ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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独白。


理由

『ナルトと他のやつらはオレが集めて来るからよ。ナナはネジってやつを連れて来てくれ』

 

 シカマルはそう言ってナルトの家に向かった。

 そうやって、私に気を使ってくれた。

 私はまだ、ナルトと顔を合わせる勇気が無かった……。

 

 

 ネジくんの家へ向かって走りながら、私は必死で自分の中にある感情と向き合っていた。

 

『ナナ、なにを怯えてんだよ』

 

 シカマルの言う通りだった。

 私はずっと、怯えていた。

 サスケのあの瞳を見てから、ずっと怖かった。

 

 私は、何もできなかった。

 『イカナイデ』って、たったの五文字すら思いつかないくらい、頭の中が真っ暗で……、『寂しい』とか、『悲しい』とかは、感じなかった。

 サスケに言われるまで、涙を流していたことすら気づかなかった。

 最後に泣いたのがいつだったかも思い出せないのに、よりによってあそこで泣いてしまったなんて、皮肉なことだと思う。

 悲しくなんて、なかったのに。

 

 だって……いつかこの日が来ることを、私は知っていた気がするから。

 いつかは、サスケと私、別の道を行くんだって、わかってた。

 いつまでも同じ時間はすごせないって気づいてた。

 たぶん、お互いに……。

 

 だから、何もできなかった私に、サスケはあんなにもやわらかく笑ったんだ。

 すごく大人びた笑みで。

 私はただ、千切れて転がる葉っぱみたいな感覚で、去っていくサスケの背中を見ていた。

 ただ、それだけ。

 

 だから……。

 だからそんな私に、『ナナなら止められたのに』なんて言わないでほしかった。

 『サスケくんはずっとナナを見ていたのに』 なんて、泣かないでほしかった。

 サクラちゃん……サクラちゃんの方が、私より何倍も強いね。

 私はサクラちゃんがうらやましい。

 まっすぐに心をさらけ出せるほど、私は強くない。

 そんな覚悟は持てない。

 私は、自分の使命から逃げるわけにはいかない。

 どんなことがあったって、私はナルトの側に居なくちゃならない。

 これは『決められた』ことだったけど、この里へ来てナルトに会ってから、自分で『決めた』こと。

 自分で決めた、自分の道。

 それを理由に、私は自分から目を逸らし続けていた。

 

 だから、サクラちゃんみたいに、『連れて行って』なんて、決して言えない。

 『サスケが全て』だとか、そんなふうには生きられない。

 私はサスケを幸せになんてしてあげられない。

 

 それに、『復讐も手伝う』なんて、絶対に言えない……。

 イタチに救われた私はもう、彼と戦えない気がする。

 弱い私は、二人の戦っている姿なんて見られない。

 『ワタシはサスケがキライ』

 

 ……ただ、そう思うことしかできない。

 

 サクラちゃんに、あんな言葉を言わせたサスケがキライだから。

 みんなを捨てて、独りで行ってしまえるサスケがキライだから。

 私に『好きだった』と告げたサスケが、ダイキライだから。

 そう……この怖さも、サスケが残したんだ……。

 サスケは私に、サスケの居ない世界の怖さを植え付けた。

 

 ……コワイ……

 

 背筋がゾクリとして、私は思わず左腕に触れた。

 もうずっと前から癖になっている。

 朱い布は、いつでもあの漆黒の眼を思い出させて、私の心を静めてくれた。

 

 イタチ……。

 

 アナタの弟を、私はずっと好きだったんだ……。

 

 ずっと……。ずっと前から……。

 こんな気持ちを気づかせて、いなくなっちゃうサスケはズルい。

 

「……っ……」

 

 私は、立ち止まりそうになる足を、必死で動かし続けた。

 目を瞑ってしまいそうになるのを、命懸けで我慢した。

 

 逃げちゃダメだ……。

 

 シカマルがくれた決意を抱えて、私は走らなくちゃならない。

 どうしたって私は、行かなくちゃならない。

 大蛇丸の手に渡ろうとするサスケを救いたいからじゃなく。

 復讐という道を突き進むサスケを救いたいからでもなく。

 私がサスケを好きだったから、なんかじゃなくて……。

 

 大好きなサクラちゃんの涙を止めたいから。

 これからサスケを連れ戻しに行く大切な仲間を、死なせたくはないから……。

 それから、綱手様を困らせたくないし……。

 カカシ先生の悲しそうな顔だって見たくないし……。

 

 それから……。

 

 理由はどんなでも、私は木ノ葉の忍として行くことに決めた。

 シカマルが、教えてくれたから。

 私の立つべき場所を……。

 

 

 

「ネジくん……!!」

「ナナ? こんな朝早くからどうした?」

 

 こんな感情は捨てておいて、私はやるべきことをしなければならない。

 たとえ、サスケがもう私たちを仲間だと思っていなくても、命を懸けて救う。

 今度こそ、命を懸けて。

 きっと、ナルトも……。

 

 

「……腫れているぞ」

 

 ネジくんは、全てを聞いても驚かなかった。

 私はきっと、ひどい顔をしていたはずなのに、いつもどおりの静かな表情で私を見た。

 だから、私は素直にうつむいた。

 私は弱いから。

 

「ナナ……」

 

 ネジくんは手を差し伸べてくれた。

 温かい手が、情けなく震える肩を支えてくれた。

 私はまたすすり泣いて、それでやっと決意を固めていく。

 こんなに優しいネジくんの手も、温かかったシカマルの手も、私は守りたい。

 まっすぐに光る、あの蒼い瞳も。

 理由はどんなでも、私は行くことに決めた。

 

 ダイキライな、サスケを救いに……。

 

 

 

 

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