ひと葉 ~壱の巻~   作:亜空@UZUHA

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卒業

 忍者学校(アカデミー)卒業試験の日。

 今年の合格者の中に、ナルトと、そしてナナの名はなかった。

 

 

 

卒業

 

 

 

「ゴホッ、ナルト君は不合格だったそうです……」

 

 

 年がひとつ下だから、といういささか苦しい理由をつけて、ナナの受験は見送られていた。

 

 

「……そうですか……」

 

 

 家でナルトの結果を待っていたナナは、火影の使いであるハヤテにそう告げられた。

 『試験辞退』という措置をとると告げた時の、火影のすまなそうな顔を思い出し、ナナはため息をついた。

 仕方のないことだった。

 ナルトの結果によって、ナナの合否も決まるからである。

 ナルトと常に同じ環境にいなくてはならないナナが、ナルトより先に卒業するわけにはいかなかった。

 当然、その逆もまた然りである。

 火影の指示を受けるまでもなく、ナナ自身がよくわかっていた。

 

 

「……はぁ……」

 

 

 だがナナはため息をつく。

 別に、合格したかったわけではない。ナルトと離れるのはナナも嫌だった。

 ナルトの傍にいると決めたのは、火影や一族の命令でもなんでもなく、ナナ自身の意思。

 ずっと、強いナルトを傍で見守り、一緒に進んで行きたかった。

 それでも、誰よりも忍を目指す気持ちの強いナルトが落第したと聞いて、今どうしているのだろうと考えると、日が落ちたような寒さを覚える。

 

 コンコン……

 

 その時、窓を叩く音が響いた。

 ナナは寝転がっていたベッドから弾かれたように降り、カーテンを開ける。

 

「火影様の使い羽(つかいば)……?!」

 

 夜に飛ぶ鳥は、火影が飛ばす使いだった。

 火影がじきじきに自分に用があるなど、その内容は明らかである。

 

(ナルト……?)

 

 嫌な予感というものが全身を支配し、ナナはゴクリと唾を飲んで家を飛び出した。

 

 

 

 

「火影さま……?!」

 

 ナナが火影の部屋に入ると、火影は難しい顔で告げた。

 

 

「ナナ、ナルトが『禁印』の巻物を盗んで消えおった……」

「……え……」

 

 

 火影の吐き出す煙管キセルの煙が、やけにスローで空間に浮かぶ。

 

 

「万が一あの禁術を使い、チャクラが暴走して封印が外れることがあるやもしれん」

「そんな……」

 

 

 火影は机によりかかり、目を伏せて言った。

 

 

「そうなったら、お前の力が必要となるかもしれん……」

「…………」

「そのために、ここで待機していてくれるかのぅ……」

 

 

 ナナは声を出すことも、うなずくこともできず、ただ火影の言ったことを頭の中で繰り返す。

 その言葉の意味を十分にわかっているはずなのに、ナナの体はピクリとも動かなかった。

 

 

「今、この水晶でナルトの居場所を探しておる……」

 

 

 火影は、それ以上ナナに言葉をかけず、水晶と向き合った。

 ナナは、その老いた顔に刻まれた皺が、さらに濃くなっていることに気づく。

 

 

(火影さま……)

 

 

 火影とてそんな言葉を吐くのは辛いのだと、ようやく思い出す。

 

 

「……火影さま……」

 

 

 ナナはひとつ息を吐いて、きっぱりと言った。

 

 

「わかりました」

 

 

 火影は水晶の術を行いながらも、ひとこと「すまぬ」と呟いた。

 こんな日がくる事は、覚悟していた。

 そのためにこの里に来たのだから。

 が、こんなに早く来てしまうなど、誰が予想しただろう。

 

(ナルト……)

 

 ナナは独りベランダに立ち、まだ肌寒い夜の風を浴びていた。

 

(……お願い……)

 

 ナルトが、あの強い自分を失わぬよう、願う。

 

(私はまだ、アナタを殺したくない……)

 

 あえて『まだ』と言う。

 

(……ナルト……!)

