斬撃を、冨岡義勇、煉獄杏寿郎、錆兎の三人が凌ぐ。
否、三人で無ければ凌げなかった。誰かが欠けていれば死人が出ていてもおかしくなかった。
「雪さん!!!」
――動き出そうとしたその体を、神楽の如き灼熱の斬撃が止める。
竈門炭治郎が、全霊を以て彼と刃を交錯させていた。
「違う……! こんなのは貴方じゃない!
貴方はもっと強かった! 貴方はもっと優しかった!
だって……だって、貴方は!」
炭治郎の瞳から涙が零れ落ちる。
斬れる筈が無い。傷つけられる筈が無い。
短い時間でしか無かったが、彼と過ごした時間は炭治郎にとって――。
「――兄のような人だったから!!」
瞬間、動きが止まった。
彼の手が震えていた。彼の息が荒れていた。
刀を落として頭を両手で抱えている。
「……お、れは……」
「雪さん!」
彼の肩を掴んで呼びかける。
今この時を逃してしまえば、もう二度と会えなくなってしまうと思ったから。
「負けちゃ駄目です! 戻ってきてください! まだ、たくさん! 貴方と話したい事が……!」
「雪、帰ってこい!!」
「雪!」
彼が雄叫びを上げ、飛びのく。そうして直立したまま糸が切れた人形のように俯いて。
その右手が落ちていた刀を握る。刃が赫く染まって――自らの首に刃を当てた。
「――ごめん」
縦に裂かれた瞳孔から涙が流れていた。けれどその奥に宿るのはある一つの覚悟と決意。
誰もがそれを止めようと走り出して。
――刃に鎖鎌が巻き付く。決して届かせまいと、繋ぎ止める。
「体を抑えろ!」
悲鳴嶼の声に弾かれるように、柱達が雪の体を抑えつける。
「地面に倒せ! 単独で抑えようとするな!」
「力を緩めるなよ! 二度と手ェ、放すな!」
「柱稽古思い出せェ! 絶対に死なせるんじゃねぇぞォ!」
隊士達が抑えていく。もがく彼の体にしがみついて、動かすまいと力を込める。
「! ――血清を持ってきて! 早く!!」
気が付けば、闇の中にいた。
ただ暗くて終わりが無い一人きりの道。どこまで歩いても、終わりが無い。
「――」
ここは、どこなんだろう。
暗闇の中で何も見えない。何もいない。何も見えない。
ただ、寒いなと思った。そしてどこか寂しい。一人で歩いていても、楽しくない。
……一人は、やっぱり嫌だな。
「――」
闇の中で、何かが落ちている。
小さな玉を繋げて一つの輪にしたようなもの。
どこかで、見た事があるような気がする。
何かを、忘れているような気がする。あの、温かくて優しい大きな手を。
「――」
歩く、歩く。
今度は匂いがした。どこかで嗅いだような甘い香り。
そして僅かに頬を撫でるそよ風。それはまるで導いてくれるかのよう。
何かを、忘れているような気がする。優しさを厳しさで隠した人を。
「――」
追っていく。誰かの落とし物だろうか。
それは多種多様。毬があれば、耳飾りもあり、子どもが一人入れる程の箱もあった。
持ち主のいない品物の跡を辿る。そのどれもが、どうしてか酷く懐かしい。
「これは」
落ちていた白い外套。それを手に取ると、どうしてか急に泣き出したくなる。
胸に温かいモノがこみ上げて、涙が零れそうになる。
『雪兄さん』
「――」
外套の下に隠されるように三本の簪が置かれている。
花の模様を基調とした、手作りだと一目で分かるそれは。
俺が、誰かに渡す筈の物だったのだと気づいた。
「――蝶」
目の前を一対の蝶が舞っている。
忘れてはいけない人達がいた。救うべき人達がいた。
――こんな自分を愛してくれた人達がいた。血に塗れた手を取ってくれた女性達がいた。ちっぽけな背中を信じてくれた男達がいた。
「……こ、ちょう」
