感染少女 ReBORN   作:キラトマト

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第九話 生まれと育ち

 ──あれから少し経って帰還しようとした僕達。

 

「ゲートが……崩落している……?」

 

 そう、あの化物によって倒壊した工場の瓦礫で外に出られなくなってしまったのだ。

 

「おいおい、さっきの戦闘で……崩れちまったってのか?」

 

 ありえない話ではない、けど、僕らと戦っている最中に崩されていたのだというなら、大量のゾンビが工場から溢れ出していたはず。一体いつ、誰がやったと言うのだ? 

 

「運が……悪かったというのか?」

 

「一難去ってまた一難、いや、あるいみ難の渦中から抜け出せていないだけか……」

 

「やーやー! なんだいなあんだい、ゲートが壊されたくらいで意気消沈しちゃってさー!」

 

「ゲートがないならお菓子を食べればいいじゃない」

 

「目の前の問題から逃げるな」

 

「しかしどうするサンくん、この量の瓦礫は素手でどかしきれるものじゃないぞ」

 

「とはいえ、どかすしか」

 

「あの、サン様。どかす必要はないのではないでしょうか?」

 

「甘噛、別の出入り口を使うってんなら、それは悪手だ」

 

「悪手、ですの?」

 

「つーかよ、話割って悪ぃが、そもそも行儀よく正常位噛まさなくてもいいだろ」

 

「せ、正常位?! ってそれとこれとでどんな繋がりがあるんだよ?」

 

「ハッ、つまりはだな、開発すりゃ存外、出し入れの穴なんざいくらでもあるって話だよ」

 

「つ、つまりは塀でもよじ登って、無理やり出ればいいってことだな。もっとはっきり言え、はっきり」

 

「そ」

 

「だが、残念だったな姫片。それは無理だ」

 

「無理? そりゃどういうこった」

 

「富野産業工業地帯ってのは、そもそも『伝導帯』最先端技術の宝庫なんだ」

 

「地図で見ればわかりやすいけど、ほら、外部から侵入出来ないように海に隔離されるようにできてる」

 

「つまり、逆もまた然り、と」

 

「そういうことです。だから、もし塀を登ったとしても断崖絶壁。そして唯一の交通ルートは北と南のメインゲートだけ」

 

「しかも南北に長い工業地帯だからさ、南から出るとなると5キロ位の道のりを歩いていかなきゃいけないんだ」

 

「うぬぬ、元の道にもどるにゃ骨折り大魔神ってわけだぁ……」

 

「骨折りどころかヘタすれば……いや確実に元来たルートで帰るのは不可能だ」

 

「まさか、こんな落とし穴にハマるとはな……こうも災難続きだと人は見えざる手を感じてしまうよ」

 

「ま、誰も死んでないんだからいいじゃないですか」

 

「それはそうだが……」

 

「さーさー、こりゃお菓子を食べつつ作戦会議死にゃならぬそうだねー」

 

「そこでなんだが、僕から皆に提案が有る」

 

「提案?」

 

「ああ、帰ることに変わりはないんだが」

 

「新花芽地区の南側を通って、そのまま東側から回って渚輪区北端まで戻るルートはどうだ?」

 

「こう、新花芽地区の周りを一周、ぐるっとまわる形だな」

 

 僕は地図を示し、道筋を表す。

 

「随分と……遠回りにならないかサンくん」

 

「一晩何処かで夜を明かしてから、明日の夕方に帰る予定です」

 

「ふむ、そのルートを推奨する根拠はなんでしょうか?」

 

「まず、南ゲートから出る時点で結局時間通りには帰れない」

 

「加えて新花芽地区の都心部は僕らの装備じゃ進行できない以上、結局新花芽地区を迂回するかたちになならざるを得ない」

 

「それに、海浜間横断橋を一度見ておきたいんです。どんな惨状なのか」

 

「ふむ。見ておくだけならいいが、突入するなどとは言わないだろうな?」

 

「もちろんですよ」

 

「であれば、許可する」

 

「素直に聞き入れてくれて感謝します」

 

 今回僕が軍事学校に寄ると言い出さなかったのは、あの姉妹のためだ。あんなか弱い少女を戦いに巻き込むのはあまりにも酷だ。

 

「これにて、ヘーイテーイ! ばんばん!」

 

「さぁーて、にゃるにゃるおっけー! 方向性は決まったね! なら余は事もなし!」

 

「ってなわけで、皆のシューよ! 我らのデパートを目指して、邁進せよー!」

 

 リーダーの掛け声により、僕らは工場地帯を南ゲートから脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 工業地帯を抜けて、早1時間。閑静な住宅街の通りには、蠢くようにゾンビで溢れていた。

 

「参謀さん。読みが甘かったことにつき、コメントはありますでしょうか?」

 

