「綱手さま……私……」
「ナナ、悪かった」
何か言いかけたナナを遮り、綱手は唐突に謝った。
そして目を見開くナナに、照れを押しやって言う。
「お前のことは、自来也から聞いたよ。お前が『和泉』の人間で、里とナルトのために大きな使命を背負わされてるってことはな……」
「…………」
「それを知らずに、あんなことを言った私がバカだった」
「でも……綱手様の言ったことは正しい……」
ナナは消え入りそうに、そうつぶやいた。
「いいや、違うな。お前の方が正しい」
「そんなこと……ないです……」
「ナナ、違うんだ」
あれから何かあったのだろう。
あの時、苦悩をちらつかせながらもまっすぐに意見してきた時とは、まるで別人のようだった。
見下ろすナナの肩は細くて今にも砕けそうだ。
こんな頼りないくせに、あの時、ナナは叫ぶように彼女に言ったのだ。
『忍ならば、自分の死も、大切な人を失うことも、受け入れなければならないはず』だと……。
綱手は、ナワキとダンの死を、ただの下忍の小娘に『仕方のないこと』と片付けられたような気がして、思わずナナを皮肉った。
『お前が一番、忍を感情の必要ない道具と思っているんじゃないのか』と。
しかし、ナナのことを知った以上、自分の非を完全に認めていた。
ナナが、九尾が暴走した時、それを受け入れる『器』になるという使命を背負いながら、どんな気持ちでああ言ったのか。
大切な仲間の存在を、自ら消さねばならない運命を背負いながら、どんな思いでああ叫んだのか。
それを考えると、胸が痛んだ。
同時に、己の度量の小ささに気がつかされた。
ずっと卑屈に染まっていた部分が、色を変えたように思えた。
「ナナ……」
綱手はその肩に両手を乗せる。
「お前の言ったこと、本当は私もわかってたことなんだ。ただ私は弱かったから、逃げていた。そして、お前に八つ当たりした」
「…………」
「お前は強い。だからこそ、お前はそうやって悩んで、苦しんでいる。誰にも何も言わずに、たった独りでな……」
ナナはゆっくりと綱手を見上げた。
「ナナ、お前はその使命から逃げずに戦っているんだよ」
「……綱手さま……」
「お前は立派な木ノ葉の忍だ」
しっかり目を見つめて言うと、ナナは迷ったように唇をかんだ。
やはり、あの時の強さは影を潜めている。
が、失くしてしまったのではないということを、綱手は信じていた。
「お前には、これから“火影”の私を色々とサポートしてもらうからな」
親しげにそう言って笑った。
本心だった。
きっと、自分が目を背けていたものを再び見つめる機会をくれたナナという忍なら、この先も何かを与えてくれそうな気がしていた。
「よろしくたのむ」
ナナはようやく微笑した。
だが。
「じゃあ、いくぞ。お前の仲間のうちはの小僧と、カカシの坊主を治してやんなくちゃな」
続けてそう言った瞬間。
「……カカシ先生と……サスケを……?」
ナナは、やっと見せた笑顔を引っ込めた。
「なんだ? 嬉しくないのか?」
「そんなこと、ないです」
綱手が顔を覗き込むと、ナナは困ったように首を振って笑った。
何かがおかしかった。
責任を感じているのか、二人から逃げてでもいるのか……。
が、綱手はあえて気づかぬふりをした。
「じゃあ行くか。ナルトも向こうで騒いでることだしな」
「……ハイ……」
そう言うと、ナナは素直にうなずいた。
透けそうな笑みだ。
ある程度の経験を積んだ忍なら、そこに複雑な心理があることを見抜けるだろう。
が、綱手はそのままナルトたちの方へと歩き出した。
ナナのことを知らな過ぎた。
今はまだ、気づかぬくらいの距離で見守ったほうが良いと思えた。
おそらく、自分の『経験上』だ。
だから、少し後ろを小さな足音でついて来るナナに、それ以上は何も言わなかった。