激しい霊気の渦が、琴葉の張った結界の中で暴れた。
数秒か、数分か……、よくわからない感覚のまま、
ナナの閃光は途切れた。
「…………」
再び開いた目に、姉の姿は入らなかった。
「……姉上……」
脱力感か、絶望感か、それとも罪悪感なのか、ナナにはわかり得なかった。
ただ、息苦しくて膝をつく。
今、『姉だったモノ』をこの手で消した痛みなど、抱えている余裕はなかった。
それは十分わかっている。
早く立ち上がって、サスケを……ナルトを追わなくては……。
だが、“痛み”が体を束縛した。
「……姉上っ……」
悔しさに似た感情がこみ上げ、ナナは拳を叩きつけた。
その時。
「“そんな罪”はまだ背負わなくてもいいのよ、菜々葉」
さっきと同じ、声がした。
「…………?!」
振り返る……と、
「……姉……上……」
金色の瞳を持った琴葉が立っていた。
「もうちょっとでヤバかったけど、やっぱり
口の端を吊り上げて。
「でも、結構な霊力を使っちゃったわ……」
髪をかき上げ、ナナを見下ろして。
「姉上……?!!」
その存在に目を見開いた時、冷たい風がナナの体を吹き飛ばす。
「……ぐっ……!!!」
抵抗する間もなく、ナナの体は地面に打ち付けられた。
草の匂いがやけに懐かしく感じる。
傍らには、河の無遠慮なせせらぎがあった。
「起きて、菜々葉。ほんとに面白いのはこれからよ」
それに混じり、すぐそばで冷たい声がした。
ナナは鉄の味を吐き出した。
姉はすでに、目の前に笑って立っている。
「私は……、力で負けたってこと……?」
切れる息のまま、見上げて言う。
「そうよ、私の勝ち」
まぁ、この程度の力しか出せないくらい消耗させられたけど……と、慰めにもならぬセリフを呟き、琴葉はナナの傍らに膝をついた。
「その金の目は……なに……?」
近くで見ると、絶えず光を変えるその瞳。
「鬼の瞳みたいでしょう?」
持ち主が浮かべる得意げな笑みは、よく似合っていた。
「そんなあなたを見てるのは、楽しいことこの上ないわ……」
そして琴葉は、静かに川の方へと手の平を向けた。
「よく見てね、菜々葉」
容赦なく次のアソビを考え出す琴葉に……さからう行動すらできぬ、落ちぶれた反射能力。
「今、ちょうどいいトコロみたいよ?」
ナナの不安定な状態を見下ろし、琴葉は何事か呪文を呟く……。
と……。
「…………?!」
ナナは、ある『光景』を見た。
「ナルト……?!」
完全にかすれた声で、そう叫んだその姿。
琴葉が向けた手の平の先にある川の流れ。
その流れの上に、ナルトの体を貫くサスケの姿と、サスケの腕に体を貫かれたナルトの姿が、はっきりと浮かび上がっていた。
「……ナルト……!!?」
何がどうなって、ナルトがそんなことになっているのか、
理解できぬまま……、ナルトは『赤いチャクラ』を発した。
「ね、いいところでしょ?」
「…………!!」
ナルトに弾き飛ばされるサスケ。
それを目にして、同時にナナの胸に痛みが走る。
『心が痛む』とか、そんなありきたりの事でなく、
ただ単純に、“あの刻印”が焼け付くように痛んでいた。
「……っ……」
それを押さえつけるように、ナナはうずくまる。
これ以上、アレを見ていたら、自分の力じゃないものが走り出して行きそうだった。
「フフ……刻印がイタイの?」
何もかもを見通す琴葉が笑っても、顔をあげることはできなかった。
「ねぇナナ、もし駆けつけることができたとして、あなたはどっち……を守るの?」
じわりと染み込む言葉に、犯されそうになる。
「運命をともにするべきナルトくん? ……それとも……」
首を締められるような感覚……。
「大好きだったサスケくん……?」
タスケテ……
ナナの何かが、もうずっと前からそう悲鳴をあげていた。
どうしようもなく深いところに侵攻する琴葉の言葉は、それだけで命を削るよう……。
しかし、そんなナナの耳に……。
『お前は一体……何者だ……?!!』
サスケの声が聞こえ……。
『友達だ……!!!!』
ナルトの声が突き刺さった。
(……ナルトっ……!!!)
一筋の光。
それを手繰るように、ナナは膝の震えも胸の痛みも押さえ込んで、立ち上がった。
再び、琴葉の邪悪に歪んだ姿と向き合う。
「私はっ……」
姉の向こうのナルトを意識しながら、ナナは言った。
「私は、サスケが好きだった……」
皮肉にも、それを言葉にしたのはこの場所が初めてだった。
「私は……」
しかし、そんな皮肉には耳を貸さずに続ける。
「私はナルトと共に生きる……」
琴葉が笑うのはわかっていた。
でも、ふたつの言葉を繋げるように、ナナは強く奥歯をかみ締めたあと、言った。
「想いをもったままで、私はさだめを生きる……」
決めたから。
運命をわかっていて、それでも認めた想い。
それを抱えて生きるのだと、決意したから。
「ご立派だこと」
嘲笑した姉に向かって、ナナは再び印を結んだ。