彼らは再び再不斬と対峙していた。
前回、再不斬にとどめを刺し、死体を持ち去った仮面の少年もまた、彼らの敵として現れた。
少年は名を
彼らとそれほど年の変わらない、まるで少女のような美しい少年だった。
だが彼は『氷遁忍術』を操った。
その彼とはサスケが戦った。
再不斬にはカカシが対抗する。
そしてナナは……彼らの一味である忍の男と対峙した、
遅れてナルトが登場した。
サスケとともに白と戦う。
が、戦況は不利な方へと傾きかけていた。
ズキン……と、ナナの『感覚』が鋭い痛みを感じ取った。
(サスケ……?)
何かを無くしてしまったような、そんな焦りを感じる。
そして、恐怖……。
あの、白とかいう忍と戦っているはずのサスケの『気配』が、今、途絶えた。
(サスケ……?)
再不斬の発した濃い霧で、視界はゼロに近かった。が、ナナは目の前の敵よりも、少し離れた所に意識を飛ばした。
サスケとナルトがいる方向に首を回し、感覚を彷徨さまよわしてみても、サスケの『生』は感じ取れない。
「サ……」
押し寄せる不安を消し去るように、ナナは彼の名を呼ぼうとした。
その時、
「よそ見してんじゃねぇ!!」
対峙していた敵が、スキをついて攻撃をしてくる。
ナナの体は霧の中を転がった。
(……っつ……)
唇から滲にじむ血。
それをぬぐい、ナナはゆっくりと体を起こす。
敵の一撃が、逆に彼女を冷静にさせた。
(……大丈夫……)
根拠は無い。
(……サスケが死んじゃうはず、ない……)
いつも一緒にいた仲間が、こんなところで居なくなるはずがない。ただそう思った。
(……信じなきゃ……)
サスケは強い……。
ナナはひとつ息を吐いて立ち上がった。
(大丈夫……!)
まだ、彼の強い魂は此処にある……。
今は、「木ノ葉の忍」として自分の役目を果たさねばならない。
サクラも、タズナも、この国も、守らなくてはならないから。
ナナは再び襲い掛かって来た敵の拳をギリギリでかわした。
視界が効かないぶん、神経を研ぎ澄ます。
サスケの魂を確かめつつ、目の前の敵に集中する。
ナナは手袋を脱ぎ捨てた。
それが地に落ちた瞬間、横から敵の刀が斬りかかる。
「……
同時にナナはそうつぶやき、その場から完全に消えた。
「なにっ……?!」
完全に脇を突いたと思った敵の忍は、消えたナナの姿を五感で追う。
が、それがナナを捕らえる前に、ナナは静かに印を結んでいた。
「風遁の術……」
チャクラを練り上げ、竜巻を起こす。
奥底から、その力を引っ張り出す。
バリバリと、身体のどこかでなにかが砕けるような音がした。
ナナの左の手の甲から上へと向かって激痛が駆け上った。
(……つぅ……)
裂けるような痛みに、ナナは限界まで耐えた。
そして、風が止むと同時に、ナナの足元に敵の体が倒れ落ちる。
風の渦は、チャクラの乱流だった。
「……ぐっ……この……っ……」
男はかすかに首を動かし、ナナを見た。
そして、最後のあがきとばかりに、まだ手にしていた刀でその細い足をなぎ払おうとする。
ナナもほとんどの力を使い切ったように疲弊していた。
それを避けただけで、クラリと眩暈がした。
(……仕方ないよね……)
誰に言うでもなく、心の内でそうつぶやくと、ナナは“忍のものではない印”を結び、呪文を囁く。
できれば使いたくはない『秘術』。
だが、まだ動ける敵をどうにかしておくわけにはいかない。
このままにしておいて、新たな攻撃を止める力はナナには残っていなかった。
だからナナは、あえてその『術』を繰り出す。
刀を支えにしてようやく立ち上がりかけた敵に向かい、ナナは逆に膝をついて地に手の平をつける。すると、敵の体を取り巻くように、地面に『星』をかたどった光が現れた。
「な、なんだ……?!」
ナナは左腕の痛みも頭から消し去って、すべての力を集結させる。
