雨が上がっても、『晴れ』などやって来はしない……。
(ナルト……)
カカシは、背に負った部下にそう想う。
ナルトは目いっぱい戦った。命を懸けて。
倒れた姿を見た瞬間にわかった。
それでもサスケは強かった。
いや、サスケの憎しみが強かった。
生きていただけで良かった……、そう思う。
きっとあの場にいなかったサスケも。
だが、ナルトは絶望を負った。
友を救えなかった絶望。
ナルトには似合わないそれが、カカシの背にも圧し掛かっている。
「カカシさん!!」
遅れて医療班が駆けつけた。
「うずまきナルトの容態は?!」
『心配ない』……と、そう答える。
「うちはサスケは?!」
が、その問いに答えることは困難だった。
ナルトの瞼が、かすかに持ち上がったのがわかったから。
「他の下忍たちはどうなった?」
だから代わりに問う。
彼らの安否も心配だった。
「奈良シカマル、ロック・リーは軽症で保護しました。犬塚キバは、傷は深いですが命に別状はありません」
「砂の救援隊もほぼ無傷です……!!」
「しかし、秋道チョウジと日向ネジは重症で、今のところ何とも言えぬ状況です……!!!」
カカシは思わず立ち止まった。
(一人……足りない……)
「ナナ……は……?」
一瞬引きつった彼に代わり、背中で弱々しい声がした。
「ナナ……は……どうしたん……だってば……よ……」
カカシは医療班の面々に目で問う。
一人が険しい顔で答えた。
「いずみナナの行方は、依然……“不明”です……!!」
「…………!!」
「パックン、まだか?!」
「ダメだ、まったく匂いがつかめん……」
あの雨のせいにしても、この優秀な忍犬が匂いのカケラすらつかめないのは異常だった。
医療班に任せたナルトが意識を手放す前に告げた、ナナと最後に分かれた付近。
川添いの森……。
そこ一体を注意深く探索しているのに、『現在』のナナの匂いすら感じ取れないのはおかしい。
まさか、水の中か……。
「くそっ……」
カカシは焦りを隠さなかった。
他の忍たちの状況からして、“残る一人”の傷が浅いという確率は五分五分。
しかし、あのナナである。
悲しいことに、あの少女はそんな楽な運命にはなかった……。
(ナナ……!!)
その時、『獣』の咆哮が森に響いた。
耳にした瞬間に、体の中まで透明にされるような、清涼な声だった。
「…………!!」
背筋がゾクリとなるようなその感覚は、カカシに何かを思い出させた。
不快な薄気味悪さなどではない、清らかさ。
いや、『神々しさ』。
それは陰陽の術を扱うナナの持つ空気に、よく似ている……。
「パックン、行くぞ!!」
カカシはひれ伏さんばかりに
「……なん……で……」
マスクの下で、カカシは息を飲んだ。
先程、“とっくに通り過ぎたはず”の川辺……。
そこで声の主の姿を拝んだから……?
それが、見たこともないほど穢れない『白い毛』を靡かせた、『狐』だったから……?
その『狐』が、『三又の尾』を持っていたから……?
……いや。
そのキツネが擦り寄る、浅瀬に浮かんだ、汚れた体を、見たから……。
「ナナ?!!!」
パックンの声で、カカシはようやく我に返った。
反射的に、バシャバシャと飛沫を上げて駆け寄る。
「……ナナ……!!」
なんで……
再び思った。
ナンデ……コンナニ……
脆く足が震えた。
ナナの顔が、あまりにも腫れ上がっていたから。
触れる手が震えた。
ナナの呼吸音が、あまりに静かすぎたから。
胸が、締め付けられた。
ナナの肌蹴た胸の一箇所……、彼女の心臓の辺りが、抉られ、削り取られ……、グチャグチャに、切り裂かれていたから……。
「……ナナ……?」
抱き起す勇気すら持ち得ぬカカシをよそに、白い狐が薄紅の舌で、爪あとだらけのナナの頬を舐め、三尾をパシャンと水面に打ち付けた。