ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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 第三の試験予選から1ヶ月後、ついに本戦が開始された。
 各国の忍頭や観衆が見守る中、予選を通過した者たちによる1対1の戦いが行われる。
 その初戦……ナルトが日向の天才を下した大番狂わせから始まり、第二試合の先送り、そして砂の棄権と、会場は異様な雰囲気に包まれていた。
 その試験も、とうとう終盤を迎えている。
 対戦カードは、木ノ葉のいずみナナ対、岩隠れでただ一人ここまで勝ち残ったリンガという男。




余力

 ヒュン……!!!

 

 石のつぶてが鋭い角度でナナに襲い掛かる。

 ナナはとっさにクナイでそれをはじいた。

 そして、2つ3つとアラレのように降る石を、すばやい身のこなしでよけていく。

 

 

「無駄だ、一度オレのチャクラが通った石は、払われない限りどこまでもお前を攻撃する!」

 

 

 リンガが言ったとおり、ナナがいくらよけても石は追ってきた。

 ナナは、壁まで逃げて石たちに千本を投げつける。

 千本が当たらなかった石は、そのままナナの顔面に飛んできた。

 

(……くっ……!!)

 

 くいっと首を傾け、間一髪でよける。

 後ろの壁に石がぶつかり、予想以上の衝撃音をあげた。

 

 

「あ、あんなのがぶつかったら……骨なんかあっさり折れちまうってばよ……!!」

 

 

 控室のナルトは息を呑む。

 そこからは試験会場を全て見渡すことができるから、ナナの戦況を余すところなく見守っていた。

 同じくナナの試合を最初から観戦していたシカマルは、眉間にしわを寄せながらつぶやいた。

 

 

「……っつーか、防戦一方じゃねーか……」

 

 

 シカマルのいうとおり、ナナは逃げ回るのがやっとの戦いだった。

 敵の忍は明らかに中忍にふさわしい攻撃力を持っており、惜しみなくその力をナナにぶつけて来る。

 それは体術と忍術がうまく混同され、鮮やかなその攻撃に、会場は魅了されていった。

 

 

「なかなかうまく避けてるが……どこまでもつかな……」

 

 

 リンガはニヤリと笑った。

 そうしてそのまま、半時は同じ状態が続いた。

 もう、ナナは肩で息をしていた。

 リンガもだいぶ息があがっていたが、どちらに余力があるかは目に見えている。

 観客たちの興味も、すでに薄れかかっていた。

 

 

「1時間……か。ナナはよくがんばった……」

 

 

 上忍アスマは、タバコの煙を吐き出した。

 

 

「そうね、ここまであの攻撃をかわし続けられたのは、誉めてあげるべきだわ」

 

 

 隣で紅も言う。

 それが聞こえたかのように、リンガは口の端を上げ、鋭く光るクナイを投げつけた。

 ナナは1本、2本と、飛びすさりながらよけた。

 が、しかし、3本目をよけたとき、バランスを崩して地面に手をつく。

 そして、その手に4本目のクナイが突き刺さった。

 

 

「ナナッ!!」

「やべーぞ、まともに喰らった!!」

 

 

 ナルトとシカマルは思わず手すりから身を乗り出した。二人の手には、もうずっと汗がにじんでいる。

 

 

「完全にスピードが落ちたな……」

 

 

 シノまでもが、二人の後ろでそうつぶやいた。

 彼らの眼下で、ナナは大きく息をしながら立ち、突き刺さったクナイを抜きとった。

 地に、ナナの鮮血が絡みついた金属が転がる。

 

「くそっ、ナナ、このままじゃ……」

 

 やられちまう……と、ナルトが言いかけた時、ナナが突然、彼らの方を振り仰いだ。

 

 

(……え……)

 

 

 ナナの視線は彼らを通り越し、その後ろを見上げている。

 それに気づくと同時に、その背後で不自然に風が巻き上がった。

 とっさに振り返ると、風は木ノ葉とともにくるくると竜巻をつくっている。

 

