感染少女 ReBORN   作:キラトマト

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第十四話 感染

「……三階から下……この量降りれんのか」

 

 踊り場に蠢くゾンビの山に、僕は絶句し一歩引いてしまった。

 

「安心してくださいまし、サン様ッ!」

 

「わたくしが今日まで鍛えてきたのは、貴方をお守りするためだったんですから!」

 

「一人で無茶をするな甘噛!」

 

「はぁぁああああ!」

 

 僕は夢氷姉妹に群がるゾンビを排除していく。

 

「おい甘噛! 先走りすぎだ!」

 

「大丈夫ですの、このくらいの量────ッ」

 

 少し、甘噛はほんの少し油断しただけであった。その少しの油断がゾンビにとって格好の的であった。

 

 甘噛が、甘噛の腕にゾンビが噛み付いていた。まるで僕の腕に絡みつくときように。

 

「やっろぉぉおおお! よくもぉぉおおお!」

 

「ちょ、ばっ、ケツパッ!」

 

 僕は甘噛にまとわりついていたゾンビを殺す。そして、力なく倒れる甘噛を抱きかかえる。

 

「おいバカッ! 何僕に気とられてんだよ! おい! 返事をしろ!」

 

「ぁ……あが……ぇ」

 

 感染しているということが、目の色から伺える。今すぐにでも、僕の血を分けてあげたいが、分けた後の結末を僕は知っている。

 

 そのせいで、僕は彼女を治してあげることを躊躇ってしまう。

 

 感染者は、即処分。その掟は知っている。でもだからといってゾンビ化する苦しみを甘噛に背負わせてもいいのだろうか。

 

「さ……ぁんぁま……」

 

「甘噛、お前……」

 

「ぁたし……おやくに……たててます……?」

 

 胸が、締め付けられる。

 

「ちょ、ねぇッ!」

 

「しゃがんでるアンタ守るの、ちょっと大変なんだけどッ!」

 

「僕は……僕は……僕はぁぁあああッ!」

 

 僕は右手の人差し指を噛み切り、血を滴らせる。

 

「ちょっ……何してんのよ!?」

 

 来栖崎の鉄拳が、僕の背後の壁を撃ち抜いた。

 

「まさか、甘噛にも私と同じ苦しみを背負わせる気?!」

 

「苦しみ……わかってるよッ! でも、ここで見殺しにしてもいい理由にはならない!?」

 

「だったら、私との約束はどうしたんだよッ!」

 

「分かってるッ、お前が最優先だ! いつだってお前が一番だッ、僕の中では!」

 

「……ッ、勝手にしなさいよッ!」

 

 僕は急いで甘噛の口に血を分け与える。

 

「……ぁむ……」

 

「ほら飲め、少しでいい……直ぐに助かるから!」

 

「はぁ……ったく」

 

 来栖崎は、呆れながらも、内心ホッとしたような声を出した。

 

 そして、甘噛が血を飲みきる2分間の間、ずっとゾンビと戦ってくれた。

 

 あぁ……僕は来栖崎のこういうところが、好きだったんだな。

 

 でも、来栖崎には待っている人がいるんだ、僕が来栖崎を好きになってはいけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、サン様」

 

「この生命、貴方に────捧げますわ」

 

 そう言って、甘噛はゾンビの大群に単騎で向かって行った。そして甘噛は、ゾンビたちを次々と倒していき、最後の一匹を倒し終え、甘噛は僕の元へ駆け寄ってきた。

 

「サン様! 見てくださいッ! わたくし、もう誰にも負けませんわ!」

 

「あ、ああ」

 

「サン様の血が、身体の隅々まで浸透するのを感じますものッ!」

 

「あ、甘噛、すまん」

 

「え、なぜ謝るのですか?」

 

「お前をこんな体にしちまって、こんな呪いをかけちまって、本当にすまん!!」

 

「サン様……」

 

「はいはい、暗い空気はここまで、さっさと外に出るわよ」

 

「ああ、そうだな……みんなと合流しないと」

 

 そして僕らは一階東出口まで辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉぉぉっぉかったよぉ! サンちゃんたち!!」

 

