ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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狂乱

 

『ナルト!』

 

 包帯だらけの体がバランスを失っていることもかまわずに、ナナは血走った目ですがり付いてきた。

 

『ナルト! ナルト!』

 

 それが“ナナ”だと信じられなくて、その身体を受け止める動作すらできずにいた。

 呼吸もままならないはずのその口から出るのは、自分の名前だけだった。

 ナナは自分を見て、自分の名前を呼んで、自分の体にすがっていた。

 もう、そうしなければ消えてしまうとでもいうように。

 

『ナルト! ナルト!』

 

 ずっと、何度も、そうしていた。

 腕には爪が食い込んで、そんな身体で在り得ないというくらい強い力で揺さぶられた。

 怒っているのか泣いているのか、呪ってるのか……、ナナの感情はわからなかった。

 こんなにもぶつけられているのに、何もわからなかった。

 硬直したまま、返事をすることさえもできなかった。

 呼ばれているのが自分の名前じゃないようで、掴まれているのが自分の身体じゃないようで……。

 慌てて駆けつけた医療忍者がナナに鎮静剤を打つまでずっと……、ただ呆然とナナを見下ろしていた。

 

 

 

 思い出して、まだ焼け付くような胸の痛みに襲われた。

 ナナという存在が、自分にとっていかに絶対的な“砦”だったかと……、そう思い知らされた。

 

(ナナ……)

 

 ナルトは荒々しく寝返りを打った。

 病室を染める闇ですら、彼を鎮めはしなかった。

 

(ナナ……)

 

 ナルトはまた、痛む胸にその名をつぶやく。

 あの、儚げでいて誰より強い心をもっていたナナという存在の、柔らかな笑みを思い浮かべようと。

 だが、何度も心で呼んでいるのに、“そのナナ”は心に蘇ってくれなかった。

 瞼に浮かぶのは、少し前のナナの姿。

 自分の顔を見た瞬間、狂ったように泣き叫んだ……。

 あの、ナナの顔。

 

 何もできなかった。

 取り乱すナナの様相は、他でもない、『恐怖』の対象だった。

 ナナの受けた傷を目の当たりにさせられるようで、

 そして、そんなナナを到底理解できないだろうという予感がして。

 ナナの声、ナナの腕、ナナの瞳。

 全てが今までのナナじゃなくて怖かった。

 ナナが何を訴えて、何にすがり付いているのか……わからなくて怖かった。

 触れれば壊れてしまいそうで、抱きしめてやることすらできなかった。

 

(ナナ……)

 

 自然と、涙が出た。

 ナナの笑みを奪ったのは何なのか。

 ナナの強さを挫いたのは誰なのか。

 その誰より強かった心を。

 あんなにも激しく切り裂いたのは何者なのか……。

 金髪の女の顔は覚えていたが、今それを『敵』として呪うつもりはなかった。

 あんなたった一人の『敵』の存在なんかじゃなく、もっと大きくて重たくて、そして暗い闇が、今までたった一人で抵抗してきたナナの背に、容赦なく襲い掛かったのだと……そんな気がしていた。

 それが何なのか、きっとナルト自身、理解できることはないだろう。

 そう思う。

 思ってしまうだけに、悔しかった。

 そして、苦しかった。

 

(ナナ……)

 

 こんなにも、大切なのに。

 ナルトはまだ、しがみついてきたナナの、あの異常な力を消しきれず……、再び目覚めたナナに会う時の、少しの怖さを打ち消すように、また寝返りをうって強く目を瞑った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「……ナナ……」

 

 ツナデのため息が、大机の上を覆った。

 心を閉ざす、ナナの白い顔。

 まるで……、死を望んでいるかのようで苦しかった。

 本当は里の長として、ナナが戦った相手についての疑問を解消しておかねばならなかった。

 再び合間見える可能性がある相手である。

 里として確実な情報を得ておく必要があった。

 が、あの状態のナナには、ツナデもカカシも追求することはできなかった。

 反応を返してくれないとかいう以前に、ナナが壊れてしまいそうで……。

 その、おぞましい傷を負った体が、今にも朽ち果ててしまいそうで……。

 

 ナナが半狂乱でナルトにしがみついた……、いや、つかみかかっていたと、看護の者から聞いた。

 『半狂乱』という単語と『ナナ』の名は対称に思えたから、すぐには信じられなかった。

 が、直接訊ねた時に珍しく淀んだナルトの瞳を見ては、信じざるを得なかった。

 それ以来、ナナは一言も発しなかった。

 そればかりか、人間らしい反応をまったく見せなくなった。

 人形のように、うつろに窓の外を眺め、眠るでもなく、ただベッドの上で呼吸していた。

 そんなナナに会ったシカマルやサクラたちは、呆然とするしかなかった。

 けなげに話しかけても、彼らの言葉は、そして心は、今のナナには届かなかった。

 絶望的な何かが、彼らを襲っていた。

 

 やがて、ナナの姿に呆然とする者の輪に、回復したネジとチョウジも加わった。

 砂隠れの三人も見舞いに訪れていた。

 誰一人、ナナを振り向かせることができる者はいなかった。

 ナルトはあれ以来、ナナに会うことを躊躇っていた。

 その時の様子を聞いた仲間たちは、誰一人としてナルトを責めなかった。

 誰にも、今のナナの心をこじ開ける鍵が何なのか、果たしてそれが存在するのかさえ、わからずにいた。

 

 そして、それぞれが次の目標へと歩み始めることを決めたとき、火影の執務室に『ナナ失踪』の報が飛び込んできた。

 

 

 

 

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