 

「な、何だってばよ……!!」

「し、知るかよ!!」

「…………」

 

 

 ナルトとシカマル、そしてシノが目の前の竜巻に身構えた。その時。

 

 

「ナルト、あいつに言っとけ……」

 

 

 風の中から聞き覚えのある声がした。

 

 

「……ま、まさか……」

 

 

 あんぐりと口をあけるナルトの前で、風は解け、中から二つの影が現れる。

 

 

「少しは自分のことも考えろってな……」

「…………!!」

 

 

 黒い瞳がナルトを見ていた。そしてすぐ、眼下のナナに視線を移した。

 

 

「サスケ……」

 

 

 ナルトより早くに、シカマルが反応する。

 

 

「うちはサスケか……」

 

 

 シノも静かにつぶやいた。

 

 

「いやぁ、遅れてスマンね」

 

 

 そのサスケの後ろで、もうひとつの影の正体であるカカシが、のん気な口調で言った。

 

 

「サ、サスケッ!! お、お前っ!!」

 

 

 ナルトは言おうとした言葉を飲み込んだ。

 木ノ葉と共に現れたサスケの瞳は、すでに試験会場のナナを捉えている。

 そうだ、今はナナのピンチだ……と、思い起こして彼もナナを見やる。

 ナナは確かにサスケの姿を確認して、小さく微笑んだ。

 

 

「まさか、ナナのやつ……!!」

 

 

 シカマルはなんともいえぬ声で言った。

 

 

「え? な、何だってばよ」

「あいつ、まさか……わざと……」

 

 

 途切れ途切れに、呆れを含んだシカマルの言葉に、ナルトはきょとんとする。

 

 

「ナナのやつ、『時間稼ぎ』してたんじゃ……」

 

 

 ナルトは、今のシカマルの言葉と、先程のサスケの言葉を繋げ、ようやくその意味を悟る。

 

 

「まさか……この試合が終わるまでにサスケが来ねぇと、失格になるから……」

 

 

 ナルトの肌に、ゾクリと鳥肌が立った。

 

(ナナ……、こんな時に、そんなこと考えて……?)

 

 彼らの動揺をよそに、ナナはフッと笑った。

 

 

「なるほどな……、うちはサスケが来るまでの時間稼ぎをしていたというわけか。オレもナメられたもんだな……」

 

 

 状況を把握したリンガは、冷静に笑う。

 

 

「だが、勝利するのはオレということに変わりはない」

 

 

 印を結び、先ほどから繰り返し見せ付けている技を仕掛ける。

 

 

「ごめんね」

 

 

 左手から血をしたたらせながら、ナナは申し訳なさそうに言った。

 そして静かに印を結び、飛んで来る石つぶてを見すえる。

 

 

「風遁の術……」

 

 

 ナナがつぶやくと同時に、彼女の周囲に風が巻き起こった。

 それは、いとも簡単にリンガの得意技を看破する。

 

 

「お前、まだ力を……!!」

 

 

 「蓄えていたのか」とリンガが言いきれぬほどに、風の勢いは強かった。

 

 

「そうでもないよ」

 

 

 ナナは疲れた顔をしながらも、場違いなほどにのん気な口ぶりでそう微笑んだ。

 ここへきて予想外の展開に、ゴクリと唾を飲み込むリンガ。

 

 

「でも……」

 

 

 ナナは血をしたたらせたままの手をゆっくりと握った。

 そして、再び上を見上げる。

 まだ驚いたようなナルトたち、少し心配そうなカカシの右目、そしてまっすぐに自分を見つめるサスケの瞳。

 それを眺めると、フウを息を吐いて視線を戻しつぶやいた。

 

 

「負けたくはない、かな……」

「ちっ……!!」

 

 

 殺気のこもらぬナナの目がやけに無気味に見えて、リンガは身構える。

 ナナは彼を前にして、印をすばやく結んだ。そして、両手をそのまま地につく。

 すると……。

 

 

「な、なんだっ!?」

 

 

 リンガは体にガクンという下から突き上げるような衝撃を覚えた。同時に、足の裏が土に喰われたかのように、動きと感覚を失う。

 

 

(なんだ、この『印』は……!!)

