ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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それぞれの戦い/想い・キバ編

 腹からは、激痛を伴いながらドクドクと血が流れていた。

 息をするたびに、ポンプで血を排出してでもいるよう……。

 次第に目も霞んできた。

 

(くっそ……)

 

 懸命に息を整え、必死で抱えた“体”に目を落とした。

 

「赤丸……」

 

 膝の上で、動かない。

 

「赤丸……よくやったな……」

 

 涙が込み上げた。

 さっきの赤丸の姿……、出会った頃に比べ、どれほど強くなったことか……。

 おかげで、どれだけ自分も強くなれたことか……。

 いや、さっきだけじゃない。

 今までずっとそうだった。

 赤丸という存在は、自分を強くしてきてくれた。

 今日のこの日、戦うことができたのは、今まであったその存在のおかげ。

 引っ張ってきたようで引っ張られ、守っているようで守られて……、

 だから、今は。

 今度は……。

 

(赤丸……今度はオレが、お前を守る……)

 

 今日までずっと、一緒に生きてきたから。

 兄弟とも、親友とも、分身とも呼べる存在。

 何もかもを分かち合ってきた。

 だから。

 

「オレたちは、これからもずっと一緒だ……!!」

 

 どちらかが、欠けることなどなく……。

 決意して、痛みを飲み込む。

 

「赤丸っ……」

 

 これからも、ずっと「一緒」に……。

 『一緒』に……

 

 

『いいな、キバと赤丸……』

 

 

 ふと、ナナの声が聞こえてきた。

 

『いつも一緒で……』

 

 切なげな、あの顔……。

 いつ、どこで見ただろう。

 キバは自然と記憶をたどる。

 確かあれも、こんな川辺だった……。

 

 

―――――――――――――――

 

「ちょっと、イッコ下のクセにウチらの学年に入って来てんじゃないわよ」

「ナルトと同レベルのクセに!!」

「落ちこぼれの分際でサスケ君と組まないでよ」

 

 誰もいない演習場の川岸で、隣のクラスの女子に詰め寄られるナナを見つけたのは、夕方の散歩の帰りで……。

 

「え? サスケ?」

 

 明らかに、放課後に呼び出しをくらったイジメられっこの転校生……そんな光景。

 彼と赤丸は、ひと目見ただけで状況を把握したというのに、当の本人はポカンと目の前の少女たちを眺めていた。

 

「サスケ君を呼び捨てすんなよ、クソガキ!!」

 

 キレた一人が、ナナの細い肩を押した。

 お約束のように川に突き落とされたナナを見て、彼と赤丸もキレた。

 

「なにしてんだよ、お前らっ!!」

 

 走り出すと、少女たちは彼らを睨みながら去った。

 

 

「ナナ、大丈夫か?!」

 

 彼が手を引くまで、ナナは不思議そうに状況を傍観したまま、水に浸かっていた。

 

「な、何だったんだろ……」

 

 そして、少女たちが逃げ去った方を見ながら、そう呟いた。

 

(……ったく、自分がいじめられてたってことに気づいてねーのかよ……)

 

 思わず赤丸を見下ろすと、彼もあきれた様に小さく唸った。

 

「キバと赤丸は散歩?」

 

 何事もなかったかのように笑うナナ。

 

(……ほんと、ボケてんなぁ……)

 

 ため息を吐きつつうなずくと、ナナは頭まで濡らしたまま楽しげに赤丸と戯れ始めた。

 キバはもう一度深いため息をつく。

 

「ナナ、いくら夏でも風邪ひくって……」

 

 言いながら上着をかぶせると、ナナは赤丸を抱いたまま立ち上がった。

 

「え、いいよ。キバのが濡れちゃう。あ、赤丸も濡れちゃったね、ゴメンゴメン」

 

 立っても、目線はずいぶん下だった。

 

「いいから着て帰れって」

「でも……」

 

 遠慮がちなその態度にキレるように、キバは言った。

 

「いいから着てろっつってんだろ! んで、送って行くから帰ってすぐ着替えろ!」

 

 キョトンとするナナに、さらに言葉が出た。

 

「お前なぁ、少しは言い返すとか、反撃するとかしろよ!」

 

 少し苛立ちながらナナに言う。

 

「だいたい今も怒れ!!」

 

 説教口調になるのは、ナナに出会ってからのクセ。

 見た目幼く、頼りないナナには、そんな風に接してしまう。

 

「なんで川に落とされといて笑ってんだよ!!」

 

 滴る雫を気にとめないのも、されたことに何も感じていないのも、キバの中のそんな気持ちを加速させた。

 が、ナナは赤丸に頬を寄せながら言った。

 

「だって、私はずっと一人だったから……」

 

 じゃれる赤丸に、くすぐったそうに笑いながら、

 

「誰かと居るのは嬉しいのかも」

 

 他人事みたいにそう言って、彼に視線を戻す。

 

「お前、お人好しなのもいい加減に……」

 

 そして、ツッコミかけた彼を遮るように、ナナは言った。

 急に瞳だけを切ない色に変えて。

 

「いいな、キバと赤丸……」

 

 その瞳に、『何が』……とは聞けなかった。

 

「いつも一緒で」

 

 言葉を無くした彼が二つ瞬きする間に、赤丸が小さく鳴いてくれた。

 ナナはすぐにいつもの穏やかな瞳に戻り、また赤丸と戯れた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 ナナ……。

 さっきの瞳は、あんなもんじゃなかった……。

 そう思った。

 出発の時、ナナが言った言葉をかみ締める。

 

『私はヒトリじゃないってことも、教えてもらったから……』

 

 ナナももう、ヒトリじゃないから。

 ちゃんとここで、一緒に戦っているから。

 

「そーだよな、赤丸……」

 

 彼はもう一度、赤丸を撫ぜた。

 

(ナナ……お前もヒトリじゃないぞ……)

 

 もう一度、そう心に呟く。

 そして、赤丸をしっかりと抱き、重い体を引きずるようにして、冷たい水に交わった。

 

 

 

 

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