「すみません……みんな、クローンは……一人もいませんでした」
僕がそう告げると、真っ先に百喰さんが口を開く。
「だから言ったでしょう!」
「いや、何の成果もなかった訳ではありません」
「ふむ。そこで何があったのだ? サンくん」
「ビーカーの中に入っていたのは、全て、いやひとつを除いてあの化け物が入っていました」
「なんだって?! 数はどれくらいだ?!」
「十は超えていると思います。逃げるのに必死で正確な数字は分かりませんけど」
「じゅ、十!?」
「そこまで驚く必要は無いよ、あの男、完全に僕らのことをなめてる。だから多分、そんな数、一気に投入するようなことはしてこないと思うよ」
「で、こっからが本題なんだけど、奴らの本拠地が判明したんです」
「なんだって、それは真かぃ!? サンちゃん!」
アドが僕の方を興味津々、といったふうに見つめてくる。
「はい、まぁ判明っていうか、思い出したんですけどね」
「では発表しますね」
みんなが真剣にこちらを見つめてくる。
「────斜目病院です」
「そうか……斜目病院の裏側って海、崖だもんね」
アドが納得したような言葉を発するが、僕は詳細な情報は知らないのではぐらかす。
「まぁ細かいことはわかりませんが、とにかくそこを破壊すれば僕らは脱出ってことです」
「まぁ、作戦としてはこうです」
僕は用意していた作戦用紙を配る。
「これは……正気か? サンくん」
「はぁ・・・やっぱりそうなりますよね。僕も戦力がかなり少ないと思ってたんです。でも、これ以上の戦力となると……」
「そっか……いや、いい案があるよ! サンちゃん!」
「ん? なんだよアド」
「それはね……他の生存組合の力を借りればいいんだよ!」
「あ、そっか」
そうだよ、僕はなんて簡単なことを見落としていたのだろう。あ
一人でできないのならば、力を借りれば良かったんだ。
そして、無事に渚輪区最大級の生存組合『メルター』と『ポートラル』の同盟が結ばれたあと、僕らはお嬢様気質なメンバーばかり揃えている特異な生存組合『アリスメイト』、凄腕のメカニックを揃えている『ビルドサンダーズ』、知識で今日まで生き残ってきた『ラベル』その他三つの生存組合との同盟を結んだ僕達。
「で、メンバーは揃ったことだしよぉ、あと1つ、決め忘れてること、ねぇか?」
姫片がそう僕に問いかけるが、なんのことかサッパリだ。
「え、他になんかあるのか?」
「へっ、忘れるなんざお前らしくねぇな。私が惚れたサンはどこいったんだよ」
「惚れるな。早く言え」
「作戦成功率に直結する、重大事……決めなきゃなんねぇだろ」
「────打ち上げで、何食うかをよ」
「ッスー、じゃ、これで作戦の説明は────」
「肉がいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
女豹どもの叫喚が響き渡った。
「そうだよッ!!! 本州戻ったら肉焼き屋さん行こうずッ!!」
「え! 肉?! 肉食べていいの?!」
「肉なのですか?! サン様と会食……ワクワクしますわ!」
「ああ、だが安心亭じゃダメだぜ! 叙々苑にすんぞ!!」
「トラジィも捨てがたし……」
「わ、私はしゃぶしゃぶが」
「やかねぇ肉になんの価値があんだよカマトトが!」
「カマトトッ?!」
そうだ、忘れていたよ。僕は、コイツらに、生きて脱出して欲しかったんだ。そのためには、たっぷりご褒美をあげないとな。
「分かったよ! 連れてってやんよ! でもなぁ、叙々苑なんていうチェーン店じゃ満足しねぇだろ?!」
「ここは、個室ひとつにつき料理人一人つく、時価の店によぉ……連れてってやんよ!」
「……ぁぁ……。……ぁぅ」
涙と感動で、遂に言葉さえ失うアマゾネスだった。
「「生きててよかったよぉ……時価……時価ぁ……」」
「接待……料理人が……ぅぁぅ……」
「だからよ────絶対に、生きて帰ってこい……!」
「頑張りますぅ……絶対……生きて帰るよぉ……時価ぁ」
ふぅ……じゃ、あとはどこかに大金が落ちてるのを、祈るしかないな。
────翌週 作戦決行日
決戦の日の、日が沈む────。
