僕たちがその建物に入ろうとした、その瞬間。大きな轟音が建物内から響いてきた。
(嫌な予感がする……)
「ひさぎたちは外で待機だッ!」
僕はそう叫び、建物のドアを勢いよく開いた。
「嘘だろ……」
中では、夢氷姉妹をさらっていたあの白い化け物と、礼音さんの装着するレイダーが死闘を繰り広げていた。
「どうしたんですかこれは?!」
「すまないサンくんッ、説明はあとだッ!」
戦いの最中にこちらに気を取られたのか、一瞬避けるのが遅れてしまった礼音さん。
「危ないッ!!」
叫ぶが、もう遅い……。と、思っていると……!
「殺らせるわけ、ないでしょッ!!」
一発の弾丸が、その化け物の、礼音さんを打ち砕こうとしていた右手を撃ち抜いた。
「ちっ、もうひとりいたのか……」
化け物が、アドへと狙いを変える、が。
「アド、ありがとう。時間が稼げた」
僕が装着してから武器が生成されるまでのタイムラグはおよそ五秒。アドが奴の注意を引いてくれたおかげで時間が稼げた。
「はぁあああ!!」
僕は、アドへと拳を振り上げていた化け物の両手を切り離し、その隙に礼音さんとアドを抱えて外へ出る。
「ここは罠だッ!! 撤退だ! 急げッ!!」
僕はみんなにそう指示を出す。
「チッ、やっぱそうじゃねぇか!」
愚痴を零しながら姫片は走る。
(くそっ、だったらあの瑠奏って子も騙していたのか……?)
今はそんなことを考えている場合ではないことを思い出し、全速力であの建物があった区域から離れる。
僕らは、礼音さんとアドから、建物に入ったときのことを詳細に聞いた。どうやら、扉を開けると既に、あの化け物がいて、すぐに襲いかかってきたらしいことを教えてもらった。そしてその後……。
「わ、私……こんなの、しら……」
「言い訳はいいからよぉ……さっさと目的を話したらどうだ?」
姫片は瑠奏に問い詰める。
「ちょっとリッちゃん、やりすぎだって……。本当に知らなかったのかもしれないじゃん」
アドは続けて言う。
「で、ルカッチ、本当に知らなかったの?」
「はいっ、普通にあそこで暮らしていて……今日は記念日だからって、私だけを外に行かせて……それで」
少なくとも僕の目には、真実を言っているようにしか思えなかった。と、そこで百喰さんが口を挟む。
「ですが、あんなところで暮らしていたということは、あの化け物と同じようになるかもれないということですよね?」
「それは……わかりません」
「でしたら……!」
「で、でも! あそこで暮らしていた時、私だけ、なにかをする度に、仲間はずれにされているような……そんな疎外感を感じていました」
仲間はずれ……考えたくはないが……。
「もしかして、あそこで暮らしてた人達はみんな、女性だったんじゃないか?」
「は、はいっ」
……繋がってきた。
「わかったかもしれない」
「なによサン、早く言いなさいよ」
ひさぎが催促してくる。
「わかってるって、多分だけど……」
僕は、あの住人たちが瑠奏をあの化け物にしようとしていたかもしれないということ、礼音さんたちを襲ったのは、礼音さんたちが目的ではないだろうということ。本当は瑠奏を襲おうとしていたのではないかということを話した。
「確かにそう考えれば辻褄が合うな」
僕の話を聞いた後、真っ先に口を開いたのは礼音さんだった。
「でもよぉ、もしそれが事実だとして、本州にある生活拠点はあそこしかねぇんだろ?」
「はい……」
まじか……。いや、逆に考えろ。『本州』にはあそこしかないということだ。つまり……。
「九州はどうだ?」
「……」
僕の言葉に、一同沈黙を貫いた。そして、初めに口を開いたのは……。
「面白そうじゃない」
「ひさぎ……」
「だが、本州から九州に行くとなると……」
「地下通路を渡らなければいけない。しかも、おそらくゾンビのすし詰め状態であろう」
「そして、フェリーは重量の関係で全員は乗れない」
僕は、「なので」と一呼吸おいて言葉を繋げる。
「梨花ちゃんに、新しいキーを作ってもらいました」
「……?」
一同、頭の上にはてなマークを浮かべている。
「これです」
今まで口を閉ざしていた梨花ちゃんが口を開き、持っていたバッグから六個のプログライズキーを取り出した。
「これを使えば、恐らく海を渡れるかと」
そのキーには、BITING SHARKと書かれており、鮫の力が込められていると察せられる。
「でもそれじゃあアドたちが行けないのではないですか?」
百喰さんが問う。
「レイドライザーを持っていない子達は、フェリーを使って海を渡るって予定なんですが……」
「もし燃料が尽きていたら?」
「その点は大丈夫。既に燃料は集めてあるから」
実は、瑠奏を見つける少し前、寄り道をしていたのだ。
「これで、準備は整ったという事だな」
「……」
礼音さんの言葉に、僕は無言の肯定で返す。
「よーし! じゃあさっそ──────」
「まだ早い。取り敢えずフェリーに積み込む食料を確保しなければ」
「あ、そっか……」
「よーし、そうとなれば早速食料調達といこう!!」
アドはいつもと同じ元気満タンの様子でみんなを鼓舞していく。
そして、無事に食料も確保出来たところで、僕たちはフェリーのある場所までの移動を開始した。
ここは、とある研究室。サンたちが九州へと行った後、二人の女性が怪しげな会話を交わしていた。
「この子達が八月朔日真綾……いや、不死生命体の血を持った少女か」
「わからないでしょうね。私たちの目的なんて」
「……あんたら、一体……」
「もう目覚めたのか。まぁいいでしょう。君たちに興味はありません。血さえ貰えれば、それでいいのですから」
「なにが……目的や……」
「あらあら、口うるさい小娘だこと。いっそ処分してしまおうかしら」
「まぁ待ちなさい。まずは血を頂かなくっちゃ」
そう言って注射器で血を吸い取る女性。
「……っ」
「では、必要な分も取れましたし、どうしましょうか」
「う~ん。処分が妥当かしら」
そして、それを隠れながら見ていた男がいた……。