残酷なくらいに紅い日の中、ガイの背中に揺れるサスケは、ひどく幼く見えた。
ナナはそれを眺めもせずに、ただ砂利を踏む。
右の頬が熱を持って、頭はまだガンガンしていた。
「ナナ、目眩がするだろう? 少し休むか?」
ガイが振り返って言ったがナナは首を横に振る。
「そうか」
ガイはそれ以上何も言わず、木ノ葉への道を歩き続けた。
ナナの頭には、まだ
火影岩の頂上は、里が見渡せる。
下から吹き上げる風は冷たく、よろめくほど強い。
けれど、すべてを吹き飛ばしていってくれるようで、むしろナナにとっては心地よかった。
ナナはいつもそこに居て、つかの間の開放感を味わっていた。
「ナナ……ひとりで何してる……」
ボーっとそこから真っ赤な太陽を眺めていたナナに、その風が低い声を運んできた。
「あ、サスケ?」
泥や葉で汚れた服をまとったサスケが、朱い光の中でナナを見ていた。
「修行の帰り?」
「先に聞いたのはオレだ」
「あ、そうか。私はね、なんか、ボーっとしてた」
そう言うと、サスケは黙ってナナの隣に座った。
疲れているのか、顔色が冴えず、剥き出しの腕やひざは擦り傷だらけだった。
「風、強すぎるだろ」
「うん、ちょっと寒いけど気持ちいい」
「サスケも夕焼け眺めに来たの?」
「べつに……」
サスケは否定したが、わざわざこんな場所に来る理由はそれしか思いつかない。
サスケも胃が痛くなるような自分の運命から外れて、ひと休みしたかったのかもしれないと思う。
ナナはなんとなく、ただじっと傷の混じった彼の横顔を眺めていた。
サスケがこんなに自らを追い込むのは、目的があるからで、その目的は、一族を殺した者を殺すということ。
血を分けた兄である、イタチを……。
『私は、そのヒトを知っている……』
そう……言ってしまいそうだった。
だが、それは決して口にしてはならないことで……。
ナナはいつも言い出しかけて、ゆっくりと言葉を飲みこんでいた。
ナナが知っているイタチと、サスケが最後に見たイタチは、あまりに違いすぎた。
サスケはイタチを憎んでいるが、ナナにそんな感情は全く無い。
ナナがイタチを語れば、きっとサスケは否定する。
だからナナも、サスケを否定してしまう。
イタチを殺すために生きているサスケの全てを。
それが怖かった……。
本当は、ナナも『イタチと戦う』と誓ったことを伝えて、同じ目的を持ちたかった。
が、どうしても言えなかった。
サスケに背を向けられるのが怖かった。
サスケには、あんなふうに居なくなって欲しくはなかった。
「やっぱり風、強いな……」
サスケはそう言って、立ち上がった。
「帰るぞ」
手を差し伸べられたわけではないが、それと同じくらい優しい響きのある声。
そう感じた。
「うん……」
うなずいて立ち上がるナナを、サスケの背中は待っていた。
ナナは単純に、こんなにも不器用に優しい彼を苦しめるものが憎いと思った。
できればそれを、自分の手で消し去りたいと。
ただ『それ』はイタチ……なのだとすぐに気づいて、歩みかけた足を止める。
サスケは、振り返ってナナを見た。
ナナをまっすぐに見る黒い瞳、あの人より幼い光。
揺れる黒髪。
あの人より、少し細い……。
瞬間。
ナナはサスケの分も、イタチと戦おうと思った。
サスケをこれ以上苦しめないために、サスケが“復讐鬼”にならなくてすむように、自身の手でイタチを殺そうと決心した。
サスケとイタチは戦わせない。
サスケに、肉親を殺す痛みを植え付けない。
そう、ナナはもうひとつの誓いを立てた。
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あれから一年も経っていないのに、ナナの『誓い』は無残にも破られ、サスケはまた傷を負った。
思えば、あの時の『誓い』はずいぶんと無謀だったのかもしれない。
自分には『誓い』を実行する力なんてなかった。
チャクラとか、術とか、そんな力じゃなくて、『決意』という力が無かった。
サスケが復讐に駆られないように……などと思っておいて、彼を繋ぎ止める覚悟も決意も、資格もなかったと思い知らされた。
ナナは絶望していた。
自分は九尾の存在を封じるために生きなければならないから。
ナルトを殺すためだけに、強くならなければならないから。
しょせん、自分の存在する意味はそれであって、他の目的や決意など持つことは許されない。
宿命を受け入れ、それを忘れてはいけない立場にある。
(私には、サスケの未来とまっすぐに向き合う資格はない……)
病院に着いて、ナナはすぐにサクラを呼びに行った。
どうしても真っ先にそうしなければならない気がしていた。
「サスケくんっ!! どうしてサスケくんがっこんな目に……?!」
寝かされたサスケに駆け寄るサクラは、なんだかとても綺麗に見えた。
サスケのぐったりした手を握るサクラの涙を見たら、息が詰まった。
窒息しそうになって、ナナは後ろ手でドアを閉めた。
音を立てて閉まったドアの冷たさが、なぜだか心地よかった。