夕日に照らされた僕達、『渚輪連合軍』
これから運命を共にし、運命に反逆する──総勢875名。
「説明の時も言ったが甘噛、お前は姫片の方に着いてもらう。いいな?」
「はい。分かっておりますとも、帰ったらご褒美をくれるんでしたよね?」
「ああ、たっぷりな」
「じゃ、これで全員か?」
「ああ、いつでも行けるぜ!」
「では、これより!! 政府軍本拠地攻略作戦を……決行するッ!!」
夜陰に乗じ、本命別部隊である僕と来栖崎の二人は静かに雑木林を進んだ。
そして歩くこと数分、僕らは斜目病院裏口が視認できる位置までたどり着いた。
僕らの耳に、数多の銃声が届いた。
「あいつら、軍隊相手に本当に勝てるの?」
「いや、別に勝つつもりは無い、時間稼ぎだよ」
「本命は僕達だよ。だからこそ、アイツら四人を」
「連絡を取らせる間もなく沈めたい」
「準備はいいか、来栖崎?」
「ひさぎ」
来栖崎が唐突に自分の名前を発する。
「え?」
「もう、下の名前で呼びなさい」
「……いいのか?」
「……ずっと。ずっと前から準備はいいわよ」
「了解した」
「みんなと約束したんだ。絶対に生き残れよ? ひさぎ」
「もちろんよ、……ケツパ」
ひさぎは刀を持って、飛び出した。
「はい、いっちょ上がり」
「流石ひさぎ」
「これくらいで褒めんな、逆に凹むわ」
「じゃ、そろそろ突入するか!」
裏口のキーロックを真綾の記憶を頼りに打ち込んでいく。
「アンタ、知ってんの?」
「真綾の記憶を頼りに打ってみたら正解でした」
「透露はどこにいると思う?」
「そんなの、決まってるじゃないですか。────僕のいるところ、ですよ」
話していると、角で軍人と出くわす。
「やらせるかよっと」
僕は二振りの剣で連絡を取ろうとしていた軍人を切り捨てる。
「なんかずっと軍人いなくない?」
「外の部隊が頑張ってくれてるんだろ、なにしろ900人近くいるんだしさ」
「っと、近道はここだ。ここの先にある掃除用具室を真っ直ぐ進めば」
「近道って、大丈夫なの? 塞がれてたりしないでしょうね?」
「そこは、神様に祈るしかない」
「こんなときに神頼み? 全く、作戦立案者がこんなんで大丈夫かしら」
「いたぞッ、侵入者!」
「チィッ!」
僕は急いで軍人を切り捨てるが、応援を呼ばれてしまう。
「すまん応援を呼ばれてしまった! 早く用具室に入るぞッ!」
「これで抜け道が塞がれてたら、袋の鼠と私ね」
「なんでお前だけ鼠じゃねーんだよ」
「私、鼠嫌いですしチーズも嫌いですしお寿司」
「どうやらネズミ役はいらなそうだよ、ひさぎ」
隠し通路へと続く扉が、僕らを歓迎するかのように開かれる。
隠し通路は横幅3mほどの狭く暗い道だった。
「埃っぽくて……ごほっ……マフラー汚れちゃうんだけど」
「贅沢言うなって、脱出したら洗濯してやるから」
「……そう、ならいいわ」
そうやって話していると、途端に開けたドーム状のシェルターにたどり着く。そこには、一人の男性と、二人の少女が待ち構えていた。
「ふふ、会いたかったよ────」
「……いくぞ、ひさぎ」
「……分かってるわよ」
僕たちは、透露の話を聞く暇もなく、となりの少女たちへと突撃する。
「神峰さんには指一本────」
「────くらいしか触れさせない、だと言いますッ!!」
「アイツを殺す前に、まずはお前たちなんだよッ!」
僕は青いのに対して、二振りの剣を投げる。
「当たらないですッ!!!」
「ふっ、避けたな。ひさぎッ!!」
「了解ッ!!」
ひさぎが避けたばかりで身動きが取れない青いのに対して、刀を振り下ろす。そして、青いのは体が分離しないまでも、切り捨てられ、地に転がり込む。
「阿繭?!」
「クソッ……だといいますッ!」
「……言ってろ」
冷静さを欠いた攻撃が当たるはずもなく、僕は難なく躱し、背後から剣を突き刺す。
「へぇ。まさか、君も成長したとはね」
しかし、透露は部下が殺されたのにも関わらず、ずっと平静なままだ。
「黙れ」
僕は、透露の首筋に、剣を突き立てる。
「神を────撃つ気なのか少年」
僕は右手に力を込める。そして、剣を振り下ろそうとしたそのとき。
「……こいつは……!」
