ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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 建設中の橋の上。
 彼らは再び再不斬と対峙していた。
 前回、再不斬にとどめを刺し、死体を持ち去った仮面の少年もまた、彼らの敵として現れた。
 少年は名を(ハク)と言った。
 彼らとそれほど年の変わらない、まるで少女のような美しい少年だった。
 だが彼は『氷遁忍術』を操った。
 その彼とはサスケが戦った。
 再不斬にはカカシが対抗する。
 そしてナナは……彼らの一味である忍の男と対峙した、
 遅れてナルトが登場した。
 サスケとともに白と戦う。
 が、戦況は不利な方へと傾きかけていた。




霧の中

 ズキン……と、ナナの『感覚』が鋭い痛みを感じ取った。

 

(サスケ……?)

 

 何かを無くしてしまったような、そんな焦りを感じる。

 そして、恐怖……。

 あの、白とかいう忍と戦っているはずのサスケの『気配』が、今、途絶えた。

 

(サスケ……?)

 

 再不斬の発した濃い霧で、視界はゼロに近かった。が、ナナは目の前の敵よりも、少し離れた所に意識を飛ばした。

 サスケとナルトがいる方向に首を回し、感覚を彷徨さまよわしてみても、サスケの『生』は感じ取れない。

 

 

「サ……」

 

 

 押し寄せる不安を消し去るように、ナナは彼の名を呼ぼうとした。

 その時、

 

 

「よそ見してんじゃねぇ!!」

 

 

 対峙していた敵が、スキをついて攻撃をしてくる。

 ナナの体は霧の中を転がった。

 

(……っつ……)

 

 唇から滲にじむ血。

 それをぬぐい、ナナはゆっくりと体を起こす。

 敵の一撃が、逆に彼女を冷静にさせた。

 

(……大丈夫……)

 

 根拠は無い。

 

(……サスケが死んじゃうはず、ない……)

 

 いつも一緒にいた仲間が、こんなところで居なくなるはずがない。ただそう思った。

 

(……信じなきゃ……)

 

 サスケは強い……。

 ナナはひとつ息を吐いて立ち上がった。

 

(大丈夫……!)

 

 まだ、彼の強い魂は此処にある……。

 今は、「木ノ葉の忍」として自分の役目を果たさねばならない。

 サクラも、タズナも、この国も、守らなくてはならないから。

 ナナは再び襲い掛かって来た敵の拳をギリギリでかわした。

 視界が効かないぶん、神経を研ぎ澄ます。

 サスケの魂を確かめつつ、目の前の敵に集中する。

 

 ナナは手袋を脱ぎ捨てた。

 それが地に落ちた瞬間、横から敵の刀が斬りかかる。

 

「……(カイ)……」

 

 同時にナナはそうつぶやき、その場から完全に消えた。

 

「なにっ……?!」

 

 完全に脇を突いたと思った敵の忍は、消えたナナの姿を五感で追う。

 が、それがナナを捕らえる前に、ナナは静かに印を結んでいた。

 

「風遁の術……」

 

 チャクラを練り上げ、竜巻を起こす。

 奥底から、その力を引っ張り出す。

 バリバリと、身体のどこかでなにかが砕けるような音がした。

 ナナの左の手の甲から上へと向かって激痛が駆け上った。

 

(……つぅ……)

 

 裂けるような痛みに、ナナは限界まで耐えた。

 そして、風が止むと同時に、ナナの足元に敵の体が倒れ落ちる。

 風の渦は、チャクラの乱流だった。

 

 

「……ぐっ……この……っ……」

 

 

 男はかすかに首を動かし、ナナを見た。

 そして、最後のあがきとばかりに、まだ手にしていた刀でその細い足をなぎ払おうとする。

 ナナもほとんどの力を使い切ったように疲弊していた。

 それを避けただけで、クラリと眩暈がした。

 

(……仕方ないよね……)

 

 誰に言うでもなく、心の内でそうつぶやくと、ナナは“忍のものではない印”を結び、呪文を囁く。

 できれば使いたくはない『秘術』。

 だが、まだ動ける敵をどうにかしておくわけにはいかない。

 このままにしておいて、新たな攻撃を止める力はナナには残っていなかった。

 だからナナは、あえてその『術』を繰り出す。

 刀を支えにしてようやく立ち上がりかけた敵に向かい、ナナは逆に膝をついて地に手の平をつける。すると、敵の体を取り巻くように、地面に『星』をかたどった光が現れた。

 

 

「な、なんだ……?!」

 

 