 自動ドアの前で待っていたアドが大手を振るった。

 

「アドッ、皆は!?」

 

「出口でゾンビと戦ってるよ!」

 

「良かった無事か!」

 

「そりゃこっちのセリフだよっ、サンちゃんたちが一番最上階だったから心配だったんだぜ」

 

「サオリンもサナミンもこのお兄ちゃんに悪いことされなかったかい?」

 

「おいバカ、そんなことするわけねーだろ」

 

「まぁ、ヒサギンもいたし、心配はなかったけどねぃ!」

 

「ヒサギンもツヅリンもおつ!」

 

「……」

 

「ありゃヒサギン?」

 

「ふふ、それより急ぎましょう! 今の私、誰にも負ける気がしませんもの!」

 

「ねー、サン様」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

「さぁ、一緒におゆきましょう。私から、片時も離れないでくださいまし」

 

「いや、悪いがそれは出来ない。僕も戦うんでな」

 

「あ、そうでしたね……」

 

「……??」

 

「良く分かんにゃいけど、とにかく急ぐぞよ!」

 

「……。……」

 

 僕は振り返って、来栖崎の顔を伺うことが、どうしても出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……れは……まさか……!」

 

 地平線まで見えそうな広い駐車場に、ゆらぁり、と浮かぶ巨大な腐乱死体。

 

「ドゥルル、ドォルルル、ドゥル」

 

「変異種か」

 

 全長12mはある、その巨大な変異種は、緩慢な動作で僕らへと接近を開始した。

 

「……まるで巨人だな」

 

「あんなんどうやって倒すんだよ」

 

「サンくん……後門はゾンビの用、前門は巨大ゾンビ」

 

「わたくしが、殺りますわ────」

 

「ああ、頼んだ」

 

 ズドォンッ、と甘噛は地面を砕き、大ジャンプをかます。

 

「ちょ、えっ……ツヅリンまさかッ?!」

 

「説明は後だ。早く加勢するぞ!」

 

 来栖崎も加勢し、巨大ゾンビとの戦闘が開始された。

 

「くっ、僕が注意を引く! 甘噛は背後にまわれ! 来栖崎は奴のトドメを!」

 

 

 

 

 

 

 

「ドゥル……ドゥドゥ……」

 

 僕の指揮もあってか、変異種は、轟音とともにその身を駐車場に沈めた。

 

 ゾンビ化寸前の、二人の少女を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぉぉ、っぉごごぉぉぉぼぼ」

 

「ぁぁがぁぁぁぁぁ」

 

「来栖崎ッ! 甘噛ッ!」

 

 地べたに這いずり、悶絶する二人の元へ駆けつけた僕は、

 

「今すぐ血を────あぐぁっ」

 

 二人とも、餌にありつく獣のように僕にかぶりついた。

 

 来栖崎は右腕に、甘噛は無造作に左肩口に。僕は押し倒される。

 

「落ち着け落ち着け、ゆっくりだ、ゆっくり飲むんだ」

 

「ごろ……じだぃぁぐあぁ」

 

「ああ、分かったからな、ほら、今は血を」

 

「さ、サンくん……これはっ」

 

「礼音さん……ごめんなさい、甘噛が感染してしまって……」

 

「それで……僕の血を」

 

「貴方って人はッ」

 

「ぼぉぉぼおおぉぼぁ……あぁ……はぁ」

 

「もう大丈夫だ。あばれるな」

 

「……ぁぼ……ふぅ……ふぅ……」

 

 二分ほどで────徐々に二人の殺人衝動は収まり、程なくして僕の体から歯を抜いた。

 

「大丈夫か……来栖崎……甘噛」

 

「別に……異常ないし」

 

 何事も無かったように、来栖崎は遠くに落ちている刀を拾いに行った。

 

「甘噛、お前も大丈夫か? 体に異常はないか?」

 

「……。……」

 

「……本当……だったんだ……」

 

 甘噛は、両手で自分を抱きしめ、ガタガタと震えていた。

 

「落ち着け甘噛、もう安心しろ。人間に戻れたんだからいいじゃないか」

 

「サンくん、ちょっとこっちに来てくれないか」

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