「あぁ、高所得者が住んでいるこの地区にこんなにゾンビがいるとは思っていなかったけど、ここまでは予想の範囲内だよ」

 

「では、この場をどうやって脱するというのですか?」

 

「それはもちろん──ー」

 

 僕は腕に絡みついている少女に声をかける。

 

「わたくしですわ!」

 

 甘噛はニマっと笑う。

 

「うっし、そうだねッ! ツヅリンの言う通り、あたしらはサンちゃんの指揮のもと突撃あるのみですぜぃ!」

 

 ──ーアドが全軍突撃命令を発令。エノルメ居住区強行横断が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「広々で滑りやすくて気持ちいです──ーはッ!」

 

「教えただろやちる、やりあうなら戦場もベッドも広いほうが快感だってな」

 

「……今言うなです」

 

「──ーしっかしサンちゃん、女性ものべつまくなしにゾンビ化してるわねい……」

 

「そうだな……しかし、平日の昼間の家庭に男性がいるとは思えないのだが……」

 

「もしかしたら年齢とともにウイルスへの免疫が無くなるのかもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってか、礼姉って金持ち中の金持ちじゃねぇか」

 

「え、そうなんですか?」

 

「謙遜すると嫌味に聞こえるから事実だけ言うが、両親の財は潤っていたな」

 

「礼姉から見れば、エノルメ居住区の奴らなんざ、豚小屋同然だろうさ」

 

「なら僕らの家はダンボールハウスレベルですね」

 

「尤も、娘である私にとっては何のステータスにもならないよ」

 

「人は生まれよりも、育ちが大切なのだ」

 

 生まれよりも育ち。クローンに言われると、より胸に響くな。

 

 ま、クローンだからといって、助けない理由にはならないんだけど。僕は決意を固め、ゾンビの波へと足取りを進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 居住区を進むにつれ、ゾンビの影はまばらになっていく。

 

「だいぶゾンビも減ってきたな。この調子なら、難なくエノルメを抜けられそうだな」

 

「ほら、もう怖くないぞ。二人とも」

 

 礼音さんは、気の陰に隠れていた二人の少女に声をかける。

 

「やって。行こか、沙南」

 

「……ぅん」

 

 二人は礼音さんの言葉に安心したのか、こちらに近付いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 居住区も終わりに近づき、ゾンビの数も少なくなってきた頃。

 

「なぁなぁーサンちゃーん」

 

「ん、どしたノーパン姫」

 

「ジョブチェンジ……しただと……」

 

「あ、いやさ。もしこのあと海浜間横断橋に着いてさ、ゾンビもいなくて普通に渡れそうだったらさ、どーする?」

 

「どーする、ってのは?」

 

「いや、そのまんまの意味ですけど。行動全部ぞ、全部」

 

「そーだな。まずは戦闘訓練講座を建てるかな」

 

「ほへ、何故に?」

 

「そりゃ、橋が生きてるなら日本の首都《東京》まで渡れるだろ?」

 

「あのさサンちゃん、日本じゃなくて極東大日本国。東京じゃなくて統京ね。それは50年前までの呼び方」

 

「あ、ああすまん。それで、理由はだよな?」

 

「そりゃ、ポートラルには40人近いみんなに、可能な限り訓練させてあげなきゃ、下手したら橋まですらたどりつけないだろ」

 

「……あたしらだけで、とりま統京に調査に行っちゃうって選択肢は?」

 

「それはないな。もし統京調査に行ったとしても、戻れる保証はどこにもない」

 

「もうデパートにみんなを置いてけぼりにゃできないだろ」

 

「みんなに幸せになって欲しいんだ。その対象に人間とかゾンビは関係ない」

 

「……。サンちゃんおぬし……」

 

 アドは僕に飛びつくように抱きついた。

 

「さぁぁぁぁぁんちゃんおぬしおぬしおぬしおぬし!」

 

「お、おいふざけっおま抱きつくな頬擦り付けるな気持ち悪い!」

 

「ふっふふーんよいではないかよいではないか!」

 

「そんな悪代官みたいなセリフを吐くな気持ち悪い!」

 

「ちょ、樽神名さん! サン様にくっつくと噛みつきますわよ!」

 

「……なぁやちる。だんだんポートラルがサンのハーレム化し始めてる気がすんだけど」

 

「唯一の種ですし……」

 

「はっ、種馬ならぬ種人間ってか」

 

「おいそこ! 姫片はともかく豹藤がそんな言葉いうんじゃない!」

 

「なんだよ私はともかく、って!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その会話を人知れず聞いていた少女が一人。

 

「人間とかゾンビとか関係ない、か……」

 

「ったく、お人好しなのよ。アンタは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、僕らは居住区を脱した。海浜間横断橋は、目と鼻の先である。

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