その言葉を口にした時、脳裏に過ぎるは二人の少女。妹も同然だった大切な少女。生きる道を示してくれた男性。貴方達の為なら命を懸けられると思った仲間。
俺が守れなかった幸福の犠牲となった人々。
――そこでようやく、俺と言う自分を思い出す。
「フン、意識が目覚めたか。だが叶わない。お前がやるべきことは変わらん」
優しい人達。誰もが幸せを願っている中で、他人の幸福を守るために命を懸けた人々。
そんな彼らの声がどこか遠くから聞こえる。
それらは微かな光となって、一つに集まり、道標のように淡く輝く。
「――ひ、かり」
「今更戻って何になると言う。お前は鬼だ、鬼の王だ」
見えている。見えていると言うのに、足が動き出さない。このまま、消えてしまえば。このまま眠ってしまえばと思わずにはいられない。
ああ、そうだ。俺は自分が幸福になる事が許せなかった。誰も救えず、誰も守れず。そんな己がのうのうと幸せを享受する現実を受け入れられない。
もしそうなってしまえば、彼らは俺のために死んだ事になる。――背負える程、強い人間じゃない。
だから、足掻いて走って走って走り続けた。そして、残ったモノなどほとんどない。いつだってあったのは惨劇と血の跡だけ。
――俺はそっちに行けないよ。いっちゃいけないんだ。その幸せを、俺は受け入れちゃダメなんだ。
『……本当に?』
「――え」
後ろから軽やかな足取りで現れた一人の少女。白い着物の彼女は俺を覗き込む。その幼い顔立ちを見て、声が漏れた。
忘れられない、忘れる筈が無い。俺が信じてあげられなかった彼女。俺が弱いため、裏切って死なせてしまった人。
『兄さん、久しぶり。大きくなりましたね』
「あ、ぁあ……」
俺の、妹。鬼となって人を食わずに生き続けて、自ら太陽に焼かれて消滅した。
涙がこぼれる。彼女を抱きしめたい衝動に駆られて。掌に爪が食い込む程、強く握りしめた。
「ごめんっ……! ごめんっ! 俺がっ、俺が信じてあげられていたらっ!!」
『……私はね、最初から兄さんの事恨んでなかったですよ。だからそう背負い込まないで良かったのに。
兄さんは変わらない。強くて優しくて、誰かのために傷ついてあげられる人。そんな貴方だから、幸せになって欲しかった』
彼女は指差す。光集う道標を。
『――あの声はね、兄さんに生きて欲しいって叫んでる。皆が兄さんを戻すために、頑張り続けてる』
「……」
「黙れ、声を聞くな。貴様は鬼だ」
俺は、口にしてもいいのだろうか。
許されてもいいのだろうか。
あの光に手を伸ばして、明日へと続く祈りを。
『ここにいたら、兄さんは本当に死んでしまいます。あの場所に、優しい人達のところに帰ってこれなくなってしまう』
「……俺は、それで――」
『――本当に?』
その言葉に息を呑んだ。
『私はね、本心からの言葉が聞きたい。義務でも責任でもない、ただ純粋な感情が知りたい。
兄さんは、どうしたいの? 言いたい事を、言っていいんだよ。兄さんは生きているんだから』
「黙れ、耳を貸すな。お前が継ぐのだ、永遠を。究極の生を」
数多の日々を思う。沢山の皆を思う。
何でもない毎日。穏やかな日常。誰かが待ってくれていて、手を握ってくれる温もりに満ちた世界。
ほとんど何もない道を誰かと共に話しながら歩くだけでも、その一時すら幸せを感じられる程に。
「この世界は悲劇だ! 生きていても意味は無い。いずれ命は死に至る!
お前とて見てきたはずだ!」
――それでも。
「死ぬという事は何も無くなる! 今ある幸福もいつか形を変え不幸となって貴様を苦しめる!」
――それでも。
「不滅を願え! 永遠を口にしろ! そうすれば、お前は望むままの全てを手に出来る!
