ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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怨睨 ―オニー(4)

 忍の術も、陰陽の術も、持てるものは全て全力で出した。

 川の上に浮かぶ『二人』の光景と、ここの『姉妹』の光景はよく似ていた。

 サスケを攻め始めたナルトと、次第に琴葉を追い込むナナ……。

 爆音は、同時に鳴った。

 ナナは、風遁で吹き飛ばした姉を見下ろす。

 ナルトは崖にサスケを叩きつけ、襟ぐりを締め上げていた。

 そして、

 

「フフフ……」

 

 土埃の中から姉の笑いが現れると同時に、サスケの声が聞こえた。

 

『初めから独りっきりだったお前に、何がわかるっ!!!』

 

「…………?!!」

 

 琴葉を見据えていたナナは、思わず振り返って川に映るサスケを見た。

 

『繋がりがあるからこそ苦しいんだ!!!』

 

 ナルトに『孤独』を突きつけ、その体を突き飛ばす。

 

(……サスケ……!!)

 

 ナナは拳を握り締めた。

 サスケの言葉は、残酷だった。

 それを、誰よりもナナが『否定』できたから。

 

(意味がない繋がりだってあるよ……)

 

 悲しいけれど、サスケの言葉を、精一杯否定できる理由を知っているから。

 

(血で繋がってたって、“心”で繋がらなきゃ……)

 

 再び目の前に立つ『姉』の姿を見ながら、それを思う。

 

(意味がないんだよ……)

 

 琴葉に向かって構えを取りながら、すがる様にナルトの声に耳だけ貸した。

 

『兄弟って……こんな感じかなぁってよ……』

(ナルトっ……!!)

 

 姉の術に、肉体と魂を襲われながら、心で叫んだ。

 

(ナルト……私も戦うよ……)

 

 懸命に、姉の放つ悪鬼を祓はらいながら、背後のナルトに意志を飛ばす。

 

(もっと強い繋がりのためにっ……!!)

 

 『やっとできた繋がり』

 

 ナルトはサスケにそう言った。

 ナナにとってもそうだった。

 イタチに去られてからは、心の繋がりなど世界には存在しなかった。

 でも、木ノ葉へ来てやっと何かと繋がった気がした。

 

『繋がりを断ち切ることで、オレは力を手に入れる!!』

 

 だから、後ろの川から……いや、遠くから聞こえるサスケの言葉を否定する。

 

(ちがうよ……サスケ……)

 

 相変わらず姉の攻撃を受け、そして姉を消そうと攻めながら……。

 

(私は今、ソレを断ち切ろうとしてるけど、強くなる気なんてしないよ……)

 

 琴葉の微笑も、ナナの後ろの川に向けられた。

 そこに映る、ナルトとサスケの姿へ。

 

「アレを見ながら戦うあなたを見ていると、ゾクゾクするわね」

 

 そして視線はナナへと戻った。

 

「これを『楽しい』っていうのよね」

 

 何も言わぬナナに向かって、“とどめ”を刺す。

 

「『楽しみ』も、『力を求める理由』も、『感じる繋がり』も、ヒトそれぞれなのよ、ナナ」

 

 結局、全てを分かり合うことなどできないのだと、琴葉は笑った。

 そんなことは、ナナもわかっていた。

 サスケの言葉を『チガウ』と否定してみても、サスケを変えることはできない。

 ナルトの言葉を心から信じていても、ナルトはナナの心を知らないし、知り得ない。

 繋がりも、所詮は一方通行。

 唯一、そのままに存在する繋がりこそは『血』なのに……。

 それを、ナナは断ち切ろうとしている。

 そうしなくてはならぬほど、他の繋がりが大切だった。

 たとえ『一方通行』でも。

 

 

「陰陽忍術、宮毘羅(くびら)の術!!」

 

 迷わずに、それを守らなくてはならなかった。

 

「陰陽、青龍(せいりゅう)の法!!」

 

 返されても、返されても、そのために術を繰り出す。

 だが、先の琴葉の言葉……まだ“とどめ”には早かった。

 

匂陣(こうじん)の術!!」

「……ぐっ……!!」

 

 今までにない霊力で体を縛られながら、ナナは“それ”を聞いた。

 

「ねぇ、菜々葉」

 

 耳の奥の脳みそにまで、染み渡る冷たい言葉を。

 

 

「血で繋がった者を殺そうとするなんて、“どっかの兄弟”みたいじゃない?」

「……っ……!!」

 

 

 総毛立つ身に、抵抗力はなかった。

 激しい束縛力に襲われながら、琴葉の両手に首を包まれる。

 

「兄を殺そうとする“誰かさん”を止めるはずのあなたが、姉を消そうとしてるなんて、 馬鹿馬鹿しい“矛盾”じゃない?」

 

