「……作戦、開始だ」
20時、きっかり。唸りを上げた軍用車が学校西側のバリケードに突っ込んだ。
「何事だッ?! 敵襲か?!」
「申し訳ありませんッ! ハンドリングが故障してしまい!」
栗子が軍人らしいかしこまった口調で政府軍の増援へと返答する。
「あれは娶小隊の軍車ッ!」
「わー、とまりませーん」
突っ込んだ車は、そのまま校庭を暴れ、そのままバリケードを壊して周り、最後反対側のバリケードから出ていった。
「何が起きた?!」
「い、いえそれが娶(めと)小隊の軍用車が校庭に直撃でッ」
「はぁ?! あの女、何をやってるんだ!」
表の騒動から離れ──校舎裏に潜む僕ら。
「よし来栖崎、音爆の時間だ」
「……。……はいはい」
来栖崎が石ころ状のものを数十個投げる。そして、校庭へと寸分の狂いもなく降り注ぐ。
「ビビビビ!」
「な、なんだ!?」
「と、突如空から……ぼ、防犯ブザーが落ちてまいりましたッ!?」
「はぁ?!」
「た、隊長っ! 音につられて、ぞ、ゾンビが大量に侵入してきました!」
「な、なにぃ!? 直ぐに防犯ブザーを破壊しろ!」
「そ、それが……次から次へと降ってきて、既に30個を超えてますッ!」
「ま、全く意味がわからん! 飛んできている出処を探せ!」
「そ、それが……ほぼ垂直空から……落ちてきているので……」
「な、なんだって!」
「ぞ、ゾンビが数十、いや数百を超えてッ!!」
「くそッ、急ぎ迎撃に当たれッ!」
来栖崎が投げた防犯ブザーは、彼女の運動神経だよりに、高度100mから落下している。
「よっし、ざまぁねぇぜ! さっさと侵入するぞッ!」
甘噛が門と扉を蹴破り、────僕らは校舎に突入した。
軍服に変装して。
「戦闘は最小限にッ、目指すはトップがいる部屋だッ」
「4階からしらみ潰しにするのが早いッ」
「本当に校長室じゃ、ないんですかね?」
「いや、その可能性はゼロじゃないが、軍事拠点で入口近くに司令室を作るバカはいない!」
「そうですか……」
「お、おい待てお前たち! 今は外のゾンビを掃討しろと命令が!」
「あ、いえ、リーダーに緊急で届けないといけない書類がありまして」
勿論、嘘である。一か八かの賭けなのだが……
ここでリーダーの居場所を吐いてくれればいいのだが。
「そうかッ、だが少佐殿は2階校長室だろう、なぜ上に?」
「あほ」
「あほ、ですね」
「ありがとさん、軍人さん」
「なッ……」
僕はその言葉と共に、居場所を教えてくれたありがたーい軍人を気絶させる。
「ふぅ……」
「何カッコつけてんのダサすぎワロタ」
「それよりっ、2階に行くんでしょう!」
「じゃ、行きますか!」
「む、何処の所属だ止ま────ぐわぁ!」
「上出来だ。甘噛」
「ふふー、サン様ー。もっと褒めてくださいまし」
「帰ったらしてあげるから、それに来栖崎もそう不機嫌にならずに……」
「……別にいつもと同じだし」
「おい、お前たちッ! そこでなにして────」
来栖崎が問いかけてきた軍人を切り捨てる。
「な、なぜ仲間を攻撃している!」
「邪魔だよ」
僕も来栖崎に続いて軍人の頭を掴んで、地に叩きつける。
「まったく、サンくんも随分と脳筋になってきたみたいだね」
「来栖崎程じゃありませんよ」
「……それって、どういう意味?」
「い、いや、悪い意味じゃなくて」
「貴様たち! そこで何を────」
「来栖崎! 甘噛!」
「分かってるッ!」
「了解しましたわ!」
そこから、軍人の増援が駆けつけて、戦闘がはじまる。
「よしッ、校長室はもう目と鼻の先だ」
「外のゾンビ掃討も、そろそろ終わりそうです!」
「大丈夫、僕らの方が少しばかり────早いッ」
「校長室です! ですが、扉の前に護衛が……」
「来栖崎ッ、強行突破だ!」
「ははっ、もとよりそのつもりよ!」
そういえば、最近来栖崎、僕に対して反抗しなくなってきたな。嬉しいことだが、僕なんかが来栖崎と────
「ボーッとすんじゃないわよ!」
「ハッ……すまん!」
