ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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自嘲

 夢を……夢をみていた。

 カカシ、ナルト、サクラ……そしてサスケが、並んで火影岩を眺めている。

 

(みんな……)

 

 ナナもそこに並ぼうとした。

 しかし、足が動かない。声も、出ない。

 四人は自分に気づかない。

 

(…………!!)

 

 何度も四人の名を呼んで走り出そうとした。

 が、どうしても駄目だった。

 まるでそこに自分は存在してはいないかのように。

 

 それでナナは気づいた。

 

 自分は、『死んだ』のだ……と……。

 

 

 

 カタン……と、頭の上で音がした。

 ようやくナナは目を開ける。

 額に嫌な汗が浮かんでいるのに、体は妙に寒い。

 

(イキテル……)

 

 そう気づくのに時間がかかった。

 辺りはやけにひっそりとしている。

 大蛇丸とカブトの気配はない。

 が、ナナは用心しながら周りを見回した。

 

 どうやら先ほどの部屋に寝かされていたようだ。

 同じ木目の天井を確認する。

 チロチロ揺れる影はなかった。

 それでも薄明るいのは、頭上の高窓から差し込む外の光のせいか……。

 

 ナナは縄が解かれていることに気づいた。

 

(うご……ける……)

 

 鈍くはあるが、手足は動く。

 吐き気はどうしようもなかったが、ナナはなんとか体を起こした。

 

(……窓……? 明るい……)

 

 その向こうの光の具合から、昼に近い頃と判断した。

 

(……半日くらい……寝てたのかな……)

 

 初めにカブトに会ってから時間の経過が曖昧なのだが、ナナはそう計算した。

 ゆっくりと部屋を見回すと、高窓ひとつの座敷牢のようだった。

 木製だが、頑丈な壁と格子は衰弱しきった体で破れる代物ではない。

 

「……フゥ……」

 

 ナナは深く息を吐いた。

 『とじめのみたま』は自決用の毒薬だったくせに、ナナを終わらせはしなかった。

 あれは、里を出る者が当主から賜る毒薬だった。

 その特異な一族の血を、一滴も外界(げかい)の者に奪われないためだ。

 奥歯に仕込んだその丸薬を噛み砕くのに、なんの躊躇もなかった。

 一族の血を守るためではない。

 大蛇丸の思い通りになどなりたくなかったからだ。

 あんなおぞましい未来……。

 

 サスケを……、苦しめたくはなかった。

 

 だからナナは満足だった。

 惨めで情けない最期でも、使命を果たせなかったとしても、満足だった。

 少し急ではあったが、まるで当然のような最期に、躊躇うはずもなかった。

 

 だが、今、確かに生きている。

 己の心臓の音を感じる。呼吸音が聞こえる。

 投げやりに放り投げた命が、まだ手元に残っていた。

 おそらくカブトが解毒したのだろう。

 いや、そもそもナナは幼い頃から『毒受けの修業』をしていたから、耐性があったのかもしれない。

 たとえ『とじめのみたま』であっても……。

 その“皮肉”に、ナナは思わず笑った。

 だが。

 

「ぐっ……!!」

 

 例の発作が見計らったかのようにナナを襲う。

 ナナはうめき声をもこらえてそれをやり過ごした。

 前回よりも長い苦痛。

 それでもナナは、必死で呼吸を整えた。

 

 やはり……折られたくは無かった。

 大蛇丸にも、血にも。

 『生きたい』という前向きな衝動は無い。

 ただ、『まだ終われない』というだけの惰性。

 

 無理やり自嘲しながら、ナナはフラフラと立ち上がった。

 

「お願い、来て……」

 

 そう念じると、眼前に瑠璃色の蝶が舞い込んできた。

 

「鍵、開けられる……?」

 

 ささやくと、蝶は弧を描いて座敷牢の鍵の前に行く。

 そして、かすかにきらめきながら己の型を朧にし、鍵穴に滑り込むように入っていった。

 

 カチャリ……。あっけなく錠は開かれた。

 

