腹からは、激痛を伴いながらドクドクと血が流れていた。
息をするたびに、ポンプで血を排出してでもいるよう……。
次第に目も霞んできた。
(くっそ……)
懸命に息を整え、必死で抱えた“体”に目を落とした。
「赤丸……」
膝の上で、動かない。
「赤丸……よくやったな……」
涙が込み上げた。
さっきの赤丸の姿……、出会った頃に比べ、どれほど強くなったことか……。
おかげで、どれだけ自分も強くなれたことか……。
いや、さっきだけじゃない。
今までずっとそうだった。
赤丸という存在は、自分を強くしてきてくれた。
今日のこの日、戦うことができたのは、今まであったその存在のおかげ。
引っ張ってきたようで引っ張られ、守っているようで守られて……、
だから、今は。
今度は……。
(赤丸……今度はオレが、お前を守る……)
今日までずっと、一緒に生きてきたから。
兄弟とも、親友とも、分身とも呼べる存在。
何もかもを分かち合ってきた。
だから。
「オレたちは、これからもずっと一緒だ……!!」
どちらかが、欠けることなどなく……。
決意して、痛みを飲み込む。
「赤丸っ……」
これからも、ずっと「一緒」に……。
『一緒』に……
『いいな、キバと赤丸……』
ふと、ナナの声が聞こえてきた。
『いつも一緒で……』
切なげな、あの顔……。
いつ、どこで見ただろう。
キバは自然と記憶をたどる。
確かあれも、こんな川辺だった……。
―――――――――――――――
「ちょっと、イッコ下のクセにウチらの学年に入って来てんじゃないわよ」
「ナルトと同レベルのクセに!!」
「落ちこぼれの分際でサスケ君と組まないでよ」
誰もいない演習場の川岸で、隣のクラスの女子に詰め寄られるナナを見つけたのは、夕方の散歩の帰りで……。
「え? サスケ?」
明らかに、放課後に呼び出しをくらったイジメられっこの転校生……そんな光景。
彼と赤丸は、ひと目見ただけで状況を把握したというのに、当の本人はポカンと目の前の少女たちを眺めていた。
「サスケ君を呼び捨てすんなよ、クソガキ!!」
キレた一人が、ナナの細い肩を押した。
お約束のように川に突き落とされたナナを見て、彼と赤丸もキレた。
「なにしてんだよ、お前らっ!!」
走り出すと、少女たちは彼らを睨みながら去った。
「ナナ、大丈夫か?!」
彼が手を引くまで、ナナは不思議そうに状況を傍観したまま、水に浸かっていた。
「な、何だったんだろ……」
そして、少女たちが逃げ去った方を見ながら、そう呟いた。
(……ったく、自分がいじめられてたってことに気づいてねーのかよ……)
思わず赤丸を見下ろすと、彼もあきれた様に小さく唸った。
「キバと赤丸は散歩?」
何事もなかったかのように笑うナナ。
(……ほんと、ボケてんなぁ……)
ため息を吐きつつうなずくと、ナナは頭まで濡らしたまま楽しげに赤丸と戯れ始めた。
キバはもう一度深いため息をつく。
「ナナ、いくら夏でも風邪ひくって……」
言いながら上着をかぶせると、ナナは赤丸を抱いたまま立ち上がった。
「え、いいよ。キバのが濡れちゃう。あ、赤丸も濡れちゃったね、ゴメンゴメン」
立っても、目線はずいぶん下だった。
「いいから着て帰れって」
「でも……」
遠慮がちなその態度にキレるように、キバは言った。
「いいから着てろっつってんだろ! んで、送って行くから帰ってすぐ着替えろ!」
キョトンとするナナに、さらに言葉が出た。
「お前なぁ、少しは言い返すとか、反撃するとかしろよ!」
少し苛立ちながらナナに言う。
「だいたい今も怒れ!!」
説教口調になるのは、ナナに出会ってからのクセ。
見た目幼く、頼りないナナには、そんな風に接してしまう。
「なんで川に落とされといて笑ってんだよ!!」
滴る雫を気にとめないのも、されたことに何も感じていないのも、キバの中のそんな気持ちを加速させた。
が、ナナは赤丸に頬を寄せながら言った。
「だって、私はずっと一人だったから……」
じゃれる赤丸に、くすぐったそうに笑いながら、
「誰かと居るのは嬉しいのかも」
他人事みたいにそう言って、彼に視線を戻す。
「お前、お人好しなのもいい加減に……」
そして、ツッコミかけた彼を遮るように、ナナは言った。
急に瞳だけを切ない色に変えて。
「いいな、キバと赤丸……」
その瞳に、『何が』……とは聞けなかった。
「いつも一緒で」
言葉を無くした彼が二つ瞬きする間に、赤丸が小さく鳴いてくれた。
ナナはすぐにいつもの穏やかな瞳に戻り、また赤丸と戯れた。
―――――――――――――――
ナナ……。
さっきの瞳は、あんなもんじゃなかった……。
そう思った。
出発の時、ナナが言った言葉をかみ締める。
『私はヒトリじゃないってことも、教えてもらったから……』
ナナももう、ヒトリじゃないから。
ちゃんとここで、一緒に戦っているから。
「そーだよな、赤丸……」
彼はもう一度、赤丸を撫ぜた。
(ナナ……お前もヒトリじゃないぞ……)
もう一度、そう心に呟く。
そして、赤丸をしっかりと抱き、重い体を引きずるようにして、冷たい水に交わった。