そんなこんなで、無事に工業地帯にたどり着いた僕たち。
「ふっふふー、ぞんびっちの群れこえ山こえ谷こえて!」
「たどり着きやしたぜ工場タウン・ウィズ・港ぅッ! あたし海が見たいぞ!」
「ちょ、おい待てって」
「あの野郎走って行きやがった……」
「まぁまぁ、焦らなくてもいいだろうサンくん」
「見回した限り、工場地帯一帯に、ゾンビの気配はないよ」
「尤も、ゾンビどころか人の気配すらしませんけどね」
「だな……」
たしか、なんとか、って姉妹がいるはずなんだが、何処にいるか忘れてしまったため、不用意に口に出さないことにした。
「ゾンビがいないほうが、却って気味が悪いですね」
「はっ、ゾンビがいる日常に慣れすぎたっつーのも、おぞましい話だな」
「そういえば参謀さん、先刻、工場地帯に着いたら確認したいことがある、と仰っていましたが?」
「ああ。伝導帯は輸出が前提の工業品だからな。期待している物が一つあるんだ」
「期待しているもの?」
「──ぎゃひょぉぉぉおおおい!」
「おい見ろ、お漏らし姫が奇声あげながら走ってくるぞ」
「み、みみみ、みみみんなぁぁぁっ! みみ、みみみ」
「ちょ、落ち着けお漏らし姫。どうしたんだよ」
「みみ、見ちゃって! 見つけちゃって!!」
「見つけたって、何をだよ?」
「もう良いから来て来て早くハリーハリー!」
僕らはアドに促されるまま、工場地帯の海側へと歩き出した。
そして、アドが見つけた、と言っていたものを僕らは目にする。
期待していた、念願だった船を、一隻発見する。
だが、これで脱出、なんて甘いことはない。船の内部は壊され、船の中は死体でいっぱいだ。
「……はぁ、ったくやっと来れたと思ったらこれかよ……」
絶句する一同の中で、僕だけが口を開く。
「……輸出用には見えんが……娯楽用のクルーザー……か?」
クルーザーは長い鎖で繋がれたまま、8m沖に浮かんでいる。
「……死体の……舟盛りかよ……」
陸からでも見える──ー船体は真っ赤に染まり、腐乱した少女の死体が転がっていた。
「でもさ……おかしくないか?」
「何がだ? サンくん」
「いや、死体がなんで残ってるんだ? って思ってさ」
僕が疑問に思ったことを率直に言うと、みんなの背筋が凍るのを感じた。
「そうだ……そうだよサンくん。死んだのなら……」
「……彼女たちはとっくにゾンビ化しているはずですわ」
「ゾンビを見慣れすぎて、忘れてるかもしれないけどさ。初めてだよ、ゾンビ化してない──ー純粋な死体を見るのは」
とにかく──ー調べてみないことには、事は一向に進展しない。
僕は岸までクルーザーを運ぶため、来栖崎を呼ぶ。
「おい、来栖崎」
「なによ、まさかこれを手繰り寄せるのを手伝って、とか言うんじゃないでしょうね」
「その通りだ。すまない、手伝ってくれないか?」
「男のくせに頼るの? ダッサ」
「この通りだ! 頼む!」
そう言って来栖崎に頭を下げる。
「……分かったわよ。ほら、行くわよ」
「ありがとう。じゃあ行くぞ、せーの!」
そう言って僕と来栖崎はクルーザーに着けられた鎖を一緒に引っ張る。
「んんんぁぁぁぁああああ!!!」
「あとひと息だ。行くぞ!」
「喋ってないでさっさと引っ張れ」
ずずずず、と。小型のクルーザーが岸へと接近し始めた。
「おいおい……嘘だろ」
「あめいじんぐです」
「「んんんぁぁぁぁああああ!」」
がたん、とけたたましい音と共に、クルーザーは岸へと接地した。
「はぁ……はぁ……ほら、はい。やってあげたわよ」
「はぁ……はぁ……まさか僕ら二人で出来るとはな」
「ホント、無茶言わないでよね。ワタシでもギリギリだったんだから」
「すまないと思っている。いやマジで」