「ありがとう……」

 

 再び蝶の姿に戻った式神に言い、ナナはよろめきながらそこを出る。

 とにかく、この呪われた場から立ち去らねばならなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 どのくらい歩き続けたのか、日はすでに傾きかけていた。

 のどがキリキリ痛む。そろそろ体は限界だった。

 あれから発作は3度訪れた。

 こちらもピークらしいのだ。

 

「うっ……!!」

 

 ナナはとうとうブナの木の根元にひざをついた。

 この深い森に、否応なしに荒い息が響く。

 気配を殺すのも、探るのも、うまくはいかなくなっていた。

 嫌な予感が脳裏をかすめた。

 この機を待っていた者が、いないはずはなかった。

 ナナは再び立ち上がろうとして、また心臓の痛みに襲われた。

 

「…………!!!」

 

 今度はじっとこらえられる程度ではなかった。ナナの体は、ガクンと地に伏せった。

 それでも意識だけは手放すまいと、必死に目を見開く。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 やっとのことで痛みが治まりかけると、まさにこの時を狙っていた者が、当然のように姿を現した。

 

「やっと見つけたよ、ナナちゃん。まさか、その体であの牢から逃げ出せるとはね」

 

(……カブト……!)

 

 にんまりと笑んでいるのが、伏せっていてもわかる。

 カブトは側の木から鮮やかに着地して近づいてきた。

 

「……思いのほか、毒は残ってたみたいだね」

 

 カブトはもちろん、この『覚醒』による発作のことは知らなかった。

 

「でも、こんな所まで逃げて来られたのは、さすが『和泉一族』の人間ってとこかな」

 

 が、どのみち再び大蛇丸のところへ連れ戻されるのだ。

 ナナは唇を噛み締めた。

 カブトは口調とは反対に、乱暴な手つきでナナを仰向けにした。

 わずかな日を受け、レンズがキラリと光った。

 

「ボクが君を逃がすわけないだろう?」

 

 ナナはカブトの口の端が、残酷につりあがるのを見た。

 

「……くっ……」

 

 最後の反撃とばかりに、ナナは膝蹴りをくらわせる。

 ナナを狩り終えたと油断していたカブトは、意外にもまともにそれを受けた。

 だが、ナナがそのまま立ち上がって後ろへ身を引き、それからまたガクンと膝をついたのを見て笑う。

 

「ボクは、強い子は嫌いじゃないんだよ……」

 

 強い物をこの手で手折たおる喜び……。

 カブトはそれを実感し、興奮しているようだった。

 そしてナナに覆い被さり、その手で乱暴に額当てを剥ぎ取った。

 

「その強い意志も、ボクの思い通りにしてみせようか……?」

 

 額をなぞる指先に、ナナは嫌悪を強くする。

 が、不敵な笑みは影を作りながら、血の気の失せた顔に近づく。

 しかし、ナナに抵抗する力は無かった。

 もう、腕も足も動かすことはできない。

 瞳だけが鋭く冷たい光を保っている。

 

「いい目だね。大蛇丸様が、サスケ君のように、あるいはサスケ君()()に入れ込むのもわかるよ……」

 

 彼は両手をナナの首に添えた。

 そして、楽しむかのように徐々に力を込めていく。

 

「大丈夫、当然殺しはしないよ。ただ少し眠ってもらうだけさ」

 

 ナナは歯を食いしばった。

 が、力がどんどん削がれていく。

 

「君の瞳が絶望に染まって行くのを、ゆっくりと見せてもらうよ」

 

 その時、何の気配も感じぬ茂みの中から、ヒュンという寒い音がした。

 

「なにっ……?!」

 

 カブトはとっさにナナを置いて飛びさがる。

 

 トンットンットンッ……。

 

 彼の体があった場所に、数本のクナイが斜めに突き刺さった。

 カブトは木々の合間を睨みつけ言った。

 

「誰ですかね……? ボクの邪魔をするのは……!」

 

 

 

 

 

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