再び会ったナナは、弱々しくも、ちゃんと前を見つめていた。
頬も目も、赤く腫らしていたけれど……。
シカマルは人知れずホッとして、ナナを見た。
視線に気づいたナナは、彼に微笑を返した。
音色
意志を同じくして、旅立とうとする者たち。
持ち合わせたそれぞれの「理由」は異なっていたとしても、決意は一緒だった。
「最後に一番大切なこと言っとく」
リーダーとして、それらをまとめるように口を開く。
「サスケは特に仲の良いダチでもねーし、別に好きなヤツでもねー」
自分の言葉に、食い入るようになった瞳らの中で唯一、
「けど、サスケは同じ木ノ葉隠れの忍だ。“仲間”だ」
最後のフレーズで、視線が再び出逢った。
それを捉えて離さぬよう、シカマルはいつもよりも、わずかばかり力を込めて言う。
「だから命懸けで助ける。それが“木ノ葉流”だ」
ナナの瞳に、かすかな光が戻った。
そして彼の言葉を、信じるようにかすかにうなずいた。
もう、さっきまでのナナではなかった。
だから、ナナは、背後からかけられた声にも、今度はちゃんと振り向いた。
「ナルト……一生のお願い……!!」
ついさっき完全に背けていた瞳で、今はもうサクラの涙をちゃんと見つめている。
「サスケ君を……サスケ君を連れ戻して……!!」
冷たく凍らすことも無く、悲痛な願いを見守るように。
「サクラちゃんは、サスケのことが大好きもんな……」
隣でつぶやく、少し大人びたナルトの声には、少し辛そうにうつむいたが……。
「サスケはオレがぜってー連れて帰って来る!!」
それでもナナは、ナルトの言葉に奮うように、再びサクラという少女をみつめた。
「一生の約束だってばよっ!!」
続けて出た、彼の力強い『決意』に、痛みさえも和らいだかのように。
シカマルは、今さらながら、少しホッとしている自分に気づく。
あんなナナを、もう見たくないと思っているのは、サクラだけじゃなかった。
「ナナっ」
あのナナを目にしてなお、まっすぐに想いをぶつけようとするサクラの勇気に、彼でさえも心動かされ……。
祈るようにナナを見る。
「……叩いちゃって、ゴメンなさいっ……」
まだ赤い頬は、熱を込めたままだろうか。
「だけどっ、やっぱり……」
彼が開けた扉は、本当に開いたのだろうか。
「ナナがサスケ君を突き放したことは……どうしても信じられなくてっ……!!」
そのサクラの言葉に、ナルトが驚くのも無理はない。
「ナナっ?! ナナもサスケに……!!」
一瞬、迷ったように目を伏せたナナを見て、彼はそっとナルトを止めた。
今はただ、サクラの言葉に返すナナを、見守る時だった。
少しの不安を残したままに。
そして、彼のそれを打ち砕くように、サクラは想いの続きを吐き出した。
「やっぱりサスケ君には……ナナがっ……」
どうか、まっすぐなサクラの言葉を、受け止める
「どうしてもナナが必要なんだって……私はそう思うからっ……!!」
皆の前で、そう吐露するサクラから、ナナは再び逃れることはなく。
うつむき、涙を零す友に向かって、応えを返した。
「サクラちゃん」
その声は、静かで確かだった。
「さっきはごめんね」
あの時の拒絶が消えたことに、サクラは安堵と少しの驚きの表情を浮かべる。
シカマルもまた同様だった。
すべてを拒絶するあのナナは、もうここには存在しなかった。
「私は弱いから、怖かったんだ」
ナナの告白に、キバやチョウジも、呼吸すら押し殺して見守っている。
自分がぶつけた言葉に今さら罪悪感が芽生えたが、ナナは柔らかく言った。
「私は、私たちの存在を無意味なものにしたサスケの目を見るのが……怖かった」
苦しそうに、ナナはまた一瞬うつむいた。
「だから、逃げるために……突き放した……」
しかしまた、顔をあげる。
弱さをさらけ出したナナは、新たな強さを持って立っていた。
だから、まっすぐにサクラを見て、はっきりと言いきった。
「みんなを裏切って行っちゃったサスケが、本当に嫌いだと思った」
その言葉は、そこにいる全員の心の底まで響く。
「サクラちゃんをこんなに泣かせて……」
サクラは涙を止めて、目を見開いている。
「ナルトをこんなに怒らせて……」
ナルトも蒼い目で、じっとナナを見守っている。
「私はそんなサスケを、今も許すことができないよ」
響きは、初めて聞かされるナナの本当の『音』。
しかし、声に先ほどまでの凍るような冷たさはなく……。
「私も……、すごく痛いから……」
ナナはそう囁いて……、サクラはまた、涙をこぼした。
ネジは、苦しげに目を細めた。
キバは、奥歯をかみ締めた。
リーは、唾を飲み込んだ。
チョウジは、グイとあごをひき、
ナルトは……両の拳を、音が出るほど握りしめた。
シカマルはただ、蘇るナナの涙を映し見て、その刻まれた色の濃さを思い知る。
ナナの心は、確かに聞こえた。
この空間に、切なげにも凛と響いた。
その傷がどんなものか、はっきりと見えた。
カタチも、イロも……。
そんな彼らの耳に、ナナの声は再び響く。
「けど……、約束する」
サクラに向けて、ナナは言う。
「サスケは、絶対サクラちゃんの前に連れて来るから」
大人びたナナの笑みに、風さえも次の言葉を待つように止んだ。
「今度こそ、命を懸けて」
「ナナ……」
誰からともなく、その名がつぶやかれた。
「木ノ葉の忍として、大切な仲間は命懸けで救わなくちゃ……って、思い出させてくれたから」
ナナはシカマルを見て笑った。
ズキンという、言い知れぬ痛みが走った。
それが何かもわからぬうちに、ナナは強く言葉を繋げる。
「私はヒトリじゃないってことも、教えてもらったから……」
自分の中にそれを確かめるかのように、ナナは目を伏せて言った。
「それに、みんなを死なせたくないから……」
そして最後に、五人と一匹を見回した。
「私は、木ノ葉の忍として、命がけで“仲間”を救いに行って来る」
ナナはニコリと笑った。
「私も、『一生の約束』をするから」
その笑みに、サクラがそれ以上の言葉を思いつくはずもなかった。
ナナはただ、晴れやかに笑ったつもりだろうが、それでもそれは悲しい笑みで……。
サクラの目には、また涙が溢れそうになる。
サクラばかりか、彼でさえも。
「行こう、シカマル」
それを押し留めてでもくれるように、ナナは明るく言い出した。
ようやく、いつものように。
いや、いつもよりも、ずっと力強く。
その響きが、余計に“痛い”と感じた彼は、ごくごく自然な想いを抱く。
救いたいのは、もうひとり……。
きっと、ここにいる全員が、たった今それを抱え込んだだろう。
彼は確信し、少し笑った。
「んじゃ、行くか」
そう言ったとき、まだ共に戦ってもいいないのに、ここに集まった仲間たちの結びつきが少しだけ強くなった気がしていた。