「まったく、私が倒してやったんだから、感謝くらいしなさいよね!」
「あ、あぁ、ありがとうな。来栖崎」
「智将さん! はやく校長室へ!」
百喰さんの一喝で、僕は本来の目的を思い出し、急いで校長室へと入る。
「な、なんだ貴様らは……」
「では、神峰透露を出してもらおうか」
「な、なぜその名を……!」
「おや、お呼びかな? 少年くん」
そこに現れたのは────この後化物にされてしまう少女と、一人の紳士であった。
「──────ッ!」
僕はすぐに戦闘態勢にはいる。
「おやぁ、そこまで怖がらなくてもいいんだよ?」
「お前が、神峰透露か……?」
「そうだが、なぜ私の名前を知っているのかな?」
彼のその飄々とした態度に、僕の怒りが有頂天に達してしまい、奴へと殴りかかってしまいそうになるが、来栖崎に取り押さえられてしまう。
「離せよ! アイツが……アイツが……!」
「もう殺させたりさせる訳にはいかないでしょ! ちょっとは頭冷やせ! ケツパ!」
「いやぁ、怖い怖い。私を殺そうというのかね?」
「では仕方がない、これを使うか……」
「来栖崎ッ! 奴を取り押さえろ! またあの化物が……!」
「なんですって?!」
来栖崎は急いで透露へと駆けるが、一歩遅く、少女へと注射器が刺されてしまう。
「嫌っ……あっ……やめぇぁぁぃやああああぁ゛ば……ぁああぐぇ」
「野郎、よくもぉおおお!!!」
「来栖崎ッ! その刀を寄越せ!」
「いや、私がトドメをさすわ」
「だったら早く! あの少女が意識を失う前にっ!」
来栖崎が少女だったものを切り捨て、神峰透露の首筋へと刀を突きつける。急いで僕もやつの元へと駆けつける。
「おい、お前は今、あの少女に何をした」
「少女? ……ああ、そこの産声形態、いや、なりそこないのことか」
「ああ、そうだ」
「おいおい、それは誤解だ少年」
「そもそも、元となった素体は少女じゃない」
「クローン、と言ってな」
「知っているッ! でも、クローンでも、感情がある限りは人間なんだよ!」
「お前は、それをあんな化物にしたんだ。罪は償ってもらう」
「おや、私を殺そうというのかね?」
「ああそうだ」
「ちょ、ケツパあんた……!」
「透露さんっ!! 逃げて!!」
「チィッ、少佐か!」
生き残った少佐によって僕たちにスモーク弾が撃たれる。
そして、やつが逃げた後、手榴弾が投げ込まれる。
「危ない来栖崎ッ!」
僕は咄嗟に来栖崎を押し倒して庇う。
「皆ッ、作戦は失敗だッ! 早く逃げるぞ!」
「姫片ッ!」
「サン、てめぇが一番おせぇんだよ! 早く乗れ!」
みんなが乗った軍用車が現れる。
「来栖崎ッ、動けるか?! 早く乗るぞ!」
「わ……分かってるわよ!」
僕らは急いで校舎から脱出して、車へと乗り込む。
「武器庫にたんまり武器があったから乗っけてきたけどよ──」
「ありがとう、助かる!」
「それより早く帰還するぞ!」
「では、作戦会議を始めます」
「まず、やつが言っていたクローンについて」
「これはこのポートラルの存続に関わるかもしれない話なんですけど、言った方がいいですかね」
「もちろんだよ! それに、今までそれを乗り越えてきたんだから、なんとかなるって!」
「じゃあ、言いますね。礼音が……クローン……でした」
一同、驚愕! と、なると思っていたのだが、みんな余りいつもと変わっていないように見える。
「ちょ、みんな、なんか反応は無いのか!?」
「な、なんだってぇええ!? こうか?」
姫片がふざけた声を出す。
「別に、驚きはないよ、サンちゃん。人外ならサンちゃんもいるしね。それに、アヤネルはクローンである以前に、私たちの味方だもん!」
「アドッ」
「モグッチ、それに、あの注射器を撃たれない限り、人間なんだよ」
「アド……」
「サン様が守ると仰るなら、わたくしもついて行きますわ」
「それに、サンが不死身ってことよりは現実味あんだろーよ」
「姫片くん……サンくん」
「サンくんの分も感謝するよ。ありがとう」