感染少女 ReBORN   作:キラトマト

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第二十一話 感染×少女

 ────今、僕とひさぎは隠し通路を全速力で走っているところである。

 

「クソッ、透露の奴、ゾンビを解放してやがんじゃねぇか!」

 

 隠し通路には、行く手を遮るように変異種ゾンビで溢れかえっていた。

 

「神峰の奴、どうあっても私を殺したいみたいね」

 

「大丈夫だひさぎ。僕が守るから」

 

「アンタに守られるほど弱くないわ」

 

 ひさぎは口では強気なことを言っているが、体はボロボロだ。血を飲んでも身体の欠損部位までは治りきらなかったようだ。

 

「腕がそんなんじゃ、勝てるもんも勝てねーだろ」

 

「ゾンビ相手に、怪我とかハンデにもならないわ」

 

「じゃあ、僕も戦わさせてくれないか?」

 

「アンタには神峰と戦うために温存させなきゃいかないんだから」

 

 今だけは私に任せて、とひさぎは隻腕のまま斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れ伏す変異種を見下し、隻腕のひさぎは刀を納めた。

 

「はっ、この程度のゾンビで殺せるって思われてるなら、心外ね」

 

「いや、恐らく透露は時間稼ぎをしようとしているだけだと思う」

 

「今ごろ、僕が何者かどうか、調べてるんじゃねぇか?」

 

「はっ。まるで彼氏が来る前に、急いで部屋の片付けしてるみたいね」

 

「彼氏……か。お前にも……」

 

「……失言」

 

 緩い足取りとは裏腹に、僕らは真摯な眼差しで研究室前へと立った。後は扉を開けるだけ、開ければきっと、それで全てが終わる。

 

「……ねぇ」

 

 と、ひさぎは僕の上着の袖を引っ張った。

 

「……サン」

 

「ん? なんだ」

 

「……。……抱いて」

 

「だ、だだだっ、抱いて?!」

 

 突然の申し出に僕は、驚きを隠さずにはいられなかった。

 

「……ちょっとだけ……抱きしめて」

 

 あ、あぁ、そういう事か……びっくりさせるなよな、ホントに。

 

「……少し……怖いわ」

 

(怖いのも、仕方ないよな)

 

「ひさぎ……」

 

 僕はそっとひさぎの腰に手をまわす。

 

「ッ……」

 

 ゆっくり、身体を引き寄せる。

 

「……サン」

 

「僕が、僕が絶対に幸せにする」

 

「…………ぇ?」

 

「……これだけは言わせてくれ…………好きだ」

 

 僕はひさぎの頭頂部を撫でる。あぁ、僕って、ホントに酷いやつだな。恋人を殺しておいて今更好きだなんて。

 

「……。……夢みたい」

 

 え? まさか、こんな僕を、受け入れてくれると言うのか? ひさぎは

 

「全部、夢だったら良かったのにな」

 

 今、こんな願望を言ったって無駄なことはわかっている。でも、夢だったのなら、誰も死なず、幸せな暮らしをしていたことだろう。

 

「…………いやよ。もし夢だったら、貴方に出会えないもの」

 

 そう言って、ひさぎは片手だけなのにも関わらず、目一杯の力で僕の胸に顔をうずくめる。

 

「……ぁぃぅぃ」

 

 あぁ、この時間が、ずっと続けばいいのに。

 

「行こう、ひさぎ。時間がもうない」

 

 だが、時と言うのは残酷なものだ。こんなことをしていたら表の陽動部隊が全滅してしまう。

 

「……。……ねぇ、あとでもっと」

 

「抱きしめるなら、何度でもいいぞ」

 

「……それ以上も」

 

 それ以上、か。

 

「あぁ、当然だ」

 

「えへ……頑張れそうだわ」

 

「だから、生きて……帰るぞ……!」

 

「ふふ、分かってるわよ。そんなこと」

 

「……よし、開けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな、透露さんよぉ」

 

 部屋の中央には、神峰透露が一人、立っていた。

 

「誰も待っていないよ──と、偏見で物を言おうか」

 

「よくここまでたどり着いたね、と口上を述べるのが礼儀かな」

 

(いちいち回りくどいんだよ、てめぇは)

 

 この部屋には、透露一人しかいなく、部下は誰一人としていなかった。

 

「ふふ、自らここに戻ってくるとは────」

 

「御託はいいから、さっさと薬を渡せ」

 

「薬、とはそこの感染少女──来栖崎ひさぎくんの感染症状を永久に消す、薬のことかな?」

 

「ああ、その薬だ」

 

「まさか、なんの代償もなく手に入れようというのかな?」

 

「いや、こっちだって無償でくれと言ってるわけじゃない」

 

「さ、サンッ私そんな薬いら──」

 

「取引だ。こちらの要求は二つ」

 

「ほぅ。では聞かせてもらえるかな?」

 

「はい。まず一つ目はその薬、二つ目は生存組合の解放、並びに安全の保障。以上が僕からの要求です」

 

「ふっ、そんなことでいいのか? その程度なら、無償で引き受けよう」

 