「戯れは程々にして、早く内部を検分しませんか?」
「ああ、そうだったな」
「気持ち悪すぎて……ごめん、私は陸で待ってます」
「なら私も」
「いいよ、見るに堪えないような死体だらけだから、女性陣は待ってた方がいい」
「ほら、アド行くぞ」
「あたしのカテゴリーについて」
「アドはアドだろ」
「「「確かに」」」
一同からドっと声が出る。
携帯用のペンライトを使いつつ、僕とアド、それに着いてきた百喰は小型の船内を検分して回った。
「うげぉ……鼻がひん曲がりそうだよ……臭ぃ」
「女子高生くらいの死体がざっと七体くらい……ですか」
「皮膚とか気泡だらけでゾワゾワする……」
「粘着性の液体でベトベトですね」
「こりゃあ、完全に腐っちまってるな。死んだのは……約一か月前ってところか」
「でも、身体中が穴だらけだ。この大きさ──ー」
「銃弾?」
「ああ、恐らくな」
「で、でもアタシらニュータウンの施設には銃なんて数えるほどしかないよ?!」
「いや、お前らを疑ってるわけじゃない。多分、これをやったのは本島の生存組合かなんかだろう」
「ここにも生存組合があると言うのですか?」
「いや、あくまでも推測だ。鵜呑みにはするなよ」
「分かってます。でももしこれをやったのが生きている人間だったとしたら参謀さん、あなたはどうしますか?」
「どうする、か……多分、僕は許せないと思う。どんな理由があっても僕は、生きている人を殺したらダメだって心に誓ってるし」
まぁ、誰が殺したのかは分からないまでも、ここで殺人が──ー
「「きゃああああああッ!!」」
「サンちゃん! 今の悲鳴聞いたッ?!」
「勿論だ」
「悲鳴ッ……生存者ですか?!」
僕らは一旦クルーザーから陸地へと戻り、皆で悲鳴のした方を目指した。
「サンくんッ! 悲鳴は篭っていた、屋外じゃない、建屋内のはずだ!」
「でも、ここに建屋内なんて腐るほど──ー」
「こっちでづ。あの工場、三階から聞こえました」
「耳が良くて助かった。感謝するよ豹藤ッ」
「よし、皆。豹藤に続くぞ!」
豹藤に先導され、僕らは三階建ての工場の扉を開け放った。
「うごぅごぅごぅ」
「邪魔だ!」
僕は目の前に立ち塞がったゾンビを切り裂く。
「皆さん! ゾンビとの交戦は最低限でお願いします! 生存者の救出が最優先です!」
「承知した!」
僕らは三階へと辿り着き、全ての部屋をくまなく探していく。
二つ目の部屋に踏み込んだ時、僕らは二人の抱き合う少女を発見した。
部屋の奥で──ーゾンビに囲まれながら。
「大丈夫……大丈夫やからな……沙南」
ああ、どっちも僕が守りきってみせる。
「ぅぅ……ホント……大丈夫ゃの?」
ああ、僕たちが来たからにはもう大丈夫だ。
「ぁぁ……お姉ちゃんが……最後までおるからな……」
殺させやしないさ。絶対に……! 僕は決意を固め、彼女たちを救いに向かう。
「もうやめろぉぉぉおおおおッ!」
「ぅごぅ」
走り出した僕の前にゾンビが立ちはだかる。
「くっ邪魔なんだよ!」
それを切り裂く僕だったが、周りのゾンビに囲まれ、身動きがとれない状態になってしまう。
「無茶するな! サンくん!」
「くそったれが……許さない」
僕が囲んでいるゾンビたちを倒していくと、ほかの女性陣たちはいっせいにゾンビに立ち向かう。
「ぅごぅ……」
最後の一体が倒れ伏し、遂に僕らは二人の生存者の無事を確保した。
「大丈夫かい少女ちゃんたち!」
「……ぇ……え?」
「もう安心していいよ。僕達は、君たちの味方だから」
挙動不審に震える二人の頭を撫でながら、僕は静かに微笑んだ。
「矢継ぎ早で申し訳ないが、取り敢えず急いで工場外まで逃げよう」
「ええ、そうですね……」
僕らはひとまず工場の外へと移動した。