死と言う終わりを怯えながら待ち続ける必要も無い!」
――それでも。
「お、れは」
――それでも、まだ。
俺は。
「生きて、いたい」
その言葉を口にした時、心が少しだけ軽くなった。
縛りつけていた何かが僅かに緩む
『そっか、良かった。ようやく、自分の気持ちに気付けたんだ』
「……」
『……? どうしたの』
「……」
足が動かない。本当に、歩き出していいのかと。
ずっと縛り続けてきた痕がまだ、古傷となって疼いている。
――そう考えた時、背中を押されたような気がした。手を引かれたような気がした。
聞き覚えのある誰かの声がした。
『ありがとう、私達の息子になってくれて。例え血がつながっていなくても。親としての愛を与えてあげられた』
『カナエとしのぶを助けてくれてありがとう』
『ずっと言いたかったんだ。貴方のおかげで、悲鳴嶼さんにようやく伝えられた』
『最期に義勇と話をさせてくれた事を、恨む筈がありません』
『ようやく気が付きましたね。――これでやっと、私も杏寿郎達を導いてくれた恩を返せます』
『貴方は俺達隊士にとっての憧れです。だからどうか、俺達の事を枷と思わないで』
『生きてください。貴方が強く笑って、生きてくれる事を俺達は願っています』
――自分を、赦してくれる声。
誰かが背中を押してくれる。誰かが手を引いてくれる。
足が自然と動いていた。一歩踏み出す事に、少しずつ軽くなっていく。絡まっていた鎖が、自然に解けていく。
「待て! 行くな! そいつらの話を受け入れるな! 選ばれた証を投げ捨てるつもりか!?」
歩き続けて、ようやく彼女が待っている所までたどり着く。
『……ごめんなさい、兄さん。私のせいで、ずっと苦しめてしまった。
でも、それは全部私が持っていくから。あっちに戻っても、大丈夫。もう隙間から零れ落ちていく事は無いですから。
……辛かった……よね?』
「大丈夫だ、俺は兄で、長男なんだから。苦しくはあったけど、我慢出来ない程じゃなかった」
『……そっか。なら、約束ですよ兄さん。ちゃんと自分の気持ちに正直になって、相手の気持ちを受け止める事。
そうして、幸せになってね。
私、待ってるから。またこっちに来た時、沢山の話を聞かせてください』
「……ありがとう」
光へ手を伸ばして、ゆっくりと目を閉じた。
感じたのは眩い光景。昇る朝日が空を照らしている。
ああ、世界はこんなにも明るくて眩しかったのか。そんな簡単な事、もっと早くに気付けばよかった。
「…………痛い、ですよ。もう少し緩めて、ください」
「!! 雪、意識が」
悲鳴嶼さんが慌てた声なんて初めて聞いた。ならば余程絶望的だったのだろう。
無用な心配をかけてしまった。
「はい、大丈夫……。ちょっと疲れてますけど、ちゃんと帰ってきました、よ」
もう表情が硬くなる事も無い。素朴な感情を表に出して、少年のように生きていける。
「雪、くん……」
「カナエさんも、しのぶさんも、何て顔してるんです……。せっかく帰って来れたんですから、笑ってくださいよ」
「馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿……! 心配、したんだから……!」
「本当、にっ! 祈ったんですからねっ」
力の入らない腕を動かして、彼女達の涙を指で拭い取る。
左半身はほとんど力が入らない。でも、それでも今はこうして。生きて帰れて彼女達と話せた事が、たまらなく嬉しかった。
「雪、兄さん……」
「……カナヲ」
「……」
「ただいま」
「うん……っ! うんっ、お帰り、なさい!」
思い返せば一瞬の事。あれだけ長かった死闘も願いも感情も。全てが記憶の中で過去となってしまいこまれていく。
――全部、月が綺麗な長い夜の夢だったかのように。
「……ああ、良かった。さすがに兄さんが見てる前であんな事言える訳なかったですからね。理想の妹って言う印象を崩したくなかったですし」
「貴様ァ、貴様らのせいで、ようやくの永遠が……!」
「まだ言ってるんですか? 貴方、兄さんに全く相手にされてなかったじゃないですか。まぁ、兄さんはお人よしですから。わざと聞こえないフリしてたのかもしれませんけど。
ああ、そうだ。鬼の始祖だが何だか知りませんけどせっかくだから、貴方が地獄に落ちる前にこれだけは言わせてください。
――とっととくたばれ、糞野郎」