ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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英雄

「このコが……」

 

 火影は幼い少女に向ける笑みに、少し悲しげな光を混ぜた。

 その何とも言えぬ表情の訳は、ナナ自身にもわかっている。

 どちらにしろ、和泉の大人には持ち得ぬ暖かさがあった。

 同じ『里の長』であっても、こうも纏う空気が違うものかと、幼い心にかすかな衝撃を受けてもいた。

 

「はじめまして、ホカゲさま」

 

 だから、一族に見せる筈のない笑顔を、ナナは返す。

 そうやって笑ったことで、逆に驚きを隠さなかったのは火影の方だった。

 しかし再びすぐに、目じりに皺を作る。

 

「“九尾の少年”より、お年はひとつ下ですが、あらゆる武術を学ばれたということですので、問題はないかと……」

 

 その中で、静葉ばかりは相変わらずせかせかと自分の任を遂行する。

 

「両手に受けた“封印”のお陰で、『力は丁度よいだろう』という里からの報告です」

 

 まるでモノのよう……。

 火影も面食らったように自分の髭を撫ぜる。

 逆にナナの本人の方が、こういった扱いには何十倍も慣れていた。

 慈悲に満ちた木ノ葉の長は、静葉の説明を中断して二度ほど手を叩いた。

 すると……。

 

「お呼びですか、火影様……ゴホッ……」

 

 音もなく部屋の扉が開き、一人の忍が顔を出す。

 火影は顔色の悪いその男にナナの世話を命じた。

 

「ナナ、彼はハヤテという忍じゃ。()()()()()は知っておる」

 

 ナナはひそかに好奇心を膨らませて、火影とハヤテを見比べた。

 

「我々の話がすむまで、ハヤテに色々とここのことを聞くが良い」

 

 ナナは大きくうなずいて、ハヤテの元へ駆け出した。

 不安げな老女のことなど、すでに忘れてしまった。

 

 

 

「ハヤテさんは、『ワタシのコト』、知ってるの?」

 

 屋上に出て顔岩を眺めながら、ナナは尋ねた。

 声に陰りがないのに、ハヤテもまた驚いた。

 

「え、ええ……。私もこうみえて『特別上忍』ですから、火影様から知らされてます」

 

 ナナは嬉しさを抑えきれなかった。

 

「私、明日からココに通える?」

 

 そして手すりをつかんで尋ねる。

 もう一刻も早く……と気が急いた。

 ハヤテは何故かほっとしたような顔で答えた。

 

「いえ。残念ですけど、忍者学校(アカデミー)に入る前に、忍としての基本を少し習ってもらいますよ」

 

 がっかりはしなかった。

 どっちにしろ、明日から忍者としての第一歩が踏み出せるのだ。

 イタチのような……。

 

『ハヤテさんはイタチを知ってる?』

 

 高揚した勢いのままに、思わず口をつきそうになるその言葉。

 ナナは今ばかりは必死でそれを押し留めた。

 

『サスケくんって、どんな人?』

 

 それも。

 ゴクリとつばを飲み込んで、息を整えてから、ナナは再びハヤテを見上げる。

 

「『キュウビのコ』って、どんな人?」

 

 ハヤテは、咳払いか咳かわからぬものをひとつして、告げた。

 

「私は直接会ったことはないんですが……忍者学校での成績はあまりよくないらしいですよ……ゴホッ」

「ふーん」

 

 あとは会うまでのおたのしみに……。

 幼い期待を抱きながら、ナナは顔岩の一番右を指して叫ぶように言った。

 

「あの右側のヒトが、四代目さま?!」

 

 少々驚いてから、ハヤテは苦笑する。

 

「ええ、よくわかりましたね」

 

 ナナは満足して二度手を叩いた。

 

「四代目さまかぁ……」

 

 彼が封印した九尾を、再び封印するかもしれないのは自分。

 特別な思いが湧くのは当然だった。

 それに、かの技は……九尾を封印した、あの『屍鬼封印(しきふういん)』という禁術は、紛れも無く『和泉式陰陽術』由来の技であった。

 そのことに強く思いを馳せながら……ナナは彼の顔を見上げていた。

 と、ハヤテがナナと顔岩を交互に見ながらつぶやいた。

 

「彼は、里の英雄です……」

「えいゆう……?」

 

 初めて聞く言葉に首をかしげ、ナナはその意味を想像する。

 里を襲った九尾を、己の命と引き換えに封印した。

 里を守るために。

 きっとそういうことだろう。

 

(守るのが、英雄……)

 

 心に書き留めるようにして、ナナは一瞬目を伏せた。

 

「ナナ?」

 

 この空に響く自分の名は、やけに新鮮に聞こえたから……ナナはハヤテを見上げて笑った。

 

「私、ココに来られて良かったです」

 

 一瞬ハヤテは、困ったように何か言いかけた。

 それをナナはわかっていた。

 さっきの火影と同様、何故、科せられた使命を甘んじて受け入れるのか……。

 和泉一族でない大人たちが、自分に対してそう思う理由を知っていた。

 同時にそれが、自分の胸を温かくしてくれることも……。

 教えたのは、もちろんイタチだった。

 だからこそココに来られてよかったのだと、ナナは強く思う。

 新しい日々に輝きを予感する。

 

「ナナ、あなたの家を見に行きましょうか」

「はい、ハヤテさん!」

 

 ナナは差し出された手を、一瞬不思議に思ったが、それでもしっかりと掴んだ。

 

 

 

 

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