3月、ホタルタンポポの綿毛舞うころ。年に一度、クローバー王国の各地で十五歳になるものを集めて、持ち主の魔力を高めるグリモワールの授与式が行われる。
「トウマも来たのか」
「ああ、見てみたかったし、グリモワールの授与式」
「もらう訳じゃないのか?」
「魔力がないんだ、もらえるわけないよ」
そう諦めているトウマ。アスタはトウマが言っていた残酷な事実を聞いても諦めていないようだ。
トウマ達は、魔導書塔のなかに入り、中にある大量のグリモワールに驚いていた。
「スッゲェ-!!これ全部グリモワールかー!!俺のはどれだろう?」
「こんなにあるんだ・・・」
あまりの量に、口を開けるトウマ。アスタは興奮してわなわなと震えている。
そこに、まぁまぁ良い服を着た男二人が現れ、まるでもう魔道師見習いであるかのような発言をし、トウマ達を見て小馬鹿にしたように発言をする。さらに、トウマとアスタの魔法が使えないことに言及し、天然記念物なんだから大切にしないとなという見下す発言を周りに聞こえる大きな声で言った。
トウマもアスタも、無視して授与式の開始を待つ。あんなのにはもう慣れっこなのだ。
「ようこそ受領者諸君!今日からそれぞれの道を歩む君たちへ、誠実と希望と愛を」
緑に光る絨毯に乗って、現れた白い髭を蓄えた魔術師、このグリモワール塔を管理する魔術師だ。
「私は、このグリモワール塔の塔主である。えー、この力は魔法帝はおろか、魔法騎士団でこれと言った功績をあげたこともない、この中からいつの日か、魔法帝になることを願う。いやほんとマジで!!」
目を見開き、懇願する魔術師。ここまであった偉大さが一欠片もなくなった。
「ウオッホン!それでは、グリモワール、授与!」
すると、本棚にあった無数の本が光り、浮かび上がる。そして、それぞれの相性にあったグリモワールが少年少女のもとへと向かっていく。
「ふっ、僕たちは、半年後の魔法騎士入団試験を受ける!」
「合格して見せますよ!」
誇らしげに言う先ほどトウマ達をバカにしていた青年達。その言葉に、皆が期待を込めた言葉を彼等に投げ掛ける。
「そうかそうか、期待しておるぞ」
そんな中、トウマの横で目を見開いてグリモワールを待つアスタ。残念ながら、この段階では、彼はまだグリモワールを手にすることはない。
「あのー」
耐えかねたアスタは、魔術師に言った。
「グリモワールが来ないんすけど!」
「んんっ!」
魔術師は咳払いをして、アスタにこう返した。
「また来年」
「えー!!」
それを聞いて、周りにいる少年少女達はアスタを笑い始める。そんな笑い声を響かせている中、ユノが手にしたグリモワールが、他のグリモワールとは比較にならない光を放ち始めた。
四つ葉のグリモワールである。
初代魔法帝が手にし、魔神を打ち倒した伝説のグリモワールである。この光景に皆驚き、トウマも口を開けて驚いた。本にかいてあった伝説をこの目で見られるとは思わなかったからだ。そして、ユノはそれを受けとると、こう宣言した。
「俺は、魔法帝になる!」
ユノに、先ほど、魔法騎士になると宣言した青年達に投げ掛けた期待の声よりを、はるかに上回る声を、皆はユノに投げ掛けた。そんな中、絶望するアスタ。
「アスタ、もう帰ろう」
「トウマ・・・」
「なっ!」
トウマはアスタを連れて帰ろうとする。だが、アスタはトウマの手を振り払い、ユノのもとへ戻ってこう言った。
「待ってろユノ!すぐ追い付く、俺はお前のライバルだからな!」
アスタはそう、ユノへ宣言した。しかし、ユノはアスタの横を過ぎるとこう言った。
「あり得ねえ」
トウマはそれを見たあと、ユノへ怒りを覚えながら帰路へつこうとした。
「どこへ行くの?トウマ」
シスターが声をかけてきた。
「帰って、続きを書こうと思って」
「アスタとユノはいいの?」
「うん、俺とは、もう、住む世界が違うから」
「でも、アスタはトウマと同じでグリモワール貰えてないわよ?」
