独白。
『ナルトと他のやつらはオレが集めて来るからよ。ナナはネジってやつを連れて来てくれ』
シカマルはそう言ってナルトの家に向かった。
そうやって、私に気を使ってくれた。
私はまだ、ナルトと顔を合わせる勇気が無かった……。
ネジくんの家へ向かって走りながら、私は必死で自分の中にある感情と向き合っていた。
『ナナ、なにを怯えてんだよ』
シカマルの言う通りだった。
私はずっと、怯えていた。
サスケのあの瞳を見てから、ずっと怖かった。
私は、何もできなかった。
『イカナイデ』って、たったの五文字すら思いつかないくらい、頭の中が真っ暗で……、『寂しい』とか、『悲しい』とかは、感じなかった。
サスケに言われるまで、涙を流していたことすら気づかなかった。
最後に泣いたのがいつだったかも思い出せないのに、よりによってあそこで泣いてしまったなんて、皮肉なことだと思う。
悲しくなんて、なかったのに。
だって……いつかこの日が来ることを、私は知っていた気がするから。
いつかは、サスケと私、別の道を行くんだって、わかってた。
いつまでも同じ時間はすごせないって気づいてた。
たぶん、お互いに……。
だから、何もできなかった私に、サスケはあんなにもやわらかく笑ったんだ。
すごく大人びた笑みで。
私はただ、千切れて転がる葉っぱみたいな感覚で、去っていくサスケの背中を見ていた。
ただ、それだけ。
だから……。
だからそんな私に、『ナナなら止められたのに』なんて言わないでほしかった。
『サスケくんはずっとナナを見ていたのに』 なんて、泣かないでほしかった。
サクラちゃん……サクラちゃんの方が、私より何倍も強いね。
私はサクラちゃんがうらやましい。
まっすぐに心をさらけ出せるほど、私は強くない。
そんな覚悟は持てない。
私は、自分の使命から逃げるわけにはいかない。
どんなことがあったって、私はナルトの側に居なくちゃならない。
これは『決められた』ことだったけど、この里へ来てナルトに会ってから、自分で『決めた』こと。
自分で決めた、自分の道。
それを理由に、私は自分から目を逸らし続けていた。
だから、サクラちゃんみたいに、『連れて行って』なんて、決して言えない。
『サスケが全て』だとか、そんなふうには生きられない。
私はサスケを幸せになんてしてあげられない。
それに、『復讐も手伝う』なんて、絶対に言えない……。
イタチに救われた私はもう、彼と戦えない気がする。
弱い私は、二人の戦っている姿なんて見られない。
『ワタシはサスケがキライ』
……ただ、そう思うことしかできない。
サクラちゃんに、あんな言葉を言わせたサスケがキライだから。
みんなを捨てて、独りで行ってしまえるサスケがキライだから。
私に『好きだった』と告げたサスケが、ダイキライだから。
そう……この怖さも、サスケが残したんだ……。
サスケは私に、サスケの居ない世界の怖さを植え付けた。
……コワイ……
背筋がゾクリとして、私は思わず左腕に触れた。
もうずっと前から癖になっている。
朱い布は、いつでもあの漆黒の眼を思い出させて、私の心を静めてくれた。
イタチ……。
アナタの弟を、私はずっと好きだったんだ……。
ずっと……。ずっと前から……。
こんな気持ちを気づかせて、いなくなっちゃうサスケはズルい。
「……っ……」
私は、立ち止まりそうになる足を、必死で動かし続けた。
目を瞑ってしまいそうになるのを、命懸けで我慢した。
逃げちゃダメだ……。
シカマルがくれた決意を抱えて、私は走らなくちゃならない。
どうしたって私は、行かなくちゃならない。
大蛇丸の手に渡ろうとするサスケを救いたいからじゃなく。
復讐という道を突き進むサスケを救いたいからでもなく。
私がサスケを好きだったから、なんかじゃなくて……。
大好きなサクラちゃんの涙を止めたいから。
これからサスケを連れ戻しに行く大切な仲間を、死なせたくはないから……。
それから、綱手様を困らせたくないし……。
カカシ先生の悲しそうな顔だって見たくないし……。
それから……。
理由はどんなでも、私は木ノ葉の忍として行くことに決めた。
シカマルが、教えてくれたから。
私の立つべき場所を……。
「ネジくん……!!」
「ナナ? こんな朝早くからどうした?」
こんな感情は捨てておいて、私はやるべきことをしなければならない。
たとえ、サスケがもう私たちを仲間だと思っていなくても、命を懸けて救う。
今度こそ、命を懸けて。
きっと、ナルトも……。
「……腫れているぞ」
ネジくんは、全てを聞いても驚かなかった。
私はきっと、ひどい顔をしていたはずなのに、いつもどおりの静かな表情で私を見た。
だから、私は素直にうつむいた。
私は弱いから。
「ナナ……」
ネジくんは手を差し伸べてくれた。
温かい手が、情けなく震える肩を支えてくれた。
私はまたすすり泣いて、それでやっと決意を固めていく。
こんなに優しいネジくんの手も、温かかったシカマルの手も、私は守りたい。
まっすぐに光る、あの蒼い瞳も。
理由はどんなでも、私は行くことに決めた。
ダイキライな、サスケを救いに……。