「うわっ・・!!!」
男の体に何が起こったのか、おそらく本人もわかりかねるほど、未知の術であるはずだ。
星の光に足元を囲われた瞬間に、男の体は刀から離れ、まるで力を剥ぎ取られたように再び地に倒れ付した。
そしてもう、目を開けることはなかった。
「はぁっ、はぁっ……」
ナナは思わず膝をつく。
再不斬の霧なのか、意識が定かでないのか、視界がぼやけて歪む。
左腕の痛みだけが、彼女の意識をかろうじて繋ぎ止めているようだった。
「……よかった……」
とにかく、自分の敵は倒したのだと、そう安堵した時。
また、サスケに意識を飛ばそうとしたその時……。
そちらの方から、激しいチャクラの風が吹き付けた。
腹の底から突き上げられるような嫌悪感。
そして、背筋が凍りつくような恐怖感。
ナナの傷だらけの腕に、鳥肌がたった。
「ナ……ルト……」
いつものナルトのチャクラとは、質も量もかけ離れていた。
が、ナナにはそれがナルトから発せられているという確信があった。
彼女自身、物心ついたときから聞かされていた“このチャクラ”について、直に知っているはずはなかった。
それでも、この強大さ、醜悪さは、ナナが聞かされ続けてきたそれであることに間違いはなかった。
「九尾……」
気づくと同時に、胸が痛んだ。
ナナが『封印』するという運命を負った、そのチャクラ……。
それが今、ナルトの体から溢れ出ようとしている。
「ナルト……!!」
駆け寄って、ナルトを止めたかった。
これ以上、九尾のチャクラを放出すれば、ナルトの精神は九尾に凌駕されかねない。
誰よりもその状態を知るナナは、それを何より恐れた。
もしそうなれば、この場でナルトの命は無くなる……。
ナナは立ち上がりかけ、しかし湿った地に手をついた。
もう、動く力さえ幾ばくも無い。
焦りがまた、体の動きを制限しているようだった。
チャクラの熱が、ナナの体にまで吹きかかる。
このチャクラを、今、この体で封印などできるはずもない。
そうなれば、ナルトを止めるのは、いや、
「……っ……」
胸の痛みに、ナナは思わずそこに手をやった。
そんなことにならないように、自分は“木ノ葉”へ来たというのに。
ナナは必死で立ち上がった。
ビリビリと、空間の歪む方向へ、フラつく足を進める。
「ナルト……お願い……」
お願いだから、九尾に飲み込まれないで……。
そう念じた時、辺りを満たしていた濃い霧が、突然晴れた。
そしてナナが目にしたのは、再不斬と、彼を庇うように立ち、カカシに心臓を貫ぬかれた白の姿だった。
その光景に、にわかに動揺するのを抑え、ナナは肝心のナルトを探す。
ナルトは少し離れた所で、その光景を見つめていた。
ナルトの姿に安堵したとたん、嘘のように力が抜ける。
ガクンと、再び両膝が崩れ落ちた。
「ナルト……」
ほっとした。
心底ほっとしたナナの耳に、サクラの声が聞こえる。
「ナルト、サスケ君は!?」
ナナの意識は、再びサスケへ飛ぶ。
サクラのように、走って行ってその姿を確かめたかった。
『サスケの魂がまだこの世に在る』という確信を……。
が、ナナの両膝は地に吸い付いたまま。
霧は晴れたというのに、視界はぼんやりしたまま。
周りに何やら人が増え、騒がしくなり、そして全てが終わったのだと、ナナはかろうじて判断する。
もう戦いの行く末なんかより、考えることがたくさんあった。
ナルトの九尾のチャクラの感じ、それがまだ、ナナの皮膚に張り付いている。
そして、サスケの……。
「サスケ君!!」
ぼんやりとしたナナの耳に、再びサクラの声が聞こえた。
ナナは、サスケがゆっくりと立ち上がるのを見届けた。
(……よかっ……た……)
この世界に、まだサスケが居ることを、やっとその目で確認できた。
心底、安堵して息をついた瞬間、ナナの視界は暗くなった。