「ううん、アスタは貰えると思う、そんな気がする」
「トウマは?」
「たぶん、いいや、もらえないと思う」
トウマは、アスタのように精神が強い訳じゃない。アスタのようにからだを鍛えてい訳じゃない。知識は人並み以上にある。だが、それを披露する、活躍させる場所はこの世界にはない。この世界は、魔法が使えるものが全て。魔法が使えなければ人間以下なのである。ユノの言葉からそれを学んだ。
その日の夕方。
「「うわぁああああ!!!」」
魔導書塔でアスタとトウマをバカにしていた青年達の叫び声が響き渡った。トウマとアスタはそれを聞き、叫び声が聞こえた場所へ向かった。
「待てぇええええええ!!グワァッ!」
森から飛び出して壁にぶつかるアスタと道を駆けてきたトウマ。
「なにしてんだお前らー!!俺が助けに、ってあれ?」
アスタがユノを攻撃していたと思われた青年達は、すでに鎖で縛られ身動きがとれなくなっていた。
「なんだお前はぁー!!」
鎖をだし、ユノのグリモワールを持っている男へ向き直り、指を指すアスタ。
「そのグリモワールはユノのだろ?何でお前が持ってるんだ!!この盗人め!」
「お前らはたしか、グリモワールを与えられなかったかわいそうな小僧どもか?」
「「良くご存じで、そーですよ(だよ)、哀れな少年達ですよ(だよ)」」
アスタとトウマの声が重なり、顔を見合わせる。が、すぐに男へ向き直った。
「グリモワールは授かったやつだけの大切なやつだろ!ユノに返せこのやろう!!」
「そうだ、グリモワールは、死ぬ直前まで一緒にいるものだ、ユノのグリモワールはユノのものだ!」
すると、男は、顔にてをやると、笑い始めた。
「くっ、うふふふふ、こういう歪んだことがまかり通っちまうのが外の世界なのさ、そこに行く前に死ぬか」
男は、グリモワールのページを変えると、魔法を発動させようとする。
「逃げろアスタ!トウマ!」
だか、アスタはクラウチングスタートをきると、男に向かっていった。トウマはその間に、ユノのもとへかけより、なんとか鎖をはずそうとする。アスタが男にパンチを決めようとするが、鎖に捕まり、その拳は男に届かない。
そして、男は鎖でアスタを突き刺す。
「アスタ!!」
トウマはアスタの名を呼びながら、近くにあった石を男に投げつけた。
「はっ!鬱陶しい」
「グハァッ!」
トウマも鎖で吹き飛ばされる。男は、アスタを踏みつけると、止めを指そうとする。だが、この絶望的な状況でも、アスタは諦めてはいなかった。
「まだだ、俺は、魔法帝に」
「魔法帝?お前が?俺はな、この鎖で触れたものの魔力量を知ることが出来るんだが、お前は魔力が一切ない。生まれつきだろうなぁ、グリモワールをもらえねぇわけだよ」
しかし、そんなこと、トウマから聞いてアスタは知っていた。その事実を、もう一度突きつけられてもアスタはあきらめない。
「知ってるよ、トウマから聞いた。俺とトウマに魔力がないことくらい!だけど、それでも、俺は魔法帝になって見せる!!」
アスタはそう言うと、男の足をつかんだ。それに気圧された男は後退りをして、アスタを見た。
すると、何かが起こった。アスタの前に、黒い、禍々しい光を放つグリモワールが降りてきたのだ。
「だから言っただろ?アイツなら・・・」
トウマがそう言った。
「やっぱりな、アスタが選ばれないなんて、あり得ねぇ!」
ユノがそういった。
すると、アスタのグリモワールから黒いこれまたグリモワールのように、禍々しいオーラを纏った黒い大剣が現れた。
それがアスタの前に突き刺さる。自分を使えというかのごとく。
「確かにお前には魔力がなかった、だが、そのグリモワールはなんだ!?」
クローバーの三枚の葉には、それぞれ、誠実、希望、愛が秘められている。
四枚目の葉には、幸運が宿る。
アスタは、突き刺さった大剣を地面から引き抜く。
五枚目には・・・悪魔が住む。
アスタの影に、何かおぞましいものが現れた。まるで、悪魔のような影が、アスタの後ろに。