知っていたのかもしれない。
サスケに対するこの感情も、サスケに必要なものも。
でも、正直、ナナの『痛み』を見せ付けられるまでは、ナナの『想い』なんて知らなかった気がする。
いつも一緒に居残りして、ご飯を食べて……、一番ナナの近くにいて……。
下忍になって、運よく同じ班にもなったのに。
今、隣の『ナナ』を感じながら改めて思った。
こんな自分よりもっと頼りないナナを……、面倒をみていたつもりでいて、実はいつも見守られていた。
己の中に、あの『九尾』がいるのだと知らされたあの日、ナナは深い深い瞳で言った。
『私、ずっとナルトのそばに居るから……』
それも普通の言葉と受け取った。
毎日会っていたはずなのに……。
いつも側にいてくれたはずなのに……。
ナナの『想い』に気を配ったことなんてなかった。
今、目にした『傷』に、そう思う。
深すぎて、直視できないほどのそれを見て。
今度は、自分がナナを見守らなくちゃ……と。
数え切れぬほどの影分身ナルトが、草原を埋め尽くす。
が、四方を囲まれたはずの君麻呂に、危機感はなかった。
怒りのような湧き上がる感情のまま、チャクラを練りだす。
分身たちは、いっせいに君麻呂に向かって突っ込んだ。
瞬間、ナナは君麻呂の死角をみつけて走り出す。
二人に言葉はいらなかった。
何体ものナルトの分身に身を隠しながら、ナナが目指すのは『棺おけ』。
あと数歩……。
君麻呂の背後に回りこみ、『棺おけ』に手を伸ばそうとしたその時だった。
「甘いよ」
言葉と同時に、ナルトの分身がいっせいに消され、ナナに向かって何かが飛んできた。
「…………?!」
足もとをかすったそれは、白く、鋭い物体だった。
次々と投げつけられるその物体によって、ナナは近づいたはずの『棺おけ』からはどんどん遠ざけられる。
チャクラを使って避けねばならぬほど、スピードも鋭さもあった。
あれだけあったナルトの分身も、あっけなく消し去られる。
「ナナ!!」
すっかり『棺おけ』から遠ざけられたナナの足には、数本の白い物体が突き刺さっていた。
ナルトは君麻呂を睨み上げる。
と、君麻呂は着物をはだけさせ、肩口から何かを抜き取った。
それは、ナルトもナナも、たった今目にした白い物体で……。
しかも、それは肩の『中』から抜き取られていた。
「……ホネ……?!」
二人は少し離れた場所から、同時にそう呟いた。
「特別に見せてあげるよ。椿の舞……」
君麻呂は抜き取った骨をまるで刀のように構える。
「くっそ……!!!」
もうすぐそこに、サスケはいるのに。
この男さえ倒せば、サスケを取り戻すことができるのに。
苛立ちに歯軋りした。
ナナだって、同じもどかしさを抱えているはず。
その時、思いがけず爆音があがった。
それとともに巻き起こる黒い煙。
まさしく、『棺おけ』からだった。
「…………?!!」
もう、ナルトにはナナを気遣う余裕などなかった。
煙の中から現れたのは、追い求めていた『サスケ』の姿だった。
「サスケ!!!」
その背に必死で叫ぶ。
「こんな奴らと何やってんだってばよ!!!」
見慣れた背中に向かい、
「木ノ葉に帰ろうぜ!!!」
……そう、見慣れたはずなのに……。
「ククク……」
どう見ても、サスケの様子はおかしかった。
「オレの声、聞こえてんだろーがよっ!!!!」
力いっぱい、叫んでいるのに……。
届かない……?
「サスケ……」
ナルトはようやくナナを見た。
同じものを見つめていたナナを。
(……ナナ……!!!)
立っているのが不思議なほど、ナナの顔は真っ青だった。
両の目を見開いて、サスケを見つめている。
「ナナ……!」
声をかけた瞬間、ナナの肩はピクンと揺れた。
同時に、サスケの不気味な笑い声もピタリと止まる。
(……クソ……!!!)
悔しさとか、苛立ちとか、訳のわからぬ感情のまま、ナルトはもう一度サスケに向かって言葉を投げつける。
「ナナもっ……!!!」
みんなの、全ての『想い』を ぶつけるように
「お前を迎えに来たんだぞっ……!!!」
ナナはここにいる。
息もできないくらい震えて。
一度捨てたモノの、変わり果てた姿を見つめている。
ここにナナがいるから……。
だから……。
「サスケっ!!!」
心をの限り、ナルトは叫んだ。
「一緒に帰ろうぜ!!!!」
だが。
「…………」
サスケは振り返りもせず、そんな素振りすら見せず……。
二人の前から去って行った。
「サスケ!!!!」
案外、早く足が動いてくれたのは、隣に青ざめたナナがいたからだった。
硬直してしまったナナの『決意』を呼び起こして、走り出す。
冷たい腕を引っ張って。
「ナナ!! サスケを追うってばよ!!!」
震えるナナの足が、無理やり動かされるのがわかった。
辛くても、進むしかない。
痛くても、先へ……。
(ナナ!!)
今度はちゃんと、引っ張るから……。