 

 

 思わず足元に目をやった彼の目に映ったのは、自分の足を綺麗に囲み、薄く光る星の形……だった。

 

 

「陰陽忍術、星縛り……」

 

 

 彼は、ゾッとするほど透明感のある声を聞いた。

 

(陰陽……忍術……?!)

 

 その意味を考える間もなく、ナナの蹴りが飛んで来る。

 

 

「うわぁ!」

 

 

 腕でブロックするも、動けぬ足ではただそのまま攻撃を喰らうだけだった。

 ナナの攻撃はやけに静かで、柔らかな攻撃だった。

 にもかかわらず、一撃一撃がリンガの急所を突き、腕でのブロックがかなうはずもなかった。

 ナナの最後の一撃で、リンガの両足はようやく大地から開放される。そして、その体は勢いよく吹き飛んだ。

 

 長時間の闘いの結末は、ナナの勝利だった。

 ナナはできるだけ力を消費しないよう防御で時間を稼ぎ、最後のこの一瞬に余力を発散させた。

 会場にいた者にとって、今までの戦いの時間をすべて無に返すかのような、あっけない最後と見て取れた。

 そして、ナナの術は、『ただの金縛り』だと、誰もが思っていた。

 

 

「ほう……」

 

 

 誰一人想像し得なかったこのナナの戦いぶりに、火影すら目を見張った。

 

 

「あの少女、なかなか……」

 

 

 『風影』さえも、人知れずそうつぶやいた。

 

 

「勝者、いずみナナ」

 

 

 ゲンマはリンガが完全に意識を失っていることを確認すると、そう宣言した。

 

(むちゃくちゃな戦い方しやがって…)

 

 そして膝に手を置いてハァハァと苦しげに息をするナナへと歩み寄る。

 

 

「おい、ナナ」

 

 

 声をかけると、ナナは疲れきった顔をあげた。

 

 

「ったく、お前は……」

 

 

 呆れたようなゲンマに、ナナは申し訳なさそうに笑って見せた。

 そのナナに、ナルトが駆け寄る。

 遅れてシカマル、そしてサスケとカカシも降りて来た。

 

 

「ナナ!! お前ってば全部計算だったのか!?」

「なんつーめんどくせぇことすんだよ……」

 

 

 ナナはナルトとシカマルのセリフに笑い、カカシを見上げた。

 カカシは何も言わずににこりと微笑む。

 ナナは安心したようにホッと息をつき、深呼吸してからサスケに視線を移した。

 

 

「…………」

 

 

 サスケの瞳は、怒ったような、呆れたような、それでいて、どこか誇らしげな色を宿していた。

 

 

「遅いよ、サスケ」

 

 

 ナナが言うと、サスケはボソリとつぶやいた。

 

 

「わるい……」

 

 

 

 

 二人が交わしたのは、この一言だけ。

 

(また無理しやがって……)

 

 だが、サスケのそんな想いはナナに伝わっていたようで、ナナは苦笑してみせた。

 そして、ナナのサスケへ対する想いも、サスケはちゃんと受け取った。

 

(サスケも、ムチャはしないでね)

 

 だからサスケも、不敵に笑う。

 

(あ、言っても無駄か)

 

 ナナは、今度はからかうように微笑んで、上へと戻り始めたナルトとシカマルの後を追った。

 サスケはその背に、もういちど“念”を飛ばす。

 

 

(……ナナ……)

 

 

 階段への入り口に消えかけたその華奢な背は、当然のように振り返り、また、涼やかな微笑みを彼に与えた。

 

 

 

 

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