ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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 夜明けとともに、ナナは短冊街(たんざくがい)をあとにした。
 ナルトのことが心配でないといえば嘘になる。
 が、ここには伝説の三忍のうち二人が居る。
 今のナナなんて必要無かった。
 命令違反だったとしてもどうでもよかった。
 ナナはナルトに別れを告げずに発った。



遭遇

 たったひとり、木ノ葉へ帰る道を行くナナは、ひとつ大きな溜め息をついた。

 憂鬱な心を詰め込んだ重い身体を引きずるようにして、歩きづらい山道を行く……。

 

 なぜ、あんなふうに綱手に言ったのか、自分でも不思議だった。

 なぜ、あんなにムキになっていたのかも。

 ただ、三忍と謳われる綱手だからこそ、二人の死を受け入れて欲しかった。

 そして、忍の覚悟を見せて欲しかった。

 忍はみな、自分の死も、大切な者の死も、覚悟して生きるものなのだと、そう言って欲しかった。

 

 ナナはただ、自分の手によってもたらされる『ナルトの死』を覚悟しなければならない生き方を、認めて欲しかっただけだった。

 背負った『使命』は正しいものだと言って欲しかった。

 みんながそうだったから、綱手もそうであって欲しかった。

 だが、それとは全く別の答えが綱手から返って来た。

 

 

『お前が一番、忍を道具だと思ってるんじゃないのか?!』

 

 

 あの言葉は、刃よりも鋭くナナに突き刺さった。

 ナナは何度となくその言葉を思い出し、自嘲した。

 綱手の言う事は正しかったから。

 だからこんなにも、心が冷え冷えとしているのだ。

 

 だが、あの言葉、少し意味が浅い……。

 

 

 『忍』を……じゃなく……『自分』を……。

 

 

 ナナは、自分で自分を『道具』と認識していたことを思い知らされた。

 これが自嘲せずにいられようか……。

 自分は『九尾』を収める道具なのだ。

 『忍』としてなのか、『陰陽師』としてなのか。

 どっちつかずの、形すら持たぬ『道具』だと……。

 ただ、このところナルトのおかげで、そんな自分の忌わしい使命を忘れていたから、思い出させられて動揺しているだけなのだ。

 モヤモヤとした気分の中、ナナはそう自分に言い聞かせながら歩いていた。

 それに、発作のこともある。

 

(……っつぅ……)

 

 突然の息がつまるほどの痛みに、ナナは左胸を抑えた。

 この2、3日で、その頻度と痛みは初期段階と比べものにならないほど増していた。

 あぁ、だからこんなにも綱手の言葉が身に染みるのだと、ナナは思う。

 思いつつ、膝をつきそうになるのを堪える。

 

「……ぐっ……!!」

 

 少しだけ、30秒もすればおさまる……。

 ナナはギュウと右手で胸を抑えつけ、じっと発作が引くのを待つ。

 幸い、山道で人気はない。

 

 ナナは大きく息を吐いて体制を整えた。

 視界がまだ少し揺れている。

 かまわずナナは動きだそうとした。

 ……その時。

 

 

「やぁ、こんなところに一人でどうしたんだい?」

 

 

 突然、聞き覚えのある男の声が、背後の木の上から降りかかった。

 とっさにナナは、体を反転させて身構える。

 枝の上に立っていたのは、眼鏡の若い男、薬師カブトだった。

 

「君はたしか、木ノ葉のいずみナナちゃん……だったよね?」

 

 カブトは愛想のいい笑みを浮かべてナナを見下ろしている。

 その眼鏡の奥にある人の良さそうな表情は、中忍試験で見たものと変わりは無かった。

 ただ、彼の額当てのマークのみが異なっている。

 が、ナナはキッと睨み据えて殺気を飛ばす。

 ナナは最初から、カブトの本性にうすうす危険なものを感じとっていた。

 

「まったく……君だけは初めからボクを警戒してたからね……。かわいくないったらないよ……」

 

 カブトは呆れたように呟いて、完全に作り笑顔を取っ払った。

 新たな顔は、レンズの向こうで瞳が怪しげに光っていた。

 

 ナナはさらに一歩あとずさって距離をおいた。

 発作の余韻で、まだ息が荒かった。

 が、怯えてみせてやる気は毛頭無かった。

 嫌いな相手にやすやすと優越感を与えるほど、弱くはないつもりだ。

 まっすぐにカブトを見上げた。

 この時まで、カブトの正体ははっきりとわからなかった。

 だが額当てのマークを見て、今はっきりと彼の正体を理解した。

 

「アナタ……大蛇丸の……」

 

 ナナは低い声でそれだけ呟いた。

 カブトはナナのそんなしぐさに、楽しそうに口の端を上げる。

 

「そう……いわば右腕ってところかな」

 

 それはとてつもなく意味のある言葉だった。

 「三忍の右腕」ともなれば、相当の実力者であることは下忍でもわかる。

 当然、今の自分に太刀打ちできるような相手ではなかった。

 しかし、ナナは気丈に言った。

 

「私に、何か用?」

「いやね、せっかく会えたんだから、大蛇丸様にも会わせて差し上げたいと思ってね」

「…………」

「前々から、大蛇丸様は君に興味をお持ちだから」

「……大蛇丸が……私を……?」

 

 ナナは意外なカブトの意図に、眉をひそめた。

 中忍試験……死の森でのやり取りを思い出す。

 あの時、大蛇丸はナナが和泉一族の人間であることをすでに知っていた。

 その血が欲しいということだろうか……。ナナは判断しかねる。

 大蛇丸が“うちは”の血を欲していることは、里の上層部のすでに知るところであるが、さらに“和泉”の血をも求めているのかどうか……。

 次の言動と行動を考えあぐねているうち、カブトは枝から地に降り立ち、ナナを正面から見据えた。

 

「まぁとにかく、一緒に来てもらうよ」

 

 ナナは反射的にクナイを投げて飛びすさる。

 しかし、その軌道はカブトの目に容易に見切られた。

 カブトは難なく接近し、ナナの背後に回りこむ。

 

「顔色が良くないね。呼吸も荒いな。筋肉もわずかに硬直している。懸命に隠しているようだけど、明らかに体調不良だよね? 臓器? 心臓かな……?」

 

 カブトがそう見立てたとおり、ナナは少し動いただけで、異様な疲れを感じていた。

 ズキン……と、発作の名残が体を襲う。

 

「そんな体じゃあ、まともな抵抗はできないよ。なんたってボクは君の先生と同じくらい強いんだからね」

 

 ナナは歯を食いしばった。

 が、カブトはますます楽しげにフッと笑った。

 そして一瞬でナナに襲い掛かり、当て身を食らわせた。

 ナナの体は簡単に崩れ落ちる。

 カブトに担がれながら、ナナは意識を手放した。

 最後に彼の呟きだけがかすかに聞こえていた。

 

 

「大蛇丸様に良い土産ができた……」

 

 

 

 

 

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