 

 

 

 いつのまにか無意識に手を合わせていた。

 そして空が白み始めた頃、その細い肩に、火影の手が乗せられた。

 

 

「ナナ……」

 

 

 ナナはビクリと反応し、そっと振り返る。

 

 

「ナナ、ナルトは無事だ……。それどころか、禁術である影分身をマスターしおった」

「…………」

 

 

 ホッと息をついて、そのままへたりこみそうになった。

 

 

「よかった……」

 

 

 そうつぶやいて、同じようにホッとしている火影を見上げる。

 火影はこの事件の全容をナナに話した。

 その結末、ナルトがイルカによって「合格」と認められたことを聞き心が躍った。

 

 

「というわけで、ナナも後から試験を受けて合格だった……ということとする」

「はい!」

 

 

 初めから予定されていた、周囲への言い訳だった。

 

 

「……しかしな……」

 

 

 ただ、火影は顎鬚をさすりながら困ったように言った。

 

 

「ナルトが自分の中の『九尾』の存在を知ってしまった……」

 

 

 跳ねた心が瞬時に臥せった。

 ナナは再び彼の言葉に息を呑む。

 

 

「知って……しまったんですか……?」

「……うむ……」

 

 

 ナナは目を伏せ、いたたまれなさを懸命にやりすごす。

 どんな気持ちだろう……あの九尾が自分の中に居るのだと知ってしまったナルトは……。

 自分の中に、里の人々をたくさん殺したモノが住んでいると、聞かされたナルトは……。

 

(ナルト……)

 

 だが、ミズキが“自分の存在”のことを知らなかったのは幸いだった。

 ナルトがついでに、その腹の中にある九尾が暴走したとき、九尾ごと自分を「殺す」のがナナだと知ってしまったら……と思うと、怖くて怖くて息が詰まった。

 

 

「火影さま」

 

 

 ナナはかすれた声で言った。

 

 

「ナルトに会っても、いいですか……?」

 

 

 ナナの顔を見て、火影は低い声を出す。

 

 

「……お前の意思は、止めはせぬ……」

 

 

 ナナは弱弱しく笑って、火影の前から走り去った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「ナルト……!!」

 

 

 朝日の中を歩いて来たナルトは、服をボロボロに汚し、そして使い込まれた額当てをつけていた。

 

 

「ん? ナナ?!」

 

 

 ナルトは驚いて思わず立ち止まる。

 それより早く、ナナは彼に向かって駆け出した。

 

 

「ナナ?! ど、どうしたんだってば……」

 

 

 ナルトが言い終える前に、ナナはその首に飛びついていた。

 

 

「ナナ?!」

 

 

 ナルトは初めてみせるナナのこの行動に驚いて、身をこわばらす。

 

 

「ナルト、居なくなったって聞いたから……」

 

 

 ナナは身を離すと、無理やり微笑んでナルトを見上げる。

 

 

「ナナ、知ってたのか?」

 

 

 決まり悪そうに笑うナルトは、いつもの彼だった。

 

 

「ナルト……。おかえり」

「ヘヘッ、心配かけて悪かったってばよ」

 

 

 その顔に、ナナは安堵して思わずため息をつく。

 ナルトは、落ち込んでなどいなかった。

 もうとっくに、九尾のことは受け入れてしまったようだった。

 そればかりか……。

 

 

「ナナ! オレってば、忍者になったってばよ!!」

 

 

 本当に嬉しそうに、額当てを指して言う。

 その前にひと騒動起こしたのも忘れて、そんな結果にはしゃぐナルトがおかしくて、ナナは苦笑しながら実は自分も卒業が決まったのだと言った。

 するとナルトは、理由を聞くことも忘れて、ナナの手をとって喜ぶ。

 

 

「じゃあ、また一緒だな!」

「うん」

 

 

 『一緒』という言葉が、ナルトが言うと前向きな意味に聞こえた。

 

 

「オレってば、さっきイルカ先生に合格って言われたとき、本っ当に嬉しかったけど、ナナと離れるのが、ちょっと寂しかったんだってばよ!!」

 

 

 しかも、そんなふうにナルトが笑うから、ナナはさっきの恐れも全て吹き飛んだように思う。

 そして、ナルトと一緒の未来が明るいものであると感じられる。

 

 

「ナルト、また一緒だね」

「また一緒に忍者だな!」

「私、ずっとナルトのそばに居るから……」

 

 

 ナルトはいきなりのナナの言葉に、半ば照れ、半ば驚く。

 が、ナナの瞳が真剣なことに気づいて、当たり前のように言った。

 

 

「一緒に頑張ろうな、ナナ!!」

 

 

 ナルトはナナの言葉の“本当の意味”はわかってはいない。

 だがそれでも、ナルトの朝日に照らされた笑顔に、ナナは大きくうなずいた。

 

 

 

 

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