 ナナは左腕の痛みも頭から消し去って、すべての力を集結させる。

 

 

「うわっ・・!!!」

 

 

 男の体に何が起こったのか、おそらく本人もわかりかねるほど、未知の術であるはずだ。

 星の光に足元を囲われた瞬間に、男の体は刀から離れ、まるで力を剥ぎ取られたように再び地に倒れ付した。

 そしてもう、目を開けることはなかった。

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 

 ナナは思わず膝をつく。

 再不斬の霧なのか、意識が定かでないのか、視界がぼやけて歪む。

 左腕の痛みだけが、彼女の意識をかろうじて繋ぎ止めているようだった。

 

 

「……よかった……」

 

 

 とにかく、自分の敵は倒したのだと、そう安堵した時。

 また、サスケに意識を飛ばそうとしたその時……。

 そちらの方から、激しいチャクラの風が吹き付けた。

 腹の底から突き上げられるような嫌悪感。

 そして、背筋が凍りつくような恐怖感。

 ナナの傷だらけの腕に、鳥肌がたった。

 

 

「ナ……ルト……」

 

 

 いつものナルトのチャクラとは、質も量もかけ離れていた。

 が、ナナにはそれがナルトから発せられているという確信があった。

 彼女自身、物心ついたときから聞かされていた“このチャクラ”について、直に知っているはずはなかった。

 それでも、この強大さ、醜悪さは、ナナが聞かされ続けてきたそれであることに間違いはなかった。

 

 

「九尾……」

 

 

 気づくと同時に、胸が痛んだ。

 ナナが『封印』するという運命を負った、そのチャクラ……。

 それが今、ナルトの体から溢れ出ようとしている。

 

 

「ナルト……!!」

 

 

 駆け寄って、ナルトを止めたかった。

 これ以上、九尾のチャクラを放出すれば、ナルトの精神は九尾に凌駕されかねない。

 誰よりもその状態を知るナナは、それを何より恐れた。

 もしそうなれば、この場でナルトの命は無くなる……。

 ナナは立ち上がりかけ、しかし湿った地に手をついた。

 もう、動く力さえ幾ばくも無い。

 焦りがまた、体の動きを制限しているようだった。

 チャクラの熱が、ナナの体にまで吹きかかる。

 このチャクラを、今、この体で封印などできるはずもない。

 そうなれば、ナルトを止めるのは、いや、()()のは……カカシ……?

 

 

「……っ……」

 

 

 胸の痛みに、ナナは思わずそこに手をやった。

 そんなことにならないように、自分は“木ノ葉”へ来たというのに。

 ナナは必死で立ち上がった。

 ビリビリと、空間の歪む方向へ、フラつく足を進める。

 

 

「ナルト……お願い……」

 

 

 お願いだから、九尾に飲み込まれないで……。

 そう念じた時、辺りを満たしていた濃い霧が、突然晴れた。

 そしてナナが目にしたのは、再不斬と、彼を庇うように立ち、カカシに心臓を貫ぬかれた白の姿だった。

 その光景に、にわかに動揺するのを抑え、ナナは肝心のナルトを探す。

 ナルトは少し離れた所で、その光景を見つめていた。

 ナルトの姿に安堵したとたん、嘘のように力が抜ける。

 ガクンと、再び両膝が崩れ落ちた。

 

 

「ナルト……」

 

 

 ほっとした。

 心底ほっとしたナナの耳に、サクラの声が聞こえる。

 

 

「ナルト、サスケ君は!?」

 

 

 ナナの意識は、再びサスケへ飛ぶ。

 サクラのように、走って行ってその姿を確かめたかった。

 

 『サスケの魂がまだこの世に在る』という確信を……。

 

 が、ナナの両膝は地に吸い付いたまま。

 霧は晴れたというのに、視界はぼんやりしたまま。

 周りに何やら人が増え、騒がしくなり、そして全てが終わったのだと、ナナはかろうじて判断する。

 もう戦いの行く末なんかより、考えることがたくさんあった。

 ナルトの九尾のチャクラの感じ、それがまだ、ナナの皮膚に張り付いている。

 そして、サスケの……。

 

 

「サスケ君!!」

 

 

 ぼんやりとしたナナの耳に、再びサクラの声が聞こえた。

 ナナは、サスケがゆっくりと立ち上がるのを見届けた。

 

(……よかっ……た……)

 

 この世界に、まだサスケが居ることを、やっとその目で確認できた。

 心底、安堵して息をついた瞬間、ナナの視界は暗くなった。

 

 

 

 

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