「運命なんて、誰かが決めるものじゃない……」
言葉にしてみて、愉快だった。
かつての自分が居た場所を、遥かに超えたところに来たようで、心地がよかった。
今度ナナに会ったら、今の言葉を言ってみよう……。
夜気の漂う中庭で、震えた細い体を思い出し、そう心に呟いた。
少し前。
『あの“棺おけ”……』
シカマルとナナと3人で“敵”の姿を確認し、さて作戦を開始しようかという時に、ナナは言った。
『……“陰陽忍術”の結界でできてる……』
耳慣れぬ『陰陽忍術』という響き。
なぜナナが一目見ただけでそれを知り得たのか……、胸騒ぎがした瞬間に、ナナは少し笑った。
『私の“名前”……知ってるでしょう?』
“答え”を示されて、シカマルも隣で息を呑んだ。
『私、“和泉一族”の人間だから……』
いずみナナ……陰陽師である『和泉一族』……。
その名は、今では伝説や御伽噺と化していた。
人一倍に現実的思考を持つ彼は、その特異な一族は『とっくに滅びた』のだと、そう思っていた。
それが突然、“仲間の姿”で現れたのである。
驚くのも無理はなかった。
だが、シカマルと顔を見合わせた後に見たナナの顔があんまり寂しげだったことで、逆に心はいくらか平静を取り戻せた。
『ずっと隠してて……ごめんね……』
そう、謝ったナナの顔……。
告げて、傷ついた顔をする。
告白は、おそらく不本意だったのに違いない。
だから、彼もシカマルも、ナナにはそれ以上何も尋ねなかった。
何故、ナナは今わざわざ口にしたのか……、聞かなくてもわかったから。
『それを計算に入れて作戦の立案を』……と。
隊長であるシカマルに伝えるためなのだ。
それを“決意”と取らずして、何を思おう……。
彼女のその決意も背負うつもりで、ネジは目の前の“敵”と戦った。
自分の名前と命を懸けて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「強がったって、お前はすでに死にかけぜよ……」
確かに、矢が打ち抜いた体はもはや、“生”を吐き出しかけていた。
「オレは……、そう簡単には死ねないんだよ……」
だが、死ねない理由があった。
負けられない理由、死ねない理由……。
それぞれ深い意味があった。
こんな自分を『天才』と信じている、仲間たちの顔が浮かぶ。
そして、もう二度と見ることのない父の顔が浮かぶ。
『行け』と言っておいて、負けられるはずはない。
『生きろ』と言われ、そう簡単に死ねるはずもない。
それに、言葉にせずともナナに約束をしたから……。
『それでも、お前が逃げ出したくなったら……』
あの夜に、
『そのときは……また“ここ”へ来ればいい……』
そう言ったから。
それは、ただ己の中で勝手に決めた『約束』。
『少し似ている』と、根拠もなくそう思ったナナという存在。
ついさっき、ナナが『和泉一族』の名を持つことを告げられて、その理由がなんとなくわかった。
きっと、ナナも『産まれ』に苦しめられている。
特別な一族に産まれ、他とは違う何かを背負わされて生きている。
この額の呪印と同じように。
だから、なおさら死ぬわけにはいかなかった。
疲れ果てたナナを、今度はちゃんと迎える場所であるために。
どうしてか、こんなにもナナの存在は大きくなっていた。
『似ている』と思ったその瞬間に、この現象は始まっていた気がした。
いや……。
初めて彼女の戦う姿を目にした時だろうか……。
死の森で、リーを探してたどり着いたあの場面。
ナナは音の忍が放つ武器を、サスケとナルトの前に立って受けた。
あの細い体の全てを使って、二人を守った。
そして、リーの誇りを守るというために、あれほどの力を使ったナナを見て……。
その姿は、この目には眩しかった。
ナナに出会って、自分が少し変わったのは、きっと確かなこと。
だからこそ、ナルトに出会って大きく変われた。
だから、
「サスケ様は大蛇丸様のものだ……」
鬼童丸の言葉など、迷わず否定できた。
「だれも救うことは……」
「できるさ」
この想いを、信じることができた。
『サスケは今、闇の中にいる……』
自分の言葉を思い出し、激痛に血を吐いた。
が、痛みは心を蝕みはしない。
「サスケを闇から見つけ出し……救い出せる奴がいる……」
あの蒼い瞳の力に、全く疑いはなかった。
それに……。
「それに……サスケが帰るべき“光”もある……」
それに、あの悲しげな瞳の存在も……。
闇に落ちるサスケを見つけ、光へと導く青い瞳。
そして、それが帰り着くべき、漆黒の瞳。
そのふたつの存在を、今や疑いもせず……ネジは遠のく意識のなかで呟く。
(何故なら、ナルト……)
世界を変えた、その名を思い……。
(お前はオレを……闇から救い出した……)
そして、
(ナナ……)
疑わぬ、
(お前は……)
もうひとつの存在……。
(……光だ……)
“ここ”に灯ともる、やわらかい光……。
闇を照らす笑みは……強さは……。
どこに在っても光。
ナナ……
たとえそれを、この手で守れなくとも。
その光が消えぬことを願って……。