「少し、話をしたい」
甘噛は今、地べたに這いつくばっている。こうなったら僕に出来ることは何も無い。
僕は一度甘噛から離れ、礼音さんと密談した。
「すみません。甘噛まで感染させてしまって」
「いやサンくん、君を責めるつもりは一切ないよ」
「それに、感染させた、って君がわざと感染させたのか?」
「……いえ」
「感染させようという意思は?」
「……いえ」
「なら気に負うな。甘噛が感染してしまったのは仕方のないことだった。ただ、今後どうしていくか、君の展望を聞かせてくれないか?」
「今後……ですか」
「そうだ。当然、甘噛くんを追放する選択肢は私が責任をもって排除するし」
「君の意志を尊重したいと思っている」
「だが、君にもキャパシティの限界がある」
「今後……もし誰かが感染した時……君は何人まで……助け続ける気だ?」
「何人まで……ですか」
「でも、僕は助けたいんです」
それは偽善だ。
「見殺しにするなんてできません」
ただの自己満足だ。
「違うッ!」
「……サンくん!? どうかしたのか? 私には君を責めるつもりは……」
「ただ私は、君の荷を少しでも軽くしたいだけなんだ」
「礼音さん……」
「────よぉぉぉし! 皆のしゅー、強敵は倒されたわけだし!」
「元気いっぱいで次へ進むぞぉい!」
遠くでアドが激励を発し始めた。
「うっし、ツヅリンも元気だしなーって、ささ! 君たちはMVPぞ!」
「今夜寝床に着いたらみんなで胴上げしちゃるから、今は出発進行なすの浅漬けだぜぃー!」
「え、僕も?」
「当たり前だよ! 三人が討ち取ったわけなんだから!」
「はぁ……」
「来栖崎もそうため息つくなって、胴上げなんて中々されないぜ?」
「樽神名さん……」
「……わかりましたわ、胴上げ楽しみにしておきますわ」
「ん? なんか甘噛いつもと違くないか?」
「そんな、いつもと同じですよ! サン様!」
「いいねぇ! その意気だよツヅリン!」
アドの号令に合わせ、各自準備を開始する。
「樽神名さん……一つお願いが……」
「およ、なんぞ?」
「躰を……動かすのが……もう怖くて……護身用に拳銃を……一丁貸して貰えません?」
僕はそれを遠耳に聞き、アドを呼び出す。
「おーい、アド! ちょっと用があるんだけど!」
「サンちゃんちょっと待って! 今取り込み中だから」
「いや、急用なんだ! 早く来てくれ!」
「まったく、サンちゃんは強引だねぃー。じゃあツヅリンちょっとまってて!」
「……わかりましたわ……」
「あのさアド、頼みがあるんだけど」
「お、サンちゃんもかい?」
「甘噛に渡す拳銃の弾を抜いておいて欲しいんだ」
「なんでそれ知ってるの? まさか、盗み聞きでもしたの?」
「まぁ、そんなとこ。そんなことより弾を抜いて欲しいんだよ。嫌な予感がしてさ」
「まぁ、サンちゃんの頼みなら……」
「マジか!? 本っ当にありがとう!」
「そんな大袈裟に感謝されても……、まぁ弾は抜いておくから安心して」
そういって、弾を取りだしたあと、甘噛の元へ走りながら戻っていくアド。
「おーい! ツヅリン! またせたねぃー!」
「遅いですわ。全く」
「えへへ、ごめんごめん」
「えっと、拳銃だっけ? はい」
そう言って甘噛に拳銃を渡すアド。
「すみません礼音さん。待たせてしまって」
「いや、気にしていないよそれよりも」
「ひとまず、今夜までお互い、じっくり考えよう」
「君が気に病まずとも、きっとこの世に最善策は存在する」
「焦らず、一緒に考えていけばいい」
「一緒に……」
「私から見て、君は何一つとして間違ったことはしちゃいない」
「みんな君に、感謝してるんだよ」
「そうなんですか……」
「じゃ、僕はここら辺で────」
パァン。と、銃声が鳴った。
振り返った先には、銃を持って困惑している甘噛がいた。その事態に、誰一人として理解しているものはいなかった。僕を除いて
その甘噛から拳銃を取り上げ、甘噛に問いかける。
「甘噛。今何しようとしたんだ?」
「そ、それは……」
「なにしようとしたって聞いてんだよ! 答えろ!」
「……撃とうと……しました」
「何故だ?! なんで今打つ必要がある!」
「……死……のうと……して」
「何故だ! 殺人衝動が怖いからか!? 追い出されるのが怖いからか?!」
「……はい」
「誰もお前を追い出したりしない! 殺人衝動だって、慣れればなんてことない! だから、お願いだから……」
「もう二度と、死のうとなんて、しないでくれッ!」
来栖崎が近付いてくる。
「ちょ、来栖崎ッ」
「だまれケツパッ! アンタはコイツのこと好きなんじゃないの?! なのになんで自分だけ死のうとしてんのよ!」
「来栖崎……」
みんなが事態を理解したのか、こちらへ近付いてくる。
「どうしたのだ!? これは一体……」
「……説明は後でお願いします」
「甘噛。一旦、休もうか」
「……サン様、すみません」
その後、僕らはつかれた躰を癒すため、近くの小さな小屋で翌日の朝まで、休息することにした。
────────────────────────────その夜、僕は夢を見た。
パァン、と背後から銃声が聞こえた。
振り返るとそこには──────甘噛の死体があった。
「え?」
どういうことだ……アドには言っておいたはずだ。なんで死んでいるんだ?
「あ、甘噛? おいおい死んだフリはやめろって、なぁおい!」
「甘噛! 甘噛! 甘噛……」
「ぅ、ぅぁぁぁぁあああああ!」
僕は思わず叫んでしまう。
「僕のせいだ僕のせいだ僕が悪いんだ僕がぁあああ!」
────────────────────────────
「うわぁぁああ! はぁ……夢か」
「うるさくて寝れないだけど」
「ん、一体なんですの? こんな夜中に。ってサン様ッ、大丈夫ですの!?」
「ああ、少し嫌な夢を見てな」
「そんなことですの」
「って、お前ら目が……」
「早く飲め!」
僕は慌てて指を噛み切り、差し出す。