木ノ葉隠れの里で開催された中忍選抜試験。
第七班は無事に第一の試験を突破し、第二の試験に挑んでいた。
舞台は『死の森』。
事前に各班に渡された巻物と別の種類の巻物を他の班から奪い取って、期限の五日後までにゴールしなければならないサバイバルゲームだ。
張り詰めた空気の中、彼らは雨隠れの忍からの急襲を受けた。
彼らにとってなじみのない『幻術』を使った攻撃を仕掛けられたが、サスケがどうにかそれを撃退した。
が、巻物を手に入れることはできなかった。
一瞬たりとも気が抜けない。
彼らはますます緊張感を高めていた。
蛇毒
「二手に別れて辺りを探索する。三十分間で半径十キロ以内の状況を把握するぞ……。ナナはナルトと組め」
このサスケの提案により、やけに嬉しそうなサクラと、雨隠れの忍の返り血を付けたとサスケ別れ、ナルトとナナは慎重に木の枝を渡って進んでいた。
実際に敵の攻撃を受けたとあって、さすがのナルトもいくぶん緊張感を高めている。
「ナナ、こっちは誰もいないみたいだってばよ」
「そうだね」
何者の気配も感じず、太い枝の上で二人が一息ついたときだった。
ビュオォォォ
静まり返っていたはずの周囲に、突然すさまじい爆風が発生した。それは単に巻き起こっただけでなく、確実に二人に対する攻撃であった。
「うわーっ!!」
対処する間もなく、ナルトとナナは散り散りに吹き飛ばされていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ナルトの悲鳴が遠ざかるのを感じつつ、ナナは大木に叩きつけられる直前で体制を立て直し、なんとか着地して身構えた。
キッと見据えた先には、怪しげな土ぼこり。
そしてそこから現われたのは、見覚えのある忍だった。
(……あの草の忍……)
眼をぎらつかせ、狩りを楽しむようにナナを見下ろす忍は、この死の森に入る前、サクラがしきりに気味悪がっていた草忍だった。
(あのヒト、ただの下忍じゃない……)
その不気味さと、試験を受ける者にしては不似合いな、余裕を称えた笑みに、ナナはそう直感した。
なにより、あれほど自分とナルトが慎重に周囲を探っていたというのに、全く気配を感じさせなかったのだ。
殺気を滲ませて静かに見上げると、黒く長い髪の草忍は被っていた笠を取り去った。
そして、異様に長い舌で己の唇をなめた。
「フフフ……見ィつけた……」
低い女の声は、ゾクリとさせるだけの響きがあった。
が、一呼吸置いて、ナナは平然と言い返す。
「あなた、目的は『巻物』じゃないでしょう……? もしかして、私を殺しに来たの……?」
そのナナの様子に、草の忍はさらに面白そうに笑った。
「フフ……さすがにいい読みだわね……。だけど、私はキミを殺しに来たんじゃないのよ。殺すとあとで
「……え……?」
目の前の忍の最後のセリフに、ナナが疑問符を浮かべた瞬間だった。
そのたった一瞬の隙を突いて、草忍は攻撃を開始した。
ナナにも見切れぬスピードで何かが飛んできたのだ。
それは確実にナナの喉もとを捉えて来る。ナナはとっさに身をよじった。
が、避けるまでには至らない。
それはかろうじて首の急所を避け、二の腕に突き刺さった。
「……っ……!!」
瞬時に襲う鋭い痛みに顔をしかめながら、その部分に目をやると、攻撃物が明らかになる。
それはクナイや手裏剣などではなく、一匹の濃い緑色の『蛇』だった。そしてそれは、草の忍の右腕から一直線に伸びて来ている。
「殺せないけど、フフ……。今、キミはとても邪魔なの……」
その言葉とともに、ナナの体に痺れが走る。
蛇の金色の瞳と目が合うと、ようやくそれは牙をナナの白い肌から引き抜き、草忍の腕へと帰っていった。
傷口からは大量に出血が始まり、体の痺れは全身へと回り始める。
「……くっ……!!」
ナナは耐えきれずに膝をつく。すぐさま吐き気がこみ上げてきた。
それを見て草の忍は満足そうに笑い、同じ言葉を繰り返す。
「フフフ……今はキミが邪魔なの……。キミの“血”が……」
「……ち、血、が……?」
かすかに驚いてナナが見上げると、草忍はニンマリと笑みを浮かべ、そしてボンッという音とともに煙となって消えた。
「……か……影……分身……!?」
強烈に胸騒ぎがした。
今の今まで目の前にいたのは、草忍の“本体”ではなく、“影分身”だったのだ。
ということは、本体はナルトか、あるいはサスケとサクラの元に居る可能性が高い。
それに、他の二人の草忍も……。
「……い、いたた……」
何かの忍術か、ただの毒蛇にしては毒の回りが早い。すでに全身を犯されている。
ナナはとりあえず手持ちの解毒剤を口に含んだ。
「……くっ……」
そして完全に麻痺してしまう前に、傷口にクナイを立てた。
「殺しはしない」と草忍は言っていたが、これ以上ここから毒が行き渡ると動けなくなってしまう。
痛みと毒のせいで、熱を帯び始めた体から嫌な汗が滲んだ。
それでも彼女は止血すらせず、吐き気を無理やり抑えて走り出した。
仲間を探すために。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(そっか……だから私の“血”が邪魔だなんて言ったんだ、あの人……)
ナナは唇をかみしめ、苦しがるサスケを見下ろした。
彼女が駆けつけたのは、ナルトがあの草の忍に“封印”された瞬間だった。
ナルトを封印するということは、彼の中に住まう『九尾』の存在を知る者、ということになる。
この場でそれを知る者は、ナルト本人とナナ以外にないはずであるのに……。
その草忍は、『大蛇丸』と名のり、去り行く直前に『音』の忍であることを明かした。
そして、サスケの体に呪印をつけ、「キミが欲しい」とそう言った……。
(あいつは……一体ナニ……?)
あるいは、ナナの体がこんな状態でなければ、ナルトを解印し、サスケの呪印を封印できたかもしれない。
いや、彼女の中に流れる“血”を持ってすれば可能だったはずだ。
しかし、血を媒体とする封印・解印術を、毒に犯されたそれでできるはずもなく、ようやく彼女はあの不気味な敵が自分に言ったことを理解する。
『大蛇丸』は、一介の下忍にしか見えないナナが、高等忍術である封印・解印術を扱えることを事前に知っていたのだ。
ナルトの中に九尾が眠ること、うちはの血を引くサスケのこと、そして、和泉一族であるナナのこと……。『大蛇丸』は知っていた。
さらに、『あのイタチ以上の能力を秘めた眼をしている……』そうサスケに言ったのだ……。
(イタチを……)
「ナナ!! ねぇっ、ナナっ!!」
ナナの思考を遮るように、半泣きのサクラがすがるようにナナを揺さぶった。
「どうしようナナ!! サスケ君が、サスケ君が…… !!」
激しい動揺と毒による苦痛をサクラに気取られぬよう、ナナは笑ってみせた。
「サクラちゃん、少し移動して隠れよう。……見つかりにくい所に……」
「う、うん……でも、サスケ君とナルト……大丈夫なの……!?」
「ナルトは気を失ってるだけみたい……。サスケは……多分そのうち落ち着くと思うよ……」
「そうかしら……」
苦しむサスケを抱きしめながら涙をこぼすサクラに、ナナはもう一度笑ってみせた。