ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

21 / 73

 残酷なくらいに紅い日の中、ガイの背中に揺れるサスケは、ひどく幼く見えた。
 ナナはそれを眺めもせずに、ただ砂利を踏む。
 右の頬が熱を持って、頭はまだガンガンしていた。

「ナナ、目眩がするだろう? 少し休むか?」

 ガイが振り返って言ったがナナは首を横に振る。

「そうか」

 ガイはそれ以上何も言わず、木ノ葉への道を歩き続けた。
 ナナの頭には、まだ忍者学校(アカデミー)生だった時の、同じような夕日が勝手に思い浮かんでいた……。



恐怖

 火影岩の頂上は、里が見渡せる。

 下から吹き上げる風は冷たく、よろめくほど強い。

 けれど、すべてを吹き飛ばしていってくれるようで、むしろナナにとっては心地よかった。

 ナナはいつもそこに居て、つかの間の開放感を味わっていた。

 

「ナナ……ひとりで何してる……」

 

 ボーっとそこから真っ赤な太陽を眺めていたナナに、その風が低い声を運んできた。

 

「あ、サスケ?」

 

 泥や葉で汚れた服をまとったサスケが、朱い光の中でナナを見ていた。

 

「修行の帰り?」

「先に聞いたのはオレだ」

「あ、そうか。私はね、なんか、ボーっとしてた」

 

 そう言うと、サスケは黙ってナナの隣に座った。

 疲れているのか、顔色が冴えず、剥き出しの腕やひざは擦り傷だらけだった。

 

「風、強すぎるだろ」

「うん、ちょっと寒いけど気持ちいい」

「サスケも夕焼け眺めに来たの?」

「べつに……」

 

 サスケは否定したが、わざわざこんな場所に来る理由はそれしか思いつかない。

 サスケも胃が痛くなるような自分の運命から外れて、ひと休みしたかったのかもしれないと思う。

 ナナはなんとなく、ただじっと傷の混じった彼の横顔を眺めていた。

 サスケがこんなに自らを追い込むのは、目的があるからで、その目的は、一族を殺した者を殺すということ。

 血を分けた兄である、イタチを……。

 

 

   『私は、そのヒトを知っている……』

 

 

 そう……言ってしまいそうだった。

 

 だが、それは決して口にしてはならないことで……。

 ナナはいつも言い出しかけて、ゆっくりと言葉を飲みこんでいた。

 ナナが知っているイタチと、サスケが最後に見たイタチは、あまりに違いすぎた。

 サスケはイタチを憎んでいるが、ナナにそんな感情は全く無い。

 ナナがイタチを語れば、きっとサスケは否定する。

 だからナナも、サスケを否定してしまう。

 イタチを殺すために生きているサスケの全てを。

 

 それが怖かった……。

 

 本当は、ナナも『イタチと戦う』と誓ったことを伝えて、同じ目的を持ちたかった。

 が、どうしても言えなかった。

 サスケに背を向けられるのが怖かった。

 サスケには、あんなふうに居なくなって欲しくはなかった。

 

 

「やっぱり風、強いな……」

 

 

 サスケはそう言って、立ち上がった。

 

「帰るぞ」

 

 手を差し伸べられたわけではないが、それと同じくらい優しい響きのある声。

 そう感じた。

 

「うん……」

 

 うなずいて立ち上がるナナを、サスケの背中は待っていた。

 ナナは単純に、こんなにも不器用に優しい彼を苦しめるものが憎いと思った。

 できればそれを、自分の手で消し去りたいと。

 ただ『それ』はイタチ……なのだとすぐに気づいて、歩みかけた足を止める。

 サスケは、振り返ってナナを見た。

 ナナをまっすぐに見る黒い瞳、あの人より幼い光。

 揺れる黒髪。

 あの人より、少し細い……。

 

 瞬間。

 ナナはサスケの分も、イタチと戦おうと思った。

 サスケをこれ以上苦しめないために、サスケが“復讐鬼”にならなくてすむように、自身の手でイタチを殺そうと決心した。

 サスケとイタチは戦わせない。

 サスケに、肉親を殺す痛みを植え付けない。

 そう、ナナはもうひとつの誓いを立てた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 あれから一年も経っていないのに、ナナの『誓い』は無残にも破られ、サスケはまた傷を負った。

 思えば、あの時の『誓い』はずいぶんと無謀だったのかもしれない。

 自分には『誓い』を実行する力なんてなかった。

 チャクラとか、術とか、そんな力じゃなくて、『決意』という力が無かった。

 サスケが復讐に駆られないように……などと思っておいて、彼を繋ぎ止める覚悟も決意も、資格もなかったと思い知らされた。

 ナナは絶望していた。

 

 自分は九尾の存在を封じるために生きなければならないから。

 ナルトを殺すためだけに、強くならなければならないから。

 しょせん、自分の存在する意味はそれであって、他の目的や決意など持つことは許されない。

 宿命を受け入れ、それを忘れてはいけない立場にある。

 

 

(私には、サスケの未来とまっすぐに向き合う資格はない……)

 

 

 病院に着いて、ナナはすぐにサクラを呼びに行った。

 どうしても真っ先にそうしなければならない気がしていた。

 

 

「サスケくんっ!! どうしてサスケくんがっこんな目に……?!」

 

 

 寝かされたサスケに駆け寄るサクラは、なんだかとても綺麗に見えた。

 サスケのぐったりした手を握るサクラの涙を見たら、息が詰まった。

 窒息しそうになって、ナナは後ろ手でドアを閉めた。

 

 音を立てて閉まったドアの冷たさが、なぜだか心地よかった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。