「────こうして、憎きモラトリアムを成敗した勇者ヒサギンは、助けたお姫様サンちゃんとともに」
「二人の幼女を助けるのでした──めでたしめでたぁしぃ……」
ミルクセーキのひげを作りながら、アドは朝食を囲む皆へと得意気に語った。
「僕は姫様じゃない。ってのは置いておいて、まぁ大体あってるよ」
「ふむ……私たちが寝ている間に、戦争が起きていたんですね」
「……かたじけない。何の役にもたてなかった……」
「ふっふふー、寝てても敵を退けちゃうなんて、もしかしてあたし天才ぞ?」
「起きてても仲間に引かれてる奴がなんか言ってんぞ」
「酷い!」
「ま、それで豪勢に朝飯にありつけてるわけだ」
「まぁな。ライブハウスの奥は、予想以上に入り組んでて沙織ちゃんに教えてもらったんだけどね」
「で、食料庫を見つけたから、こうやって食べてるってわけ」
「ありがとうな。沙織ちゃん」
「う、うん」
沙織が僕に脅えている気がするが、まぁ気のせいかだろう。
「で、だサンくん。いよいよもってだが」
「朝食中になんだが、今後の身の振りについて、一度検討しないか?」
「あ、ええ、軍の封鎖についてですね」
「しっかし、ヤバイ展開になってきたじゃねぇか。軍が封鎖するのはわかるが」
「トカゲのしっぽ切りじゃあるまい、殺そうってのは納得いかねぇよな」
「海浜橋の軍の対応からみても、信ぴょう性は高いと僕は考えている」
「日本政府は一体何を考えているのだろうか……。サンくん、過去の記憶から何か分かることはないか?」
「ああ、すみません。何も、思い出したことは……ないです」
「いや、別に責めているわけじゃないんだが……」
「まぁ、軍が敵って分かったことですし、僕らがやらなきゃいけない事はもう決まってるんですよ」
「なんだ、それは?」
「情報収集と戦力増強、渚輪区脱走路の確保です」
「真実を知り力を蓄え、この島から一秒でも早く出る、か」
「はい。まぁ大まかなプランですけどね。僕はこれを思いついたんですけど、みんなはどうかな?」
朝飯の合間に話す話題にしては些か重すぎたのか、みんな食べる手が止まり考え込んでしまった。
「サンちゃん、柚子胡椒とってー」
その沈黙を破ったのは、アドだった。
「たく、お前はいつも呑気なもんだな。ま、それがいいんだが。てか考えてんのかよ」
「考えてるよー」
「考えてるって……じゃあアドの意見を聞かせてもらうぞ」
「ようはさ、みんなで頑張って、元気ハツラツこの鳥かごから羽ばたくぞぇ! ってことだしょ?」
アドはそう言うと、あどけなく笑った。
ったく、うちのリーダがアドで良かったよ。
仲間の顔に、僅かに活力が戻りだす。
「うっし、────ってなわけで皆のシューよく聞け!」
「突如迫り来る巨悪、そして鳥籠世界の暗雲、だがあたしらにゃ、生まれ持っての翼がある!」
「ってなわけで、第一回『南の島までランデブー作戦』の延長続行をここに宣言するぜぃ!」
「作戦名変わってんぞ」
──ともあれ、各々が各々で、アドに応える。
未来が不明瞭だからこそ、調査作戦は、続行であった。
「ゆけーゆけゆけ邁進、前進、陪審員♪」
僕らはライブハウスを出て、さらに東へと歩き出した。
「サン様、次はどちらに向かわれるのですか?」
「ああ、まずは『鳳凰軍事学校』の偵察に向かおうと思ってる」
「偵察? 何故ですの?」
「あの軍事学校は既に政府軍が占拠してるんだ。って、朝の話聞いてなかったのか?」
「……サン様の向かう方角へ、御伴が叶えばどこでもいいですので」
「いやいや……」
「けれど、何故わざわざ偵察なんかに行くのですか?」
「分からないのか? 敵の戦力を把握しなきゃ、勝てる戦いも勝てないんだよ」
「それに、万が一襲われても、来栖崎がいるからね」
「サン様は……来栖崎さんのことを信頼してらっしゃるのですね」
「まぁな。でも、僕のことも頼って欲しいとは思うけどね」
「どういうことですの?」
「いや、僕って不死身じゃん? だからさ」
「不死身だったら、どんな扱いをされてもいいとお思いですの!?」
「甘噛?」
「あ、すみません。つい取り乱してしまいました」
「別にいいんだ。甘噛がそんなに僕のことで熱くなれるんだって思って」
「当たり前です。サン様は私の想い人ですから」
「しっかし、汗臭くてそろそろもたねぇよ、身体が」
「ええ……ですね。シャワー室の場所くらい、言い残してから逃げて欲しかったです」
「せめて下着替えてぇよ……マジで」
「シャワーくらい良いだろ。どうせあと数日でデパートに戻るんだからさ」
「はぁ……これだから童貞は」
「ど、どど童貞?! いやそんなわけないだろ! もしかしたら元の体ではモテモテだったかもしれないだろ!」
「だってよアド。サンの奴、まだ来栖崎と○○○○(自主規制)してねーんだってさ」