 少しだけ、込められた手の力。

 微力さが逆に痛かった。

 

「あなたはつくづく“矛盾”のカタマリなのよ、菜々葉」

「……っ……!!」

 

 せめて体に纏わりつく術だけでも解け……と、頭の隅で警報が鳴っていた。

 が、そのための動作に至れない。

 

「そうね……“生まれ”そのものが“矛盾”のあなただから仕方ないとは思うけど……」

 

 そんなこと、自分自身が一番よく知っている。

 嫌になるくらい実感し続けている。

 誰かの『生まれ変わり』として生み出され、

 九尾を封じるはずの運命を負いながらも、三尾の狐とともに生まれた。

 でも、否定しきれないのは……

 

「それに、見て……?」

 

 琴葉がナナの首を掴んだまま、無理やり川の映像を向かせる。

 ナルトの中から、その九尾が現れていた。

 

「殺さなくちゃいけない相手と笑い合うのって、どんな気分?」

 

 いや、否定する力を今得られないのは、それこそが深い“矛盾”だから。

 

(ナルト……!!!)

 

 思わず目を背けた。

 

 タスケテ……

 

 また、そう思った。

 

「罪な“矛盾”ね、菜々葉」

 

(ナルト……!!)

 

 いつもいつも、それを思って苦しくて……。

 でも結局、ナルト自身に救われていた。

 今も……、それすら矛盾と知りつつ、ナルトにすがる。

 ナナは歯を食いしばって目を開けた。

 サスケを九尾のチャクラで吹き飛ばすナルトを、ちゃんと視界に捉えるため。

 

「そんなの、わかってる……!!」

 

 抵抗する力を己の中に生み出すため、ナナはやっと、そう言った。

 気管が狭められ、思うように強い声にはならなかったが、力を込めて姉の顔に吐き捨てた。

 ニヤリとナナの抵抗に笑った琴葉の爪が、首の皮膚に食い込んだ。

 それを無視し、ナナは霊気を高める。

 呼吸すら投げ捨てて、体に巻きついた姉の術を解き放った。

 

「…………!!」

 

 一瞬、辺りに閃光が走り、姉の体が遠ざかったのがわかった。

 激しく咳き込みながらも、懸命に酸素を取り込んだ。

 首の皮膚の爪跡がひりひりと痛む。

 嫌な汗が、草むらに滴った。

 そこにつく手は震えていた。

 だが、ナナは無理やり体を立たせた。

 姉を『消す』力が、果たして自分に残っているのかもわからぬまま、すぐさま印を結ぶ。

 立ち上がり、乱れた髪を整える琴葉は、かすかな苛立ちを浮かべていた。

 

「『楽しい』んじゃ……なかったの? 姉上……」

 

 息をきらしながら、ナナは琴葉の顔色を逆に皮肉った。

 初めて見せる不機嫌な顔は、確かに不気味ではあったが、それを感じる余裕はなかった。

 

「楽しんでも……いられない……状況だってこと……?」

 

 ナナは印を結び終え、両の手を琴葉に向けた。

 もう、何も考えずにこの場から去りたかった。

 姉を消せても消せなくても。

 ナルトを救えても、救えなくても。

 サスケを救えても、救えなくても。

 自分が矛盾だらけの存在でも。

 とにかく、あそこに行かなくてはならなかった。

 使命のためでも、他の何かのためでも……。

 

「散霊……!! 現世に望まれぬ魂を滅すっ……!!」

 

 これで、命が尽きてしまっても……

 

「菜々葉っ……!!!」

 

 恨みの篭った声を残し、琴葉の体はたちまち光に覆われた。

 『不浄』のものを黄泉へと送り返す最高峰の術を、最高の瞬間を得て放つ。

 琴葉の初めての乱れが、その瞬間を作った。

 白い光は次第に密度を増し、琴葉の体を固めるように縮まった。

 そして、それもやがて形を失い、凝縮して単なる球体へと変わっていく。

 両手で姉の体を握りつぶしているような感覚……。

 しかしナナは全ての力をつぎ込むことを躊躇わなかった。

 あれだけ呪いの言葉をつきつけられ、頭がおかしくなったのか……、今は何も考えられなかったから。

 だから、心でつぶやく言葉もなかった。

 痛みも感じなかった。

 ひたすらに、命の限りをもって、この術を使う。

 ナルトの九尾が、どうしようもなくなった時のために用意されていた、この術を……。

 

(…………)

 

 光はいよいよ琴葉の頭ほどの玉になった。

 ナナは広げていた両手を下げた。

 そして、ふらつきながらもそれに近づき、手でそっとそれを包み込んだ。

 

「サヨナラ……、アネウエ……」

 

 最後にそれだけささやいて……、それを握り潰した。

 

 光が弾け、辺りは白に染まった。

 

 

 

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