ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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怨睨 ―オニー(3)

 激しい霊気の渦が、琴葉の張った結界の中で暴れた。

 数秒か、数分か……、よくわからない感覚のまま、

 ナナの閃光は途切れた。

 

「…………」

 

 再び開いた目に、姉の姿は入らなかった。

 

「……姉上……」

 

 脱力感か、絶望感か、それとも罪悪感なのか、ナナにはわかり得なかった。

 ただ、息苦しくて膝をつく。

 今、『姉だったモノ』をこの手で消した痛みなど、抱えている余裕はなかった。

 それは十分わかっている。

 早く立ち上がって、サスケを……ナルトを追わなくては……。

 だが、“痛み”が体を束縛した。

 

「……姉上っ……」

 

 悔しさに似た感情がこみ上げ、ナナは拳を叩きつけた。

 その時。

 

「“そんな罪”はまだ背負わなくてもいいのよ、菜々葉」

 

 さっきと同じ、声がした。

 

「…………?!」

 

 振り返る……と、

 

「……姉……上……」

 

 金色の瞳を持った琴葉が立っていた。

 

「もうちょっとでヤバかったけど、やっぱり()()()の方が少しだけ力を持てたようね」

 

 口の端を吊り上げて。

 

「でも、結構な霊力を使っちゃったわ……」

 

 髪をかき上げ、ナナを見下ろして。

 

「姉上……?!!」

 

 その存在に目を見開いた時、冷たい風がナナの体を吹き飛ばす。

 

「……ぐっ……!!!」

 

 抵抗する間もなく、ナナの体は地面に打ち付けられた。

 草の匂いがやけに懐かしく感じる。

 傍らには、河の無遠慮なせせらぎがあった。

 

「起きて、菜々葉。ほんとに面白いのはこれからよ」

 

 それに混じり、すぐそばで冷たい声がした。

 ナナは鉄の味を吐き出した。

 姉はすでに、目の前に笑って立っている。

 

「私は……、力で負けたってこと……?」

 

 切れる息のまま、見上げて言う。

 

「そうよ、私の勝ち」

 

 まぁ、この程度の力しか出せないくらい消耗させられたけど……と、慰めにもならぬセリフを呟き、琴葉はナナの傍らに膝をついた。

 

「その金の目は……なに……?」

 

 近くで見ると、絶えず光を変えるその瞳。

 

「鬼の瞳みたいでしょう?」

 

 持ち主が浮かべる得意げな笑みは、よく似合っていた。

 

「そんなあなたを見てるのは、楽しいことこの上ないわ……」

 

 そして琴葉は、静かに川の方へと手の平を向けた。

 

「よく見てね、菜々葉」

 

 容赦なく次のアソビを考え出す琴葉に……さからう行動すらできぬ、落ちぶれた反射能力。

 

「今、ちょうどいいトコロみたいよ?」

 

 ナナの不安定な状態を見下ろし、琴葉は何事か呪文を呟く……。

 と……。

 

「…………?!」

 

 ナナは、ある『光景』を見た。

 

「ナルト……?!」

 

 完全にかすれた声で、そう叫んだその姿。

 琴葉が向けた手の平の先にある川の流れ。

 その流れの上に、ナルトの体を貫くサスケの姿と、サスケの腕に体を貫かれたナルトの姿が、はっきりと浮かび上がっていた。

 

「……ナルト……!!?」

 

 何がどうなって、ナルトがそんなことになっているのか、

 理解できぬまま……、ナルトは『赤いチャクラ』を発した。

 

「ね、いいところでしょ?」

「…………!!」

 

 ナルトに弾き飛ばされるサスケ。

 それを目にして、同時にナナの胸に痛みが走る。

 『心が痛む』とか、そんなありきたりの事でなく、

 ただ単純に、“あの刻印”が焼け付くように痛んでいた。

 

「……っ……」

 

 それを押さえつけるように、ナナはうずくまる。

 これ以上、アレを見ていたら、自分の力じゃないものが走り出して行きそうだった。

 

「フフ……刻印がイタイの?」

 

 何もかもを見通す琴葉が笑っても、顔をあげることはできなかった。

 

「ねぇナナ、もし駆けつけることができたとして、あなたはどっち……を守るの?」

 

 じわりと染み込む言葉に、犯されそうになる。

 

「運命をともにするべきナルトくん? ……それとも……」

 

 首を締められるような感覚……。

 

「大好きだったサスケくん……?」

 

 タスケテ……

 

 ナナの何かが、もうずっと前からそう悲鳴をあげていた。

 どうしようもなく深いところに侵攻する琴葉の言葉は、それだけで命を削るよう……。

 しかし、そんなナナの耳に……。

 

『お前は一体……何者だ……?!!』

 

 サスケの声が聞こえ……。

 

『友達だ……!!!!』

 

 ナルトの声が突き刺さった。

 

(……ナルトっ……!!!)

 

 一筋の光。

 それを手繰るように、ナナは膝の震えも胸の痛みも押さえ込んで、立ち上がった。

 再び、琴葉の邪悪に歪んだ姿と向き合う。

 

「私はっ……」

 

 姉の向こうのナルトを意識しながら、ナナは言った。

 

 

「私は、サスケが好きだった……」

 

 

 皮肉にも、それを言葉にしたのはこの場所が初めてだった。

 

「私は……」

 

 しかし、そんな皮肉には耳を貸さずに続ける。

 

「私はナルトと共に生きる……」

 

 琴葉が笑うのはわかっていた。

 でも、ふたつの言葉を繋げるように、ナナは強く奥歯をかみ締めたあと、言った。

 

「想いをもったままで、私はさだめを生きる……」

 

 決めたから。

 運命をわかっていて、それでも認めた想い。

 それを抱えて生きるのだと、決意したから。

 

「ご立派だこと」

 

 嘲笑した姉に向かって、ナナは再び印を結んだ。

 

 

 

 

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