ポケットに両手を突っ込んだまま微動だにしない神峰を守護するように、『彼』は姿を現した。
「不死の兵『アタナトイ』そのお手本だ」
「こいつは……どうやって作った……?」
「おや、そんなことが気になるのかい? それは街を歩いていた失敗作を利用して作った、生命体だよ」
「ああそうか、分かったよ……! ひさぎ、こいつの相手は僕がする」
「なんでよッ!?」
「こいつのモデルは恐らく、お前の恋人、月詠真司だ」
「……ぅそ……ぇ?」
「…………真司?」
「……ひさぎは下がってて」
「ふっふふー、来栖崎くん。────君の素性を調べさせてもらったよ」
「お前が……お前にひさぎの何がわかるッ!?」
僕は『彼』に向かって突撃する。そして一直線に頭へ向かって剣を突き立てようとする。が、それは叶わず『彼』の腕のひと振りで僕は地面に叩きつけられ、内臓がグチャグチャになる感覚を憶える。
はっ、こんな惨状でも再生って、出来るもんなのかな? 不死身って。まぁ、もうどうでもいいや。ひさぎが気力を失っている以上、僕らに勝ち目はないんだから。
「……ぇ? ケツパ……?」
それでも、必死に僕を起こそうとするひさぎ。どうせもうすぐ死ぬというのに。
「なんで……だって私は……」
途切れそうな意識の中、伝えたかったことを言葉に出そうとする。
「……ずっと前から……好き……だったよ……ひさぎ」
「────ッ」
「そんなことッ、生きて言いなさいよ……」
────そのとき、僕は一時的に、死ぬことになる。
「サン……」
「……おおばか……ゃろぅだ」
私は、最後の最後でサンを裏切ってしまった。
ゾンビになった私を、私は私と言ってくれたサンを、ポートラルに見捨てられたとき、たった一人味方になってくれたサンを、悪態ばっかつくこんなウザい女を見限らないでくれたサンを、私なんかのことを人間と言ってくれたサンを、もう、逃げずに最後まで愛しきると決めたサンを、
────最後の最後に心で、裏切ってしまった。あぁ、ごめん……
なんで貴方は……こんな私すらも守るのよ?
貴方は……貴方は私の何よ?
ねぇ……貴方は私のなに? 答えてよ、ねぇ
サンはッ──、
「……ねぇ、サン」
結局、一度もサンって、呼べなかった。あの夜、練習したのに、ずっと練習したのに……言えなかった。今日だって、チャンスはあったのに……。最後まで……悪口しか……言えなかったよ。
「……サン」
外から見れば不思議と外傷はなく、生きていると錯覚しそうな身体を抱きかかえる。
「……もうすぐさ……私もそっち逝くからさ……」
「……どこまでも……。……」
「……ついていくからさ……」
「だったら、それはかなり後になるな」
「え?」
突然、サンから声がかけられる。どこかと辺りを見渡してみる。
「なに驚いてんだよ、僕は不死身って言っただろう?」
抱き抱えていたサンから、声が発せられる。
『彼』を倒し、第二陣の変異種すらも圧倒して倒した僕は透露に問いかける。
「さぁて神峰透露。ひさぎを泣かせた落とし前は、どうするつもりだ?」
「……馬鹿な」
「答えろよ。なぁおい」
「私には君と喋っている時間は無いのだよ」
「……逃げるのか?」
マズイ。ここで逃げられたら非常にマズイ、今はひさぎに輸血中だ。動けるわけがない。
「逃げきれると思ってんのか?!」
なので、僕は透露を挑発するが、意にも返さず、スタスタと通路を進んでいく。
「逃げきるさ────」
「君には、その輸血を、中断するわけにはいかないのだろう?」
この場で透露を逃がすのはマズイ。が、それよりもひさぎを失うことの方がマズイ。つまり、ここは輸血を続ける選択をした方がいいということだ。
そして、ひさぎの感染度や、傷が修復した後。
「ひさぎ、お前はここで安静にしていろ。透露は僕が殺る」
「なんでっ」
「お前は……よく頑張ったよ。だから、ここはぼくに──」
「私も行く。あんたに独り占めなんてさせないわよ」
ひさぎはニパっと笑ってそう返事をする。
「あぁ、分かったよ。じゃ、一緒に行こう」
遂に決戦が終わるッ!! サンの想いとは……!
次回 感染少女 ReBORN 感染×少女