「は? ……粉物あんた……またぶちカカスわよ?」
「ブチカカス、ってサンのセリフじゃん。んな仲いいのに、サンも奥手だこって」
来栖崎が襲いかかる前にゾンビが襲いかかってくれたことで、喧嘩はお流れとなった。
「いいかよく聞け、童貞」
「クソッ、これで僕が卒業してたら覚えとけよ!」
「年中無休で女がいい匂いするわけじゃねーし、毛だって剃らなきゃボーボーになるんだよ」
「あたしらが普段、見た目にどんだけ気を使ってキープしてるか、知らねーだろ」
「ああ、そうなのか。大変だな、女子って」
正直、僕が元の時代にいた時は女性との関わりが少なくて、知識すらなかったんだ仕方がないだろう。
「ほらサン、礼姉みてみろよ」
「露出多い格好で来たこと後悔してる顔してるぜ?」
「……できれ足元は、見ないでくれると助かるよ」
「そういや甘噛、意外と身だしなみについてうるさいこと言わないんだな」
「サン様の……そういった水を割ったような性格は好きですよ……」
「わたくし、永久脱毛しておりますのでムダ毛処理はいりませんし、それにわたくし」
「今朝、シャワー浴びてきましたし」
「「「ふざけんなよお前ッ?!!」」」
一同から一斉に怒声が飛んでくる。
「お、おいてめぇ朝風呂浴びたってホントかよ?!」
「はい。シャワー室が奥にありまして、ペットボトルにお水も汲まれていましたので」
「てめぇ?! んで教えねぇんだよゲロ野郎?!」
「あらやだ、ゲロ臭いのは貴方たちですわ。くちゃい」
「くちゃいじゃねぇんだよ……猫かぶる女見るとぶち殺したくなるアレルギーなんだよあたしゃ」
「タオルドライに時間がかかりまして、朝食は食べれませんでしたけどね」
しばらく歩いていると、僕らは、巨大なショッピングモールを発見した。
「ねぇサンちゃん! ねぇねぇねぇねぇ遠くに見えるでっかい建物はぁぁぁ!」
「あれは……ショッピングモールだな」
「あれは確か『メグリエ』じゃないか。渚輪区随一を謳っているモールだった気がするが」
「ねぇねぇ! 駐車場も広いし、寄って行こうよぉー、ねぇーねぇー!」
「はしゃぐな、子供じゃあるまいし」
「しょぼんぬ」
「けどサン、通り道だしちょいとばかし寄り道したっていいんじゃねーのか」
「ダメとは言ってないぞ。ちょうど僕も休みたかったところだし」
「うっし、決まりだぜぃ! 全軍、ショッピングモールメグリエに突撃じゃぁぁ!」
「ちょ、そんなに急いで行ったら……!」
「私が止めて来ますッ、メグリエの入口で待ってますので!」
「ったく、あいつの体力は無尽蔵かよ……」
「しかし、実際私もショッピングモールに寄れるのは助かるよ」
「今直ぐに使いたいものが無いわけではないしな」
「そうですね。あ、そういえば!」
「ん、どうしたサンくん」
「いや、来栖崎に用が……」
「ああ、その事か」
「おい来栖崎、ショッピングモールに着いたらさ、ドラッグストアに寄ろう」
「さ し ず す る な」
「違うって、お前、体、臭くなってきてるし」
「……」
「ドラッグストアに制汗剤とボディーペーパーあったら、いいなって思ってさ」
「お前のその激臭も、多少は緩和されるはずだ」
「……」
無言のうちに、僕の顔に回し蹴りが放たれた。
「ぃって……ちょ、ごめんって」
何故だ。結構優しめに言ったはずなのに……
「死ね、ほんと死ねッ」
僕に追撃を与えると、来栖崎はスタスタとショッピングモールに行ってしまった。
「ったく、不死身だからってさぁ……」
「大丈夫ですの、サン様」
「あ、ああ……死ぬかと思ったよ。まぁ死なないんだけど」
「もう、来栖崎さんも最低ですわね……」
甘噛は僕を労わるように言った。
「サン様がここまで心配されているというのに、その気持ちも知らないで」
「……まったく、手が早い性格だけは直して欲しいよ」
「暴力振るう女性は最低です」
「けどまぁさ、来栖崎だって僕といることを強制されてるんだし、辛いことばっかりなんだよ」
「早く人間に戻してやらないとな……」
「わたくし、来栖崎さんが羨ましいですわ」
「ん、どういうことだ?」
「いえ、わたくしも来栖崎さんみたいに感染したいなーって、そしたら」
「わがまま言ってもサン様に優しくしてもらえるのかなー、なんて」
「いや、そんな都合のいいもんじゃないぞ。ゾンビ化ってのは。殺人衝動なんて、自殺したくなるくらいの苦しみらしいし」
「それに──────」
「もういいですわ。言わなくて」
「すまん。嫌な話を聞かせてしまったな」
「じゃあ僕は来栖崎に謝らないといけないから先行っとくよ。甘噛も早く来いよー!」
僕は場の空気を悪くさせて居心地が悪くなったので、逃げるようにショッピングモールへと走っていった。
「......」
「......なにそれ」