「それは本当か?!」

 

「本当だ、私は嘘はつかないよ」

 

「ということは、取引成立だな?」

 

「あぁ、最大限の協力をしよう」

 

 僕は不本意ながらも透露と握手をして、一時的に同盟を結ぶ。

 

「ちょ、本気なの?!」

 

(ま、どうせみんなが脱出したあとにこいつは殺すんだけど)

 

「あぁ、本気だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、両軍に対して、停戦命令を出した透露。

 

「では、薬を渡してください」

 

「ああ、取ってくるから待っていてくれ」

 

 そして、透露が部屋から出たあとすぐに、ひさぎが問いかけてくる。

 

「アンタ、アイツと組んだの?!」

 

「いや、組んだわけじゃないさ。お前を治す薬を受け取ってこの島から脱出、ハッピーエンドだろ?」

 

「……ッ、あんたはどうすんのよ?!」

 

「あぁ、僕のことなら心配しないでくれ」

 

「心配しないでくれ、って────」

 

 すると、ガチャリ、とドアが開く。

 

「船は用意したよ。あと薬も」

 

 そう言って薬を手渡される。

 

(ひさぎ、合図でここから逃げるぞ)

 

(サンッ……、分かったわ)

 

 そして、指で合図をし、それと同時に僕らはここから脱出する。

 

 だが、船着き場で待っていたのは、ほんの十数人の連合軍だけであった。

 

「表の軍人たちはどうしたんだ?!」

 

 僕は最大の疑問を問いかける。

 

「サン様、あいつらは全員私たちが排除しましたわ。サン様が態々停戦命令を出さなくても、勝っていましたわ」

 

「全員って、マジでか?!」

 

「はい、マジですわ!」

 

 そう言って甘噛は僕の体に飛びついてくる。

 

「でも、ここにいないメンバーは……?」

 

「ああそうだ、こっちは甘噛がいたから生き残れたけどよぉ、ほかの生存組合は……」

 

「でも、僕の知らない子がいるようだけど」

 

 そう言って、一度も顔を見た事のない子たちの方を指さす。

 

「あ、あの子たちはね! 『ビルドサンダーズ』のリーダー、三鍵梨花ちゃんって子でね────」

 

「いや、もういい。それより早く船を出すぞ!」

 

 僕がそう言うと、梨花って子が、真っ先に船の操縦室へと急ぐ。

 

 確か、『ビルドサンダーズ』はメカニックが得意な生存組合だったよな……。うろ覚えだが。

 

「しゅっぱーつ!!」

 

 アドの元気いっぱいの号令とともに、船は無事出港する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ひさぎ、もう薬、打っていいぞ」

 

 そう、この施設を脱出するまでひさぎには薬を打たないように言っていたのだ。理由は当然、道中に軍人がいても対応できるようにだが、杞憂だったようだ。

 

「……う、うん。分かったわ。あの、さ、サン。最後にもう一回、血飲ませてくれない?」

 

「あー、ずるいですよ来栖崎さん! 私はもう人間に戻ったというのに!」

 

「まあまあ、落ち着けって甘噛。約束したろ? 終わったらご褒美をあげるって」

 

「じゃ、最後の輸血。いくぞ」

 

 僕が腕を差し出すと、ひさぎはゆっくりと僕の腕を咥えて血を啜り始める。

 

「よし、これでいいか?」

 

「ん。じゃあサン、薬頂戴」

 

「はい」

 

 僕が薬の入った容器を渡す。すると、ひさぎはそれを飲み干し、みるみるうちに欠損した右腕も再生していく。

 

「まじかよ……」

 

 姫片が驚嘆する。

 

「良かったな、ひさぎ」

 

「……うん、……ありがとう」

 

「てかさ、いつの間に名前呼びになったの?」

 

「あぁ、アド、まぁいつの間にかって感じかな」

 

「「えぇぇぇええええ」」

 

「お、おいあの犬猿コンビが……!?」

 

「……まさかな展開です」

 

「え、兄ちゃんたち付き合ってんのか!?」

 

「……お姉ちゃん……それ、触れない方が」

 

「サン様が幸せになってくれれば、それでいいのですわ」

 

 みんなが口々に野次をとばす。

 

「名前呼びってだけで付き合ってるとか……、なぁひさぎ」

 

 共感を求めようとひさぎを見ると、顔が真っ赤に染っていた。

 

「ど、どうしたんだ?! まさか、あの薬効力がなかったのか!?」

 

「ちーがうわよ! このバカッ!」

 

 僕はひさぎから全力ビンタを受けてしまう。

 

「ちょひさぎ、なにすんだよ!」

 

 すると、またみんなが野次をとばす。

 

「あれはないよね?」

 

 それはひさぎに対するものだと思っていたのだが、

 

「まじ鈍感すぎー」

 

 その内容を聞いていくうちに、

 

「智将さん……あなた……」

 

 僕に対するものだと判明する。いや、僕なんか失礼なことしたのか? 少なくとも心配しただけで失礼と言われる筋合いは無いのだが……

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