ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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竦み

 足が重かった。

 木ノ葉病院の門までカカシに連れられて来て、カカシが去ってからも、ナナは少しの間中に入るのをためらっていた。

 サスケの目を見たら、自分がどんな気持ちになるのか、怖かった……。

 だが、カカシの言いつけを守らず、これ以上“状況”を複雑にするのも良くないとわかっていた。

 これ以上……、誰かに心の中身を晒すのは駄目だ。

 シカマルにもカカシにも、少しだけ“零して”しまった。

 二人は優しかったけれど……、これ以上知られる訳にはいかなかった。

 今、心の蓋に誰かの手がかかったら、きっと話してしまう。

 “彼”のことを……。

 それは駄目だ。

 掟とか疑惑や混乱を避けるためではなく、自分のために……。

 だから早く“いつもの自分”を取り戻そう。

 サスケとも笑って話そう。サクラやナルトとも。

 そうなけなしの決意を固めながら、ナナは薬品の匂いが漂う階段を一段一段、上っていた。

 最後の一段を踏みしめ、ひとつ深呼吸して顔を上げる。

 すると、廊下のど真ん中に立ち尽くすサクラの背が目に入った。

 

「サクラ……ちゃん……?」

 

 ナナの声に気づいたサクラは必死の形相で駆け寄り、腕をつかむ。

 

「ナナ! お願い! 二人を止めて!!」

「……え……?」

 

 サクラはいきなり、すがるようにそう叫んだ。

 

「ナルトとサスケくんがっ! 『戦う』って言って屋上へ……!!」

「……『戦う』……?」

 

 上の空でつぶやくナナの腕を、サクラは強引に引っ張った。

 そのまま、屋上へ続く細い階段を駆け上る。

 

 

 そして、二人は“その光景”を目にした。

 

「二人ともやめてっ!!」

 

 サクラは、目の前で殺気立つナルトとサスケに叫んだ。

 しかしその悲鳴は二人に届かず、ついに戦いは始まってしまった。

 

「ナナ! お願いだから、二人を止めてっ!!」

 

 ナナはサクラに肩を揺さぶられながらも、ぼんやりと戦いの光景を眺めていた。

 影分身が、火遁が……それぞれ相手を襲う。

 ただ傷つけるために……。

 

「ナナってば!!」

 

 サクラはどうしてか上の空でいるナナに、必死で訴えた。

 

「あの二人のこと、止められるのはナナだけよっ!!」

 

 ただ二人が傷つけ合うこの悪夢を終わらせるために、ナナに懇願していた。

 

「いつだって、ふたりとも……サスケくんでさえ、ナナの言葉にだけは耳を傾けてきたじゃない!!」

 

 しかし、ナナはその場から動けなかった。

 激しく揺さぶられても、涙交じりに請われても、指の先すら動かない。

 声すらも出ないで、ただ突っ立っていた。

 

「ナナ!!」

 

 涙に光るサクラの目が、無理やり視線を合わせた。

 

「お願い!」

 

 ナナは、反射的にそこから目を逸らした。

 そしてかろうじて、こう言った。

 

 

「……私には……できない……」

 

 

 サクラは息を呑んだ。

 

「ナナ……!?」

 

 だが、ナナはもう一度、つぶやくように、だがはっきりと言う。

 

「私に、二人は止められない」

「え、ナナ……?」

 

 サクラがどんな顔をしているか、顔を背けていてもわかる。

 青ざめていた頬は怒りで紅潮し、あの綺麗な瞳には軽蔑が浮かんでいるのだ。

 

「ナルト、サスケくんっ!!」

 

 向こうから強大なチャクラが起こした風が吹きつけた。

 ナルトは螺旋丸を、サスケは千鳥を、それぞれ相手に向けて放とうとしている瞬間だった。

 当然、ナナもサクラの肩越しにそれを見ていた。

 止めなければ、どちらかが……、あるいは両方とも死ぬ……。

 それは頭でわかっていた。

 だが、どうしても体は動かなかった。

 おそらく、『怖い』……とか、そんな理由ではなかった。

 サクラに言ったことは本当で、自分に彼らを止める力など、カケラも無いと思った。

 いや、そんな“資格”がないのだと、そう感じていた。

 

 自分の肩からサクラの手が離れる。

 サクラが二人に向かって走り出すのが、やけにスローで見えた。

 

(……サクラ……ちゃん……)

 

 こぶしを振り上げ、接近する二人。

 そして、それを止めようと“間”に入るサクラ。

 

 三人と自分との間に、深い深い奈落が生まれた……。

 

 あまりにも暗いそれに、ナナは足が竦んでいた。

 

(……私は……)

 

 三人とも見殺しにしてしまう……。

 

 だが、螺旋丸と千鳥がぶつかり合うことはなかった。

 それらがサクラを傷つけることもなかった。

 カカシが現れ、いとも簡単に二人を止めたのだ。

 

「カカシ先生……!!」

 

 泣き出すサクラと、投げ出された二人。

 サスケがぶつかった貯水槽からは水が勢い良く噴出して、ナナにはそれが、“誰か”の血潮のように見えた。

 

 ナナは、再び彼らに背を向けた。

 そしてその場から、逃げるように立ち去った。

 

 

 

 

 

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