後から悔やむと書いて、後悔。だが、今更後悔たって無駄だということは、僕にもわかる。今追いかけても間に合わないということもわかる。
「……んで……なんでだよッ!?」
あの姉妹は、工業地帯で助けた。先を知っているからこそ、いや、知らなくても僕は、助けただろう。なのに……こんなの……。
「あんまりじゃないか……」
嘆いていると、遠くから僕を呼ぶ声が、微かに聞こえた。
「サンくん!! サンくん!!」
上空から一人と、
「サンー!! サンー!!」
地上から一人の声が。
そして、僕を見つけたのか知らないけど、僕がいる場所へと急接近する、足音と空を切る音が聞こえてきた。
「サンッ!!」
「サンくんッ!!」
「ひさぎ……! それに……礼音さん……?」
なぜ場所がわかったのだろうか。……いや、考えるまでもないだろう。あれだけ大きな音がしたのだ。聞こえていても不思議じゃない。
「サンッ! 何があったの?! それにあの姉妹は?!」
「……んで……なんでもっと早く来てくれなかったんだよッ!?」
八つ当たりだ。それは自分でもわかってる。
「ちょっと、サン……」
「……もっと僕が強ければ……ふたりは……!」
口から溢れる言葉に、もはや止める術はなかった。
「サンくんッ!」
「なんで……助けたはずなのに……」
助けるべきではなかった? そんな考えが、頭に浮かんでは消えてゆく。
「……なにがあったか、話してもらえるかしら」
ひさぎは、僕を叱るでもなく、ただ慈愛に満ちた口調で、僕に問いかける。
「あれは……」
僕はひさぎと礼音さんに事の顛末を説明する。
「沙織くんと沙南くんが……」
目に涙を浮かべる礼音さん。
「でも、その狼みたいな怪物は、ふたりを連れ帰ったんでしょ?」
「……あぁ」
「だったら、生きてるかもしれないじゃない」
「でも沙織ちゃんの方はゾンビ化していたんだぞ?!」
「なのに、言葉を話せていた。……それどころか喰う対象であるはずの沙南の身体を庇っていた。……もしかしたら、その狼とやらは、ゾンビ化を無くせるのかもね」
……なんだって?
「あぁー、今のはただの憶測だから、あんま宛にしないでよね?」
「……それで十分だ。でも、僅かでも希望を持たせてくれて……ありがとう。ひさぎ」
僕は、ひさぎに精一杯の感謝の意を示した。
「……ご褒美」
「え?」
「だから、ご褒美」
「……わかったよ……」
(可愛いやつめ)
僕の唇と彼女の唇が触れる瞬間……。
「ストーップ!!」
騒がしい。
「サンちゃんもヒサギンもイチャつきすぎ!!」
「「そうだそうだ!!」」
うるさい猿が一匹と、野次馬アマゾネスが十匹近く……。
「お前ら……お前ら……!!」
だが、今はさほどうざくは感じなかった。いや、感じていたのだろうがそれを上回る安心感が勝ったのであろう。
「……生きててくれて、ありがとう」
僕は、心からの言葉を一同に送る。夢氷姉妹どころか、ポートラルのみんなまで失ったら、僕は立ち直れる自信がない。
「サン様がいる限り、私は何度でも立ち上がりますの」
……どこの太陽の子だよそりゃ。
「「じゃあ……ご褒美!!」」
ポートラル一同が、僕……いや、ひさぎを茶化す。
「……ッ」
すると、みるみるうちにひさぎの顔は赤に染まっていき……。
「……あんたら、絶対殺すっ」
「……ふっ、ははっ、あはははははっ」
心地がいい、というのはこういうことを言うのであろう。いつものポートラル、いつものやり取り……幸せだ。
「じゃあ、帰るか。僕たちの『家』に」
するとアドが気まずそうに口を開く。
「それがサンちゃん、……私たちがいたあの一帯、狼みたいなのに襲われて……無くなっちゃった」
……は?
「無くなったって……は? おいおいアド、冗談はよせって」
「マジマジ、大真面目だよっ」
皆の顔を見てみる。
「……」
皆は各々に、無言の頷きをしていた。
「はぁ……これからどうするんだ? リーダー」
急な出来事には弱いが、それに順応するのも上手い方だと、自負しているつもりだ。
「こんなときだけリーダー扱い?!」
いつもの行動が原因だ。
「早く決めろ。リーダー」
姫片が冷やかす。
「もう……しょうがにゃいなー。じゃあ……」
アドが提案する。
「統京に行ってみよう!」
「正気ですかアド?!」
そして、その案に真っ先に意見したのは百喰さん。
「あたしはいつも正気ぞよん」
僕の頭に浮かんだのはアドの醜態というか……裸踊りであったりパンツを頭に被っていたりの……とても正気とは思えない姿であった。
「正気ねぇ……」
誰かがそう呟く。
「そそ。それにちゃんと理由もあるんだよ」
「言ってみろよ、リーダーさん」
「それはもちろんっ、……生存者だッ!!」
堂々と発表しているが、誰でも思いつきそうなのは、言うまでもない。
「つまり、都心部だから軍か何かが対策を取っていると、そう言いたいのか?」
「そそ。もし外れてても、どこかに拠点があるはずだしねん」
そこまで考えていたと。いやはや、とても頭の回るリーダーですね。
「それで、ゾンビが割拠していた場合はどうするつもりだ?」
僕はアドに問う。
「そっそれは……うーん、臨機応変に対応、みたいな?」
はぁ……。
「礼音さん、さっき飛んでたのって、どれくらい持ちそうですか?」
「確か、いつまでも飛べることは飛べるが、使用者に大きな負担をかけるとかそういったデメリットがあったはずだが……」
大きな力には大きな代償……か。
「ここから統京を、往復するのって、体は持ちそうですか?」
「……すまない。先程こちらに駆けつけたぐらいの距離で、精一杯だった」
結構消費が大きいのか……。
「じゃあ、僕が行きます」
「承知した。だが、サンくんの体は持つのか?」
「心配しないでください礼音さん。僕、不死身ですから」
と、根拠の無いことをみる。
「じゃあ、まずは仮拠点を探さねぇとな」
「そうか。そういえばそうだな……じゃあ、あそこはどうだ?」
と、僕はふたりと一緒に探索していた建物を指さす。あの狼が一度来たところに二度は来ないという習性を持っているなら、ここより安全な場所はないだろう。
────とりあえず、皆をその建物に避難させて、僕は礼音さんから渡されたキーでレイダーに変身する。よし、片道十分の大横断の幕開けだ!!